第97話 王への謁見
王都リーズトルスト。清風国ウィンドの首都だ。
魔力を街中に送る魔力線が張り巡らされ、夜でも魔力灯で明るいこの都市は、一際目立つ建造物が2つある。
一つは王城。この国が王制である以上、もちろん城はある。
相応に大きい建物なので目立つのだが、この都市には更に目立つ建物があるため、何となく影が薄い。
二つ目、この都市で最も目立つその建物は、魔法技術局本部である。
城ですら高さ50mもないのに、魔法技術局本部は高さにして何と300m。間違いなく世界で最も高い建物だ。
頂上に、各都市と情報のやり取りをする巨大魔力アンテナがあり、建物内には数多くの開発室や、研究室がある。
この建物内で新しい道具の案が出され、この建物内で会議が行われ、この建物内で製作まで行われる、まさに国の中心と言える。
ファムリアから北西に25日進み、王都リーズトルストまでやってきた。
恐らく清風剣ウィンディルのものと思われる、吹き抜ける爽やかな気配を感じる。
だが、その建物の存在感は清風剣と並ぶかもしれない。
あれが魔法技術局本部か。ウィリットさんに聞いていた通りの細くて異常に高い建物だな。
以前この国は魔法技術局が動かしていると聞いたが、それも納得出来てしまう。
「失礼します。あなたがユーリ殿で間違いなかったでしょうか?」
「え? ええ、そうですが……」
圧倒的な存在感を誇る建物を見上げながら首都へ入ろう、というタイミングで門番に声をかけられた。
「やはりそうですか。あなたが来たら連絡を入れるようにと城から指示が出ておりまして。申し訳ないのですが、城へ向かっていただけますか? 宿もこちらで手配しておきますので」
連絡は行っているとしても手紙は渡す必要があるので、城には向かおうと思っていた。向こうから呼んでくれるのなら断る理由はない。
「わかりました。ではこのまま城へ向かいます」
「ありがとうございます」
国が宿を手配してくれるなんて、きっと良い宿だろう。少し楽しみだな。
「お、来たか。さてさて、どんな子かなーっと」
連絡を受けて早速移動する。先ずは城に来るはずなので、その場に立ち会うことが出来るようにお願いしておいた。
面白い子だと良いね。ウチの知らない、見たことない感じの子だと嬉しい。
城に来た。門番に挨拶する。
「やあ、通してもらうよ」
「メルダさん、話は聞いています。どうぞ」
ライラ・メルダの名は結構有名だ。あらかじめ話を通しておけば、城にだってあっさり入れてもらえる。
勝手知ったる我が国の城ってことで、案内なんて必要ない。勝手に謁見の間まで行く。
「どうも、例の英雄君の謁見に立ち合わせてもらうよ」
「ライラか。構わん。端の方で大人しくしていろ」
バーダルド・リーズトルスト陛下に声をかけると許してもらえたので、言われた通り端の方で大人しくする。
そう、玉座がある方の端で
「はぁ……。そこでも良い。ちゃんと大人しくしておけ」
「はいはい」
諦めたようなため息を吐きながら許可してくれた。ウチはこの王が生まれた時には既に城に出入りしていたからね。陛下もウチのことは良く理解してくれている。
ここの方が英雄君やその仲間の反応がよく見えるんだ。都合が良い。
続々と謁見の間に人が集まってくる。
デュール第一王子、ボレス第二王子、フェイリーサ王妃、ガルジュ・ヴィード宰相、他にも貴族たちが何人か入ってくる。
結構な人数を集めたようだね。恐らく、英雄君の顔を覚えさせるためだろう。貴族が英雄君に威張り散らして悪印象を与えるのはよろしくないから。
誰もがこちらをチラッと見てくるが、注意する者はいない。貴族でウチを知らない奴はいないからね。一般人でも、よほどテレビを見ない人以外は大体知ってると思う。
そして、彼とその仲間が入ってくる。
堂々と王の前まで進み出て、スッと右膝を着き頭を下げるその姿は、なかなか慣れている。恐らく以前にも王に謁見したことがあるんだろうね。
仲間の女の子たちはあまり慣れてなさそうかな。青髪の子はそれでもピシッと出来ているけれど、焦げ茶髪の子は大分おどおどしている。
「面を上げよ」
さて、ここまで見た感じ、とても常識人だ。まったく意外性がない。英雄と呼ばれるに相応しいだけ鍛えているのは見て取れるが。
英雄なんて呼ばれるくらいなら、もっと頭がイカれた奴が来ると思ってたんだけどな。こう、正義感で全てを語りそうな、ヤバイ奴。
