普通にバレてた第16話
今朝、天井くんにささやかれた言葉。
『今日の放課後屋上に来て。でないとアサちゃんの正体をバラすことになる』
どういうこと!?
私が光の使いだってバレちゃったってこと!?
天井くん、なんでか昨日のこと覚えてるし。
ああもうどうするの、どうするの~!?
こういう時は、マストさんに通話!
覚えたばかりの通話術!
プルルルル。ガチャ。
『私だ』
「もしもしマストさん!? なんか昨日のこと憶えてるって人がいるんですけど……」
『呪厳竜の話か。ああ、例え夢となっても内容の衝撃や外的な要因で目を醒まし、結果として心と記憶に残る。そういう人間もわずかにいるものだ』
「わずかって言われても……っていうか私バレたらどうなるんですか!?」
『君が気にする必要はない。荒唐無稽な夢の話を聞き入れる者などいないからな。まあ……確たる証拠までつかまれたら話は別だが』
「別って言いますと……?」
「まあ、口を封じることになるな』
「く、口を封じる!? 可哀想ですよ!」
口にガムテープを貼られるとか絶対苦しいよ!
『落ち着けアサ。夢というのは遅くとも数日も経てば忘れるものだ。増してや普通の夢ではなく君の浄化の力で見せられた夢。長くは持たない』
「うーん。そうですか……」
『それに正体がバレたというわけでもないんだろう? あの場にいた君以外の人間は全員亡くなっていたはずだからな』
あれっ? そっか。
天井くん思わせぶりなこと言ってたけど私が戦うとこ見てたわけじゃないんだ! だって校舎ごと踏みつぶされて死んでたから!
ちょっと安心。
「それもそうですね! そろそろ昼休み終わるんで切ります。それでは!」
『おい、ア』
ガチャリ。
~~~~~~~~~~
放課後になった。
屋上に……行かないとだよね。
まあでも大丈夫か!
私が戦うとこ見られてはないもん!
天井くんにとっては私と天井くんが同じ夢を見たってだけだもんね!
だったら私と天井くんの立場はフラット! イーヴン! フィフティーフィフティー! 法の下に平等!
うん、あせることないよ。
ボロさえ出さなければ問題ないない!
そう思って私は屋上に続く階段をのぼる。
「よーっ、アサちゃん」
天井くんは屋上へのドアの前で私を待ってた。
ええええええっと、ドアを開けるタイミングで心を落ち着ける計画だったからちょっと心の準備がががが。
「あ、天井くん、屋上に出ないの?」
「いやいやアサちゃん。ここ施錠されてるじゃんか。だからここでお話」
あれっ、そっか。
学校って普通は屋上行けないんだ。(学園モノの読みすぎ)
「それでお話ってなに?」
「ま、とりあえず」
天井くんはいきなり私のスカートのポケットの中に手を突っ込む。
「キャッ!」
今すごいきわどいとこ触られたんですけど!
普通にセクハラ! エッチ!
わいせつ罪! 6ヶ月以上または10年以下の懲役!
「あれ? アサちゃん。今朝ここにしまった宝石がないみたいだけど」
宝石? あっ、前回隠すフリして引っ込めたやつだ。
「な、なくしちゃったみたい」
「ふーん。アサちゃんの正体に関係あったりして」
なんで知ってるの!?
恐怖!
「ええっと、正体がどうとかよくわかんないんだけど……」
「とぼけんなって。アサちゃんの正体は……ヒーロー!」
これはバレて……ない? バレてる? どっちろんろん?
「ヒロインの方がいいかな」
「天井くん本当になに言ってるかわかんなくて、じゃあ私そろそろ帰」
「待てって」
天井くんが私の腕をつかむ。
「えっ、ちょっと。どうしたの」
「光の神マスト」
えっ。
「額の宝石、大夜が変異したモンスター呪厳竜、それと闇の神……ハーデスだったか?」
た、たいへんお詳しい……。
多分私より詳しい。
「な、なんで知って……だって平等院鳳凰堂じゃ……」
「平等院……? ああ、法の下に平等って言いたいのか」
そうそれ。
「俺ってさ、夢とか見ないんだよね。忘れてるとかじゃなくてさ、本当に見ないの。だから昨日マジでビビってさ」
えっえっ。
夢を見ないってだからってそこまで知ってるのおかしいっていうかわかんないんだけど。
「校舎ごと踏みつぶされた……よね?」
「おっ、ようやく話してくれた」
天井くんは私の腕をグイっと引き寄せる。
わあ男の子の力だあ。
まって顔近い近い近い。
「じゃあ昨日俺が見たことを順を追って話すかな」
えっ、この状態のままで?
心がもたないよ……。
「アサちゃんが先生を呼びに行った後にカツアゲ部の奴らに囲まれてさ」
いや本当にこのまま続けるの!?
吐息がすごいかかる。密~!
雰囲気が完全にR-18のそれなんだけど!
……見たことはないけどね!?
「ごめんね私のせいで。大丈夫だった……?」
私は声をひそめて聞いた。
「大丈夫……って言えたらかっこいいんだけど、さっぱり駄目だったわ。勝てないと思って気絶したフリで隙を待ってた。そしたらトイレに大夜が入ってきて、その場にいたみんな吹っ飛ばされて体育館全部崩れて、大夜がでっかいドラゴンになった」
「でもそしたら私のこと見てないんじゃ……」
「見くびんなって」
天井くんが私のあごに手を、あああ顎クイぃーっ!?
……微妙に古いゾ?
ここまで私ずっと目をそらして下の方見てたんだけど、強制的に目と目を合わせる形にされました。
「まあ、なんつーか、奇跡的に無事だったんだよね。なんとか瓦礫から抜け出てアサちゃん見つけて、そしたら宙に浮いてる女となんか話してたから隠れて様子を見てたってわけ」
「そ、それで全部知ったんだ……」
「うん。俺隠れるの得意だから。アサちゃんが戦うとことか全部見てた」
天井くん視力と聴力良すぎない?
「さ、俺が知ってることは全部教えたからアサちゃんの話も聞かせてよ」
うわあささやき声かっこいい……じゃなくて!
「話すなんて約束してないんだけど……!」
「じゃ、バラしちゃおっかなー。アサちゃんのこと」
「そっ、そんなの信じる人いないもんっ」
「かもな」
天井くんが残念そうな顔をした。
あきらめてくれたかな?
心なしか天井くんの瞳が大きく見える。
チュッ、とくちびるにやわらかい感触。
……チュッとくちびるにやわらかい感触!?
ききききき、キス~!?
なにしてくれてんの!?
ピロン♪
その音がなんなのか私が気づいたときにはもう、手遅れだった。
「へへ、撮っちゃった」
「えっ、えっ」
「俺のファーストキス」
「――――――」(フリーズ中)
「さ、そろそろ俺行くわ。またな」
天井くんが私から離れていく。
コツコツと彼が階段を下りる音が響く。
私はその場にへたり込んでしばらく動けなかった。