綺麗だね? 第25話お月様
十五夜まんまるお月様
アパートが壊滅して行き場がない私は、少し離れた公園に来ています。
公園って言ってもベンチが1つとタイヤとパンダの遊具が置いてあるだけの空間だけどね。
パンダの遊具っていうのはバネとかもなくてただ座れるだけのやつ。
で、ベンチには人がいるしタイヤは子どもが使ってるからパンダに座ってた。
パンダに座ってマストさんと通話してた。
なんか、私くらいの歳でパンダに座ってずっと独りでしゃべってるのって、周りから見たらめちゃくちゃヤバい人だったかも。
そんなことないよー。どこにでもいる普通の女の子ですよー。(嘘)
っていうかいつの間にか公園から人がいなくなってるし。
わ、私のせいだったり……?
そそっ、そんなことないよ。
きっとみんな崩れたアパートでも見に行ったんだよ。
ずっとサイレン鳴ってるし。
ま、ま、考えないことにしようね?
人間は考えるあんころ餅だっていうけど考えない方がいい場合もあるよ。普通のあんころ餅だっておいしいよ。
話題ターン、話題ターン。
野宿が結構楽しみなんだよね。
虫よけスプレーをさっき買ってきたんだけどさ、よく考えたら結界を出せば虫には刺されないって気づいた。今。
いやどうかな? 虫って結構すごいから貫通してくるかも。
結界出すのだってまあまあ疲れるし。
うーん。
泊めてくれる人いたらなあ。
この辺は親戚の家とかもないし、
泊めてくれそうなお友達もいない。
ないない尽くしの有沙ちゃんなのでした。がっくし。
唯一の友達の紅葉くんは、同じアパートだから意味ないし。
っていうか男の子の家に泊まっちゃうなんていくらなんでも……あわわわわ。
そういえば紅葉くんはどうしてるんだろ?
マストさんが助けてくれたんだよね。
バイト先の本屋さんで会ったってことなのかな?
うちの学校はバイト禁止だからお客さんとして来たんだろうな。
紅葉くん本好きそうだし。(偏見)
私も本とか読んだ方がいいのかなあ。
友達として話を合わせられないのもどうかと思うし。
紅葉くんは犬猫好きみたいだけど動物は私絶対ムリだから。
でもなあ読書も普通に苦手なんだよなあ。
小中学校で朝の読書タイムってあったでしょ?
私があの時間になにをしてたかっていうと、本に書いてある文字を頭の中でシャバシャバーってやって別の文字にして遊んでたんだよね。
ちゃんと読んどけばよかったかも。
本屋さんのバイトってまかないで余った本とかもらえないかな? ムリ?
あー暇だー。
マストさんがバイト終わるのっていつだっけ? 夜頃?
早く帰ってきてくれないかなあ……。
あれっ!? まって??
本当に帰ってきた!!
見てほら!
公園の入り口らへんにマストさんが来てる!!
ごめんね、見えないよね。挿絵とかないから。
っていうかなんか、フラついてない??
ちょっ、大丈夫かな。
私はマストさんに駆け寄った。
「マストさーん。大丈夫ですかー」
「ああ、心配な……いや、厳しいかも……」
マストさんの身体が大きく傾く。
「うおっと!」
私は急いでキャッチした。逆お姫様だっこ状態。
まって、この人めちゃめちゃ軽い。わたあめみたい。
「す、少しばかり力を使い過ぎたらしい。これでも多少は回復したんだが……」
マストさんの息が荒い。
どうしよう。神様の看病ってどうすればいいの?
「はむっ」
「ひゃんっ!」
いきなり私の右手指を咥えられる。
びっくりしてマストさんを抱えたまま地面に腰をついてしまった。
こ、この流れは……。
「ふほひ……ぷはっ、少し私に身を委ねてくれないか」
「い、いいですよ……。来てください……んんっ、ちょっ」
……………
…………
………
……
…
…
…
えーっとね、まあなんていうか……事後です。
いたしました。
おせっせ。
私は服を羽織って夜空を見上げる。
よかったよ。すっごく。
「はぁ……はぁ……ありがとう。ありがとうアサ……」
マストさんはだいぶ生気を取り戻したみたい。
「お礼なんていいですよ」
満足感すごかったし。
「あっ、そういえば避妊的なあれは……」
「……君は、その身に子を為したいと思うか?」
「うーん……。本当に好きな人ができたら……きっと思う」
「いずれにせよ今の行為では子はできない。全てはエネルギーとして互いの身体に溶け込むだけだ」
それはそれでなんかエッチなような気もする。
「君は初めてではなかったようだが……いたのか? そのような者が」
マストさんは静かに聞いてきた。
「いや、その、ただ意外だったんだ。光の力は純粋な者ほど強く宿るものだから」
あわてて取り繕うマストさん。
なんか、可愛く見えてきちゃうな。
「マストさん。私ね、小さい頃野良犬に手を噛まれちゃったんだ。ガブっと」
「ガブっと」
「そうガブっと。子どもの頃は気が弱かったし狙われやすかったのかも。野良犬に」
「……それで動物が苦手になったのか?」
「ううん。元からかな」
いつの間にかマストさんは私の横顔をジッと見つめていた。
私は彼の顔に手を回して頭を上に向けさせる。
こういうときは月を見ながら会話するのがロマンチックなんだよ。
「思うんだ。私が物語のヒロインだったら、そういうとき誰かが助けに来てくれるんだろうなあって」
「…………」
マストさんが悲しい瞳で私を再び抱きしめる。
だ、第2ラウンドは身が持たないです。
「私はきっとその野良犬と変わらない」
私は首を横に振る。
全然別だと思うから。
「しめっぽいですよ。ちょっと」
月が雲で半分隠れたところで、誰かが芝生の上を歩いてこっちに向かってくる音がした。
こんなとこ他人に見られたら補導の『ほ』だね。
「……前みたいに飛べます?」
「いや、今は……」
「じゃ、私と飛びましょう」
私はマストさんと抱き合って空へと飛んだ。
下にいるパンダも巡回中の警察の人もみるみる小さくなっていく。
「涼しいな」
「そうだね」
まあ服半分着てないようなもんだし。
雲を突き抜けて、夜空へ届く。
月明かりがまた私たちを照らしてる。
「美しい月だ……」
「え?」
マストさんが呟くけど、私は聞こえなかったフリをする。
だってまだ死にたくないんだもん?
「……いつか君にも、自然を愛してほしい」
さらに小さな声でマストさんがつぶやいていたけど、今度は本当に聞き取れなかった。




