第22話へのいちゃもんお断りっ!
「マストさん? なんの用ですか? 今こっち忙しいから後ででも……」
『説明している時間はない! 早くこっちに!』
「あっはい、行けたら行きます。それでは! ガチャ。ツーツーツー」
もー。こっちは人命がかかってるんだよ?
マストさんのバイトの面倒見てる場合じゃないって。
どうせクレーマーに絡まれたとかじゃないかな。(半分正解)
あーダメ。
結構走り回ってるけどちっともビミョーマ見つかんない。
あの追いかけられてたおじさん大丈夫かなあ?
そうだ。マストさんが前に怪物の気配に気づいて学校に来てたから、私も同じことできるかも?
でも気配の探知ってどうやるんだろう?
心の目、的なやつ?
ちょっとやってみよ。
目を閉じて……うん、なにも見えないね。
なんかこう、神経を全部研ぎ澄ませる的な……。
考えずに……感じる的な……。
おおっ、できてる感じがある。
プルルルルルルル!
『もしもしアサ! 至急君の判断を仰ぎたいことが……』
「うわああっ!」
めちゃめちゃびっくりしたー!
「なんですかさっきから! 判断くらいそっちでしてください! こっちは本当に立て込んでるんで切りますね! ガチャリ!」
『ちょ、ま……ツー、ツー、ツー』
もーー!
着拒しとこ。
もう一回。
目を閉じて……とにかくなんか集中して……。
音とか、匂いとか、寒いとか暑いとかそういう感覚も無視して……。
それでも感じる残ったものがきっと……。
「見つけたっ!」
デスナさんとは違う闇っぽい気配。
私はそれを感じた方に向かって走る。
「……ってここ、私のアパートじゃん!!」
なんで私のアパートから闇の気配が?
うーん。
ちょうどいいから買ったもの家においてこっか。
走るときずっと邪魔だったし。
よいしょっと。
私は冷蔵庫に袋ごとまとめて入れるタイプ。
マストさんとの同居生活が始まってこのままだとちょっとまずいかな?と思い始めた今日この頃。
今は急ぎだから仕方ないけど。
冷蔵庫バタン。
家を出ようとすると、外の階段をカツカツ下りる音がする。
ゲタの音?
「やれ、私が訪ねて来たというのに二人とも留守とは、いかに神とはいえ不愉快な。だいたいこんなボロっちく狭っ苦しい家に住むとは威厳もなにもない。ああ、無能な主を持つと部下は不要な苦労をするものだ」
なんか、お坊さんがめっちゃ独りでしゃべってる。
こういうのには関わらない方がいいって最近学んだもんね。
こーっそりドア閉めて……。ふぅ。
ガチャ。
玄関のドアをすごい力でお坊さんに開けられる。
ちょっ、なに、怖い、助けて。
「お嬢さん。私を見て隠れましたね? 大方私を気持ち悪いと思ったのでしょう」
「せ、せいかーい……」
「私は闇の第三の眷属『淫戯文天』……。私を恐れるのは構わないが、さげすむ者は捨て置けない。増してその、自分を少女漫画の主人公と勘違いしたかのような立ち振る舞い、大変腹立たしいではないですか」
褒めてくれてる?
ありがとう。
「ちょうど時間も力も有り余っていたところです。お嬢さんのような不愉快な人間を殺して回るとしましょう」
お坊さんの服のそろばんの珠みたいのが浮く。
ひいっ、ちょ、ちょっとまって。
「どうして人を殺すの!? よ、良くないと思います!」
「これは説明が面倒なことを聞きますね。説明するよりもお嬢さんを殺した方が手っ取り早い。文殊遊臨!」
お坊さんの声に反応して珠がいっせいに開いて一つ一つがビームみたいのを発射した。
ええっとこういう時って……。
「結界!」
私はとっさに後ろに下がって緑の結界で全身をつつむ。
ビームは結界で反射して方々に散らばった。
「むっ、その力は……なるほど。お嬢さんが光の神の眷属だったとは。これはどうしたものか」
とにかく辞めさせないと!
