第80話 閑話:ユーリの誕生日
閑話4話のラストです。旅立ちから一年が経ちました。
巨木を倒してから15日後。未だ密林の中だが、ふと思い出した。
「そういえば今日で旅立ちから一年か。てことは18歳になったな」
「え? そんな急に言われても何も用意してないッスよ!」
「そういうことはあらかじめ言っておいていただきませんと!」
何か怒られた。いや、だが、
「俺だってお前らの誕生日なんて聞いてないんだが?」
「う……。そ、そうだったッスかねー?」
「お、覚えていないだけではなくて?」
「誤魔化すなよ……。で? お前らの誕生日はいつだ?」
「あたしは今から2ヶ月後ッス」
「私は7ヶ月後ですわね」
「その時の旅の状況がわからないから絶対とは約束できないが、何かプレゼントを考えておく」
その日が近づいてきたら何か買って、フィーに収納しておけば大丈夫だろう。
「うーん、兄さんの誕生日をお祝いしたいッス」
「こんな密林の中では……」
「気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとう」
両親が亡くなってから誰かに誕生日を祝ってもらったことはない。こうして祝おうという気持ちを見せてくれるだけでも充分嬉しい。
『言っておいてくれれば毎年祝いましたよ?』
(ああ、ありがとうな)
剣に誕生日を祝う文化なんてないだろうと思ったから、フィーにも伝えていなかった。自分から、誕生日は祝うものなんだ! なんて言うのはねだっているみたいで恥ずかしいしな。
「兄さん、決まったッスよ!」
「ん? 何が?」
「誕生日の祝い方ですわ!」
ああ、考えてくれていたのか。
「ズバリ! 今日兄さんは何もしなくて良いッス!」
「全て私たちがやりますわ!」
「今日は俺が食事当番だが、代わってくれるってことか?」
「それだけじゃないッス! まあそれはその時を楽しみにしてるッスよ」
「よくわからんが、行くぞ?」
「待ってください! 私がユーリさんを運んで差し上げますわ!」
「は? 運ぶって……どうやって?」
「こうやってですわ!」
クラリスが結界を作る。俺の足元に。そして、その結界が、動いた。
「おお? おおおお!?」
「このまま結界に乗せて運んで差し上げますわ」
凄いな。こんなことも出来るのか。
「これ戦闘にも使えるんじゃないか? 結界を足場にすれば俺も上から……」
「もう! そんなことは今は良いのですわ! ゆっくりくつろいでくださいな」
「あ、ああ。わかった」
クラリスの結界に運ばれながら密林を進む。周囲に寄って来たモンスターはエイミーが全て狩ってくれているようだ。
これは……確かに何もしなくて良いが、逆に落ち着かないな……。
「さあ召し上がれ! 誕生日スペシャルランチですわ!」
「クッキーも焼いてみたッス。本当はケーキとか作れれば良かったんスけど、作り方がわからなかったんでクッキーで我慢して欲しいッス」
出てきたのはデンッとステーキが一枚。胡椒で味付けされたシンプルに美味しそうなものだ。昼からこれは俺的に少し重いが……。美味しそうだし、食べられるだろ。
「いただきます」
デザートとしてクッキーも美味しくいただいた。
「マッサージしてあげるッス」
夕方、その日は早めに休むことになりテントを(エイミーとクラリスが)張り終わると、そんなことを言われた。
「兄さん、テントの中に来て欲しいッス」
呼ばれるがままテントに入る。そこにはクラリスもいた。
「さあ、準備はしておきましたわ。こちらに寝てくださいな」
布団が敷いてある。どこからこんなものを……。拡張袋に入れていたのか?
