改めて思うわ。みんな優秀すぎ。
日付変わる数時間前にバレンタインで思いついたのでダッシュタイピング! 気がついたらめっちゃ久々投稿!
スーパーダッシュタイピングだったのでちょこちょこ補強していってます!
「チョコが作れない!」
突然フローラが叫んでアタシはあっけにとられたわ。
「なんなのよ急に……」
「チョコだよぉ〜! どうしよう!」
「食べたいの? 買ってくればいいじゃない」
「バレンタインには好きな男の子にチョコレートをあげる女の子の日なの! だけど私作れない! どうしよう!? フレイは作れる!?」
「ぐっ……!」
……そうだった。学生時代、よく知らないけど確かにそういうイベントあった。アタシはすっかり……そう、「もらう側」だったのよ。
あのね、だからアタシはそういうんじゃないっつーの! でも捨てるわけにもいかないのでもらった太りそうなチョコは家族みんなで食べたわ。
アタシ結構モテてたわよね。女にしかモテてなかったけど。
……やめよう。騎士学校の頃の話は思い出すだけでアタシはセルフダメージの果てに血の海に沈んでしまう。
「ううっ……参ったわね。アタシに作れるわけないじゃない」
「だよね? ってわけで、誰か作れる人いない!?」
「こ、こういう時、こういう時頼りになるのはやっぱり……!」
-
「いいよ」
「あ、ありがとう! アタシあなたが友達でよかった!」
「あはは、大げさだよ」
アタシは、今や王国中の憧れの女性でありながら、夫人や令嬢のような生活ではなくあくまで主人のメイドというかお世話焼き係としてお父様の隣にいるサーリアを頼った。
昔ほど忙しくないものの、やはりその姿は多少動きやすくなった以外はメイドの時代のモノのままだ。しかも報告計算関係の仕事は圧倒的にお父様がやってた頃より早いし正確だった。報酬としても、夫人としても大手を振るってお金を潤沢に使えるようになったので、サーリアはそのお金を使ってお菓子作りを趣味として、前より沢山作るようになった。
……あれもそれもこれも、サーリア人気に拍車を掛けているのだけれど、本人は気付いていない。天然人気女王である。
「でもチョコレートって、簡単に作れるものなの?」
「難しいけど、フレイなら力もあるからきっと大丈夫だよ。でもそうか、フローラちゃんは作れないのよね」
「酒飲む以外何もしないし、アタシより不器用よあの子」
アタシは普段のフローラを思い出した。呑む呑むつまむ、呑む呑むつまむ。時々外に出て魔法を振るったら帰ってきて呑む呑むつまむ。
ダメだ。とても作れる様子を想像できない。
「パーティハウスだと、酒飲む胸でかいだけの子供ね。起きてるときの方が少ないかもしれない」
「普段そんなので大丈夫なの?」
「あれで王国一の魔術師なんだから才能の壁ってのはつらいわね。散々サーリアにも迷惑かけたけど、フローラが実は魔術王より上って知ったとき、あたしは悩んだことそのものを後悔したわね……」
「ええ……?」
……そう、フローラは、ぐーたらだけど活躍するときは本当に強い。
悔しいとさえ思わないぐらい圧倒的に強い。まあ今となっては味方だものね。本当に強いから、アタシも安心して背中を任せていられる。
「魔力に全振りしちゃったのか、魔術以外はてんでからっきしのダメ女なのよ、フローラは。だからサーリアも、その辺サポートしてくれると助かるわ」
「じゃあ、普段はフレイが?」
「……」
「フレイ?」
「……リオよ」
「え?」
「リオ。料理も、紅茶も、服のほつれを直すのもボタンが外れたのを直すのもリオ」
「……まさかフレイも全部……」
アタシは首を振った。任せるにも、絶対に譲れないポイントがあるのだ。
「さすがに今では手伝いの人が掃除や洗濯をやってくれるわ。だって……下着の洗濯とか、任せられないじゃない……」
「ああ……そりゃ、そうだよね……。でもリオさん、本当に何でもするんだね。私ちょっと自分に自信がなくなってくるよ」
