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私もリオも心配してないよ。

もう片方でも書きましたが改めまして。

あけましておめでとうございます。

去年末から急に大変なことになってしまった自分ですが、気負わずマイペースにがんばろうと思います。

あと冬コミ来て買っていってくれた方で小説に言及くださった方も何人かいらっしゃいました、ありがとうございました!

 マルガレータさんが「では、わたくしこれにて別の場所に用事があるので向かいますわ」と言って別れた。一体何をするんだと思っていたけど、2日会ってあの人のことも大体わかった、きっとうまくやってくれると確信している。

 本当に凄い人だな……。


 僕はそれから……まずはこの計画を進める前に、やっておかなければならないことを思って、覚悟を決めてエルヴァーンの屋敷に来ている。


「おや、リオ様。……と、みなさんいらっしゃったのですね」


 玄関で出迎えてくれたのはサーリアさん。玄関付近の係なんだろうか。


「ええ、これから少し用事がありまして、その前にやっておかなければならないことをやっておこうかなと思い、アレス様とフィリス様と話の場をいただければと思います」

「何か覚悟を決めた様子……わかりました。アレスとフィリスに伝えましょう」

「よろしくお願いします」


 僕はサーリアさんが玄関に入ったのを見届けて……フローラのほうを見た。


「本当によかったの?」

「ん、これからする話のことを考えたら私はむしろ別にいいんだけど、フレイとリオが許してもらえるかどうかの方が心配だよ」


 フローラの心配は尤もだった。僕はフレイの方を見る。


「これからする話、本当に大丈夫だと思う? 僕アレス様に追い返されたりしない?」

「そんなことする親ならとっくに縁切ってるわよ、ま、お父様に限ってそういうことはないと言い切っていいと思うわ。

 それに、リオが魔術教えてくれたからアタシ一人でも二人相手にするより強いからいざとなったら心配しなくても大丈夫よ」

「改めてフレイって強いなって思うよ」

「リオの生徒なのよ、当然でしょセンセ!」


 軽く笑って応えてくれたフレイは、本当に頼もしい。僕は、自信を持ってアレス様とフィリス様に会うことにした。




 事件以来に会うアレス様と対面する。年齢を思わせない若々しさと、戦士としての強さを兼ね備えた人で、その姿は迫力がある。

 同時に……なるほど、若々しいこの姿とサーリアさんと並ばせるのは、あと5年が限界かもしれないと思った。フレイがSランクまで焦ったのもわかる。


「まず、わざわざお時間をいただきありがとうございました」

「いや気にするな、嫁とその母に娘にの恩人を突っ返すほど冷たくできてねえし、言うほど仕事もねーからな!」


 明るく豪快に笑うアレス様。かと思ったら……真剣な顔になった。


「で、何か重大な用なんだろう?」

「はい。僕は娘さん……フレイさんと交際をすることになりました」

「ってことは、婚姻か何かの話か?」

「はい」


 アレス様はすぐにその答えに行き当たったようで、僕の緊張が高まる。ところが腕を組んで僕をじっと見るアレス様の隣では、フィリス様が「まあまあ!」とニコニコ顔で楽しそうに言っていた。


「よかったわねー」

「その様子だと、随分前から知っていたってことだな」

「ん? もちろんよアレス。5年前から知ってたわ」

「そうか、じゃあ二人にとっては望んだ結末ってところか」

「ふふふ、そうだよねー」


 フィリス様は笑顔をフレイに向ける。フレイは……真っ赤な顔だ。僕もその顔を見て顔が熱くなる。……うん、やっぱりこういうところ、フレイは可愛いな……。


「もう……お母様、そういうの、言わないでよ……」

「んんーっ! これが私のフレイの女の子の顔かー! リオさんってば罪作りだねー! フレイってば、かわいいでしょ?」

「えっ、あの、はい、可愛いです」


 急に振られて、ちょっと照れて言い淀んでしまう。それにしてもこれがフレイのお母様か……。エルフの耳が見えない人間みたいな見た目なのに、非常に若い。それに……。


「こういう時、俺みたいなヤツは、娘はやらんと言うところなんだろうが、なにぶん娘は反抗期もなく、本当に苦労もなく育ってくれた。こういうわがままぐらいはせめて叶えて娘への恩返しにしたいわけだが……」

