第31話:マヨ作り
さあ、マヨ作りだ。といっても何か特殊なつくり方をするわけでもない。いたって普通の、できるだけ美味しいマヨを作る。そのためにマスタドの実もはちみつも仕入れてきた。あとは手順通りに混ぜるだけ。この混ぜる工程が一番大変なんだが、そこはまあ大人の余裕で何とかしていこう。
泡立て器があれば一番楽なんだが、そんな工業製品は当然この世界にはない、あってもお貴族様の専属調理人が自分のためだけに作らせた、というようなものだろう。一応厨房を見渡させてもらったが、そんな道具はなかった。これは量産するときに作ってもらうということで納得しておくしかないな。
「では、マヨ作りをしていこう」
「はい! 手はきちんと井戸で洗いました! 」
助手のセルフィもいい感じに仕上がっている。一人寂しくやるよりは少しだけ気分が楽に仕事ができるな。
「じゃあまず、油以外の材料を……このぐらいかな。混ぜます」
卵一つの卵黄が大きいのでそれに合わせて材料を頭の中で計算して増やしていく。塩と酢の分量は特に考えておかないといけない。
ボウルにそれぞれを入れると、ひたすらかき混ぜる。いい感じにもったりしてきたところで、主成分である植物油の投入だ。少しずつ、すこーしずつ、セルフィに指示して流しこませていく。その間に俺の腕は全力で動き、とろみが徐々に柔らかくなっていくマヨをひたすらかき混ぜる。
楽しくはない。だが、仕事とは常に楽しくできるものではない。楽しいだけが仕事なら世の中の人々はどれほどの幸せを享受して生きているのだろうな。
一旦油を止めさせて、きちんと混ざっているかどうかを確認する。全体に卵黄と酢の混じったものが絡まり、油が分離しているところがないことを確認すると、再び油の投入を再開。油もどれだけ入れていけばわからないからな。ゆっくり少しずつ入れていって、油が余り始めたらそこで手を止めないといけない。
手元の重さがだんだん軽くなっていき、混ざり具合が良くなってきたところでもう一回止めさせて、油の乳化具合を確認。ふむ……いい感じ、かな? まだ油も混ざり切っていないので、一旦ボウルの中身をすべてかき混ぜて、油があふれてこないかどうかを確認する。
またしばらく油をたらしながら混ぜるが、油がちょっとずつ浮き始めてきたので、そろそろ割合としては限界に近いらしい、ここで止めておこう。限界値を探ってるわけじゃないんだ、美味しくできる範囲でこれを完成させることが目的のはずだ。
余った植物油やほかの材料は親父さんに料理に使ってもらうことにしよう。とりあえず、手元の卵黄と酢を材料に、木のボウルに一回分……500ミリリットルぐらいか?のマヨネーズが出来上がってしまった。さすがにちょっと量が多いかもしれないな。
「これで完成ですか? お手軽ですね」
「これで完成だ。お手軽だが、油と酢と卵黄の比率が難しくてな。とりあえず……何かスティック状の野菜か何かがあればつけて食べるところだが、使っていい食材はあるかな」
「ジャガの実ぐらいしかないですね」
「ジャガの実? 」
「これです。普通は蒸かしてから食べるんですが……料理に出すにもあまりおいしくないので、普段は自分たちが食べる分しか買い入れてないんですよ」
そこに現れたのはどう見てもジャガイモ。どうやら最下層民の食べ物として流通しているらしく、時々当たって死ぬ人が出ることもあり、大々的には流通しないんだとか。
「当たって死ぬのは青くなってるジャガの実か、芽を食べたからじゃないかな。そんな気がする」
「そういう話も聞きますね。で、これなら食べてもいいやつですよ。茹でたり蒸かしたりもして食べるんですが、生でも食べられないことはないので」
ジャガイモスティックなら生でも食べる習慣はあるか。ならちょうどいい。ジャガイモと風味の合うマヨになっているか、試そうじゃないか。
「よし……うん、青くないし芽も出て……出てるな、切り落とそう。これで良し、さあ食べよう」
およそ清潔感からはかけ離れた環境でできたマヨだが、出来立てで卵も新鮮だ。さすがにすぐ傷むことはないはずだ。しっかり味見をしておかなければな。
「……酸味があって美味しいですね! 」
「これ癖になります! 絶対美味しいです! 」
「ふむ、これなら売り物にもなる味か」
三者三様の反応の中、これなら売れるな、と確信が持てた。早速味見に真剣になっている二人が感想を言い合っているのをよそに、作り方の手順と配合割合を紙に書いて残し、親父さん向けのレシピとして残しておく。
「それがレシピですか? 」
「うん、俺がいない間に作るように申し付けられたり、何かしらの不具合に遭遇した時へのお守りみたいなものかな」
「いいんですか? こんなおいしい食べ物のレシピなんてそれこそ門外不出のものなのでは? 」
「銀の卵亭の門から出なかったらいいんじゃないかな。それに、ここ銀の卵亭って名前なのに卵料理を使ってる兆しが見えなかったから、一品ぐらい卵を使った料理があってもいいと思ってね。後はお世話になってるからってのもある。というわけで、販促活動頑張って。儲かったら分でもいいからわけてくれると嬉しいな」
「とりあえずそうですね。これだけ作るのにいくらかかったかだけ教えてもらえますか? そこからいくらで売り出すか考えようと思います」
リンカちゃんとそれぞれの材料の値段と量を教えて、できた結果の量を算出。ついでに、余ったはちみつや植物油なんかは買値で引き取ってもらうことになった。それでも、銅貨数十枚分でこれだけの量が作れたのだ。元値を隠してこれを一口分銅貨2枚で販売したとしても、十分に元は取れそうだな。
「じゃあ、後はお任せかな。お客さんの反応を聞かせてくれると嬉しいね。もしかしたら昼食で広まって夜は大変な騒ぎになるかもしれないけど頑張ってね」
「え、タカナシさんは今日はどうするんですか? 」
「マヨに合う食材を狩りに行ってくる。行くぞセルフィ、一仕事終わった後だが、次の仕事が俺たちを待っている。マヨに合う食材、やはり肉だな。ミニボアをいっぱい狩りに行くぞ」
「はい! お供します! 」
着替えて……その前にパンツを履き替えて以前履いた洗って干しておいたものに替えると、食肉狩りの格好に着替えてさっそくお出かけだ。今日もしっかり現金を稼ぐぞ。