そうだ、さっき聞いた話をしよう!
「あの、知ってますか? 人間は1日にどれくらい死んでるか」
「無礼なお嬢さんだ。この私に知識自慢でもするつもりで?」
「いいえ。私も知らないんですけど……」
「……煙に巻こうとはどこまでも馬鹿にしている」
「そうじゃないです。聞いてください。どれくらいかは知らないけど、人間って結構いっぱい死んでるらしいんです。1人2人助けたって意味ないって言われました。だったら、あなたたちが人を殺す意味もないと思います。1人2人殺したってなんにもならないじゃないですか!」
「双方とも詭弁だ。まともに相手をする価値はない」
「いいえ、答えてください。どうしてあなたたちが人を殺すのか。答えないと……」
「答えないと、なんです?」
どうしよう。なにも考えないで言っちゃった。
「うーんと、答えるまで聞きます!」
「……頭の悪いお嬢さんだ。だが愚か者ほど相手をするのは難儀なもの。本当に面倒ですが教えて差し上げましょう」
お坊さんは浮かせていた珠を手の中に収める。
そして服の内側からボロボロの本を取り出してめくった。
「死とは……魂全てをエネルギーの塊に転化させる現象。その属性は光か闇。闇の存在に葬られし魂は闇へと転ずる。我らは闇を塗り広げる使命を課せられし者。これすなわち破壊と殺戮なり」
使命?
ってことは私と同じ……。
「やりたくもないのに、やってるの……?」
私は思わず結界を解いた。
「ええ、まったく。本当に……」
お坊さんは本を床に投げ捨てる。
そして身体が煙になって消えた。
えっ、どこ? どこ行ったの?
「愚かなお嬢さんだ……!」
私の背中に痛みが走る。
「い……ったーい! ……え?」
私のお腹から出る何本もの筋。
服が破け、肌の隙間からこぼれ出る赤い液体。
ビームは結界を貫き私の背中を突き抜けて身体に穴を開けていた。
「なにこれ? 血? ちょっと、やだやだやだ! やだ!」
貫いた一本一本のビームは私から少し離れたところで珠に戻る。
珠から一斉に声が聞こえる。
『声がいちいちウザい』
『こんなのに世界の命運を任されてる人類は可哀想』
『寝癖が板について癖っ毛と化してる。阿呆の証』
『一挙手一投足が媚びててキモい』
『作者も書きたくないって言ってる』
い、いちゃもんだ……!
不当な文句を言われてる……!
メタいのあるし……!
「むっ、全ての光線が急所からそれるとは……。よく解らないがきっと卑怯な手を使ったのでしょう。こざかしい」
ひ、卑怯なのはそっちなのに……。
「ど、どうして……こんなこと……」
「……ああ、本当は人を殺したくない? そんなこと微塵も思いませんよ。今の教えもただの詭弁だ。膨らんだ風船があれば割りたい、プチプチがあれば潰したい、私たちはただ殺したいから殺すのみ。人を殺せるほどの深い闇から私たちは生まれてくるのですから……! そのような淫戯文、つけられても困るというものです」
う~っ!
ひどいし痛い……。
痛ひどいっ。
「け、結界っ……うっ」
私は声を振り絞って全身を包むように結界を出した。
と同時に体力の限界で床に倒れ込む。
「ふふふ……。やはり愚かなお嬢さんだ」
お坊さんは下駄で結界を踏みつける。
「その傷では結界の強度も下がっている。回避に力を割くのが最善手だというのに……」
パリン、と結界の割れる音。
やばい。死んじゃう。
「ああああっ!!」
私は右手に力を込めてビームを出した。
「おっと危ない」
お坊さんの身体がまた煙になって消える。
「まったく無駄なあがきを。私に無駄な体力を使わせたことへの謝罪をいただけませんかねぇ……」
後ろから声がした。
さっきからそのワープっ、ずるいっ!
