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クレーマー、第21話で乱入す

 古本屋のクヌギでの主な業務といえば、簡単な本の整理と掃除、そして10時間ほどボーっとすることだった。

 非常に楽なバイトだ。


 だが今日は珍しく客が入ってきた。それもかなり厄介そうなタイプの。

 これだから接客業は嫌いだ。


「うああああん? なんだあこりゃあ」


 店に入るや否や、客の男が叫んだ。

 面倒臭すぎる。


「おいおいあんちゃんよお、なんだこの商品は! 全部古本じゃねえか。おぉん?」


 俺が向かうとクソ客が因縁をつけだした。


「お客様。当店は古本屋です」


「あんだとこのボケナスビ! 古本屋ぁだからってえ客に古本を売りつけていい道理はねえだろうが」


「…………は?」


 俺は思わず口からこぼす。


「うおおぃ。なんだてめえ今のはよお。お客様は神様なんだぞ? てめぇ愚民風情が神に対してなんだその態度は!」


 俺は(デスナ)に対してもこんな感じの態度なのであまり関係がない。


「とにかくお前、店長呼べや店長」


「あいにく店長の楠木(くすのき)は土日は不在でして……」


「いねえなら社長でも総理大臣でもいいから呼べっつうんだよこのサスティナブル大吟醸」


「……なに言ってるんですかさっきから」


「んあぁ? 舐めてんじゃねえぞボケが。マジ、出るとこ出るぞ? 出ちゃうぞ? おっぱいとかぁお尻とかぁ出まくっちゃうぞ? ボン、ボン、ボーンってな! ……ってただのデブかいっ! おらっ」


 麻薬かなんかやってるだろこいつ。

 困った。額の宝石から闇のエネルギーがあふれそうだ。

 増戸さんがいなければこのクソ客を眷属にしてこの世から消すのだが。


「いかがなされましたかお客様?」


 さすがにおかしいと思ったのか、後ろで見ていた増戸さんが駆けつける。


「いかがもカラスも素っ頓狂もねえよ! この店員があ、俺に対してすっっっっっっっっっっっっっっっっっっっんごい失礼な態度を取りやがったんだぜ? この店の教育ぁどうなってやがるんだぁ?」


 この店では店員になんの教育もしていない。図星である。


「お客様、お引き取り願います」


「……ケッ。ホストみてえなツラぁしやがって。返せよっ! 俺の女房を返せよっ! うあああああああ!!」


 男が拳を振り上げ増戸さんに襲い掛かる。


「ぬうん!」


「お客様」


「こんにゃろっ!」


「暴力は」


「くそがっ!」


「いけません」


 増戸さんは男の拳をするりするりと避けていく。

 強いな。


「くうっ、だったら貴様からだあっ!」


 男が俺を狙う。

 悪いが今の俺も強いぞ。

 だが増戸さんに見られている以上人間離れした身体能力を見せるわけにはいかない。殴られたフリをしておくか。


「うっ、あっ、あいたあ!」


 俺は男の拳を見切り、殴られるであろうタイミングで痛がるフリをする……が男の拳は届かない。


「んがっ! いででででででででで」


 男は背後から組み伏せられていた。

 なんか変な感じになってしまった。


「大夜くんはなにをしているのかな?」


「あ……いえ、なんでもないです」


 俺は増戸さんに本を縛るヒモを渡し、男の手を縛る。

 2人で取り押さえて奥のスペースへ連れて行った。


「ほどきやがれクソが! この店のあることないこと味なことネットに書き込みまくってやるからな!」


 男はなおもわめき続ける。


「君は島田戒輔(しまだかいすけ)だな?」


「ああ、だからなんだよウンチ垂れ太郎!」


島田戒輔(しまだかいすけ)……?」


 俺が口にすると、増戸さんが解説を加える。


「駅前に注意喚起のポスターが貼ってあった。日本三大クレーマーの一角で、10の店を潰し1000の店を出禁になった規格外の男だという」


 そんなのいるの?


