第48話 アクアの旧都
第2章開始です。
雪山を下りていく。山の向こうと環境が違ったりはしないようだ。
崖を下り、岩場を下り、雪の斜面を下りること10日。山の麓まで来た。
「ここからが流水国アクアだな」
「正確にいうなら山の頂上を越えた時点でアクアッスけどね」
「とりあえず首都レイルウォーテを目指そう。アクア国内の地理は首都の場所しかわからないからな」
「はいッス」
首都はここから東北東に50日ほど。首都で地図を手に入れて、アクア国内の探索に向かうつもりだ。
まずはこの周辺にあるだろう街を探すか。きっと道が伸びているはずだ。
「ようこそ雪の街ヒクセスへ! お、もしかしてガイアから山を越えて来たのかい?」
見つけた道を辿り翌日、街に着いた。ヒューリよりも発展しているように見えるな。
門番のおじさんの髪が薄い水色だ。ガイア国内では一度も見たことがないが、これからは茶髪の人を見ないんだろうな。
「ええ、そうなんですよ。この国の地図が見られる場所とかありませんか?」
「小さい図書館があるから、そこにならあると思うよ」
「ありがとうございます。行ってみます」
ヒューリには地図なんてなかったから、首都まで行かないと地図は見られないかと思っていたが、ここにもあるのか。
「宿を取って図書館に行ってみるか。エイミーは自由にしてても良いぞ」
「んー、じゃあ服屋に行ってくるッス」
相変わらず服を見るのが楽しいようだ。
俺たちは分かれて街に入っていった。
「んー。こんなもんかなー」
伸びをする。夕方までかけてアクア内の集落を一通りメモした。
名前だけ見てもどんな場所かなんて全くわからないけどな。
パッと見た感じだと、旧都とか面白そうだ。首都に行く途中、少し逸れるが、寄ってみても良いかもしれない。
少し調べたところ、首都レイルウォーテは流水剣アクリアッドと聖女の力で結界が張られているらしい。
だが、流水剣がなかった頃、首都は国内の中央ではなく、もっと西にあったようだ。
モンスターに滅ぼされたその都市から逃げ出した人々が新たに作ったレイルウォーテ。モンスターの脅威からどうにかして逃れたいと作られたのが、聖女であり、結界のようだ。
流水剣の役割が魔王の封印である以上、モンスターの脅威から逃れる効果はないはず。だが、その膨大な魔力を活用しているのが聖女ってことだな。
目的は達成したし、宿に戻ろう。エイミーは戻っているだろうか。
「ただいま」
どうやら戻っていないようだ。先に晩飯にしても良いが……。まあ、待つか。
「……遅いな」
完全に日が沈んでしまった。エイミーが帰ってこない。
「まさか……何かあったのか……?」
ここは外国だ。エイミーの髪は焦げ茶だから、一目でガイア国民だとわかる。
何かトラブルに巻き込まれている可能性は低くないのではないか……?