「さて、いきなり呼び出されて困惑しているだろう。先ずはなぜお前たちを呼んだのか、その説明からしよう。とは言っても、難しいことではない。お前たちの口から直接、魔王軍というものについて聞いておきたかったというだけのこと」
説明しようと陛下の方へ顔を向けた英雄君が、こちらを見てギョッとする。が、すぐに気を取り直して、自分が魔王軍と戦った状況や、敵の強さについて語っていく。
うーん、つまらないな。女の子たちも少し気にするようにこちらを見るだけで、何も反応しない。
この子たちはとても常識人なんだろう。ウチみたいにひねくれてない。だとすると、こんな公式の場で面白い反応はしてくれなさそうかな。
個人的に呼んでみるか。ウチの研究室に招待しよう。ウチの見た目は10歳程度の女の子にしか見えない。きっと素直に感情を表に出してくれるはず。
「こちらが、バルドロス・グランソイル王の、こちらが聖女アリシアの手紙になります」
「うむ、ご苦労。受け取ろう」
宰相が前に出て、英雄君から手紙を受け取る。内容は既に国中に伝わっている。それをわざわざきちんと渡すところを見ると、真面目だねぇという感想しか出てこない。
「他に何かあるか」
「……では、失礼ながら一点」
「申してみよ」
「そちらの……彼女についてなのですが……」
お? ウチに言及したのか。このままスルーするのかと思ってたよ。
まあ気になるよね。謁見の際に王の側に立っているなんて、普通はあり得ない。しかもこんな子供にしか見えない奴が。
白衣なんて着ているからには王女でもない。じゃあこいつはなんなんだ? ってなるのは当たり前だ。
「ああ、こいつについては気にしなくて良い。端で大人しくしていろ、と言ったらそこで大人しくしているひねくれ者だ」
「どうも、ライラ・メルダだよ。よろしく」
「はぁ……。ユーリと申します」
「そっちの女の子たちは?」
「え、エイミーっです」
「クラリスと申します」
ユーリ、エイミー、クラリスね。まあ知ってるけど。
あ、良いこと思いついた。こんな公式の場で爆弾を落とされたらどんな反応をするんだろう。
「で、君たちはどういう関係?」
「エイミーはわたしの妹です。クラリスは……」
「戦友、でしょうか。私の故郷にて流水剣を守るため共に戦った友、と表現するのが最も近しいかと思います」
優等生だなぁ……。エイミーちゃんの顔を見れば、それだけの関係じゃないことは良くわかるんだけど……。
ま、良いか。詳しくは後で聞こう。
「そっかそっか。ま、ここは王の御前だからね、それで良しとしておこう」
「まったく……。では、下がって良い。長旅ご苦労だった。宿を手配してあるので、使ってくれ」
「はっ! ありがたき幸せ」
彼らが謁見の間から出て行く。さて、追いかけよう。
「ライラ。彼らは一般人だが英雄だ。あまりふざけたことをして嫌われるなよ」
「大丈夫ですよ、陛下。ウチはほら、こんなに可愛らしいので」
「はぁ……。否定はせんがな……」
性格が可愛くないんだ、と言いたげな陛下の視線を背に受けながら謁見の間を出た。左右に伸びる廊下を見渡してみれば、まだ彼らの後姿が見える。
「ねぇ、待ってよ。もっと話がしたいんだ」
「ん? ああ、メルダさん。話とは?」
「そんなに丁寧に話さなくても良いからさ。ウチの研究室に来てよ」
「研究室……? あ、ああ! そうか! どこかで見たと思ったら、テレビか!」
「知ってる人ッスか?」
「あなたもテレビで見たでしょう? 魔法技術局本部第三開発室室長、この国でも一、二を争う魔法道具開発者ですわ。幼い容姿、いつも着ている白衣、エメラルドグリーンに輝く髪、とても覚えやすいでしょうに」
「そうそれ。それがウチだ。そんなウチの研究室に呼んであげると言ってるんだから、光栄だろう?」
3人はお互いを見てどうしようかと顔で話し合っている。何か一押しした方が良いかな。
「わかりました。では、研究室にお邪魔させていただきます」
お? 何も押さなくても来てくれるのか。それならそれで良いか。
多分何か吹き込まれてるね。魔法技術局には逆らうな、みたいなことを。
「丁寧に話さなくて良いって。じゃあ行こう」
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