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貫き通せ我が騎士道  作者: 神木ユウ
第2章 流水国アクア
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第49話 悲しみの都市

 悪性魔力自体には、特に植物の成長を阻害する効果があったりはしない。

 ではなぜこの周辺には草も生えていないのかと言えば、悪性魔力に影響を及ぼす思念が関係する。


 悪性魔力は、その場の思念に影響を受け、その質が変化する。

 ただ自然に湧き出ているだけなら、モンスターや道具を生み出す特殊な魔力というだけだ。

 それでも充分おかしなものではあるんだが、これに何か意志を持つものが働きかけると、その意志を汲み取って変化する。


 別に人の願いを叶えるって訳じゃない。例えば、悪性魔力に触れて「こんな道具が欲しい!」と意志を送っても、その道具が作られたりはしない。

 悪性魔力が読み取るのは強い思いだけだ。そして、悪性魔力に変化を与えるには、たくさんの思念が必要だ。

 迷宮都市の迷宮はきっと少しくらいは人の思念に影響されているかもしれない。迷宮に潜っている全員が同じ思考をしてはいないだろうから、質が変化はしないだろうけど。



 例えば、急に都市の内部で悪性魔力が湧き出し、それに都市中の人々が触れたとする。

 悪性魔力に触れた人が抱く思念なんて、気持ち悪い、苦しい、不安、そんな感情が大半だろう。

 湧き出した悪性魔力からモンスターが生み出され、都市中で暴れまわる。大切な人を失った悲しみ、攻撃された痛み、理不尽への怒り、そんな感情が大半だろう。

 するとどうなるか。



「悪性魔力にたくさんの人の悪感情が影響すると、こうなるっていうのか……」


「あまりにも……酷いッス……」


『年月で風化しているはずなんですが……』


『……ボロボロ』


 旧都に足を踏み入れた俺たちを出迎えたのは、ボロボロになった都市だった。

 ただの瓦礫の山ならこんな鎮痛な思いは抱かない。500年以上も前の都市なのだから、風化してボロボロになっているならわかる。



 だが、違う。目の前には、モンスターが暴れて破壊したであろう都市が、原形を留めていた。



 モンスターに引き裂かれたであろう人がそのまま倒れている。

 血が付いた道路がそのままになっている。

 モンスターが今破壊したばかりのような建物が見える。

 道路も建物もヒビだらけで、壊れていないものも今にも壊れそうだ。


 そして何より、街全体を悪性魔力が覆っている。


 モンスターが未だに跋扈しているのが見える。

 モンスターが湧き出すのが見える。



 悪性魔力に影響を与えたのは、明らかにこの街の住人の悲痛な叫びだった。



「これはつまり、人々の都市を守りたい思いが形を残しているってことッスか?」


「いや、この状況で都市を守りたいと思えた人はそう多くないはず。これはどちらかと言うと……」


 周囲を見回す。モンスターが未だ湧き出すこの都市を、当時の住人が見たらどう思うか。

 再び恐怖するだろう。当時の痛み、苦しみ、悲しみが押し寄せてくるはずだ。


「当時の住人の苦しみや悲しみといった感情の影響を受け、人にそういう感情を呼び起こさせる状態を固定している。そんな感じがする」


 あまりにも惨い。当時の人々は、こんなことを望んでいなかったはずだ。

 ただ突然の出来事に悲しみ、苦しむしかできなかっただけのはずだ。

 何も悪いことはしていないはずなのに、こんな仕打ちを受けるのはあんまりだ。


「なぜこの都市は悪性魔力が湧き出るようになったんだろう」


 できれば原因を取り除き、この都市を解放したい。


「悪性魔力って自然に湧き出るものッスよね? 偶然じゃないんスか?」


「もちろん偶然の可能性もあるが……。何か原因があるならなんとかしたいだろ」


「まあそうッスけど……。もしかしたら都市の中心部はもっと悪性魔力が濃いかもしれないッス。そしたらあたしたちが正気を失う可能性だってあるんスよ?」


「その場合は……流石に逃げるが……。とりあえず都市の中心まで行ってみよう。剣の声もそっちからするみたいだしな。気持ち悪くなってきたら諦めれば良いさ」


 歩を進める。もちろんモンスターが襲ってくる。

 ガイコツ、ゾンビ、独りでに動く鎧、そんなモンスターたち。

 これは、ここの住人の亡骸が悪性魔力の影響を受けてモンスター化したものだろうか。

 そうだとしても、倒す。この人たちもモンスターとして活動していたくはないはずだ。


「ううっ……。気味が悪いモンスターがいっぱいッスね……」


「たくさんの人が亡くなっただろうからな。できれば全て倒して行きたいが流石に無理だ。出てきた奴だけ倒して進もう」


 都市の中央に進む。そこにあったのは大きい城だ。もしかしたらガイアの王城より大きいかもしれない。


「アクアは神殿が中心だって話じゃなかったッスか?」


「この頃は王制だったんだろうな」


 悪性魔力が湧き出しているのも、剣があるのもこの城のようだ。剣は上、悪性魔力は下だな。


「どっちから行く?」


「兄さんは剣に行きたいんじゃないッスか? 上からで良いッスよ」


「そうか? じゃあ上から行くか」


 城は正面の大きい扉の他に、バルコニーのようなところへ円を描くように階段が伸びていて、2階からも入れるようになっている。上を目指すならこっちだな。

 階段を登る。少しずつ階段の終わりが近づいてくる。


「……ん?」


「どうした?」


「いや、何か聞こえたような……?」


「剣の気配は感じるが、他には何も聞こえないぞ?」


「んー、気のせいッスかね」


 都市に入ってから抜いているリィンを握りなおし、城の中へ入る扉に手をかける。

 そして、城に足を踏み入れる。









 城の中はガイアの王城とそう変わらなかった。調度品が飾られていたり、柔らかい絨毯が敷かれていたり。やはり外と同様、あまり風化していないようだ。

 城の中に踏み込んだ瞬間、




  フフフフフフ


      クスクスクスクス


ケケケケケケケケ




「な、なんスか……?」


 笑い声が聞こえてきた。何だろう、気味が悪い。


「どうした?」


「この笑い声ッスよ! 気味が悪いッス!」




「何? 笑い声? 何も聞こえないが……」




「……え?」


 聞こえない? こんなにはっきり聞こえてくるのに? どういうことなんだろう。


「大丈夫か? 悪性魔力の影響で幻聴でも……」


「だ、大丈夫ッス! 気のせいかもしれないッスね……!」



 クスクスクスクス



「そうか? なら進むが……」


「はいッス!」


 気のせいだ。そうに違いない。廊下を進み始める。


 だが、やはり気のせいではなかった。ここでちゃんと兄さんに伝えておけば、もしかしたら。



   バンッ!! 



 急に足元の床が開いた。



「え……?」


 兄さんが振り向くのが見える。だが、それと同時、


「きゃああああぁぁぁぁぁ…………」


 あたしは落下していった。


 そして、開いた床が閉じていく。


「エイミー!!」


 落下しながら、兄さんの声だけが聞こえていた。

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