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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第6章 英雄の挑戦

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ハーデスとの会話



「私に会いに来た理由を聞かせてもらえるか?」



ハーデスは再び玉座に腰掛けて俺に問いかけた。俺は正直に答えることにした。ハーデスは公式から発表をされていないが、ダンテと同じ『真偽の魔眼』を持っているのではないかと推測されている。ゲームでの会話で、嘘が見抜かれることがよくあったからだ。



「はい。奈落の最下層に行きたいからです」



「なぜだ? あの場所がどのような場所か知っているのか?」



「記憶の泉と奈落のアメジストがあります」



「詳しいな。別に私の許可などなくとも良いだろう。私は奈落の王と呼ばれているが、それは私の強さにより勝手に周りが呼んでいるだけだ。ここは王国ではない」



「あなたの許可がなければ、タナトスが通してくれないと思います」



「だろうな。あの悪魔はそう簡単に人間を通さん」



「ハーデスさん! ここは我の顔に免じて、許可を出してもらえないか?」



バレンタインがここぞとばかりに割り込んでくる。役立つところを見せたいのだろう。



「バレンタイン。私は貴殿の死霊術師としての力量を買っている。このレンという男は君に匹敵する人材なのか?」



「さすがに我には匹敵しませんな! 我は完璧すぎるゆえ!」



俺は心の中でツッコミながら、バレンタインを睨みつける。バレンタインがはっと俺の視線に気づいて慌ててフォローを始めた。



「しかし、レンが只者ではないことは確かであるぞ。その、なんというか、ほら、あれだ。その……かしこいのだ!」



「そ……そうか。賢いのか」



ハーデスが逆に困っている。俺は役に立たないバレンタインから会話を奪った。



「俺はタナトスを倒すこともできます。ですが、極力手荒な真似はしたくありません」



傲慢不遜。そんな印象を与えるかもしれない。だが、ハーデスにはこれで良い。ハーデスは礼節やお世辞など、不要な悪魔だ。



実力至上主義の側面がある。それは戦闘だけではない。バレンタインのような死霊術のように優れた才能を優遇する。



「強気だな。先ほどの戦い方を見れば多少できることは分かる。しかし、タナトスも凄まじい力を持つ悪魔だ」



「はい。死を司る悪魔。死滅の魔眼をはじめ、数多くの即死攻撃をもっています」



ハーデスの言う通り、悪魔の中でタナトスは尋常ではない強さを持っている。他の悪魔とは次元が違う。



最下層を守る悪魔タナトス。最下層に通してもらうためにはタナトスを倒すか、彼のイベントをクリアしなければならない。



タナトスのイベントはクリアが極めて難しい。奈落の花というアイテムを手に入れる必要があり、これの入手難度が頭がおかしいレベルだからだ。



だから、基本的にタナトスを倒すことで最下層へと向かう選択をするプレイヤーがほとんどだった。しかし、そちらも茨の道だ。



タナトスは死を司る悪魔とされ、即死効果のある『死滅の魔眼』や『霊魂放出』というスキルを使用してくる。



『死滅の魔眼』は俺がグランダル王国の地下で戦ったノーライフキングと同じスキルだ。こちらは即死無効の神兵の腕輪でレジストできる。問題は『霊魂放出』のスキル。



これは状態異常扱いではなく、攻撃を受けたら強制的に存在が消失する。どれだけHPが残っていても即死する。『根性』や『ワンモアチャンス』のような復活系のスキルも発動しない。



幸い『霊魂放出』はタナトスの手に掴まれなければ発動しないので、注意していれば攻撃を受けることはない。



当然ながら他のステータスも異常に高く、300レベルオーバーでも攻撃がかするだけで即死する。



問題なのはそれだけじゃない。状態異常への完全耐性と魔法ダメージ無効を持っているため、物理ダメージでしかダメージを与えられない。それにも関わらず『物理ダメージ半減』のスキルを持っている。



そして、タナトスを最凶の悪魔たらしめるスキルがある。それが『死のカウントダウン』。回避不能の最悪のスキル。発動されたら部屋にいるメンバー全員に秒数の表示が現れる。300秒からスタートし、0になると強制的に死亡する。これは部屋から逃げ出しても、特殊な方法で転移しても数字が消えることがない。