「お父様……」

「そうだな……じゃあレナード、お前娘のいいところ挙げてみろ」


 アレス様は、僕にフレイのいいところを聞いてきた。


「そうですね……まず何と言ってもフレイは圧倒的に強いです。ギルドでSランクの戦士や魔術師を見たことも何度かありますが、フレイほどバランス良く強い魔術剣士に出会うことは不可能だと思うほどです」

「ふむ。……フレイ、いい評価をもらったな。他には?」

「メンバーの中では特に真面目です。一見乱暴に感じるような言動をしていても、パーティの問題になるような選択や行動は取ったことがありません。責任感が強く筋が通っている後ろ姿は美しいと思います」

「ほお……」


 感心したように僕とフレイを見る。フィリス様もにこにこと見ている。


 フレイを見ると……僕と目が合った瞬間に顔を真っ赤にして下を向いた。ちらちらとこちらを上目遣いに覗きながら「……なによ」とつぶやく。


 僕はアレス様に向き直った。




 僕は、控えめな性格だった。……だけど、フレイに対しては。この素直でずっと僕を淑やかに慕ってくれた女の子にだけは。絶対に、正直にいこうと決めた。だから、アレス様にも、フィリス様にも、僕の正直な気持ちをぶつける。


 もう、フレイのいない生活など、考えられない。




「……あと、僕が個人的にフレイが好きです。最近ようやく気づけたんですが、とにかく性格も、見た目も。何もかもが好きで仕方がありません」


 フレイが僕の方を驚いた顔で見たが、おかまいなしだ。


「その顔も。僕以上の背丈も。筋肉質な体も。僕好みで大好きです。他の男のもとに行くなんて耐えられないほど、本気で愛しています」


 フレイは、両手に顔を当てて表情を隠すようにしてしまった。隣で「ばか……もう、ばか……」と呟いている。

 僕はそんなフレイを見て、「こういうところもかわいいですよね」と言ったら、ついにフレイから背中に張り手が飛んできた。照れ隠しのそれの威力が半端なくてちょっとむせる。

 僕が顔を下に向けてゲホゲホ言っていると、笑い声が聞こえてきた。


「はは、ははは……はははははは! なんて幸せそうなツラしてやがる。すげーな、見たことねえわ。フィリス、お前こうなるの知ってたんだよな」

「知ってたけど実際に見たのは初めてよアレス。あのフレイをこんなに幸せな顔にしちゃえるなんて……苦労ばかりかけて、つらい顔を随分させたダメ親だった私としては感謝しかないわ」

「はは、まったく同じ感想だな……」


 アレス様はそう言ってややばつが悪そうにフィリス様と笑い合った後、真面目な顔になってフレイを見た。

 フレイもその様子を見て、すぐに顔を引き締める。


「フレイ、お前この男のいいところ、挙げてみてくれないか。俺はレナードのことを知らないんだが、その内容次第で即断しよう」


 その振りに、フレイの顔が驚き僕とアレス様を交互に見比べる。そして目を閉じて少し考えて……その答えを出した。


「そうね、お父様に一言で言うなら……『初等部の頃からジジむさい』男よ。現実を見たら、絶対に望めないほど、ね」

「え、ええ!?」


 ちょっとあんまりな評価だよ!? アレス様に対してこんな大事な場面でそんな説明をして仲が保証していただけるはずが……。

 …………あれ……? アレス様を見ると、驚いた顔で固まっている。その様子が不思議で、フィリス様もアレス様を見て不思議そうな顔をしている。


「……本当なのか?」

「私は魔物の討伐を実際に彼の指示で動いているわ。……それどころか初等部の頃では魔術で勝てなかったのよ。多分今でも……全属性使われたら勝てないかもしれないわね」

「全属性? 火も水も使えるのか?」

「文字通り全属性。雷も、光も……恐らく闇もよ。見たことない敵に対して「あいつは電撃撃ってくる」って言って、目の前で金属魔術使って防いだ時はさすがに本気で驚いたわね」