『確かに……。そもそもエイミーちゃんは可愛いですし、誘拐とか……!?』
『……心配』
「探しに……」
「ただいまッスー」
「……おう、おかえり」
普通に帰ってきた。
「遅かったな」
「あ、もしかして待ってたッスか? ごめんなさいッス! ちょっと服屋めぐりに夢中になっちゃって……」
「いや、良いんだ。勝手に待ってたのは俺だしな。飯にしよう」
『良かったですー』
『……心配損』
こうして何かに夢中になれるのは良いことだろう。今までそんな当たり前の楽しみもなかったんだから。
一緒に晩飯を食べて、眠りについた。
翌日。もうモコモコの暖かい服じゃなくても良いだろう。着替える。
「じゃあその旧都に向かうッスか?」
「ああ、何かあるかもしれないからな」
「旧都って要するに昔は人が住んでいた普通の都市なんスよね? 何かって何があるッスか?」
「人が住んでいたのはもう500年以上も昔のことらしいからな。それだけ経っていたらもう遺跡と変わらないんじゃないかと思って」
「旧都に剣が収められてるかもしれないってことッスか? そんなことあるッスかね?」
「剣を収めた人が何を考えていたのかなんてわからないだろ? そもそも剣を遺跡に収める習慣が謎なんだから」
「確かに……。じゃああるかもしれないッスね」
旧都はここから北東に25日くらいのところだ。旧都から東に25日くらい行ったところに首都があるため、そこまで遠回りって訳でもない。
流石にまっすぐ首都に向かうよりは遅くなるだろうが、陛下も好きに旅をして良いと仰っていたし、これくらいの遅れは誤差ということで、旧都に向かう。
「流石に道が整備されていたりはしないな」
「もう人も住んでいない都市に道を繋げる訳ないッスからね……」
道なき道を進む。現在は森を突っ切っているところだ。
ヒクセスを出発して10日、草原を通り、川を渡り、そして森を歩いている。
今のところモンスターは強くない。草原はどこにでもいるウサギやネズミがいたくらい。川は以前のように魚が飛び出してきたりはしなかった。
そしてこの森は……
「せやっ!」
エイミーが木を駆け上がりフクロウを斬る。この森はフクロウが襲ってくるようだ。あとは狼とか、クモとか。
「魔法を使ってくる鳥はなかなか強敵ッスね」
「特にこのフクロウはな。魔法を使うにしても飛びかかってきてくれるならもう少し楽なんだが、こいつは遠距離からこそこそ撃ってくるから」
俺に遠距離攻撃の手段はない。正確には以前使った空挿花があるが、そんなに何度も使っていたら倒れて起き上がれなくなりそうだから無理だ。
エイミーにも遠距離攻撃の手段はないが、身軽なので木を駆け上がり、跳びまわり、鳥にすら追いついて攻撃することができる。
「エイミーがいてくれなかったら逃げ回ることになってそうだな……」
「ふへへ、そうッスか?」
「ああ、助かるよ」
「ふ、ふふふふ! いやー、そうッスかそうッスか! 助かるッスか! ふふーん! まあ? 当然っていうか? そんな感じッスね!」
わかりやすい照れ隠しだな。俺でもわかりやすいって相当だぞ。エイミーも俺と同様、人付き合いなんてほとんどなかっただろうからなぁ……。
「今後も頼む」
「任せるッス!!」
モンスターの気配に注意しながら、先に進む。
ヒクセスを出発してから24日。森を抜け、再び草原に出てしばらく歩いていると、その異常に気づいた。
「なんスかね、これは……? 急に植物がなくなってむき出しの地面になったッス……」
「まるでこの先に植物の成長を阻害する何かがあるような感じだな」
更に進むと、感じた。これはフィーやリィンを見つけたときと同じ、
「聞こえる」
『でもこの感じ……。これは、恐らく……』
『……魔剣』
剣の声だ。
「聞こえるって、剣の声ッスか? 本当にあったんスか」
「だが、剣たちが魔剣だと言ってる。俺にはそこまで詳細にはわからないんだが、何となくしっとりした声だそうだ」
「しっとり……? それが魔剣の証なんスか?」
「いや、魔剣といってもその本質は通常の名剣と変わらない。ただ担い手に負担を強いるほど強大な能力を持っているというだけだ。そういう意味では大地剣も魔剣と言えるな」
「じゃあしっとりした声だと何がいけないッスか?」
『なんか絡みつくというか、ねっとりしているというか……』
『……嫌な感じ』
「うーん……剣たちもよくわからないみたいだな。なんとなく嫌な感じがするらしい」
「止めとくッスか? この地面と言い、何かヤバイものがあるかもしれないッス」
「いや、行こう。本質が名剣と変わらないんだったらきっと大丈夫だろ」
もし魔剣ってのがヤバイ剣なら、見つけても持っていかなければ良いだけだ。とりあえずそこまでいってみよう。
更に歩を進めると、旧都が見えてきた。そして、この地面の原因も。
「悪性魔力か」
「あの都市から出てるんスかね……?」
そこにあったのは、悪性魔力を放出する都市だった。
第2章第1部はややホラー風味のある話になります。そこまでガッツリホラー描写はしていないので問題ないかとは思いますが、ホラーをほんの少しでも匂わせられるだけでもキツイという方は注意してください。




