大悪魔を巡る盛大な修羅場に出くわす聖女 ①
二日後。
そして、関係者が予想したことは外れようもなくやってくる。
「クリューソス。私の彼氏に手を出そうとするとはどこまでも汚い女ですね。もちろん私のマレフィクスはいい男。だけど、あんたは天使。天使は天使らしく天使と付き合いなさい。ほら、いたでしょう。自称いい男のカサロとかプールス。私のマレフィクスには数段落ちるけどあなたにはちょうどいい」
「何が私のマレフィクス。あなたのマレフィクスがどこにいるかは知らないけど、そこにいるのはあなたのではなく私のマレフィクスだから」
「あまり無礼なことを言っていると殺しますよ。クリューソス」
「やってみなさい。ベルルッス。すぐに返り討ちにしてあげるから」
「面白いわね。あなた、どんなことをやっても私に勝ったことがないじゃないの」
「勝たせてやっていただけよ。今日、それを証明してあげる」
「いいでしょう。だけど、その前に……」
やってきた途端に、クリューソスと口論を始めたベルルッスという名の少女はもちろん悪魔。
そして、ここまで口論でお分かりのとおり、彼女も自称マレフィクスの彼女。
いや。
彼女は「マレフィクスの将来の妻」と自称している。
その「マレフィクスの将来の妻」が視線を動かした先にいたのは、彼女の未来の夫になるらしい男だった。
「マレフィクス。私の目を盗んで天使と密会とはどういうことですか?しかも、よりによってその相手がクリューソスとは。返答によってはお仕置きですよ」
「落ち着け。ベルルッス。そのようなことをするわけがないだろう」
「では、なぜマレフィクス様の屋敷にクリューソスがいるのですか?」
そう。
ベルルッスは盛大な勘違いをしていた。
ここはフランシーヌの屋敷であってマレフィクスの屋敷ではない。
当然本当の屋敷の主であるフランシーヌは、ベルルッスにとってはマレフィクスの使用人。
だから、眼中にはない。
だが、ここでその事実を口にしてしまえば混乱はさらに酷いものになる。
全員は真実を握り潰す。
「どうなのですか?」
「それは……」
「それは?」
「アンゲルスの馬鹿が妹を連れてきたのだ。そうだな。ディアボロス」
「あ、ああ。そのとおり。本当に天使はろくなことしない」
「なるほど」
「つまり、お仕置きが必要なのはアホの極みアンゲルスというわけですね」
「ちょっと待て。それは酷い。僕は無実だ」
「問答無用。言い訳はお仕置きが終わってから聞きます」
この世界に存在しない形状から履物らしきピンク色の物体がベルルッスの手の中に現れる。
「それは、対天使用お仕置き道具『ピンクのスリッパ』……」
「そのとおり」
「お仕置き」
「グワーッ」
強力な一撃がアンゲルスの頬に命中する。
さらに二発。
大天使は再び床と接吻する。
「では、お仕置きが終わりましたので弁明を聞きましょうか。アンゲルス」
「彼女は勝手に来たのであって僕が連れてきたわけでは……グワーッ」
「この嘘つき天使。それでは私のマレフィクスが嘘をついたことになるではありませんか。下僕悪魔であるディアボロスならともかく私のマレフィクスが嘘をつくわけがないでしょう」
「では、クリューソス本人に聞いて……」
「不要。天使の言など私たちが信用するわけがないでしょうに」
「とにかく、私が納得する事実を吐くまでお仕置きを続けます」
そうして、暴力に暴力を重ねた尋問によって大天使はすべての罪を自白した。
「……こういうのは強要というのだろう」
「まあ、今貴様がいるこの下界の官憲はこれを常套手段にしている。つまり、それがこの世界の理だ。受け入れろ。馬鹿天使」
「それを下界の理というのなら、下界に蔓延る男尊女卑も取り入れてもらいたいものだ。せめて男女平等を求める……」
「お仕置き」
実を言えば、この世界は男女平等ではなかった。
そして、天使たちのいる天界と人間が住む下界では、その理は真逆であった。
人間たちの世界は男尊女卑、それに対し女神の統治する天界では天秤の揺れは逆。
もしかしたら、その傾き具合は下界以上といえるかもしれない。
そのため、男性天使たちは男尊女卑の世界にやってきては自由を謳歌している。
そして、それは悪魔の世界でもほぼ同じ。
「これで天秤は正しく保たれるのです」
それが天界の不平等極まる定めを決めた者の言葉である。