「アタシが余計にダメージ負ってしまうからやめて……」
正直、何でもできるリオのことを、「リオだからね! さすがアタシのリオ!」だなんて勝手にうぬぼれていたけれど、冷静に考えるとアタシとんでもないダメ女一直線だった。
旦那様にごはんをねだる体のごつい筋肉女。旦那様がごはんもおやつも食べさせてくれる。病気になったら子供のようにあーんしてもらう王国の英雄。
……これはまずい。
「そ、そんなわけで! 今回はバレンタイン、時間もないけどアタシが自分でチョコを作りたいの!」
「わかった、そういうことなら私も全力で協力するよ! 元々私も、その……今年は本命で作るつもりだったから、ね!」
「あっ……」
……そうだ。サーリアは毎年チョコを作っていた。
それは、メイドとしての義理チョコ。
絶対に許されない、主人への片思い。
お母様と、アタシにも渡した、チョコ。
みんな同じチョコを渡す、それがサーリアにできた精一杯だった。
「サーリア」
「うん」
「今更アタシが言うことじゃないと思うけど、もうアタシにはあんな義理チョコくれなくてもいいし、お父様にはその分しっかり気合い入れたモノを作って上げて。そうしないと許さないんだから」
「フレイ…………うん、うん! 絶対! 今年はもう今までとは違うんだから! 絶対に気合いを入れて作る!」
「よっし! それじゃ早速とりかかるわ!」
アタシは、自分のこと以上に、サーリアの……きっとサーリアにとっての初めてのバレンタインデーだ。それはとっても幸せなこと、心から応援したい。
-
時間が結構差し迫っている。
「まずは材料だけど……」
「豆と砂糖から作るのよね」
「バターもだよ。とりあえず市場に出回っているのは数が少ない分、既に買ってあるから安心していいからねっていうか今から揃えようと思ったら間違いなく間に合わないからね」
「本当にサーリアがいてくれてよかったわ……」
そうだ、何もチョコを渡したいのはアタシだけではない。出来合のチョコを渡して今日に賭けている女の子達がたくさんいるのだ。
お店の人だって買い占めるに決まっている。
「じゃあ、後は調理するだけなのね」
「うん。えーっと、それじゃあ……フローラちゃんも一緒にやるんだよね」
「ええ、呼んでくるわ。今日もサロンに遊びに来てゆっくりしてたと思うから、」
アタシはフローラを呼びに行った。そしてサロンに行って……そうね、予想しておくべきだったわ。こういう展開になるだろうなってことぐらい。
「サーリアちゃん大好き! 結婚して!」
「あはは、もう既婚者なので無理ですよ。……あっ」
「……サーリア、その、私……」
……お母様がついてきた。
まあ、そりゃそうよね。サロンにフローラがいるといったら当然お母様と一緒にいる。二人はとても仲の良い友達同士という感じなのだ。
チョコ作るって言った時点で、こうなるのはわかっていた。
「フィリスちゃん……」
「ダメ……かな?」
「だ、ダメなんてことないよ! うん、一緒に作ろう!」
「よ、よかったぁ……本当はね、ずっと一緒に作ろうと思ってたんだけど、主人がメイドにチョコの作り方を教えてもらうというのもおかしいし、それに、サーリアがアレスのこと、その、想っているのも知ってたから、それで教えてもらうなんてあつかましいこと、私にはできなかったから……」
「……そっか、フィリスちゃんもずっと我慢してきたんだね」
「うん……」
「……。よし! じゃあ今日は、本当に家族全員で作ろう!」
サーリアが、明るい笑顔で宣言して、みんなの歓声が上がった。……そっか、サーリアが結婚できないことで苦しかったのは、サーリアだけじゃないんだ。
お母様だって、サーリアのことを大切に想っていたから、この人間関係のもつれた糸に悩んで、悩んで……お父様へのチョコを諦めていた。
今年は、本当にそれらが全てほどけた初めての日になるんだ。
「それじゃ、早速————」
「———ちょい待ちぃ!」
あっ、この声は……!
