第79話 閑話:魔族の暮らし
閑話4話の3話目です。魔族にも日々の暮らしがあります。
封印の地の内部、その土地を4つに分割し、東西南北それぞれの土地を四天王が統治している。
土地の中央には魔王城が建ち、基本的に四天王は全員城にいるが、それぞれの領地を治めるため各領地にいることもある。
統治の仕方はそれぞれで異なる。自分で政治を行っている者もいれば、代官に全て任せている者もいるし、副官と相談しながら統治している者もいる。
そんな封印の地のとある日常。
「おい、聞いたかよ。あのドラゴ様が大怪我を負わされたってよ」
「ああ、聞いた。単純な戦闘能力なら四天王一のドラゴ様がなぁ」
「フォルボルさんもやられちまったって言うし、人間はやっぱりこえぇんだなぁ」
封印の地の西。四天王の1人、知略のレッジが統治する地域のとある街で、そんな噂話が流行していた。
その暮らしは人間とほとんど変わらない。家があり、店があり、街を作って暮らしている。
モンスターの脅威から逃れるために、街の周囲を壁で囲っていることまで人間と同様であり、異形の者が混ざっていることを除けば人間の街そのもの。
そんなとある街。
「お前たち、あまりその話をするな」
「あ、フェイルさん!」
「す、すんません……」
「いや、謝るほどのことではない。現在我々は封印の結界を消し去るために動いている。封印がなくなれば我々も外へ出ることが出来るだろう。だが、外には人間がいる。絶滅させる訳ではないからな。その時人間は怖いなどという話が広まっていると面倒だというだけだ」
「外に出られるようになったら……どうなるんですかね……?」
「どうかな。俺もあまり詳しくは聞いていないんだ。ただ、魔王様はこの地に封印されてから500年もこの中にいる。我々は外を知らなかったから何とも思わなかったが、魔王様は唯一外を知っているのに出られなかった訳だからな。外に出たいという思いが強いのだろう」
封印前に生み出された魔族はこの地にはいない。魔王を中心に封印の壁が生成され広がっていく形で封印が成されたため、魔王以外は外に弾かれたのだ。
現在の四天王を始めとする魔族たちは封印の地の中で生み出された存在だ。そのため、外の世界を知っているのも魔王ただ1人だった。
「もし魔王様が人間を強く恨んでいるなら、結界の外に出た後も人間と戦争するのかもしれない。そうでなくとも魔王様が外に出れば、その魔力で活性化したモンスターたちが暴れ、人間たちは混乱する。魔王様討伐のための人間が来るだろうと予想できるな」
「そうですか……。この地のモンスターは強いですからね。外のモンスターがどれほどかは知らないですけど、この辺りのモンスターは幹部の方たちじゃないと全く太刀打ちできないほど。こんなのが暴れる原因がわかってるなら、そりゃあ討伐に来ますよね……」
封印の地のモンスターは強い。魔王が常に悪性魔力を放っているのだから当たり前のことだ。
そのため、各都市を覆う壁は四天王の1人、創造のデスディが作った超硬度の壁であり、簡単には壊されないようになっている。
そして定期的に幹部が見回りを行い、モンスターの脅威が迫っていないかを確認、問題があるようなら討伐に動くようになっている。
幹部は四天王1人につき3人が基本とされているが、これも各々で異なっている。幹部の選出も四天王の好みであるため、戦闘が苦手な者が幹部だったりもする。
「いざ戦争となった時、人間が怖いなんて広まっているのは困る。あまり噂を広めないようにな」
「わかりました」
それを伝えると、黒い大きな翼の生えた男、フェイルはどこかへ飛び去った。
「なぁ。俺ぁ一応怪我人なんだが?」
「ええ、そうですね。怪我していても書類確認くらいできますでしょう? 内容の確認は全て私がやっておきましたので、印だけお願いします」
封印の地の北、四天王の1人、破壊のドラゴが統治する街。その領主の館で、ドラゴは仕事をしていた。
ドラゴは基本的に領地のことは全て部下に任せている。自分に政治能力がないことなどわかっているし、やりたいとも思わないからだ。
だが真面目なドラゴの部下は、確認の印を全てしっかりドラゴに押させる。そのため、しばらくサボっていると、ドラゴはこうして館に閉じ込められ無理矢理仕事をさせられるのだ。
今も部下の紫髪の少女、フラウに見張られながら、書類に印を押していく。
「あー、街の様子はどうだ?」
「おおむね変わりありません。ただ、ドラゴ様が怪我をして帰ってきたことは知れ渡っていますので、多少動揺が広がっていますね」
「そんなに驚くようなことかねぇ。俺の戦闘スタイルなら強い奴と戦えば怪我くらいしそうなもんじゃねぇか。わかるだろ?」
「わかりませんよ。あなたに怪我を負わせられる存在なんて他の四天王の方々か魔王様くらいのものだと誰もが思っています。その四天王の方々にしても、戦闘能力という意味ではドラゴ様が最強なんですから」
ドラゴは領民に慕われている。政治能力がないから部下に任せているだけで、領地のことは気にしているドラゴは、しばしば見回りをしているからだ。
上下関係なんて気にしないドラゴは、誰にでも気さくに話しかける。そして、モンスターが出て困っているなどの相談を受けると、すぐに解決してくれる。
だから、その強さと優しさで領民皆から慕われる領主が、大怪我をして帰ってきたとなれば、誰もが驚き心配する。
「気をつけてくださいよ。あなたが戦いが好きなことはわかっていますから止めはしませんが、領民皆があなたの無事を願っている。それだけは覚えておいてください」
「……ああ、わかった」
また書類に印を押しながら、ドラゴは頷くのだった。




