第30話:朝市にて
朝、また目玉を直接突き刺すような日の光で目を覚ます。この部屋を借りたのはもう運命みたいなものかもしれない。おかげで朝一番に起きることができている。セルフィを起こすと、顔を洗いトイレに行き、身支度を済ませたところで朝市にまず出かける。軍資金は充分にあるから多少多めに買い込むことになっても大丈夫だろう。
部屋から出て、朝の食事をする人たちでそこそこ混み合ってる中、リンカちゃんに今日の予定を聞く。
「リンカちゃん、朝市ってもう開いてるのかな」
「日が昇った後鐘が鳴るまでが朝市ですから、早い店ならもう開いてるはずです。朝市で材料を買い込んでから食事を作り始める店もありますからね。うちも朝の食事を出し終わったら朝市に出かけますから、出かけてる間に厨房を使ってくれると嬉しい、と父さんは言ってました」
「そっか。じゃあ先に市に向かっておいたほうがいいかな。冷めててもいいから、朝食二人分残しておいてくれるかな。その間に一足先に朝市で材料の買い出しをしてくるよ」
「はーい、数えておきます」
食事を二人分確保しておいてもらったところで、買い物かごを借りて朝市へ買い物に向かう。朝市といってもこの都市の規模を考えるとかなりにぎやかで、朝から食料やその日一日使う分の材料や建材、武器の材料や炭、鉄を求める人など、市場はある程度、品目ごとに住み分けがされているものの、いろんなものを取り扱っているらしい。
さて、買い物に来たものは大きく三つ、酢、卵、植物油だ。後塩もか。できればはちみつやマスタードみたいなものがあればより美味しくできるが……それも探し回ってみるか。カラシの実みたいなものがあれば、それの風味を確かめさせてもらえればそれで十分だ。
更にはちみつを混ぜればその分甘みと風味に奥深さができてより美味しいものができる。親父さんもマヨは知らなかった様子だし、長持ちはしないとは言え新しい調味料を作り出してしまうことにドキドキと、それとうまく作れるかどうかの悩みが同居しているが、とりあえず第一関門、卵が売ってるかどうかだな。
銀の卵亭では名前の割に卵料理を出していなかった。卵がないならそもそも銀の卵、なんて形容がされないはずなので、卵自体の流通はあるはずだな。……そう思って市場をめぐっていると、まず酢と植物油を手に入れることができた。塩がないはずはないので、後は肝心の卵だ。
しばらく市場を見回っていると、青黒の卵の販売をしているおばちゃんを発見。早速話を聞いてみる。すると、この特殊なモンスターであるガルキンの卵はなんと卵白がなく、卵黄だけの卵でできているらしい。卵白がないのか……いや、むしろマヨには都合がいいな。
本当か疑わしかったので、金を払ったうえで実際に割って見せてもらったが、確かに卵白がなく、卵黄だけの生物らしい。どうやらこっちの世界では白ではなく、この青黒の卵が一般的に食べられる卵のクオリティになるらしい。
卵白って確か殺菌効果もあったはずだが、この卵の持ち主のモンスターはそんな殺菌しなくても守られるぐらい丈夫な卵をしているって解釈でいいんだろうか。
これで卵も手に入った。後ははちみつを少々と……さらに市場をめぐると、香辛料を売っている商人の中に、からしの粒のようなものを売っているのを見かけたので、了解を取って一粒だけ噛みしめさせてもらう。その風味は間違いなくマスタードのものだった。マスタドの実というらしい。そのままだな。
これで一通りの品物はそろえたことになる。セルフィに朝から売ってるホーンラビットの串焼きを一つ買ってやると、銀の卵亭に帰る。
「これでマヨというものが作れるのですか? 」
「ああ、うまく行けば、だけどな。ここからうまく混ざってくれるかどうかとか、油や酢の品質にもよるだろうけど俺の作り方が間違ってなければこれで作れるはずだ。出来上がったら味見もしてもらわないとな」
「楽しみです! 」
「午前中で仕事は終わるだろうから、マヨの販売とプレゼンテーションは親父さんとリンカちゃんに任せて、昼からはミニボア狩りに行くか。マヨは肉と一緒にしても美味しいんだ」
「話を聞いてるとお腹が空いてきました。早く銀の卵亭に戻って朝ご飯にしましょう」
セルフィが手を引いて道を急がせようとする。卵が割れないか心配しつつ、食堂に帰ってくる。
「リンカちゃん、かごありがとう。おかげで必要なものは一通りそろったよ。あまり量は作れないけど、最低限このぐらいなら作れるだろって量を買ってきたのでこれでいっちょ作ってみるよ」
「タカナシさんの料理……気になるんで私も作り方を見物します。いいですか? 」
「いいよ。むしろ作った先から有料で売り出してくれても構わないしね。ただ、それなりにお金がかかってるから販売するなら販売金額を考えないといけないけどね」
「銅貨2枚プラスで新作調味料の試作品をお付けします、とかでどうですかね。お客さんの数にもよりますけど、欲しい人は別の入れ物か何かで渡して小分け販売するような形になるとは思うんですけど」
「まあ、その辺を詰めるのは後かな。まずは……朝食お願い、朝から何も食べずにうろついたからお腹すいっちゃってさ」
「そうでした。すぐお出しします」
リンカちゃんが厨房に戻り、二人分の朝食を用意してくれた。さすがにスープは冷めているものの、昨日の豪華夕食セットの残り物をしっかり残してくれたらしく、白パンも残っていた。冷めたスープに黒パンを浸して先に食べ、顎をしっかり酷使してからスープを飲み、最後に少しだけ硬くなった白パンを食べて顎を酷使から解放してやる。
「……ふぅ、今日もご馳走様」
大銅貨1枚と銅貨6枚をリンカちゃんに払い、食事を終える。買い物かごからそれぞれの材料を取り出して机の上に並べておくと、親父さんが入れ違いに買い物かごを担いで出かける準備を始めた。
「買い出し行ってくる。タカナシさん、厨房はできるだけ綺麗に使ってくれよ」
「ああ、できるだけボウルだけしか使わないようにしておくよ」
「そうか、じゃあしばらく厨房を任せた」
火も使わないし、使うのは混ぜるための棒と木のボウル、それに……それぞれの材料の入っていた入れ物ぐらいか。
よし、さっそく作らせてもらうか。異世界チートその一、マヨ作りにチャレンジだ。もし、別の名前でマヨが存在していたら……その時はその時考えよう。
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