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騎士引退したおじさんが、廃村を立て直しつつ、クッコロ少女騎士を鍛えていたら強くなった  作者: 弐屋 丑二
この世界

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いつもと同じように

 その場で座り込み、少し呆然とした後、王都の方角へと追跡しようと立ち上がった瞬間だった。暗闇からメアリーの声が

「……心配ありません。諜報部が追走しています。そのまま村へとお帰りください」

そう言った直後、数百の気配が一瞬、私の周囲に出現し、そうして消えた。


 そうか、確かにそうなる。彼は、バルボロスは一体、何を考えているのか。大幅に入れ替わった王国軍主将の面々と違い、王国の堅牢な内部防御網は傷一つ付いていない。幾ら並外れた達人でも王都に近づくほど、捕獲や殺害される可能性は高くなる。傭兵団も健在だ。まあ、良い。引退した私の役目では無い。もう十分だ。帰ろう。私の村へ。カンテラに明かりを点け、ゆっくりと歩いていく。


 何度か、王都へと引き返そうと立ち止まり、その度に思い直す。諜報部が動いているのならば、既にバルボロスは王妃の掌の上ということだ。捕獲されるのも時間の問題かもしれない。……いや、待てよ。悍ましい推測が頭を過る。王妃との直接対話が目的だとしたら?……王妃は喜んで受けるだろう。その場合のバルボロスの目的は一つしかない。王国軍を動かし、帝国の守旧派を一掃する。すると帝国軍は彼の手に落ち、結果的に帝国軍は強化されるはずだ。王妃も有能な策謀家ではあると言えど、バルボロスの悪辣さは群を抜いている。関わらぬ方が無難だが……。


 立ち止まった後、頭を横に振り考え直す。くだらない想像だ。もはや一市民に過ぎない私は、国の事など考えている暇はない。バルボロスは諜報部と王妃に任せよう。


 歩き続け、村へと戻れたのは早朝だった。自宅の扉を叩くと、待っていたらしき少女とビョーンが迎えてくれ、ビョーンの自宅の風呂へと連れて行かれる。この2人にバルボロスとの遭遇を話しても、無闇に興奮させたり怖がらせるだけだろう。私は黙って温かい風呂に浸かり、少し思い出す。バルボロスとの戦場で逝った戦友達を。そして、生き残ってしまった私を。


 少しずつ、幸せな方へと転んで行くこの人生に、過去の戦場の陰がどうしても付きまとう。戦略や戦術、騎士道などと言っても、結局のところ泥臭い殺し合いに過ぎない、醜き戦場を往来していた者の定めなのだろう。それは仕方のないことだ。……だが、そうだとしても、今の私には人並みの幸せを受け入れる覚悟がある。もはや、少女や村人達、カートが導いてくれた今の暮らしを信じるのみだ。


 しかしその後も、心配事が無数に浮かんでは消え、無用な事を考え込んでしまう。風呂から上がるのが遅くなり、わざわざ家の中を回って声をかけて来た少女に返答し、風呂から出て、2人が用意してくれていた部屋着に着替え自宅へ帰る。少女と少し話し、少し飲み食いした後、まるで2階のベッドに吸い込まれる様に行き、眠り込んだ。



 ……



 顔の見えない神父と幼き頃の私は並んで教会の長椅子に座っている。

「今日は、聖書第一章の啓示の場面に戻ってみよう」

「また?」

問い返す私に神父は微笑み

「最初の選択が大切なんだ」

黙って横に座りながら、両足を振って聞いていると

「夢に現れた白神は言われました。慈愛の雨は荒野に降り注ぐ、全ては複雑に入り組み、やがて単純に解かれていく。導師グレンバルよ、そなたの連れた救世主は幼い。時は包み込むように彼女を変えていくだろう、しかし、守りきらねばならぬ。良いか、お前の為の生では無い。グレンバルよ、愛を、そなたの愛を、与えうるだけの愛を、親しき者にも、名も知らぬ者にも配り続けるが良い。さすればその狭き道は照らされん」

神父はそこで逆光で見えない顔を、私に向け

「……この一節で大事なのは、与えうるだけの愛を、と白神が仰られている事だ。愛は無限だ。けれど、人の身体と、人に与えられた時間は有限なんだ」

私が黙って頷くと、神父はよく見えない顔で微笑み

「トーバン、大丈夫。焦らなくて良い。そのまま、君が与えうるだけの愛を、ただ、いつもと同じよう、無理をせず、静かに与え続けなさい。暗闇は何れ、晴れていくから」

私はまた頷き、そこで絵画の様にその夢の一場面は固まり、まるで角砂糖の様に溶けていった。

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