「はは……それが本当なら、とんでもないヤツを見つけてきたもんだ。いい男捕まえたじゃねえか、俺が心配する必要なかったな」


 アレス様は緊張を解くと、僕に向かって穏やかに笑いかけた。


「あー、なんだ、お前さんみたいに頭のいいヤツからしたら娘はちょっと猪みたいなもんに見えるかもしれんが」

「ちょっと猪ってどういうことよ!」

「でも、俺にもフィリスにも似てないぐらい真面目なやつだ。少し真面目すぎて困るぐらい、真面目でいい女なんだ。ま、お前には言う必要もなさそうか。

 どんな乱暴な男でも、軟弱な男でも、やるつもりはなかったし、娘がなびくとは思えなかった。だがその条件を平気でクリアしてくるほどのヤツが、きっとお前なんだろう。……だから」


 アレス様は……なんと、僕に向かって頭を下げた。


「娘を頼む。俺ではできなかったことを、お前に託したい」

「か、顔を上げてください! かならず幸せにしますから」

「ははっその心配はしてねーよ、新しい息子」


 アレス様は、快活に笑ってくれた。……心の広い方だな、と思った。本当は、娘のことを離したくはないと思っているんだろう、だけどそれ以上に、娘に自由にさせてやりたいと思ったんだ。


 隣のフレイが、僕に指を絡めてくる。目線が合うと……すぐに目を逸らした。


「あーもーダメ、アタシこんなに幸せでいいのかしら……顔も合わせられないわ」

「僕に見せてよ、その顔」

「ダメ! 見せない!」

「———じゃあ私がガン見しようっ!」


 それまで黙っていたフローラが突然立ち上がり、フレイのそばに駆け寄って顔を至近距離にひっつける。フレイは急に顔が目の前に来て驚いたようで、勢いよく首を逸らせて……僕と思いっきり至近距離で目が合った。


「〜〜〜〜〜〜〜っ!」

「あはは……慣れてもらわないと困るよ……」

「ぜ、善処するわ……!」


 フレイが顔を真っ赤にして首を下に俯けているけど……僕も実際のところ顔は真っ赤だ。フローラだけが余裕の満面の笑みで「きゃーっフレイちゃんかっわいいーっ!」と言っていた。

 そこでフローラはもう一歩身を乗り出してでしゃべり出した。


「フィリスちゃんフィリスちゃん! フレイちゃんかわいいよーっ!」

「フローラちゃんグッジョブだよ! ああもううちの娘こんなにかわいいなんて! 世界一かわいいわ!」

「あっ世界一可愛い座は渡さないんだからね!」

「フローラちゃんが相手とは! これは強敵だなー! でもフレイちゃんが私の中では世界一だからなー!」


 フローラは、フィリス様と思いっきりタメ語でしかも向こうも慣れた様子だった。


「おいおいフィリス、お前娘の仲間と同い年の友達か何かか?」

「あらアレス、女の子はいくつになっても女の子なのよ? そんなこともわからないようじゃ、まだまだ女心はわかってないわね」

「さらっと俺の時だけ元の顔に戻るのも面白いヤツだよお前は」

「私たちだってまだまだ若いのよ、こんなに熱々なのにあてられちゃったら……ちょっとは対抗したくもなってしまうわ」

「なるほど、確かに負けてられねえな」


 そう軽く言葉を交わすと……なんと、僕たちの目の前で軽くキスをした。アレス様は余裕を持った様子で、フィリス様も眼を細めながら髪を梳かれて、照れたように耳を触って……


