そして第10話現れた
5人がトイレに入ったのを見計らって、天井は、ふぅ……とため息をつく。
「カツアゲ部のやつらだ」
カツアゲ部?
「この学校には非公認非合法のやっべぇ部活が山ほどある。アレはその1つだ。暴力と恫喝をこよなく愛する不良集団。去年は別件で逮捕者も2人出ている……。どうやら入学したての1年を標的にしたみてえだ」
いやいやいや、なんだこの学校。
転入しなければよかった。
……だが今の俺にとって好都合ではある。
眷属に向いた闇の深い人間がそこにいるのだ。
三楓さんと天井をうまいこと追い払えればよいのだが。
中の様子が気になる。
デスナの話によれば、今の俺にはいろいろと特殊能力が宿っているらしい。
思えば登校時に見えたビジョン……正直思い出したくもないものだが、あれもその一つなのだろう。
では中の様子を探るための能力、例えば透視能力はないだろうか。
試しに「トイレの中を俺に見せろ……」と、そっと念じてみる。
すると脳裏にヴィジョンが浮かび上がってきた。
ちょろろろろろろ……。
透明な水、白い容器にたたえられたものが、閉めの甘い蛇口のごとく流れ落ちる黄金色の水滴で染まっていく。
その源流をたどり視線を上に伸ばすと被せられた布の奥から白く艶めいた二つの筋が小さく開いているのが判る。それは緩やかに官能的なカーブを描きまさに脚線美という名の……。
「……ってこれ女子トイレじゃねえか!!」
「あ、紅葉くん?」
「だ、ダイヤ。急にどうした」
やっべ思わず声に出てた。
「な、なんでもない……です」
そしてつい敬語になってしまう。
内心ドン引きだろうなこの2人。
「お、おう……。じゃあ話を続けるぞ。カツアゲ部のせいで破算、自殺に追い込まれた奴が毎年何人もいるらしい。だからこうして嵐が去るのを待つしかない」
「なるほど」
相槌を打つが、何を言ってるのかはさっぱり解らない。
本当にそれ日本での話?
「ダメだよそんなの! 早く助けなきゃ!」
三楓さんが思わず立ち上がる。
「よせっ。奴らに目をつけられたらアサちゃんの人生は終わる!」
天井が三楓さんを引き止める。しかし三楓さんの目は燃えていた。
「でもっ! 目の前の人を見捨てるなんてムリだよっ!!」
三楓さんは勢いよく男子トイレに向かった。
「うおらっ!」
カツアゲ部の一人が標的の股間部を容赦なく蹴り上げている。
「~~~~~~っ!!」
蹴られた男子は声にならない声で悶絶する。
「あーあーあー。おとなしく財布とスマホと昼飯を俺たちにくれりゃあ、こうはならなかったってのによぉ」
「金を出さねえから金玉を失うんだよ! ぎゃははは!」
男は笑い、倒れている男子の陰部をグリグリと容赦なく踏みにじる。
そしてポケットからタバコを1本取り出した。
「代わりにこれをやるよ」
男は倒れている男子のズボンとパンツを無理やり脱がせた。
執拗に蹴られて青く腫れ上がったアレが露出する。
「ヤキっすか」
「いいや、尿道から吸わせてやんだよっ!」
男はライターでタバコに火を点けた。
「ははっ、そりゃいいやニコチンをポコ……」
バアン!!
「やめなさい!」
三楓さんが男子トイレのドアを開けた。
「なんだおい? 俺たちを止めようってのか?」
「こっちは男子トイレだぜ? 常識をわきまえろよな」
カツアゲ部は口々に三楓さんに詰め寄る。
「うるさい! あなたたちなんて私のスーパーパワーで……」
三楓さんは額に手を当てた。
「……あれ? ちょっとまってね。おっかしいなー。出ない」
「はっ、なにしてんだよっ!」
男の膝蹴りが三楓さんの腹部にヒットする。
「うあ゛っ……」
三楓さんは吹き飛ばされ廊下まで飛び出し、壁に強く背中を打ちつける。
「やめろっ!」
そこへ現れたのは天井だった。
「なんだ。今日は豊作だな。てめーも俺とやろうってのか」
「アサちゃん! 今のうちに逃げろ!」
「で、でもっ」
「いいから早くっ……」
男が天井の顔面を殴りつける。
が、天井は両手で拳を受け止めた。喧嘩慣れしているのだろうか。
「せっ、先生呼んでくるから!」
三楓さんは立ち上がって急いで人を呼びに向かった。
廊下を抜け、第一体育館の準備室に行けば先生がいるはずだ。
天井は男たちに取り押さえられてしまった。
いくらなんでも相手が悪すぎる。一対多、結局はこんなものだ。
「3人に勝てるわけないだろ!」
男が天井の喉を絞める。
「く……そ……」
天井はもがいていたが、すぐにうつむいて目を閉じる。
「ははっ、こいつ気絶しやがったぜ」
足をかつがれ男子トイレに引きずり込まれていく天井の身体。
トイレのドアが閉まる。
彼らには可哀想だが、事はうまく運んだらしい。
三楓さんは去り、天井は気絶、今のカツアゲ部たちは油断している状況。
眷属を作る絶好のチャンスである。
俺は男子トイレのドアを開ける。
「ん? 今度はなんだぁ?」
トイレの中には倒れている2人と、カツアゲ部の4人がいた。
不良、ヤンキー、いじめっ子。
あるいはカモとなるいじめられっ子。
俺はいじめっ子もいじめられっ子も好きではなく……まあどちらかというと俺はいじめられる側なのだが、双方とも闇の力を強く持つ存在らしい。
俺の額には再び赤い宝石――レッドダイヤが発現し、同時にポケットにしまっていたデストロイジェムが淡く光るのを感じる。
「この中で最も歪んだ心を持つ者は……」
1番右にいる舎弟っぽい風体のやつのようだ。
少々意外だが、よく考えたら天井へのリンチに彼だけが不参加だった。
手を汚さないタイプなのだろう。
「なんだ? なんとか言えよ!」
……違う。
彼よりも闇を抱えた存在がいる。
三楓さんを引き止めず、カツアゲ部のいじめを、天井のリンチを傍観し、自分のことだけを考えて気配を潜め、虎視眈々この機会をうかがっていた。
俺だ。
いつの間にかこのような状況を受け入れ、世界から人間を1人消すことに一切の抵抗も沸かない。それどころかある種楽しみにしていた節さえある。
邪神よりも悪質ではなかろうか。
俺は世界を闇につつみたくはない。
動植物に罪はないからだ。
人間が、自分が嫌いで、人間が滅びたら嬉しいかもしれない。
そういう、邪神とも人間とも異なる立場の存在。
だからこそ、俺がやるべきではないのか?
眷属ではなく自分自身の手で。
目の前の目障りな人間を、種を、
俺の力で、俺が……。
「ん? なんだその赤い宝石? 俺たちによこせよ」
ポケットから取り出したデストロイジェム。
俺はそれを口から飲み込んだ。
「なっ、なんだあっ??」
「うあっー」
俺の全身から赤い光があふれ出す。
俺という存在から――!
そして怪獣は現れた




