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優等生魔術師は隣の芝生の青さに目が眩む  作者: まさみティー
『魔力視』のある優等生魔術師
6/50

それ……わたしのせいだよね……?

 窓の外から春の花を見ていると、突如バーンとドアを勢い良く開ける音がした。


「へへへ、仇は取ってやったぜ。安らかに眠りなボーイ」

「いやいや死んでないから」

「あはは」


 顔を向けるとフローラがいきなり病室にいたと思ったらなんかおちゃらけて言ってきた。彼女は優勝してもいつも通りというか、気負いのない軽い笑顔をしていて明るい感じだった。しかしそれからすぐ真剣な顔になり、訴えかけてきた。


「でもでも、ほんと心配したんだから! ずっと起きなかったし!」

「来てくれたの?」

「もちろんだよ! ていうか毎日きてたよ!」


 それは申し訳ないことをした。連日起きなかったようだから、それはもう心配をかけただろう。


「ていうかフレイあんな無茶苦茶やる子だと思わなかった……明らかにやりすぎだったし!」

「あれは、その、僕が悪いというか」

「いやなんでそうなるの!?」


 信じられない、といった様子でぷんすか怒るフローラ。ひょっとしたら怒るのは初めて見るかも知れない。


「多分……あいつ、僕ならこれぐらい受けられるだろうというつもりで撃ったんだと思うよ。当時の拮抗した実力だと、順当に成長してそれぐらいにはなってるかなって」

「……」

「だからそれに関しては、あいつは」


「ねえ」


 強い声で僕の声を遮る。そんな声を聞くのは初めてだった。




「それ……わたしのせいだよね……?」




 いつになく真剣で、不安に濁った目をしてフローラは言った。


「な、なんでだよ?」

「だって、君っていつも、私の魔術を教えてたじゃない」

「まあ、そうだね」

「ねえ……その間さ、君って魔術の練習してた?」

「してはないよ。知ってるでしょ」


 それは教えている時間は自分のことをしていないのだから当然のことだった。そしてそれは魔術の練習を教えていた彼女が一番知っている。


「やっぱり、私に教えていたから、だからっ……!」

「ううん、違うよ」

「え?」


 彼女は責任を感じている。

 だから、なるべく真摯に伝わるように、まっすぐ見た。


「僕が教えたかったんだ。本当に、君がどこまでいけるか見たくなったというか、いやそれも言い訳かな、もうフローラと一緒に放課後練習するのは僕にとって日常の一部というか、あの時間のない毎日なんて退屈すぎて考えられないというか、一緒にいたいだけなのかもというか……ええと何言ってるかわからなくなってしまった、とにかく、そんなかんじ、です」


「う…………あう…………あうあうあうあう…………」


 まっすぐ伝えるつもりが曖昧な答えになってしまった。フローラはぐるっと体を向こうに向けてしばらく固まって、長い間沈黙した。……大丈夫かな。


 そして再び僕をまっすぐ見ると、


「あのさ、将来どうする?」


 と言った。


「突然だね?」

「突然だけど、気になるの」

「うーん……家柄とかなんもないし、これぐらいの能力なら、出世の目が薄い城勤めよりも冒険者ギルドで魔術師職かなあ」

「冒険者ギルド……」

「うんうん、魔術職でできる討伐とか基本的に人手不足だしさ、基本スペルを網羅した今ならCか……Bランクぐらいいけたらいいよねって感じで」


 フローラはそれを聞くと、僕に顔を向けて体を乗りだして、


「ねえ、それ、私も一緒に行っていいかな?」


 なんてことを言ってきた。


「え? は?」

「うん、君と一緒に冒険者ギルドで魔術師コンビ。いいかも!」

「ま、まままって待って! あのね、君は魔術大会優勝者であり、今年最高の魔術師なの! お城に行けばトントン拍子で王属魔術師の職と爵位と給料が待ってるの!」

「給料はちょっとステキだけど……でもあそこ国の争いに出向くための閑職でしょ?」

「そりゃあそうだけど、いいじゃん」


 そう説得してみたけど、すぐに首を横に振った。


「でも周りみんなライバルになるし、教えてくれないだろうし……リオもいないし……」

「えっ?」

「ああいやその、大会前日まで、私に魔術教えてたじゃない。もしかしなくても、私ってまだ伸びしろあるんじゃない?」

「それは……」


 ある、もちろんある。僕とは比べものにならないほどの魔力を持つ彼女は、実はまだ6割ほどの魔力効率の上、発動していない色もある。たとえば……


「……うふふ、胸見てた!」

「ぁ……その、ごめん……」

「魔力でしょ」

「え?」

「あるんでしょ、たぶん胸のあたりに」


 その通りだった。魔力の話を考えた時にその色に視線が移ったが、よくよく考えて見なくても会話してたらいきなりおっぱいガン見だ。怒られそうなものだけれど、彼女はそれをすぐに察してくれたようだった。


「ははは……そこまですぐ分かっちゃうなんて、かなわないなあ」

「むっふっふもちろん! 実力も観察力もね!」

「実力のことは言わないで! 結構本気で落ち込んでるから!」

「そういう実力が必要な時は、この私に頼ってくれたまえ〜!」


 ひとしきり笑って、そして真剣な顔で言った。


「……でも、冒険者の件、本気で考えておいてね。今の魔力で閑職するより楽しそうだし、なにより」

「なにより?」

「Sランク! AAAの上の憧れの大英雄! かっこいい二つ名! わくわくするよね!」


 そうだった。彼女はこの見た目で結構アクティブというか、じっとしていられない人だった。


「君から見て、どう? アタシ目指せそう?」

「うん。十分狙えると思うよ、Sランク」


 正直な感想だった。というか今のレベルでもA以上は余裕だろう。それぐらい今のフローラは未知数の強さだった。


「ほんとうっ!? じゃあさ、じゃあさ、一緒に行ってもいいかな?」

「うん、というか君がいいのなら僕はオッケーというか、断る理由なさすぎるというか」

「やったあっ!」


 そう言って彼女は飛び跳ねるように小躍りしながら病室をぐるぐる回っていた。ああもう揺れてる、揺れてる!


 そして彼女はぴたっと止まったと思ったら、こちらをじっと見ていた。


「っ!」

「ふふふ」


 あれは完全に、「見てたでしょ?」って顔だ!


「じゃ、また明日ね!」


 そう言って足早に部屋を出て行った。ああもう、最後まで調子が狂うなあ。なんだか勢いでとんでもない約束をしちゃったけど、久々に見たフローラがいつもどおり楽しそうでよかった。




「……自分で嫌になるぐらいヘタレだけど、さすがに脈アリと思っていいよね……?」


 扉の外で紡がれた小声は、誰にも聞こえることなく春の廊下に溶けていった。

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