最終ステージ
そこには、二つの学習机が並んでいた。プリントと、筆記用具。小型のスキャナーが、両方の上にある。
『答案を埋めろ。脱落者は一名』
ペーパーテスト……最後の最後で、女子高生らしいゲーム。否、ゲームなのか、これは。
「どっちかの机がおかしいってんじゃ、ねえ……よな」
ポニーテールが呟く。
私は、向かって右の机に着いた。
ポニーテールが左に着く。
『ゲームスタート』
数学──連立方程式、図形の面積。
現国──小説『海と毒薬』からの長文読解。
理科は中学二年レベル。
英語の長文翻訳──やたら平穏な文章が場違いに思えた。
疲れてるのに、こんなの解けるわけない。
──ああ、死ぬんだ。
そして、最終設問。
【今回のゲームを通して、どんな感想を抱いたか述べよ。文字数は問わない。】
心臓が、大きく脈打つ。脳が一気に目覚めた。
多分、これまでのはデコイ。これが本命。
私は、この馬鹿げた処刑遊戯で……。
◆◆◆
私達は、答案をスキャナーにかけた。
「あの最後の問題が、本命だよな」
この娘も、そう思ったんだ。
「そう……ですね」
「何て書いた? もう終わるんだしさ、最後くらいJKっぽい感じで話そうや」
「本当に……この格好通りの年齢なんでしょうか、私達」
「知るかよ。あたしはさ、"私は、このデスゲームを通して命の大切さを学びました。人が目の前で死んでいくのを見て、とても胸が痛んだのを覚えています。このゲームが終わっても、その悲しみの記憶と、命を大事に生きていこうと思います。"……反吐が出そうだろ? でもこういうのは狂ったくらいの模範解答が要るんじゃねえの?」
心臓が、爆発しそうな程に拍動する。
「どした」
「わた……私……」
「お前、何書いたんだよ……おい」
壁が開く。
現れたのは、私達と違う顔の少女だった。
「あ……?」
「女の子!?」
少女は、手にブローニングを持っていた。
まただ。どうして分かるんだ。
ブローニングが吐き出した二発の九ミリ弾は、ポニーテールの右目と心臓を正確に撃ち抜いた。
「おめでとう。"第四十五代ゲームマスター"」
え……四十五代?
「それって」
「私は、"第四十四代ゲームマスター"。これは選抜試験なの。より正確に言うと、最終ステージが、ね」
「どういう事……ですか」
「貴女の解答、完璧だったわ。"わかりません。どうして私達が巻き込まれたのか。何故私達の記憶がないのか、何故同じ顔の少女が集められ、危険な知識を持っているのか。私には何一つ分かりませんでした。これは、私達に世の不条理を、世界の悪意と残酷さを叩き込むためのゲームなのだと、そう思いました"」
淀みなく、一言一句間違いなく明瞭な発音で、少女は私の感想を暗唱した。
「そういう娘が欲しかったのよ。あんなに目の前で人が無惨に殺されて"命の大切さ"? ちゃんちゃら可笑しいわ!!」
少女はブローニングのグリップを、私に差し出した。
「ほら、分かるよね? 貴女なら分かるよね? 私を殺して、解放して。そして、貴女がゲームを続けるのよ」
「え……でも」
「撃てよ」
その言葉が、私の人間性を吹き飛ばした。
ブローニングの手触りを確かめる。
「遺言は?」
跪いた第四十四代ゲームマスターは、勝ち誇ったように喋りだした。
「あんた、これまでずっと考えて考えて、目を凝らして生き残ったでしょ。でもこれからは考えるのをやめなさい。これから、沢山の女の子を殺さなきゃならない。あんたはゲームマスターという、このシステムの歯車として存在するしかないのよ……撃てよ」
私の指が動いた。
第四十四代ゲームマスターは、血飛沫と共に崩れ落ちる。
私は、弾倉が空になるまで撃ち続けた。
ただ、私の中の殺意を確認したかったのかもしれない。
べっとりと、血がシャツを汚す。今更とは思うが、酷く臭う。
『クラス:ゲームマスターの引き継ぎを確認しました。ゲームマスターには次の権利が与えられます……』
中性的な声は、よくできた合成音声だった。
私は、機械の告げる権利と義務を聞きながら、何の感慨もなかった。もう、自分が何者なのか知る必要すらない。
次のゲームを企画、管理する為の資金は幾ら使っても構わないのだそうだ。
辞めたければ、いつでも今回のように次代のゲームマスターを選抜する権利もある。
だが、暫く私は、この処刑場に君臨するだろう。
──私は、デスゲームのゲームマスターとして最適化された存在なのだから。
取り敢えず、シャワーを浴びて服を洗濯したいと思った。
<了>
参考図書
『海と毒薬』講談社文庫 遠藤周作(著)講談社
また、以下のネット資料を参考にしました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E9%87%8F%E6%AE%BA%E4%BA%BA
https://edutainment-ted.jp/%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%9F%E3%83%AB%E3%81%AE%E6%9A%97%E3%81%84%E6%AD%B4%E5%8F%B2%EF%BC%9A%E5%88%91%E7%BD%B0%E3%81%8B%E3%82%89%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%8D%E3%82%B9/




