破
一応念のため。
ここは回想シーンです。
「オイオイ誠二、この前お前がやらかしたことのご褒美をあげたんだからよォ、そんなシケた面すんなよー。あれか?ヤりやかった女でもいたのかぁ??」
ギャハハハハハハ、と部屋中に下品な笑いが響く中、俺は一人暗い表情をその顔に張り付けていた。
目の前の男は尾沢太郎。25歳、稲田組の幹部。
生前、俺は暴力団に所属していた。
「じゃ、ちょっと眠ってもらうぜ」
その言葉を最後に、視界が暗転した。
丸の内の歩行者天国にて、俺は幽霊のようにフラフラと歩いていた。
(生きてて、意味があったのだろうか俺は)
これが走馬灯というものなのだろうか、今までの記憶が蘇る。
家は極貧、という言葉が合うような状況だった。幼いころから畑仕事をさせられていたが生活は一向に良くならず、ある日突然、親に稲田組に売られた。
(あぁ、俺の人生、なんだったんだろう。誰かの言いなりになり続けて、ずっとフラフラと生きていていて)
チッ、チッ、チッ、チッ…
(五歳のころに『畑仕事を手伝え』という言葉と鍬を渡され、自分で自分の足の指を切り落としたな…)
親は一切の心配をしなかったが、俺自身、切られた足の指を見てもなんとも思わなかった。それだけ心がすさんでいたのだ。
(家の一番ボロい部屋を自室に割り当てられ、毎晩毎晩寒さか悪夢と闘いながら寝ていたな…)
風が吹けばヒュゥゥ…と、細い音が俺をいつも不安にさせていた。
(神聖組の構成員の足の爪をはいだ時のあの人の顔、今になって瞼の裏に浮かんできた)
嫌な思い出で埋め尽くされた俺の思い出の数々が頭をよぎっては過ぎ去っていき、最後に思い出したのが、
(………シンデレラみたく、ほんの一時でいいから、夢のような奇跡、おきてほしかったなぁ…)
それは3歳のころに、無造作に親に渡された絵本。今まで思い出そうとしても思い出せなかったのに、今頃になって思い出すなんて、なんという皮肉か。
チッ、チッ、チッ、チッ…
あと数十秒だろうか。目を閉じてその時が来るのを待つ。
「ねえねえ、このあとどこに行く?」
「もうすぐ昼休み終わりますよ、そろそろ会社に戻らないと」
「ええ、いいじゃん、書類整理の仕事なんていくらでもサボっても困らないでしょ」
「そういうわけには…」
近くを、恋人の関係であろう2人が通る。
(あぁ、いいな…あんな会話、してみたかったな…)
チッ、チッ、チッ。
音が鳴りやんだのは、二人の姿が雑踏の中に消える瞬間。
「危ないッ!!!!!」
「「あっ!?」」
2人の背中を思いきり突き飛ばし、そして、
ドガァァァァァァァァァン……
ぐちゃ、ぴちゃぴちゃぴちゃベチョォ…
「い、いやあああああああああああ!!!!!」
服の内側に隠されていた爆弾が爆発した。俺の体を肉片へと変えて。