「ああああんたらー! アタシ達の前で何やってんのよー!」

「何ってキスだが、なんだお前ら婚約まで取り付けといてキスの10や20もしてないのか?」

「してないわよ! ああもう、まさか家族以外にこれを見られるなんて……!」

「私の娘ながらウブでかわいいわ〜! 誰に似ちゃったのかしら? これは家族の誰にも似てないわよね」

「俺の予想だとサーリアじゃないか?」

「あら言えてるわね」


 さすがの夫婦仲、余裕って感じだ。でもさすがに目の前でやられると、そのことを意識してしまって照れてしまうな……フレイは真っ赤で怒ってて、フローラは、興味津々といった様子だ。


 ……そうだ、サーリアさんだ。


「すみません、実は今日のお話の本番は、この報告ではないのです」

「……なんだ、改まって。俺の娘との婚約が本番ではないということをお前が言うのなら、よっぽどの内容なんだろうな?」

「もちろんです。ある意味、これが目的でもありましたから」


 僕は、フレイとフローラを見る。二人ともそのことに思い当たり、気を引き締めた顔をして座りなおした。


「シークレットルーム」

「……何だ今のは」

「外に会話が漏れないための魔術です。これからの話は内密に進めたいので」


 ここからの話は……マルガレータ様との約束だ、秘密裏に進めて、最後の最後でのサプライズにしたい。


「まず、僕たち雪花魔術団は、先日付でSランクになりました」

「ほお……! その年齢でか。ってことは、フレイもSか!? ハッハハハ……本当に抜かれちまったな、まったく本当に俺とフィリスの娘とは思えないほど優秀だなお前は……そうか俺の娘はSランクか……」

「そのSランクの娘に40手前の体で剣術で勝たせてくれない父親に言われても嫌味にしか聞こえないわよ」


 フレイは呆れたように言って、そしてフィリス様を見た。


「うん、Sランクになれるって思ってたけど、ちょっと私もびっくりだよ……フレイがSかー、ほんとに私の娘じゃないみたい」

「魔術は間違いなくお母様の遺伝だから自信を持っていいわ」

「ふふっ、はあい!」


 フレイは和やかに言葉を交わした後、真剣な顔になった。フィリス様もその様子を見て、笑っていた顔を少し引き締めた。……と思ったら、フレイは子供っぽくニーッと笑った。


「あの日、Sランクになると宣言した日。その理由、もちろん覚えているわよね」

「それは、私のことと、あと……あっ!」

「その話よ!」


 やはりフィリス様も覚えていた約束だったようだ。フローラを見たら、フローラも満面の笑みになっていた。

 僕は、一人取り残されて頭にクエスチョンマークを出している顔をしたアレス様を見て、宣言した。


「それではアレス様にも、計画をお話します」


 ========


 リオとアレスさんの話が終わったので、今度は私がたくさん喋る番。

 マルガレータさんが言うには、この話をとりつけるには、私がここで頑張らなくちゃいけないらしい。がんばるぞー!


「がんばるぞーといっても、何を頑張ればいいのかな……」


 私は今、シスターの一人に案内されて教会の奥まで来ている。この教会はまるでお城のように大きく、祈るための場所と住居の一体型となっていて、教会の人間のまさに総本山! って感じだった。


「こちらがその部屋となります」


 考え事をしながら歩いていると、どうやらその場所についたらしい。豪華……というほどではない普通の扉の前でシスターがノックをすると、中から「どうぞ」と綺麗な声が聞こえてきた。

 扉が開き、「マルガレータ・グランドフォレスト様のご依頼のお客様をお連れしました」という紹介とともに私が部屋の中に入る。

 シスターは退室して扉を閉めたため、正面の人と二人っきりだ。


 部屋は……うん、豪華かなって思ったけど比較的大人しい大きさだった。私が田舎ものまるだし! って感じであっちこっち見てると、くすくすと声が聞こえてきた。


「小さいでしょう?」

「あっ、えっと……」

「いいんですよ、力のない貴族であったら威厳のために部屋を大きく作ることも大事ですが、ここでは私が力を見せればいいのですから」


 そう言って目の前の綺麗な人の髪がふわりと持ち上がると、部屋全体の空気がきらきらと金色に輝いた。見たことない魔術だけど、その綺麗な魔術はとにかく……


「……すごい! めっちゃきれー!」

「ふふ、喜んでいただけて何よりです。それにお客人も大変綺麗ですね」

「え、えへへ……綺麗な人に綺麗といってもらっちゃった」


 私は正面の人に褒められて照れる。ああフレイちゃんもこんな気持ちだったのかなー。そう思ってしまうぐらい目の前の人はすんごい美人だった。

 私をクール系にして年齢を上げて目を金色にした感じかな?


