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貫き通せ我が騎士道  作者: 神木ユウ
第3章 清風国ウィンド
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第96話 閑話:ウィリット・ファムリア

 閑話3話の3話目、ラストです。

 このファムリアの街の住民は気が弱い。そういう民族なのかもしれない。

 もしこの国に、各街に警備隊を派遣する制度がなかったら、この街は滅びていたかもしれない。


 そんな街の領主、ファムリア伯爵家の長男として僕は生まれた。


 ウィリット・ファムリア、現在21歳。当主になるための勉強をしながら日々を過ごす臆病者だ。





「お父様、気分転換に少し街を歩いてきます」


「ん? ああ、気をつけて行ってきなさい」


 勉強ばかりでは気が滅入る。僕はこうして、しばしば外出して街を歩いている。

 昔は少し体を鍛えてみたりもしたけれど、このヒョロヒョロの体はどうも筋肉がつきにくいらしい。なかなか成果が出ずやめてしまった。

 今ではこうして散歩するのが唯一の運動となっている。


「坊ちゃん、新作が入荷したぜ。見ていってくれよ」


 家具屋に声をかけられる。この街では日々新しい魔法道具の家具が開発されているから、こうして新作を目にすることも多い。


「坊ちゃんはやめてくれよ。僕ももう21だ」


「昔から見てるからなぁ。いつまでも坊ちゃんって感じだ」


「はぁ、まったく。新作ってどんな物だ?」


 気弱なこの街の住民は皆協力し合っているから仲が良い。それは領主であるファムリア家も例外じゃない。

 僕が小さい頃からお世話になっている人も多く、頭が上がらない相手も結構いる。




「ワイバーンだああぁぁぁ!!?」




 悲鳴が上がる。わ、ワイバーン!!?


「あわわわ……!? に、逃げなきゃ……!」


 住民たちが逃げ惑う。僕も早く逃げよう! 人の流れに乗ればワイバーンから離れられるはずだ。

 少し離れたところに、ワイバーンが飛んでいるのが見える。ち、近い……早く逃げないと……。


「射撃用意!!」


「射撃用意ヨシ!!」


「撃てえぇ!!」


 警備隊が一列に並んで上空のワイバーンに一斉射撃を行っているのが目に入った。

 最新式の魔力銃だ。ワイバーンの硬い鱗すら貫きダメージを与えている。

 よし、これならすぐに討伐できる……!




  グウウオオオォォォォォ!!!




「退避いいぃぃぃ!!!」


「がああぁぁぁ!!」


 ワイバーンが炎の玉を吐き出す。警備隊は慌てて回避行動を取ったが間に合わない。何人かが直撃をもらってしまう。


「無事か!?」


「気絶していますが生きています!」


「2人怪我人を連れて退避! 他は射撃用意!!」


 警備隊に支給されている防具のお陰で何とか一命は取り留めたようだ。

 そして全く怯まず次の射撃を準備する。


「撃てええぇぇぇ!!」


 その射撃はワイバーンの翼を貫き、口内に入り、目を潰して、ついにワイバーンを仕留めた。


(スゴイ……! ワイバーンに全く怯まず立ち向かうなんて……!)


 警備隊長が街の住民に討伐完了の呼びかけを行っている。それを聞いた住民たちは安心した様子で、口々にお礼を言いながら日常に戻っていく。


(僕ももっと勇敢になりたい……。強くなるのは難しくても、せめて心くらいは)


 気弱なのはこの街の特性だから。そんなのは言い訳に過ぎない。もっと強くなれるはずだ。







 誰にも見つからないように街から出る。

 この街の近くはモンスターがあまり出ない、比較的安全な地域だ。

 あくまで比較的であって、先日ワイバーンが出たように、他地域からモンスターが入ってくることはあるが。


 最近僕は、そんな場所をうろついている。


 僕は弱い。実際にモンスターと戦ったらすぐにやられてしまう。だから戦うことは出来ない。

 でも、こうして安全が確保されていない場所に出ることで、勇気を鍛えられるのではないか。そんな考えから、外に出て歩き回ることを繰り返している。



   ガサッ



「ヒッ!?」


 モンスターじゃない、ただの鳥だ。そんな動物が動く少しの音でさえ、僕には何か恐ろしい物に思えてしまって、ずっとビクビクしている。

 こんなことでは駄目だ。もっと強くなりたくて外に出ているのに。



  ガサガサガサッ!!



