第20話ではお買い物!
おっおっおっおっ、お惣菜っ♪
おっおっおっおっ、お買い物っ♬
ポーテトゥサラダとエービーてーん
冷凍ではないギョ・ウ・ザ♪
おっおっおっおっ、お会計っ♪
おっおっおっおっ、お買い物っ♬
セールフレジレジ、レジレジ
レーレレレジレジ、レ・ジ・ジ♪
頭の中でアドリブで流れてる歌って最後だいたいグダるよね?
……私だけ?
「お買い物終了っ。そうだ、お店の前でたこポンも売ってたっけ」
マストさんにも買って帰ろーっと。
いつもはたこポンしか買わないけど、マストさんがあじまん派かたこポン派かわかんないからどっちも買っちゃおうか。
っていうかマストさんバイト大丈夫かなあ?
屋台に向かうと見覚えのある人が店員さんとなんか言い合ってた。
「お客様!? お金は払っていただかないと!」
「べーっ、だ! そんなの持ってないもん!」
あ、あのきわどい恰好は……デスナさん、だよね?
なんで普通に街中にいるの?
マストさんも普通に街中でバイトしてるからおかしくはない、のかなあ??
「払っていただけないなら警察を呼びますよ!」
「しつっこいわねえ。お金の代わりにこの宝石をあげる」
デスナさんはお股のところに付けてる布から赤い宝石を取り出して店員さんに投げつける。きたない。
宝石はとぷんって店員さんの身体に入った。
こ、こうやって作るんだあ。
紅葉くんもこれされたのかな?
赤い煙が晴れて中から赤黒いマネキンみたいなやつが出てきた。
「むぎょっ、ぐろうろっ、ぺぐるぱぐるこぽぽぽ……」
なんかやばい声を発しててやばい。
「あーあ。今の私じゃ微妙魔が限界かあ」
デスナさんは残念そうな顔。
「ば、化け物だあっ!」
その様子を遠巻きに見てたおじさんがダッシュで逃げ出す。
「とりあえず初仕事よ。あいつをやっちゃいなさい微妙魔ちゃん!」
「べぐぢゅっ」
ビミョーマ?って言われた怪物は屋台から飛び出すと、逃げたおじさんをそこそこのスピードで追って行った。
逃げきれるかどうかギリギリって感じだけど……殺されたら可哀想! 早く私が浄化しないと!
私は急いで後を追おうと走る。
「どーこ行くの?」
グイッ、と首根っこをつかまれて止められた。
「で、デスナさ……」
じゃない、私がデスナさんと会ってたの覚えてたらおかしいんだ!
「ええと、誰ですな? は、初めて会う人ですな?」
「ごまかすのヘタね。あの子とおんなじ」
バレてる。うん。
「隠さなくていいの。たまにいるのよねー。憶えてる人。私のフルネームも憶えてる?」
フルネーム? デスナさんの……あれっ、なんだっけ。
なんか長い名前だよね、喉まで出てるのに。ど忘れ九蔵しちゃってる。
「えーっと、アルティミシア……?」
「ブッブー! はずれーっ」
あれっ、違うっけ。
「そこまでは憶えてないのね。私はアサちゃんのことよーく憶えてるのに」
できれば忘れてほしいんだけどなあ。
「でね、その私の記憶の中のアサちゃんって他人を助けるとかつまんないことするタイプじゃなかったと思うんだけど、どうしてアサちゃんは微妙魔を追っかけようとしたのかな? お姉さん怒らないから言ってみて?」
その聞き方は怒る人の聞き方だと思うの。
「し、死んじゃったらあの人可哀想ですし、きっと痛いしみんな悲しみます。だから……」
「はああ? 意味不明。あなたが痛いとかじゃないじゃん」
デスナさんがキレ気味の声を出す。
怒らないって言ったのに。
「そもそも、地球の生き物が1秒にどれくらい死んでるか知ってる?」
急にクイズ?
