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優等生魔術師は隣の芝生の青さに目が眩む  作者: まさみティー
『魔力視』のある優等生魔術師
7/50

うちには最強のサポートさんがいるからね!

 魔術大会が終わってからすぐ卒業式があり、僕とフローラはそのまま冒険者ギルドへ行き、パーティを組んだ。教員達は驚いていたようでフローラの王国魔術師団入りを薦めていたが、フローラが「私はSランクを目指すと決めました」と決意をした目で言うと、やがて覚悟を見たのか説得を諦めたようだった。


 チームの名前は『雪花魔術団』にした、リーダーはもちろん大会優勝者のフローラである。……と思っていたのですんなりいくと思ったんだけど、どっちがリーダーをするかは結構もめた。最終的に僕の「大会優勝者って看板がランク上昇に役立つかもよ」というアドバイスを言うと、納得したようだった。そもそも優勝者を初戦敗退者が使うという構図は変な噂がされそうでいやです。


 Eランクで始まったパーティはフローラの希望で高難易度な任務を受けていき、それらを素早く無傷で達成していく様子が評価され、実績を積んでようやくBからAに昇格した最初の任務もすぐに終わらせて、ギルドに報告に行った。


「はーいこれね、おわりました!」


「『雪花魔術団』ってこないだAランクになったばかりですよね……もうワイバーンの異常発生抑えたんですか?」

「うん、ていうかあれBぐらいじゃないです? もしかして成り立てだから簡単なのにしてくれたとか」

「もちろん最高難易度ではないですが、ワイバーン自体は決して弱い魔物では……。それに報告に上がったこの数では間違いなくA相当以上ですよ。すごいですね……」


 冒険者ギルドでの生活はなかなか大変で……という出だしから始まるんだろうね普通は。すごく楽でした。

 端的に言うと、彼女が強すぎるんです。

 僕は内心、受付の人の説明を聞きながら「そうでしょうそうでしょう」とリーダーの活躍を称える声に非常に満足だ。9年間僕だけが知っていたフローラの本当の力が、ギルドの上位ランクを圧倒する様を見るのは非常に気持ちいい。

 ただ、僕がいなくても確実に討伐できるほどフローラが強いので、どこまで役立てているか自信はなかったのだった。


 フローラにとって、僕はどれぐらい必要なんだろう。


「ね、受付さんから見て、私達の『雪花魔術団』ってSとか目指せそうです?」

「この調子なら十分可能性はありますよ。AAAとSには断崖絶壁の大きな壁があるので大変でしょうが、油断して命を落とさなければ……」

「あっそれなら大丈夫、うちには最強のサポートさんがいるからね!」


 最強のサポートさん。彼女がこっぱずかしい大げさな名前を付けたそれが、今紹介された僕のポジションだ。


「ねっ!」

「ん? ああうん……」

「もーっ聞いてたの?」

「というかその恥ずかしい紹介はそろそろやめてくれない?」

「やなこった!」


 そう言って彼女は満面の笑顔を浮かべて親指を立てた。このやりとりも何度目になるかわからないので、受付の人も苦笑していた。


 僕は彼女の紹介にあったようにすっかりサポート専門の魔術師になった。彼女の魔術威力から考えても得意魔術以外でさえ僕の出番は些事以外はほとんどなく、彼女が前に出る場合はサポート用の魔術に徹するのみだ。また彼女が現状で挑めなさそうなものは調べて準備する役をしていた。学生時代に読んだ書籍の知識が役に立っている。


 初等部の優等生は、すっかり凡人となってしまったけど、本物の優等生を支えたり能力を引き出す生活は我ながら結構満足していた。


 -


「これは、ちょっと倒せないかな」

「そっかな、今の私ならバババっとやっちゃえない?」

「この任務って確実にいるのアクアドラゴンなんだけど、メイン水魔術で挑むの? 無理じゃない?」

「ハイ……」


 依頼を受け続けること2年。成長とともに体の魔力が更に豊かになり、順当に強くなった彼女はその白い体のどこから出てきたのか分からないほど強力な闇魔術を扱うようになり、王国内でも屈指の魔術師となっていた。

 そんな異例の早さで出世した『雪花魔術団』の次の任務として目に留まったのは、誰もが避けていて残ったAAAランクの討伐任務だった。


 そしてその任務を調べて分かったのが、明らかに相性的に最悪な、はぐれのアクアドラゴンの討伐だった。ところがこの正面の子は、ドラゴンスレイヤーのパーティが入念に準備する竜の討伐を、堂々と作戦なく不利属性のまま行くつもりだったらしい。


「油断しなければって受付の人言ってたけど、フローラほんとに魔術師としては優秀だけど、まさか授業の成績があんなに微妙だったとは……。これだと命いくつあっても足りないよ」

