七十三話
「は、はぁぁぁああああ!!??」
「どーいうことだよ!!!???」
周りからそんな声ばかりが聞こえてくる。
生放送を見てないやつからしたら恐怖でしかない。
「しずかにしろお前ら。まだ続くぞ」
「お、おう……」
同じくおれの隣で発狂していた4人に視聴を促す。
ここからも見せないといけないからな。
『記事の写真からはよくわからないかもしれませんがこの時話していた男性の方々はみんな三光高校の2年生、つまり私と同学年です』
「そ、そうだけどよ……ゲストで来るなんて話一言も………」
小林の言う通り、誰もそんな話はしていなかった。
もちろんおれもな。
だけどゲストで出演なんて言う必要もなかったんだよ。
愛咲春という名前を出すことすら、な。
『こちらに音声が録音してあります。もちろんあの会議の一部です。流しますね』
ピッという音の後に聞き覚えのある声が聞こえてくる。
『文化祭あるからきてよ!!』
『規模もでかいし楽しいぜ』
『ありかもーー!!』
鷹宮や文香そしてこの他にもおれや愛咲の声が入っている。
全ておれが録音しておいたものだ。
そう、つまり鷹宮たちはただ他校の女子を文化祭に誘っただけだが、この場合それを愛咲へのオファーとして捉えることができるんだ。
この文化祭への話を生み出すため、おれは凛にも協力してもらっていた。
積極的、クレープ、それからナンパ。
この3フレーズはおれが去年の文化祭でよく言っていたフレーズだ。こいつらでも聞いたら絶対に文化祭を連想してしまう。
だから凛にはそれらを出すきっかけになってもらった。
マネージャーであるおれ、または愛咲サイドの凛が言うのではなく鷹宮たちの誰かに言ってもらう必要があったんだ。
『今のはほんの一部ですが他にも私の高校の文化祭について話したりもしました。これでオファーをいただいていたことはわかったと思います』
一回鷹宮たちから誘ってもらえればあとはおれが良いと思うまで話を伸ばすだけ。文化祭関係の話が多ければ多いほど信憑性は増す。
そして、これだけじゃない。
『また数人の学生の話が通るのか、こんなもの捏造だと思う方もいるかもしれません』
まず話は通る。いや、通るように見えてしまう。
––––––なぜなら、おれが元からそういうメンバーを集めていたから。
『彼らは5人全員が文化祭準備メンバーです』
1人でも2人でもない。5人全員が、だ。
こうなると一気にオファーが現実味を帯びる。
今年のメンバーはまだ決まっていない。ただ時間は限られているから去年のメンバーがオファーに行った、そんなところだ。
おそらく今年もメンバーになるためどうせ問題はないだろう。
加えて
『さらにあの場にはマネージャーがいました』
これがさらに公式性を高める。
記者もまさか高校生がマネージャーだとは思わなかっただろうな。
「な、そんなやつがいたか………!?」
「近くの席で聞いてた、それか栄女の誰かかもな」
もちろんおれだとはバラさない。
週刊誌から問われても後ろの席にいたとでも言っとけばいいだろう。
マネージャーが誰か、そんなことは重要じゃない。
あの場にマネージャーがいたこと。
それがあるだけで全く異なる状況になる。
今回の愛咲春が合コンしたという件はおれの策略によって一気に変貌する。
『三光高校の文化祭準備メンバーから正式にオファーをされ、マネージャーがいる中で会議をした。それがこの"合コン"だそうです。はっ、笑わせないで下さい。どこが"合コン"ですか?』
『本当にマスゴミという感じですね』
『ですが、こんな適当で悪質な記事を書くなんてそれだけ私にも人気が出てきたということでしょうか』
『もちろん、片山代表から話も通っていますよ。これを見ている皆さん、ぜひ三光高校の文化祭へ足を運んで下さいね』
『失礼します』
毒舌はほんの一点だけ。それを最後に生放送は終了した。
時間にして約5分もなかったが、そのインパクトは絶大だ。
これから文化祭まで話題になること間違いなしだな。
「確かに違わないといえば違わないが………」
「宮下、今回おれたちは声をあげるべきじゃない。そんなことしたらせっかくのアイドルが来てくれなくなるからな」
「嘘ってわけじゃないから、週刊誌がもし来ても本当って言っておこうぜ」
「文香ちゃんたちとも会えなくなるかもだしねっ!!!」
「………そうだな……」
この生放送を見させた理由はマネージャーがこっちサイド以外にいると思わせること。
続いて、勝手にそれは違うと言い出させないように釘をさすためだ。嘘を強制させてるわけでもないから辛いなんてことはないだろう。
片山さんには一週間前に三光と連絡をとってもらっていたから問題はななかった。愛咲春をわざわざ蹴ることはなかったらしい。
それにもかかわらず、愛咲にただ週刊誌に載ることだけを伝えてビビらせていたのでめちゃくちゃ怒られてた。
サプライズなんてもんじゃないぞあれ………
もちろん何も言わずに全部実行したおれはしっかりと蹴られた。今も脇腹が痛い。
もっと蹴っても良かったのに、とも思うが。
おれがドMだからじゃなくて、今回愛咲のことを気遣って男と話す機会を作ってあげるなんてつもりは一切なかった。
最初からリークして潰し、手を出させなくする。
これだけのつもりで全て仕組んでいたんだ。
裏切られたように感じてもおかしくはない。
それなのに一言「ポンコツマネージャー」で終わり。
「才原は嬉しくないのか?」
「ん、ああ、いやアイドルが来るなんて信じられなくてな。これは今年もメンバーになるしかないなってさ」
「だな!! 楽しみだぜ!!」
またテンションの上がり出す4人を見ながら愛咲に労いのメッセージを送る。
誰も気づいていなかった。
完全におれの独壇場。
「………有能すぎたな……」
今日もまた、誰かがおれの手に落ちていく。
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