第18話を染め上げる色
豪華2本立て
黒空さんを覆い込んでいた黒い煙が次第に薄くなる。
俺は妙な違和感を覚えた。
今まで煙の色は赤だったはずだ。
煙が彼女の肉体に完全に吸い込まれ、中から現れたのは……。
黒空无夕。
元の彼女そのもの。目立った変化は見られない。
デストロイジェムの力を抑え込んだのか?
俺でさえそんなことできなかったのに。
しかし、なぜだろう。
彼女の見え方がさっきまでとは違って見える。
「……これは、貴方と同じ力?」
黒空さんは長い前髪を静かに掻き上げる。
――黒い宝石。
俺にはそれが黒曜石であることが理解った――。
彼女の額には粗削りの黒曜石が発現していた。
俺は吸い込まれそうなほどの漆黒に目を奪われ立ち尽くす。
「……紅葉くん?」
黒空さんを見ているとまるで……。
そう、俺自らデストロイジェムを取り込もうとした時の感覚に似ている。
「……いつまで私を見つめているの?」
俺は、ふっと我に返る。
「ああ……どうやら、黒空さんは俺と近い状態にあるみたいだ」
「で、詳しいことは貴方にも解らない」
その通り。
「デスナから……闇の神から聞き出さない限りは」
「で、それが一筋縄ではいかない」
その通り。
「なにか解ったら教えて」
彼女はポケットからスマートフォンを取り出す。
「メールアドレス」
「ああ」
彼女はLIMEを入れていないらしい。
もちろん俺もそうだ。使う相手がいないからな。
LIMEとはメッセージアプリのことだ。
要するにLINEだな。
互いのメールアドレスを手作業で交換する。
「じゃあ、また週明けに」
そう一言言い残して、彼女は夕日を背に去った。
相変わらず気配を感じさせない。
「週明け、か……」
俺は独りつぶやいた。
学校は嫌いだが……。
~~~~~~~~~~
わ、私、天井くんにキスされた……?
ししししかもファーストキスってーー!?
っていうか私もキス初めて……じゃなかった!
昨日倒れた紅葉くんを助けるために人工呼吸をして……あれってなかったことになったんだっけ!?
でもでも私のココロ的にはあれが間違いなく初めてのキスであって粘膜接触であって……!
っていうかなんで天井くんは私なんかとキスしたの!?
脅迫? でも、脅迫に、なってるかなあ???
ひょっとして私のこと、好き? 好きとか?
な、なわけないない! ありえないっ!
天井くんって結構人気あるらしいし(当社調べ)私より魅力ある女の子だって何人もいるよ!
何人って、そう。
35億。
……微妙に古かった?
ごめんなさい。
でもこんなこと誰にも相談できないしなあ。
私は学校の校門を出て家へゆっくり向かう。
「あーっ、もう! ほんとどうしよう……あれ?」
いつもの近道の近くまで来たら、すごい嫌な気配を感じる。
横道から歩いて出てきたのは……同じクラスの黒空无夕さんだった。
ごめんなさい。正直言って、苦手な人です。
嫌いってわけじゃないけど、雰囲気とかがこう、私を拒絶してるみたいな感じがあるし、目つきも怖めだし……。
「……三楓さん」
黒空さんが立ち止まって私の名前を呼ぶ。
「あっ、えっ、えっと、黒空さん。こんにちは……じゃなくて、さよなら、でもなくて、なんだろう、ええっと、ごきげんよう?」
話しかけられたのが予想外だった私はテンパってしどろもどろな受け答えをしてしまう。
いつもは私のこと気にもしないのにいきなり呼び止めるもんだから。
「……貴方って、紅葉くんとはどういう関係?」
わ、私と紅葉くん……?
なんでそんなこと聞くんだろう?
「お友達……って言っていいのかな」
そういえば私は昨日、神社で約束した。
私と紅葉くんは友達になるって。
「彼は……は友達が欲しいなんて思っているの?」
「え? 友達が欲しくないってことあるの?」
そういえば紅葉くんは昨日、神社で約束した。
紅葉くんの唯一の友達はネコちゃんだって。
「言われてみれば、人間の友達は要らなそうだった……かも」
「……なら彼に関わるのは控えてほしい」
「へ?」
な、何様?
「こ、黒空さんって紅葉くんのなんなんですか?」
黒空さんは私に背を向けて答える。
「何者でもない。見知っているだけの赤の他人」
「だったらなんで……!」
「答えたくない」
黒空さんはそのまま私から遠ざかるように歩き続けて消えた。
あれを呼び止めるのは私には無理です。
「ただいま……」
アパートのドアを開ける。
今日は足が重くて、いつもなら全力で走って17分くらいの距離を1時間かけて歩いて帰ってきた。昨日ほど遅くはないけど。
私ちょっと引きずり過ぎてるな。
「おかえり。アサ」
マストさんが私を出迎える。
最近出番ないよあなた。
「アサ? 顔色が悪いがなにかあったのか?」
「いえ、なんでもないんです。本当になんでもないです」
「君がそう言うのなら信じよう。……一ついい知らせがある。私の就職が決まったぞ」
しゅ、就職!?
「お、おめでとうございます!!」
「天井駅裏の古本屋で働かせてもらえることになった」
「ってバイトじゃないですか!」
「探すのは大変だった。身分不詳ではなかなか働き口がなくてな。人間の仕事は初めてだが、アサと同い年の人もいるらしいから大丈夫だと思う」
「そ、そですか……ち、ちなみに時給とかって……?」
「時給? 800円だ」
あ、あれ~?
労働基準法が労働基準してなくない?
「さっそく明日から働いてくる。期待しててくれ」
「キ、キタイシテマース」
今日は私の悩みの種が3つほど増えました。
もうやだ。