言われるがままにうつ伏せに寝ころがる。
「失礼するッスよ」
エイミーが背中に乗ってきた。そして背中や肩、首をグッグッと押してくる。
「私は足をやらせてもらいますわ」
クラリスが足のマッサージを始める。初めてやるだろうに、ずいぶん上手い。エイミーに教わっていたのだろうか。相変わらず物覚えの良い奴だ。
「おおぅ……。気持ちが良いな……」
「寝ちゃっても大丈夫ッスよ。晩ごはんの前には起こすッス」
そう言われると何だか眠くなってくるな。お言葉に甘えて、寝させてもらうか……。
「兄さん、兄さん。もうすぐ晩ごはんッスよ。起きて欲しいッス」
「んあ……。ああ……そうか」
起き上がり、テントから出る。どうやら二時間くらい寝ていたようだ。
20分後、食事の準備が整ったとのことで呼ばれる。しっかり目が覚める時間を考えてくれたようだ。
「さあどうぞ! 鳥の丸焼きですわ!」
昼に続いてドンッと肉が出てくる。またデカイ肉だ。まあ肉は好きだし、これも美味そうだ。問題はないだろう。
しっかり火加減が出来ている。よくこんなデカイ肉が上手に焼けるもんだ。少し前まで全く料理が出来なかったとは思えんな。
「美味い。ありがとな」
「いえいえ、存分に味わってくださいな!」
「はい、兄さん。あーん」
「え? いや自分で……」
「流石に全部やってると時間がかかって冷めちゃうッスから、これだけ。あーんッス」
「……あーん」
うん、美味い。
「私が作ったのに! ユーリさん! はい、あーんですわ!」
クラリスも切り分けた肉を口元に持ってくる。まあ良いだろう。
「あーん」
「いかがです?」
「うん、美味いよ」
味は変わらないけどな。まあこれだけ気持ちがこもっているんだと思えば、更に美味しく感じるかもしれない。
「2人も食べな。俺だけで食ってると寂しいだろ」
「ふふ、はい! いただきますわ!」
「いただくッスー」
皆で食べたほうが美味しい。ずっと一人で食事していたから、余計にそう思う。
エイミーが家族になってからは一緒に食べていたけれど、改めてそう感じるな。
「今日はありがとう。良い誕生日だったよ」
「何もう終わりみたいなこと言ってるッスか」
「この後もまだありますわよ」
「え? あ、食器洗いか? そうだな、ありがとう」
「それもッスけど……」
「今日は皆一緒に寝ますわよー!」
「……は?」
1つのテントで、俺を中心にして3人で寝る。
いや、寝るって言ったって、
「こんなの寝られる訳が……」
両サイドから密着している2人の感触が気になって全く眠れる気がしない。
「寝られないッスか? 子守唄がいるッスかね?」
「いや、そうじゃなくて……」
「ふふふ、本当に赤くなっていますわ」
もうこれ俺の誕生日がどうこうじゃなくて、2人が楽しんでるだけな気がする。
「いつもありがとうッス、兄さん」
「感謝していますわ」
「急に何だよ」
「兄さんがいなければあたしはこんなに毎日を楽しく過ごせていないッス。あたしを助けてくれて、お母さんの言葉を嘘にしないでくれてありがとうッス」
「私の頑張りを認めてくれて、頑張る意味を思い出させてくれて、夢見ていた旅に連れてきてくれて、ありがとうございますわ。そしてあの日、私の大切な友人たちを助けてくれて、私の生まれた街のために戦ってくれて、ありがとうございます」
「何改まってお礼なんて言ってるんだか。感謝してるのは俺だって同じだってのに」
大切な家族、初めてできた気の置けない友人。この2人の存在は俺にとってとても大きいんだ。感謝を伝えたいのは俺だって同じだった。
「いつもありがとう。2人が一緒にいてくれて、俺も嬉しい」
「……ふふ、なんだか恥ずかしくなってきましたわ! さあ、早く寝ましょう!」
「そ、そうッスね! さっさと寝るッス!」
「あ、ああ、そうだな!」
結局寝付けたのは、かなり遅くなってからだった。だから、こんな状態で寝られる訳ないって……。