「こ、今度は何だ? 鳥か? ネズミか? もうビビらないぞ……!」


 無理矢理勇気を振り絞って見つめる草むらから出てきたのは、




  何も身に着けていない、7歳くらいの男の子だった




「は……? にん……げん……?」


 間違いなく人間。それも子供だ。なぜこんなところに子供が……?


「ぐううぅぅぅ!!」


 こちらを威嚇するように唸っている。


「ま、待ってくれ! 僕は君に危害を加える者では……!」


「がああぁぁぁ!!」


「ひいっ!?」


 飛びかかってきた!? 噛み付こうとするかのように口を開けて迫ってくる!

 慌てて跳び退く。上手く体を動かせず、しりもちをついてしまった。


「ま、待ってくれ!」


「ぐうああぁぁ!!」


 今度は逃がさないと言わんばかりに、再び襲い掛かってくる。


「ぐうううぅぅ!!」


 腕を噛まれた。そのまま食いちぎろうとするかのように歯を押し込んでくる!



 痛い……! 痛い……!! でも、



「大丈夫だ……。大丈夫。僕は君を攻撃する者じゃない……」


 この子は1人なんだ。こんな森の中で1人生きてきた。

 こんな子供が! たった一人で生きているのに!



 大人の僕が受け入れてやらなくてどうする!!



「大丈夫、大丈夫だ。もう怖くない。そんなに恐れないで。僕は君の味方だ」


「ぐうぅぅぅ……」


 少し口から力が抜けてきた。


「良い子だ。そう、大丈夫だから」


「がぅ……」


 腕に噛み付いていた口が離れ、僕を押し倒していた子供がどいてくれた。

 まだ不安そうにこちらを見ているので、頭を撫でてやる。伸び放題の髪は、ゴワゴワでお世辞にも触り心地が良いとは言えない。


「よしよし、良い子だ。1人で怖かったな。もう大丈夫だ」


「あぅ!」


 返事をするかのように鳴く。言葉がわからないのだろう。

 このまま放置は出来ない。お父様には怒られるだろうけど、連れて帰ろう。


「ついてきなさい。僕が人間らしく生活出来るようにしてやる」


 この子を育てよう。きっと苦労だらけになる。それでも、きっと。ちゃんとこの子と向き合って育てていけば、



 僕は少しは強くなれるだろう。







「んぁ……? 夢……か……」


 机に突っ伏して寝ていたようだ。仕事に一段落ついたら、気が抜けて眠ってしまったらしい。


「起きましたか? ウィリット様」


「ああ、アルト。お前と出合った時の夢を見ていた」


 あれからもう18年も経つのか。早いものだ。


「出合った時の、ですか。あまり思い出したくないですね……」


「何でだ?」


「あの頃の私はまさに獣そのもの。今思い返すと恥ずかしくて仕方がないのです」


「それは仕方がないことだろ? 逆にお前の境遇で人間らしく生活している奴がいたら、そっちの方が怖いぞ」


 アルト自身もどうして森で生活していたのかを覚えていないため、詳しくはわからない。

 でもきっと捨てられたのだろう、とは想像できる。子供が1人森に捨てられて、生き残っていたのは驚きだ。

 もし自分で家を建てて人間らしく生活していたら……。想像も出来ないな。でもそんな奴はきっと化け物か何かだろう。


「今は立派な執事だ。それで良いだろ?」


「ええ、まあ、そうですが……」


 さて、仕事を再開しよう。早く片づけないと、また知らないうちに寝ているかもしれないからな。

 次から本編に戻ります。

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