七十四話
「この声って…………」
会見の内容なんて大して重要じゃなかった。
もちろん文化祭に来るなんていうのはすごく驚いたけど、私はそれ以上に気になることがあったんだ。
「あの電話の人と似て………る……?」
ちょっと前に慎が学校をサボってまで会いに行った人。
もしかしてこの人が………?
「––––––奈々先輩」
「えっ…」
急に後ろから聞こえた声に驚くもすぐに知り合いだと気づいた。
「沙雪ちゃん………?」
「うん。先輩どこにいるか知ってる?メッセージ返ってこなくてさ」
先輩はたくさんいるけどもちろん慎のことだろう。
「慎は教室だと思うけど…」
「そっか、ありがと」
そう言って階段を登っていく姿に違和感を覚えた。
沙雪ちゃんから慎を探すなんてこと、今まであったっけ……
なんで今、もうすぐ授業も始まるのにこのタイミング…?
いや、理由は明白だ。
さっきの会見、沙雪ちゃんは何か知ってるんだ。慎が関わってるって確信してる。
だから慎を探してる。
あれから天音ちゃんの返信はない。
でもまだ慎にバラしてないのは昨日の反応でわかった。
もう突き進むしかないんじゃないだろうか。
バラされたら終わり。
ううん、それを怖がって言いなりになってるだけじゃ私は天音ちゃんにも沙雪ちゃんにも、そして慎にも勝てない。
もう情報は渡さない。天音ちゃんでも沙雪ちゃんでもなく私が慎を奪ってみせる。
そう思うと不思議と心が軽くなってきた。
この前連絡先を交換した"れいか"さんっていう人にも言われたっけ。
簡単に諦めるな。
なにを切り捨てても自分の願いを貫け。
あの時はありきたりだな、少しクサいな、なんて思ってたけど今なら少しわかる気がする。
私は諦めない。
私が慎と付き合うんだ。
「–––––愛咲春………やっぱりこの人なんだよね?」
私の声に階段に響いていた足音が止まった。
「……どういうこと?」
沙雪ちゃんは私を踊り場から見下ろす。
………やっぱり食いついてくれた。
「この前タクシーに乗ってた人、この人でしょ」
「…………」
その表情からはなにも読み取れない。
私はそのまま続ける。
「沙雪ちゃんが教えてくれるなら私も教えるよ?慎のことはいつも見てるから」
「なんか……急にきたね」
「私も驚いてる………で、どうするの?」
沙雪ちゃんは少し距離を詰めてきた。
承諾ということだろう。
「タクシーに乗ってた人は愛咲春って人だよ。もう確信してる」
「やっぱり………」
この前会った男の人は違ったんだ。
そこまで手の込んだことするなんて………
「あたしは言ったよ。奈々先輩はなにを教えてくれるの?」
「………慎ね、学校抜けてあのアイドルと会ってたよ」
「え………」
私もあの時こんな感じだったんだろうか。
「場所はわかんないけど家じゃなかった。学校かとも思ったけどはっきりはしてないかな」
「………へぇ」
今度の表情はわかりやすかった。
いや、わざとそうしたのだろうか。
「え、知ってるの……?」
「さぁ?教え合うのはここまでだね」
「ちょ、私は場所まで言ったんだよ!?」
「それは勝手に付け足してきただけじゃん。あたしもう行くね〜」
私の制止を聞かずにそのまま上っていってしまった。
「沙雪ちゃんは場所を知ってるの……?」
さすがにテニス部なんてことはないはず。
「………わっかんないよぉ………」
私の新たな道は前途多難なようだ。
––––––––––––––––––––––––––––––––––––
「先輩」
「ん………天鳳?」
もう授業が始まるため教室に入ろうとしたところで最近よく話す後輩が現れた。
「おはなししよ?」
「……今からか……?」
鷹宮たちも驚いてるように見える。
「才原……お前いつのまにそんな……!!!」
「さいちゃん………!!」
「全然違うからな……?」
ただここを逃すわけにはいかない。
4人を教室に追いやって天鳳に向き直った。
「いくか?屋上」
「うん」
いつかの朝のように、おれ達は屋上で話すことにした。
「やっぱりこの時間帯は気持ちいいね〜」
「この前もお前いたもんな」
一人で満喫かと思ってたが上から現れたのがこいつだった。
「アイドル、来るってね」
「ああ。びっくりしたよな」
「––––––先輩がマネージャーなの?」
一瞬、心臓が跳ね上がるがすぐに抑え込んだ。
「………なんでおれが?」
「あたしこの前のタクシーの人が愛咲春だって確信してるよ。奈々先輩からもきいたもん」
「は?………なんで奈々がでてくる?」
「学校サボって会ってたんだってね」
………なるほど。
天鳳はおれがホテルに泊まってるのを知ってるから、サボって会ってたとなれば推測は容易だ。
「––––––そうだ。おれが愛咲春のマネージャーだよ」
あっさりとおれは認める。
天鳳も確信してたらしく、驚きはないみたいだ。
「そうなんだ………」
「けどな、来週でおしまいなんだ」
「え………?」
ここからが伝えるべきところ。
嘘で生まれる違和感を出してはならない。
「もともと1ヶ月契約だったんだよ。おれはただの高校生だからな」
「あと二週間もないってこと?」
「ああ。だから天鳳とカラオケに行ったって大丈夫だ。そんなに仕事はない」
「………ただの高校生がマネージャーだったとしてもホテルで会うの?」
「おれがあのホテルに泊まり出したのいつだったか覚えてるか?」
今いる場所が場所だけにすぐ思いだすだろ。
「この前ここであった時……」
「そ。もともとマネージャーの仕事をしやすくするために泊まってたんだ。あの日はほかの俳優も来て会議してんだよ」
原も犯行に及ぶ前は普通に打ち合わせしてたからな。
もちろん、その部分の映像もおれは撮ってある。
嘘はついてないわけだ。
「なんなら動画もあるし、お前に疑われたくないから見せてもいいぞ」
「……じゃあ、あとで送ってね」
「おっけ」
これで場所がホテルだった理由は少し変えられた。
「あ、だからさ最後に愛咲にサプライズしようと思うんだよ」
「サプライズ……」
「一ヶ月お疲れ様、ありがとうってな。形に残る何かを渡したいんだ」
「ふぅん………アクセサリーとかってこと?」
「ネックレスとかブレスレットとかだな。そんぐらい関係は深くなったと思うから今度選ぶの手伝って欲しいんだよ」
「……もしかして……あたしに?」
おれはしっかりと頷く。
「え……じゃあカラオケって……」
「もちろん行くよ。でもそのあと手伝って欲しいな」
「…………そう……なんだ」
「ああ。大丈夫か?」
天鳳は力なく「うん」と言って目を遠くに向けた。
おれもそれにならって屋上から見える景色をとらえる。
「…………うまくいくといいな」
そんなおれの呟きは風に流されていった。