「なんや楽しそうなことしてからに、ワタシら仲間はずれですかい?」
「何かやっているかと思ったら、もう……こういうことは、ちゃんと誘って下さい!」
……お婆様ことソニアと、エリゼ様だった。
ってことは……
「結局、奥様方みんな来ちゃいましたね」
「リオの妻っ……の私とフレイもいるから、本当に奥様みんな揃っちゃったね!」
そうよね、完全にそんな集まりになっちゃったわね。広いキッチンが今日は狭いわ。
……それにしても、ちょっとフローラ……さっき、妻、って言ったとき、ものすっごい照れてたわね……。……やめてよ、その、いつものあんたらしくないそういうマジ赤面……アタシまで照れるじゃない……。
「ふー、これは材料が足りるかな? まあ、なんとかなるでしょう! みんなで手分けしていろんな作業をやれば、すぐに終わると思うよ!」
「やった! よーし、がんばるぞー! おー!」
フローラの声で、みんなで手を上げて気合一発、アタシたちは作り始めた。
-
まずは……カカオ豆を焼くらしいわ。
そういうことなら、アタシの出番ね! 火を使ってしばらくの間、焼いていく。みんな、その第一手の出来上がりに緊張している。
豆のいい香りがするわ……。サーリア以外はこういうのも初めてなのか、少しずつみんなの顔もほころんでいく。もちろんアタシもほっとしている、こういうふうにやっていくのね。
……ちなみにカカオの香りを嗅いでいるうちに、フローラは台所からお菓子作り用のアーモンドを引っ張り出してぼりぼり食べていたわ。
あんたってヤツは! ほんっとーに緊張感のかけらもないわね!
……終わった。ふー、緊張した……。出来上がったモノの皮を剥いて芽をみんなで取って、今度は細かく砕いていくらしい。ここで一番でかいアタシが乳鉢であれを粉に……?
と思っていたら、ソニアが出てきた。
「フレイちゃんの活躍、見てた! ワタシもここで活躍しとかないと、後で出番がなくなりそうやから、頑張るで!」
ソニアは乳鉢を取って、カカオ豆を細かくしていった。……分かってはいたけど、ソニアの筋肉はすごい。ムキムキおばあちゃんである。細かく砕くにあたって、ここまで頼りになる人はいないだろう。正直、アタシの出番じゃなくて本当に助かった。
ゴリゴリ削っていく姿、ものすごいパワーとスピードだわ。正直言うと、かなりかっこいい。やっぱ家族の活躍する姿ってかっこいいわね……いつもより輝いて見える。この人調子乗らせると後が面倒そうだから絶対言わないけど。
サーリアがその出来映えに歓声を上げながら、砂糖を投入していく。結構すごい量入れるわね……砂糖はなかなかの高級品だけど、もはや今のサーリアにとっては遠慮なく使えるものだ。
今日は今までで一番のものを作る日。絶対に妥協はしない。
少し熱を加えて欲しいということで、アタシはお湯を維持しに行った。そしていい感じになったものを見て、サーリアが真剣な顔で言う。
「ここからが難しいんです。微調整が必要で……」
「微調整?」
「はい。温度を見るんですが、道具を使いながら暖めたり冷ましたりします。かなり難しいですが」
サーリアは、そう言って、ある程度熱を持った魔石と、ある程度冷気を出す魔石を出した。沸騰しない程度に熱を出す道具だった。
熱に強い温度計測道具を持ち出し、数字を呟きながら緊張した顔になる。
「ねえ、サーリア」
「ちょっと、フィリスちゃん声かけないで」
「私、それやってみたいな」
「……え?」
お母様、さっきの説明聞いてたの!? これは難しい作業で、失敗したら……ああっ、もう道具を取り上げている!
サーリアも強く出れないのか、ちょっと困惑気味にお母様を見ている。もう! ここで失敗したら、どうして……くれる……の……。
…………?
