第78話 閑話:回復魔法の可能性
閑話4話の2話目です。
「うーん……」
またリリエルが何か悩んでいる。あまり話しかけたくはないが、放っておいて他の者に被害が行くのも申し訳ない。
ここは現在時間があるわたしが妹の相手をしてやるべきだろう。
「どうしたリリエル。何か悩み事か?」
「あ、お兄様。ええ、私も攻撃魔法を学ぼうかと思っているのですが、何から始めようかと迷っていたのです」
まともな悩みだった。これなら相談に乗ってやるのも良いだろう。
とはいえわたしも魔法のスペシャリストという訳じゃない。それなりに使えはするが、この才能の塊のような妹にどこまでアドバイスしてやれるだろうか。
「やはりお前の得意属性である地が良いのではないか?」
「地は物理的な攻撃が多いので別の属性が良いのではないかと思っていたのですが……」
「物理的な攻撃では駄目なのか?」
「ユーリ様は剣で攻撃しますでしょう? 私はきっと炎や風といった魔法で援護した方がユーリ様のためになると思いまして」
あくまでユーリか。まあ動機は何であれ、新たな魔法を習得しようとすることは悪いことではない。
とはいえリリエルは攻撃魔法初心者。まずは得意属性から覚えるべきだろう。
「炎や風を覚えるのも良いが、お前はまだ攻撃魔法に慣れていないんだ。まずは地の簡単な魔法を覚えよう」
「うーん。そうですね、わかりました」
最近ずいぶん性格が変わってしまった妹だが、こういう素直に言うことを聞いてくれる部分は変わっていない。これが姉なら自分の好きなことしかしようとしなかっただろう。
どうかこれ以上姉に似てくれるな、そう願いつつ、リリエルと共に訓練場に向かう。
「石弾!」
前に突き出されたリリエルの両手から、石礫が飛び出す。
それは訓練場に置かれた的の中心を的確に捉え、破壊した。
「流石だな。基礎の魔法は練習する必要もないか」
わたしが得意属性である炎魔法の基礎、炎弾を習得するのに1週間かかった。それを既に完璧に制御しているとは。やはりわたしが教えられることなどないのではないだろうか。
「いえ……。何だか使いづらいです。やはり攻撃魔法は苦手です」
「的の中心を正確に狙えている。何も悪いところなどなかったように思うが?」
「魔法の規模に対して魔力を多く消費しています。それに狙いをつけるのにも時間がかかってしまいました。どうしてでしょう? 回復魔法は一瞬で発動できますのに……」
なるほど。わたしから見れば問題ないように見えても、実際は色々と不完全なようだ。
それが今までリリエルが攻撃魔法を習得してこなかった理由で、こうしてわたしにアドバイスを求める理由でもあるのだろう。
「そもそも魔法とはイメージに乗せて放つものだ。撃破すべき敵を目標にしなければ上手くイメージできないのではないか?」
「特に回復する対象を定めなくても回復魔法は一瞬で発動できるのです。恐らく関係ないと思います」
「そうか……。他に何か……」
魔法にイメージが大切なのは間違いない。そして魔力を無駄に消費する、発動が遅い、どちらも不慣れから来る未熟さかイメージ不足が原因であることが多い現象だ。
不慣れなのは確かだろうが、それはリリエルが初めて回復魔法を使った際も同様のはず。回復魔法だけが使いやすい理由にはならない。
となるとやはりイメージなんだが……。
「例えば、リリエルは優しいから攻撃するイメージをし難い、などということはないか?」
「え……?」
「回復は人を助ける魔法だ。優しいお前は喜んで発動するだろう。だが攻撃は人を傷つける。人に向かって撃つつもりがなくとも無意識に忌避している可能性はあるのではないかと思ってな」
才能の塊である妹が上手く魔法を扱えないなんて、そういった無意識の部分くらいしか思いつかなかった。
だがもしそうだとするならば、リリエルは一生攻撃魔法を上手く扱えないということになってしまう。
「私は、攻撃魔法が上手く扱えない。そう思って良いのでしょうか?」
「い、いや! そうと決まった訳では……!」
「ふふ、そんなに慌てないでください。大丈夫です。傷ついてはいませんよ」
「そ、そうなのか?」
ユーリのために攻撃魔法を覚えようとしていたのだから、それが出来ないと思ったらさぞ悲しむことだろうと思ったのだが……。
大丈夫なら良い。迂闊なことを言った。気をつけなければ。
「私は回復魔法を極めます。そう、回復魔法は回復だけしか出来ないと決まった訳ではありませんもの」
「……え?」
回復魔法は回復しか出来ない訳ではない……? 何を言っているんだ。もしやユーリの役に立てないと思っておかしくなってしまったのか……?
「見ていてください、ユーリ様! 私はあなた様のために! 更なる成長をして見せましょう!!」
高らかにそう叫ぶ妹の姿を見て、わたしは思った。
あ、これ、ヤバイことになるやつだ……
どうかユーリよ、早く帰ってきてくれ。妹が取り返しのつかないことになる前に。
既に取り返しがつかない可能性から必死で目を逸らし、わたしは願うのだった。