「トホホおっしゃるとおりですー……」


 意外なことに、フローラは優秀そうな見た目に反して攻撃魔術メインのちょっと物覚えの悪い子だった。ずっと魔術だけ見てきたから、ここまでアタッカー一直線なスペックだったとは思わなかった。


「まあその分僕が活きる機会が多いからいいんだけどね。でも僕の指示なしでどっか行ったりしないでよね、取り返しの付かない失敗しそうで心配だよ」

「そ、それはもちろんっ、一緒じゃないとどこにも行かないよ! っていうか行けないよ! リオの指示がないと多分B級任務でも取りこぼしかねないもん、すっごい頼りにしてるんだから!」


 それは彼女自身も分かっているようで、そこだけは安心していた。また同時に、自分が思っていた以上にフローラに必要とされていると分かって内心かなり嬉しい。


 しかしこのままでは、パーティとしては頭打ちかな……。


「そうだなあ……この敵が得意なパーティを組んでみようかな」

「えっ?」

「こういう場合。さすがに二人だけだとちょっと厳しいよね」

「うー、そうだけどさあ」


 フローラは二人のパーティを崩すのが不満なようだった。かくいう僕も二人でやり続けるのを気に入っていたけど……


「……でもこういう不得意が続いてAA以下ばかりやっているようなら、Sは難しいよ」

「い……言われてみれば。うー、だけど新メンバーかあ」

「剣士とか、そういうの、うち全然いないもんね」

「そういえば花型なのにいないね」


 フローラ自身も思い当たるようだった。魔術はある程度何でもできるが、魔術職が決して有利にならないような敵も現れてくる。この属性相性などは極端な例だった。


「もしかしたら、アテがあるかもしれない」

「えっ?」

「勧誘できるかわからないけど……任せてもらって良いかな?」

「うっ、うん! もちろんもちろん! リオがうちの最強サポートだからね、大体間違いないよね!」


 フローラは少し困ったような顔をしながらも、概ね同意してくれた。

 そして僕は、あの時その色を見てから結局声をかけられないままでいた、背の高い後ろ姿を思い出していた。


 -


「というわけで、どうかな……?」

「……あ、アタシに言ってるんだよね」

「もう何度も確認したよ」


 僕の正面にいるのは、フレイだった。久々に会った彼女は、鎖骨手前まで伸びた赤い髪を後ろの首回りにかけて斜めに短く切り揃えていた。その姿は魔術師だった頃より落ち着いた雰囲気を出して、彼女を大人の女性に見せていた。


「あ、あんたさ……その話聞く限り、アタシに剣士として入って欲しいわけよね。だってアクアドラゴンとか火魔術じゃどうしようもないじゃん? だから剣なのかなって」


 彼女はあれから魔術師をやめており、剣士でギルド所属していた。元来負けず嫌いで男勝り、背も高い彼女は剣の腕も強く、現在はソロでBランクとなっている。もちろん大会準優勝者としての魔術の技術もあり、魔術だけでも強い魔術剣士として実績を重ねている。ランクの伸びの悪さは、彼女が全く杖を持たず、素手で無詠唱で魔術発動することにある。周りからは手加減していると言われているし、僕もそう思う。


「いや、違うよ」

「ん? 違うの?」

「フレイにはもう一つ眠っている魔術がある。会場で会った時に話しそびれちゃったけど……」

「な……あ、あんたまさか」


 そう言って、やってきた本来の目的の説明を始める。


「フレイ、どうも今見た限り火魔術と同じぐらい雷魔術の適性あるっぽいよ」

「……あ、」

「なので、ちょっと練習して、杖持って戦ってくれたら、助かるなあって」

「あ……」

「何かこう、信義があって嫌なら、無理にとは言わないけど、でも」

「あの……」

「……どうしたの?」


 なんだろう。さっきから彼女の様子がおかしい。

 いつも勝ち気な彼女がこんなにうろたえるのは珍しい。


「……あ、のさ、あんたさ」

「うん」

「根に持ってないわけ?」

「……? 根にって……魔術大会のこと?」


 その単語を出すと、フレイは顔をこわばらせた。


「それ以外ないでしょ。ていうかあの時ほんとごめん。後になって冷静になって、取り返しの付かないことしちゃったし、ほんとはすぐ謝りたかったけど、なんかさ、トラウマ? みたいなの、入るから近づくなって言われてたし。それにああいう場合さ、勝ったアタシが顔見せるって嫌味っぽいし、」