「……サーリア」
「……うん」
「ひょっとしてお母様」
「……こういうの、得意なんだ……初めて知った……」
エリゼ様に魔石移動の指示を出しながらお母様、温度を見ながら状態を確認している。かなり細かい作業で、温度計も粗い作りのようなのに、軽く手をかざしながら確認している。
「50度のところ、実際は53ぐらいね」
「え?」
「目盛り付近が大きいのかも。見た感じより低めに考えないといけないかも」
「ど、どうしてそんなことが……」
「こういうの計るの、得意なのよ。まだみんなのパーティが賑やかだった時に、火傷しない飲み物の温度とか、細かく計ったことがあってね」
「それにしても限度ってものがあるんじゃ……」
「ほら、あのサポートさんが持って行っちゃったけど、ハイエルフ御用達の温度計は、みんなが強くなってからはお留守番の多かった私がずーっと使わせてもらってたのよ。だから、あっちの精度で温度を覚えてるの」
……お母様、知らない特技発見。
どうしよう、あのお母様までかっこいい。
かなり予想外な展開だ。
でも、この姿はきっと、現役のお母様の自然体なんだ。
かっこいいお母様が見れるってだけでアタシは嬉しくなった。
ちなみにフローラは、お菓子用のバターをアーモンドにつけて食べていた。
……あんたももうちょっといいところ見せなさい……。
「ってわけで、完成に近づきました。後はもう型に流し込んで冷やすだけ!」
「やったわね!」
「でも……型が大きくないので、ちょっと調子に乗って作り過ぎちゃったから、完成するのは大分先ね」
「えっ……でももう結構いい時間よね、日付が変わるわよ!」
「残念だけど……」
確かに、これらを固めるまで時間が……。
「あっ! じゃあ私の出番だね!」
フローラが突然叫んだら……ぱっと入れて、さっと撫でた。……いやいや、熱いでしょ!?
……と思ったんだけど……。
「はーい!」
……フローラは、型に嵌めて、撫でただけででっかいハート型チョコレートを完成させていた。
「……え?」
「じゃあどんどん作るね!」
サーリアが反応に困っているうちに、どんどんチョコが固まっていった。気がついたら……6個分全部のチョコが固まっていた。
……改めて思うわ。みんな優秀すぎ。
それにしても、お母様の活躍は驚いた。優秀すぎメンバーに新顔追加だ。
今日はみんなの活躍を見られて、とても幸せだった。こういうの、いいわね。
エリゼ様? エリゼ様はダニー君を産んでくれた時点でアタシにとっては絶対的存在よ。
「じゃあいってきます!」
「はっ—————はあっ!?」
一人で感慨に耽っていたら、もうフローラが部屋にいなかった。
————ああああ忘れていたああ! フローラはこういう、決めたら即行動っていう子だった! 完っ全に出し抜かれた!
「あ、アタシも行ってくる! それじゃ!」
「え、ええ!?」
アタシはサーリア達の返事を待たずに、フローラを追って走った。
-
馬車を使ってパーティハウスに向かった。そういえばフローラはいなかったけど、まさか走って行ったんじゃないでしょうね?
いや……違う! 飛んでいった! 風魔術に飛行魔術あったわ! それで飛んでいったわね!?
ていうか本気出したらそれぐらいできるのなら普段から本気出しなさいよって本気出さなくても余裕で全戦全勝よねあの子はチクショー!
アタシはなんとか日が変わる前にリオに会えた。
「リオ!」
「フレイか、一緒に来たんじゃないんだね」
「フローラ〜〜っ! あんたねー!」
「えへへ、一番乗りは譲りません!」
フローラは、とっくにリオにチョコを食べさせて、そのままソファで横になっていた。
……なんだか、一気に力が抜けるわ……。
「えーっと、その、リオ……」
「う、うん」
「……ああもう! 今更アタシだけ緊張するのも損よね! ハッピーバレンタイン! 全く同じものだけどあげるわ!」
「全く同じでも、フレイからもらうことが重要なんだ。……嬉しいよ、ありがとう」
「あ、うん、どういたし、まして!」
ああ、受け取ってもらえた。
手作りのお菓子。
アタシ、男の子にチョコ渡してる。
どうしようメッチャ嬉しい。浮き足立ってた学校の女の子の気持ちわかるわ。
はあ〜っよかったぁ……無事にバレンタインは成功だわ。
「……ホワイトデー、本気で考えないとな」
リオが、少しチョコを囓ってぼそりとつぶやいた。
……リオの、ホワイトデー!
それは期待するしかないわね!
ちなみに後から聞いた話によると、ちゃんと渡せたらしいわ。四人にチョコをもらって、お父様も照れていたとか。
サーリアが絡むと、結構本気でお父様も照れちゃうのよね。なんだかあのお父様が少年的な感じになってウブ楽しいわ。
やっぱり、こういう記念日は、大切にしたい。
来年も、絶対、またみんなで。
アタシはそう誓った。