「ふん! 言っとくが俺は日本三大クレーマーの中では最弱だ! 俺にここまで手こずっているようじゃほかの2人にゃ勝てねえぞ」


 なんだそれ。つーかクレーマーじゃなくて麻薬常習犯とかの方がしっくりくる。


「……あとは警察に任せましょう。僕が見張っておくので増戸さんは近くの交番へ」


 とにかく今は増戸さんを引き離したい。

 俺は力を隠すことにはまだ慣れていない。


「いや、私はここの地理には疎い」


「それは僕も同じです。ですから大人である増戸さんの方が」


「君のその、す……すあま?で警察を呼べるのではないか?」


 すあま……。スマホのことか。


「そうでした。じゃあ僕が警察に連絡しておくので増戸さんはレジの方をお願いします」


「解った。なにかあったら呼んでくれ」


 増戸さんは俺に言われるがままレジへ向かった。


「さて、引きはがすことに成功。あとは……」


 俺は額からデストロイジェムを取り出す。


「な、なんだその宝石は! おいっ、お詫びに俺によこせっ」


 詫び石だと思ってるのか。


「……今差し上げますよ」


 俺は男の身体にデストロイジェムを投げ入れる。

 男は赤い煙につつまれ肉体が変質していく。

 いつもの流れだ。


「闇の気!?」


 増戸さんが急いで戻ってくる。

 俺はとっさに押し入れの中に身を隠す。


「これは……どういうことだ」


 考えてみれば俺が隠れる必要性はなかった。

 目撃されてもどうせ死ぬし忘れる。

 だが嫌な予感がしていた。


「もしもしアサ! 闇の者が出現する! 至急古本のクヌギに来てくれ! ああ、今の私でも感知できるほどだ。きっとまだ近くに……」


 嫌な予感は正しかった。


 アサ。三楓さんのことだ。

 つまり増戸さんは光の側の存在ということ。

 あるいは光の神本人の可能性もある。神がこんなところでバイトなど馬鹿げているが、あの恰好で外を徘徊しているデスナほどは馬鹿げていない。


「来たくない? 頼む! 私には君しかいないんだ!」


 ……よく解らないが手こずっているらしい。


 そろそろ煙も晴れる頃合い。俺の眷属の誕生を感じる。

 誕生した者の声がふすま越しに聞こえてきた。


「ごきげんよう光の神さん。私は闇に仕える第三の眷属『淫戯文天(いちゃもんてん)』と申します。その服絶望的なまでに不格好ですねえ。目障りなので今すぐに消えてほしいくらいだ……」


「なっ……そんなはずはない! この国の成人男性の一般的な恰好だ!」


 いやおかしいよそのスーツは。


「それにしても誕生して早々に嗅ぎつけられ雲隠れとは、私の主も相当な無能だ。どうせなら闇の神デスナ様の下に生まれたかったものですよ」


 それはごめん。


淫戯文天(いちゃもんてん)! お前の主の名を答えるんだ。さもなくば……」


「ほう、力を失った身のくせに威勢だけは立派ですね。見習いたくないものだ。こちらも主の采配のせいで分が悪い。ひとまず撤退しましょうか」


 淫戯文天はブツブツと呪文を唱えると、その気配が一瞬にして部屋から消えた。

 瞬間移動の技だろうか。


「逃がしたか……。アサを待つ猶予はない。それこそ朝になってしまう」


 はい。


「そうだ、大夜くん! どこへ行った!」


 増戸さんが俺の名を呼ぶ。

 見つかってはまずいが、いないのもそれはそれでおかしい。

 こうなれば……。


 ガラリ、と増戸さんが俺の入っている押し入れを開ける。


「だ、大丈夫か! しっかりするんだ大夜くん!」


 そう。秘儀死んだフリだ。

 今の俺の肉体は生理現象として無意識に呼吸と血液循環を行っているが、別に止まっても大丈夫らしい。三楓さんに心臓マッサージと人工呼吸をされたときに気づいたことだ。

 意識すればその流れを自ら止めることができる。


「駄目だ! 呼吸も心音も止まっている!」


 ……騙せてるぞ。我ながら完璧な死んだフリではないだろうか。

 この結果がどうなるかは第23話をご覧ください。

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