唯一の逃げ道は『リバース』で時を遡ることだけだろう。しかし、『リバース』は効果範囲が狭いし、バクバクと『無限リバース』をしながらタナトスと戦い続けるのは現実的ではない。



だから解除するための唯一の方法、それは300秒以内にタナトスを倒すことだ。そのため、圧倒的な高火力物理で削り切るしかない。



それが極めて難しい。俺とバクバクの高火力でも計算上間に合わないだろう。時間内に倒しきるには必須のスキルがある。もしハーデスに断られたら、あのスキルを手に入れるしかない。




「……」



ハーデスは俺をしばらく見つめてから、言った。



「お前は奈落へ来たことがあるのか?」



俺はハーデスに嘘をできるだけつかないことを決めている。騙したり、欺こうとするのは愚かな選択だ。



「はい。正確には別の世界でのことですが」



ハーデスは顎に手を触れさせた。俺の目を見ている。嘘はつかない。だが、これ以上聞かれても答えられないと返答する。



「……そうか。深くは聞かん。そこまで話す気もないだろう」



ハーデスは俺の反応から的確に心理を読み取ってきた。相変わらず鋭い悪魔だ。



「この奈落に、何か異物が入り込んでいる」



急にハーデスが話題を変えた。



「最初はお前かと思ったが、話してみてわかった。別物だ。私はここに住む一部の悪魔と感覚を共有している。私を慕ってくれる者たちだ。その効果が切れることがあった。」



これはゲームでも知らない設定だった。たしかに奈落には派閥みたいなものが存在する。ハーデスを筆頭とする穏健派と、逆にハーデスを憎むベルフェゴールやアモン、ルシファーなどの過激派、そしてメフィストフェレスのようなどこにも所属しない悪魔。



「おそらく私の配下が意識を失っている。どれも力のある悪魔だ。おかしいのは、その前に戦闘をした感覚がないことだ。私は嫌な予感がした」



ハーデスはそう言って、俺が壊した扉に目を向けた。ハーデスの言いたいことがわかった。



「だから、扉を閉じたのですね」



「この世は自分では想定できないことが起こる。私はそれを知っている」



ハーデスはこれだけの力を持っていながら、状況を見て重い扉を閉ざした。最強の力を持っていながら慎重な判断をする悪魔だ。



ハーデスの言っている異物とは間違いなくストーリーメーカーのことだろう。ストーリーメーカーには戦闘をせずに悪魔を戦闘不能にする術があるのだろうか。しかし、それなら俺と会ったときにその技を使えば良かったはず。



いや、俺には使うことができなかったのかもしれない。なぜ悪魔に使えて俺には使えないのか。



今までの状況を考え、俺の中でストーリーメーカーの能力が見え始めてくる。



「ストーリーメーカーという人物です。俺も先ほど襲われて、仲間が散り散りになりました」



「レン。その異物、ストーリーメーカーを探し出してくれ。これが私が最下層への移動を許可する条件だ」



どちらにせよ、ストーリーメーカーとは決着をつける必要がある。それで許可がもらえるなら、渡りに船だ。



「わかりました。俺がストーリーメーカーを見つけます」



「殺してもかまわん。お前は私に嘘はつかないだろう」



ハーデスが俺に問いかけてくる。俺が嘘をつかないようにしていることすら見抜かれている。



「はい。俺は嘘をつきません」



「気をつけてくれ。私の嫌な予感はよく当たる」



これで約束は取り付けた。最下層に行くためにストーリーメーカーと決着をつける。



だが、俺はストーリーメーカーを殺すつもりはなかった。



それは甘えや、情けなんていう人道的なものじゃない。もっと利己的な理由だ。



ストーリーメーカーは俺の失われた記憶を探るための貴重な情報源だ。それを利用せずに殺すわけにはいかない。



今後も俺たちを狙う元いた世界の者が現れるかもしれない。そのためにも俺は元の世界のことを、俺自身のことを知っておかなければならない。



今、情報戦という場で俺たちはストーリーメーカーによって不利に立たされている。あいつの脚本通りに事が進んでいる。



俺はそんな脚本通りに踊る真面目な演者ではない。情報は多少集まった。



反撃の狼煙を上げようか。





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