「初めまして、私はクリス・セイントバレーと申します。聖女とも呼ばれていますが、クリスと気軽に呼んでいただければと思います」

「クリスさん! 私はフローラと言います、よろしくお願いします!」


 これが、ほんものの聖女様! すっごい美人でかっこよくて、浄化聖魔術のエキスパート! なるほどなあ、この人の存在があれば部屋の大きさによる威厳なんてあってないようなものなんだね、すごいなあ。


「ふふっかわいらしい。……それで、マルガレータ様がわざわざ用事を作ってまであなたをお呼びになったというのは一体どういうことなのでしょうか」

「はい、えーっと、友達の結婚式をしてほしいんです」

「友達……ですか」


 ちょっと言葉が足らなかったのか、クリスさんは少し考え込んで、首を横に振った。


「もう少し理由がないと、私が出向くことは難しいですね」

「えーっ、なんとかなりません?」

「そうですね……協力したいのはやまやまなのですが、仮にも聖女なんですよ、理由もなく一般の平民の方の結婚式にわざわざ出向いたらおかしいではないですか……」


 クリスさんは困ったように言った。

 どうも聖女の立場として、どうしてもクリスさんが出向くということは、教会全員の祝福と言うことになってしまうらしく、確認を個々人に取らなくても十二分に理由がなければ難しいとのことみたい。


「マルガレータ様のお願いでも?」

「私もあの人には強く出られませんが、それでもさすがに理由なしでは……」

「ええ、こまったなあ……」

「私も協力して差し上げたいのですが、立場というものがあるのです……すみません」


 おかしいな、私がお願いすればなんとかなるって聞いたんだけど……ダメみたい? どうしても取り付けて欲しいって言う話だったんだけど……。


「そもそもどなたの結婚式なんですか?」

「サーリアさんって、メイドさんです」

「メイド? 一介のメイドをわざわざあの令嬢が指名……?」


 クリスさんは、その相手の情報が不思議だったのか少し悩んだ


「もっと……情報を」

「えーっと、ヒーラーさんみたい」

「ヒーラーですか」

「そういえば、王女様がすっごい感謝してたかな」

「協力します」

「えっ」


 話してたと思ったら即答していた。

 びっくりした。


「ルナちゃんの恩人というならもっと早く言ってください!」

「え、え? ルナちゃん?」

「王女は私より年下で、昔からかわいがっていたのですよ」


 そして、クリスさんは、ルナ様のことを話してくれた。


「そうですか、ルナちゃんがあの日『エルフの家』のハーフエルフのヒーラーに治してもらったらしい、ということは知っていましたが……お礼を言いたい言いたいと、ずっと思っていたみたいです」

「その話、有名なんです?」

「ある程度上の立場の人間の中では有名ですよ、死にかけたところを助けてもらったからハーフエルフへの差別撤廃を行ったと」


 サーリアさん、予想以上に上流階級限定のびっくり有名人。かっこいいなー。


「王女様の立場からいきなり被差別階級の人を王室に呼ぶというのはあまりにもその、色々とあったのです。なので向こうから来てくれる日をずっと心待ちにしていたと。そう……会えたのですね、よかった……」