 そのことをやはり気にしていたようだった。もちろんあの頃のことは、僕もずっと気にしていたことだった。


「うん。全く思うことはないわけじゃないけど……というか、こっちこそごめん」

「え? は?」

「あの時、試合で気絶する前に寸前で謝ったんだけどね、聞こえてなかっただろうなって」

「ま、待ってよ! なんであんたが謝んのよ!」

「期待、してたでしょ」

「……!」


 フレイが目を見開いた。やはりそうだ。


「そう、期待していた。久々の勝負。自分が順当に強くなれば、相手も同じぐらい強くなっている。自分のライバルなんだから、超級魔術を撃って、それを防いだ僕と真剣勝負するんだって」

「……」


 暫く沈黙していたが、彼女は口を開いた。


「……うん。そう、そうよ、だからあの時も気が動転しちゃって」

「本当は中等部入ってすぐの頃に頭打ちでね。ずっと冒険者としての知識を集めてたよ」

「…………」

「だからその、ずっと君ががっかりした顔をしていたのが頭に残っていて……期待に添えず、ごめん」

「…………」


 どれぐらい沈黙していただろうか。彼女は顔を上げると


「っは〜〜〜! かなわないわこれ!」


 と、心底参ったという顔で立ち上がって言った。


「アタシが一回負けたのをウジウジ5年も根に持ってんのに! あんたは大衆の面前で殺されかけてもアタシにそんなふうに思ってて!」


 そして、どかっと椅子に座り直した。


「トラウマなのは、アタシの方なんだよね。自分の練習時間を削ってまで魔術を教えて貰った同級生を魔術で殺すとか、言葉にしてみりゃクズ以外の何モンでもないよね。だからもう杖持つのも怖くてね。

 でも、せっかく教えて貰ったんだし、勝ってしまったんだから、せめて勝ち上がろうって思ったの。あの後は手加減しても勝ち上がったし、2回は相手が棄権したわ。でも本当は……本当は決勝に出るのも怖かったのよ」


「え、決勝に出るのも?」

「あいつじゃん、決勝相手」

「あ」


 白い髪、服、杖、尖り帽子の女。


「覚えてるよ、なんかすげー綺麗なクラスメイト」

「……フローラ、だね」

「そうそう、なんとなくあんたの教え子かなって思ってたけど確信したよ。……キレてるなってすぐ分かった」

「あの子が? なんか想像つかないなあ。そんな顔をしてたの?」


 僕の中でのフローラは、いつも明るいしノリは軽いし、何より争うのは嫌いな子だった。


「見てなかったの? って当たり前か、病院だもんね。……やばかったわよ。生まれて初めて、「ああ、アタシこれ今から報いを受けるわ」とか「今日死ぬのかな」って思ったもん。ていうか実際殺されかけたし」

「……そんなに? 一瞬で決着が付いたとは聞いたけど……」


 そこで、フレイにその決勝試合の詳細を初めて聞くことになった。


「うん……相性問題で水魔術に不利なのはあったけどね。あんたに撃ったフレア、審判に使うなって暗に言われてたのにビビって撃っちゃって。でもね、無詠唱でただのウォーターボールに消されたわよ」

「は? 超級(フレア)初級(ウォーターボール)で?」

「それに驚いてたら足下から竜巻が出てきてボロボロよ。完全に意趣返しよね、あんたの得意なウィンドトルネード……ああでも威力は段違いで強かったわね。その一撃で全身ズタズタのまま地面に叩きつけられてあんたと同じ病院送りになった。手も足も出なかったわ……」

「そんなことになっていたのか……」


 その試合の様子を聞いて改めて思う。フローラってとんでもなく強くなってたんだなって。僕と練習してた時も、まだ実力を隠していたんだろう。


「まあ、そんなわけで。観客から見れば弱い相手を調子に乗って殺しかけて、強い相手に一瞬で半殺しにされ会場で半ケツ晒した最初から最後までかっこ悪かったアタシは、このまま杖持つのに、気が引けてね」

「半ケツだったの?」

「そこ拾わないで! アタシもすっごい忘れたいんだから!」

「あっごめんごめん」


 顔を真っ赤にするフレイに対して笑って流したけど、結構容赦ない攻撃やったんだなと思う。


「…………でも……。……そういうのチャラで、あんたは教えてくれるんでしょ? その……雷魔術」

「うん。もちろん学生時代ほど時間が取れるわけじゃないから、」


 そこで一言溜めて、ニッと笑って


「……うちのパーティに入ってくれたら、ね」


 と言った。


 彼女は長年のつかえが取れた、困りつつも晴れやかな笑顔で溜息をつきながら


「……ん。じゃあ久々に杖持ってみるかな。よろしく頼むよ、『センセ』」


 そう言って右手を出した。夕日が眩しかった室内は話し終える頃には夜になっていたけど、今日はあの時とは違って窓から月が見えるほど空は晴れていた。

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