わかんないから適当に答えよ。
「224匹くらいですか?」
「うわー惜っしいー! すっごく惜しい!」
「何匹なんですか?」
「そんなの私も知らなぁい。誰か教えてちょうだい?」
作者も知らないのでコメント欄で教えてください。
「なんで急にそんなこと聞いたんですか」
「だからね、1秒に224匹も生き物が死んでるのに目の前の1つ2つの命に踊らされるなんてバカみたいでしょ?」
「えっ、いや、動物はどうでもいいですけど……」
「……確かに! 全くその通りよね! あの子にも聞かせてあげたいなーそのセリフ」
「あの子って誰ですか?」
「あの子じゃわからん♪ 相談しましょ、そうしましょ♬」
「はい?」
「決~まった!」
デスナさんが私を指さす。
急に歌い出したりしてなんか怖いんだけど。
「なんの話だったっけ?」
「生き物の死ぬ数がどうとかって……」
「そうね、はいはい。訂正するわ。人間は1日に170222人くらい死んでるの。その中で1人2人の命を救ってなんになるって?」
「そんなに死んでるんですか!?」
「ううん適当」
なあんだ適当かあ。
……じゃないじゃない、よくわかんないけどなんかデスナさんのペースに巻き込まれてる気がする。
「数の大小の問題じゃないです! 死んだらそれは可哀想じゃないですか!」
「へーん。大小じゃないならなにで論じればいいのよ? 愛情の嵩? 権力の度合い? それとも……」
「なにかで計るのが間違ってます!」
「あなたの持ってる壊れたハカリで計ったら、そう思うってことね。言っとくけど命に優劣はあるわ。神である私が量だけじゃ人数を把握しきれないくらいにはデコボコ道なのよ?」
この人の言ってること全然わかんない。
「アサちゃんは、自分の命の価値はどれくらいだと思う?」
えっ? 普通くらいかな?
「“普通”って答えはナッシンノーノ―っ」
むーっ。つぶされた。
「だったらデスナさんはどうなんですか?」
「質問に質問で返すなんて会話がはずんで楽しいわね。私の命は……んーっと、そうねえ」
デスナさんは少し悩んでるような、悩んでるフリをしてるような。
「この世界の4割ちょっとの価値。あるいはそこに止まってる自転車1台と同じ」
デスナさんがようやく口を開いた。
自転車は乗るのちょっと苦手だなあ。
「今度はアサちゃんが答える番よ」
デスナさんとの話し方わかってきたかも。
訳のわからないことを言えばいいんだ。
「デスナさんが自転車なら私は……このマーガリンと同じくらい、です」
私はさっき買ったマーガリンを袋から出してデスナさんに見せた。
「どれどれ?」
「あっ、ちょっと!」
手に持ったマーガリンの箱をデスナさんに取られる。
蓋を開けて中身を素手で一気にゴクン。
私のマーガリン……。
「ふーん、当たらずとも近からずって感じかしら」
正解ってこと?
「で、なんの話だっけ?」
「命の価値がどうとかって……」
「あの微妙魔から、人間を助けたいって、そういう話だったでしょう?」
……忘れてた。
デスナさんが私の胸ぐらをつかんでささやく。
「その言葉が本心かは知らないけど、助けたいなら答えは一つ。あなたが強くなればいいのよ」
ごめんなさい。私もう強いんです。
なんて言えないよね。
「簡単なこと。あなたには素質があるわ。このダイヤモンドを取り込めば、あなたは私の眷属としてすっごく強くなれる」
ごめんなさい。私もうマストさんの眷属なんです。
なんて言えないよね。
っていうかそのダイヤモンドで化け物になる人を見たばっかりなんだけど!
「え、え、え、遠慮します」
私は口を固く閉じた。
「やっぱり、まあまあ憶えてる。大丈夫よ。きっとビミョーマよりは強く……」
私はギューっと目をつむる。
この雰囲気、なんて言うんだろう。エッチ?
「あっ、すっごい子見っけ!」
「わっと!」
デスナさんは急に私を離して小走りでどこかに向かう。
私は身体のバランスを崩して座り込んだ。
「ねえあなた。お名前は? 人間は1日に何人死んでるか知ってる? ちょっ、無視しないでよ」
デスナさんが声をかけてる人は……同じクラスの黒空无夕さん?
買い物に来たみたい。
黒空さんは私の方をチラっと見てすぐ目をそらした。
「ねえってば、見て見て、私空飛べるの。すごいでしょ?」
「…………邪魔です」
なんだ。みんなに手あたり次第声かけてるだけだったのかあ。
緊張して損したかも。
と、とりあえず早くさっきの人を助けないと!
ダ――――ッシュ!