 そこまで聞いて、あの時マルガレータさんがサーリアさんを連れて行った意図がわかった。満を持しての推参だったわけだ。そりゃ王女様喜ぶよね。


「しかし、わざわざ結婚式に私を選ぶということは、大々的に行いたいということでもありますよね。細かい経緯をお聞きしても?」

「もちろん! サーリアさんはね————




————ってわけなんだよ!」


 私はサーリアさんの結婚の経緯をお話した。長い長い片思いを譲った話らあたりから、クリスさんの顔は真っ赤になったり真っ青になったり。

 クリスさんはそれはもう表情豊かな人だった。最終的にはハンカチを持って泣いていた。


「な、なんと心の清らかで優しい方……! 初恋を譲り、恋のライバルの娘を育て、その成長を見守り続けてきたと……」

「そうなの! すごいよね、サーリアさん」

「ええ、ええ! 私こんなに感動したのって久しぶり!」


 クリスさんはすっかり聞き入っていたようで、サーリアさんのこと、とっても好意的に受け止めてくれていた。


「その長年のご恩返しをする機会が今度の結婚式なのですね……! この私自ら行えるとは光栄な限りです!」

「じゃあ……」

「ええ、こんな素晴らしい話、教会の誰も反対するはずがございません、反対するような人は我らが神の教えなど守らない人ぐらいでしょう。お話しいただき、またこの話を私に持っていただき感謝いたします。

 私からお願いします、私でよろしければ、全力で力を振るいますので、是非協力させてください!」

「や……やったー! すっごくいい人! クリスさん大好き!」


 私はクリスさんの近くに駆け寄って、ぎゅーっと抱きついた。ちょっと背の高いクリスさんの、胸の間に首が入ってしまった。


「まあまあ……まるで妹が増えたみたいですね」

「クリスさんいいにおい……」

「……ね、ね。一度でいいから「お姉ちゃん」って読んでみてくれない?」

「クリスおねえちゃんっ!」

「まあ……!」


 私はその魅力的なリクエストに速攻で応えた。クリスさんは嬉しそうにしてくれて、私も嬉しくなってにこにこ笑ってしまった。

 クリスさんは私の頭を抱いて、そのままなでなでしてくれた。すべすべの手袋で頭を揉み込むように髪に指を入れて、どうしようこれすっごいきもちいい!

 クリスさん、最初はクールそうな、かっこいいって印象だったけど、とってもとってもかわいい人だった!


 ……ふと、私はあることが気になった。


「ところで」

「ん? なにかな?」

「私、マルガレータさんに、今回パーティメンバーのリオとフレイを置いて一人だけで来るように言われてたんだけれど、なんでだろ」

「ああ……きっとそれは、私が男性がちょっと苦手だから、そして……その反動か綺麗な女の子が好きだから、ですかねー……前に随分馴れ馴れしい男の人が来た時、耐えられず追い返してしまいましたから……」


 クリスさんはそう言ってばつが悪そうに笑った。

 ……なるほどなあ、私が来たら成功率が上がることをマルガレータさんは読んでたってことだ。やっぱりやり手だね!


 -


 そうして私はリオと、クリスさんの話をしに戻った。


「そうか、そこまでマルガレータ様は読んで、フローラ一人を行かせたのか。しかし聖女様がクリスおねえちゃんって……」

「私に似てるけど、きりっとしていてかっこいい人だよ! でも笑うととってもかわいいの!」

「当日を楽しみにしているよ」


 そう、当日。私たちは、これからエルヴァーン家の掲げていた理想の集大成をお披露目するための当日の予定を立てていた。

 ここまでは、大丈夫。残りはフレイの本番の日取りと主要貴族の予定で、そっちも調整中。


「当日は心配だけど……フレイなら堂々としているよね。あんなにかっこいい女の子なんだから、きっと大丈夫。クリスさんも、ルナ様も、マルガレータさんも、みんな協力者だし」

「そうだね。フレイの歩んできた道を考えると、僕たちがその協力者になれたこと、とても嬉しいなって思うよ」

「それ言ってあげたら喜ぶよー」

「それはいいことを聞いた、しっかり伝えるよ」


 リオは明るく笑って、そして王城の方を向いた。

 私も、日が傾いて赤くなった、大きな王城を見た。




 当日……それは、きっともうすぐの予定。

 あとは、フレイが頑張るだけだけど……私もリオも心配してないよ。

 だから……


 ……かっこいいところ、見せてね!

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