「とどめをっ……!」
私のお腹に空いた穴に腕を突っ込まれてまさぐられる。
し、心臓をギュっと握られてるような……。
「はあっ!!」
胸が張り裂けそうな、っていうか張り裂け、いや、私死……。
「……わ、割れぬ。な、なぜだ! ええい!」
生きて、た、ね。
なんで? わかんないや。
「これは……濃い闇の力? それが魂を覆っているというのか……馬鹿な! この世界に謝れ!」
お坊さんが怒ってるのが見える。
「こやつは今確実に潰す! 文殊集結……降臨せよ『淫戯文殊星』!!!」
ゴゴゴゴゴゴゴ!!
お坊さんの持っていた珠が大量に集まっていく。
なにかの生き物みたいな形になっていくみたい。
狭かった壁と天井は崩れ始めた。
ズガッ!
「いったっ!」
崩れた天井が足に当たったっ!
痛い痛いもう。
でもなんか今ので意識が戻ってきた。
お腹の穴もいつの間にか治ってるし。
よくわかんないけど光の力ってすごい。
まって、これ私の部屋っていうかアパート全体が崩れてない?
住む場所~!
部屋の外からお坊さんの声が聞こえる。
「見失ってしまったか。使えないものです。しかし問題はない。この瓦礫の山をまとめて吹き飛ばせば済むことだ。淫戯文殊星よ。やりなさい!」
「なぁにしてるのかしら~?」
デスナさんの声がする。
「はっ、闇の神デスナ様! いらしたとは」
「あの子の眷属さんね? 初めまして! 女の子にフられてご傷心のデスナちゃんでーす♡」
「はあ……?」
「そんなウブでナイーヴなデスナちゃんが? 帰ってきてみたら? 私の愛の巣がけんもほろろにボロッボロなんだけど? いったいどういうことかしら? ん?」
「い、いえお待ちを、これはですね光の使いが」
「うるっさいわねぇ。私は超超超超怒っているのよ? もう限界。堪忍袋の臨界点。なんかもう消しちゃいます。そーれ☆」
「デスナ様おやめくだ……う、こんな、ぐぁーーーーーーーーーーーーー!!」
へ? 声だけだからわかんないけど、お坊さんデスナさんに殺されちゃった?
「あぁ~。ようやく頭がスッキリしてきた。さ、今日寝るとこ探さないとねっ」
こっわ~い。
デスナさんがいなくなったのを見計らって私は瓦礫を抜け出した。
大量の珠がそこら中に散らばってる。
お坊さんは……あっいたいた。
「ぐうっ……なかなか効きましたが、所詮デスナ様は神の力を失った身。私を殺しきるほどの力は有していないようだ」
「よかったまだ生きてたんだ」
思ったより元気そう。全身痛そうだけど。
「む……光の使いですか……こ、ここは見逃してはいたただけませんかねえ」
「いただけません♡」
「だがお嬢さんは言ったはずだ……目の前の命を1つでも助けたいと……! こ、この私を助けろっ!」
「言いましたけど……だって浄化しないと私の家がなくなったままだし。それに私、あなたに結構ムカついてるし。だから……」
私はお坊さんに手をかざす。
「殺したくて殺しますね?」
「そんな……! 淫戯文だ……! よせ、私は悪くない!」
「浄化ビーーームっ!」
私は浄化ビームの中にいろんなエネルギーを込める。
「ぐあああーーっ、熱い、熱いっ! 嫌だ消えるのは! こ、こんなことになったのは、主と、器の人間と、闇の神と、貴様と、光の神と、この世界全てのせいだぁあああああああ!!!」
はい、浄化完了っ。スッキリ。
浄化したお坊さんの中から男の人が出てきた。
「ああんっ? なんだぁここは? は? 火事親父でもあったのか? おう、お前なんか知らねえか?」
あれっ、この人駅前のポスターに載ってる人じゃない?
クレーマーがどうとか……。
……こういうのとは関わらない方がいいって最近学んだんだよね。
ダーッシュ!!
「おおぉい! 無視かよっ!」
あー危なかった。
んん? お坊さんを浄化して安心してたけど、なーんか大事なこと忘れてるような? ま、いっか。




