急
「…ここまで!?ここまでしか映ってないの?」
「はい」
「死んだときの前後っていってたじゃん!なんで!?」
「……申し訳ございません、こちらの不手際です」
「………」
看護師さんが、やっぱり無機質な声でそう告げる。
(やっぱり、あの二人は…)
「狩野様が突き飛ばした二人は、軽傷で済んでますよ」
「…え?」
「この事件、有名ですから記憶しているので。あの二人は今でもあなたに感謝しています」
「……そっか…」
知りたかったことがきけた。
「ありがとう、またあとで呼ぶよ」
それを聞いた看護師さんは黙ってお辞儀して部屋を出た。
「…………グスッ、ヒック…」
一人になった俺は、突然泣き出した。
「あの二人、生きてたんだ…初めて、人のためのことができたんだ…っ」
涙が止めどなく溢れ、世界がぼやけて見える。
普通の人から見たら、こいつはなに泣いているんだと思うかもしれない。
だが誠二にとって、このことは最初で最後の、人のために何かして、そして自分自身が感謝されることだったのだ。
暗く、狭く、汚く、寒い、閉ざされて一人だった彼の世界で、初めてのうれしい気持ちだったのだ。自分のした行いが、その人の人生を悲しみで塗りつぶすことにならなくなったことが、無性にうれしかったのだ。
看護師さんに渡されたボタンを押す。
彼女は一分もしないうちに部屋に入ってきた。
「決めたよ」
「…わかりました、それでは貴方のご要望をお聞かせください」
「俺は………」
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。