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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第6章 英雄の挑戦

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偽りの友達



________リン_________



あの大男のおかげで部屋から脱出することができた。危ないところだった。



早くレンに合流したいが、どこにレンがいるのかはわからない。



仕方なく、モンスターから隠れながら奈落の中を探索する。『龍脈』の効果が切れている今は、ただのモンスターにも殺される可能性が高い。



部屋にはなるべく入らないように通路を移動した。部屋の中には悪魔がいる可能性があり、侵入することで戦闘になる悪魔も多いと聞いている。



レンならあの数の敵をどう倒すのだろうか。おそらく『霧雨』で攻撃を全体化して、高火力スキルで倒す選択をする。



だけど、霧雨は霧が届く範囲内だけだし、中には物理攻撃が効きにくい敵もいるだろう。レンは魔法をあまり使えない。



ユキがいれば状況が違うかもしれないけど、フレイヤだけでは火力不足だと思う。



そんなことを考えていたら、私の前に何か光るものが落ちていることに気がついた。



近づいてみるとそれは、装飾の施された女性物の腕輪だった。誰かが落としたものかもしれない。少なくとも私たちのパーティの装備品ではないことはわかった。



私はその腕輪を拾い上げようとして指先を触れた。その瞬間、強烈な寒気を感じた。











「あら? 拾ってくれたの? ありがとう」










それまで一切気配はなかったはず。それなのに、私の背後から白い手が伸びて私の手に触れていた。



私は咄嗟に反転し武器を構えた。すぐに攻撃が来ると予想していたが、その人物は動かなかった。ゆっくりと地面に落ちている腕輪を拾い上げていた。



ありえない。私はずっと周囲を警戒していた。私があの腕輪に触れる瞬間まで、全く気配を感じなかった。



「あらあら、奈落に来客なんて珍しいから、あの子かと思ったけど違ったのね」



私はこいつを知っている。メイクをされたように白い肌。長い緑色の髪。シルクハットを被った不気味な姿。



メフィストフェレス。レンが奈落で最大限に注意するように言っていた悪魔だ。



最悪だ。よりによってレンがいない一人の時に遭遇してしまった。



「あなた……私のこと知っているのかしら?」



メフィストフェレスが私の反応を見て、首を傾げた。



「いいえ、知らない」



できれば戦闘を回避すべきだ。言葉が通じるなら戦闘を回避する方法はある。



「嘘の匂いがするわね」



メフィストフェレスが舌なめずりをする。



「私はね。暇なの。こんな何もない奈落で退屈な日々を過ごしている。わかる? 刺激が足りないのよ」



「戦う気はないから、見逃してもらえない?」



「ふふふ、素直な子ね」



メフィストフェレスが口を横に開いて不気味な笑みをうかべる。



「少し遊びましょ」



メフィストフェレスが動き出す。速い。『龍脈』が切れていることでステータスが低下しているため、余計にそう感じる。



私は英雄の回避術で、首を掻き切ろうとするメフィストフェレスの右手の爪をぎりぎり避けた。



メフィストフェレスは避けられると思っていなかったようで、意外そうな顔をしていた。



今、私には確かに見えた。



私は今の攻防で、メフィストフェレスに勝てる方法を見出した。自分でも驚いている。わずかな情報から勝ち筋を見つけられるようになっている。



私はできるだけ余裕そうなそぶりを作り、メフィストフェレスに向かってこちらから声をかけた。



「ふふ、悪魔だから警戒したけど、あなた弱い悪魔なのね」



挑発する。私が勝つためにはこれが必要だ。危険な橋だが渡る価値はある。



メフィストフェレスを他の仲間に会わせてはいけない。今勝てるのは私だけだ。



「あら? 随分威勢がいいのね。怖くないの?」



「ええ、大して強い悪魔じゃないとわかって安心したの」



「そう……」



私は身構える。乗ってきて。怒りにとらわれて、私を攻撃して。














「あははははは、いい! すごくいいわ!」



「え……」



「私、あまのじゃくなの。そんな事言われたらあなたと友達になりたくなっちゃう」



私の計画が崩れる。ここは激昂してもらわないといけない。



「ふふふ。あなた、私のことよく知っているでしょ?」



メフィストフェレスが前かがみになって、私の顔を覗き込む。



「嫉妬、使ってほしかったんでしょ? バレバレよ」



見透かされていた。私は挑発してメフィストフェレスに7つの大罪系状態異常、嫉妬を使用させたかった。



嫉妬。相手より低いステータスのみ100倍される。効果時間が過ぎた瞬間、その強化されたステータスは一定時間0になる。



私はメフィストフェレスの攻撃を見て、感じ取った。素早さのステータスが私の方が低いと。



『龍脈』の効果が続いていれば、間違いなく嫉妬状態で殺されていた。私以外のメンバーは『龍脈』の効果が生きている。だから、メフィストフェレスに出会ったら終わりだ。



だから、私はメフィストフェレスを嫉妬状態にさせようとした。素早さ以外のステータスがどうなるかは不明だが、私には関係がない。どのステータスが100倍になっても私には英雄の回避術がある。素早ささえ強化されなかったら、嫉妬状態の効果時間、回避し続けることは可能だと思った。



そして、効果が切れれば、強化されたステータスは0になる。その時なら私でも倒せる可能性が出てくる。



しかし、メフィストフェレスはあっさり私の狙いを見抜いてきた。



「私、賢い子は好きよ。バカは嫌い。だから、あなたとは友達になれると思うの」



どうすれば良い。素早さが私より高いから逃げ切れない。ノックバックさせてその隙に逃げようか。



「そんなに必死に考えなくていいの。安心して。約束するわ。私はあなたに危害を加えない」



メフィストフェレスが両腕を上げた。約束。私はその意味をレンから聞いている。



「悪魔の約束は知ってる? 悪魔はね、約束を破れないのよ。だから、これで安心。だからお友達になりましょう」



悪魔は約束を破ることができない。だから、約束した以上、私の安全は保証された。予想外のことが起こって頭が追いつかない。メフィストフェレスの狙いが読めない。



「お名前を教えてくれるかしら? 私はメフィストフェレス、メフィと呼んで」



「……リン」



「リンちゃんね。よろしく」



メフィストフェレスは指をパチンと鳴らした。いつの間にか私の後ろに近づいていた亡者たちは一斉に灰になった。



「これで念願の女子会ができるわ。みんな私が誘っても参加してくれないのよ。私って人望ないのかしら。ヘカテちゃんは興味ないってそっけないし、アスモちゃんは仕事が忙しいって言うし」



さらっと言われたが、アスモデウスは女性だったのか。確かに女性と言われてもしっくり来る中性的な顔立ちをしていた。鈍感なバレンタインは絶対に気づいてなさそう。



こんなことを言っているメフィストフェレスは、たしかレンが言うには男だったはず。



「しばらくはリンちゃんに同行するわ! 私が奈落を案内してあげる」



とてもまずい状況になった。メフィストフェレスが同行してしまえば、レンや仲間と合流することができない。



どこまで見抜いているのだろうか。私がレンの仲間と予想して付いて来ようとしているのか、それとも本当に友達になりたいのか。



仕方がない。どこかで上手く撒くしかない。



「ええ。友達になりましょう。メフィ」



それまでは偽りの友達ごっこを続けよう。




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