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今から幸せになる気はないですか?

それでは次の章です、最後までお付き合いください!

 僕とフローラは、幸せな告白をして。

 顔を真っ赤にして笑い合って。

 なんともいえない甘酸っぱい感じがして。

 ちょっと落ち着いてもずっとお互いの顔を見れなくて。


 そして今フローラと、一緒のソファに座って肩を並べている。




 はー。フローラも僕が好きだったかー。

 もしかしたらそうじゃないかなーとか。

 そうだったらいいなーとか。

 ずっと思っていたけど。


 なんだか夢、みたいだなー。




 ……初めて初等部で見つけた6歳のフローラ。本当に……本当に天使のように綺麗で、明るくて可愛くて、そして……圧倒的な魔力だった。

 あの時、声をかけていなかったら、どうなっていただろう。フローラは、僕とこんなに親しく……は、ならなかっただろうし、もしかしたらフローラが下のクラスに行っていた可能性もある。


 思えば11年間、ほぼ毎日というレベルで一緒に過ごしてきた。それなりに長い間生きてきて、フローラと一緒にいろんなところに行ったけど、未だに隣のこの子は世界一の美少女だと言いきれるぐらい、かわいい。


「……ん? どうしたの?」

「フローラは世界一かわいいなって思ってただけだよ」

「……うひひ……当然……ママの子だもん……」


 ニヤニヤしながら、腕を組んでくる。その……意識しないようにしようとしても、当たっているのがわかる。

 ほんと……僕には勿体なさ過ぎるよ……幸せすぎて駄目になりそう。




 ふと、フローラが急にガタリと音をたてて立ち上がった。


「……どうかしたの?」

「…………」


 そのまま、フローラは宙空を見ている。

 じっとして、何か考え事をしているのか……急な態度の変化に不安になる。

 しばらく待ってみると……ふらついて、僕の方に倒れ込んできた。


「ちょ、ちょっとフローラ?」

「……ちょっと、ふらついちゃって。大丈夫……部屋で、休んでいるね」


 彼女の顔を見ると……真っ青になっていた。


「えっ……半端無く顔が青いよ、急にどうしたの……何か体調が悪かったのかな」

「うーん、そうかも。疲れてたのかな」

「じゃあ前はフレイにしたから、今度はフローラにも看病しよう」

「体調じゃ———、あっそれお願いしちゃおうかな……?」


 フローラは何か言いかけていたようだけど、すぐに言い直して部屋に走っていった。……何なんだろう、ちょっと変な感じだったけど、彼女のリクエストということで、僕はフレイに作ったリゾットを再び作ることにした。




 そういえば、フレイはどこに行ったのかな? 行き先を聞いてなかったけど……。


 -


 僕がノックをして入ったらフローラはすでに布団から半身出していた。


「この前やったけど、ええと、また食べさせた方がいい?」

「うん、食べさせて!」

「はは、即答だね……じゃあ」


 僕は、スプーンに一口リゾットを取って、息を吹きかける。きっとフローラはこの間してあげた時のように、いつものように明るい顔を——




———して、いなかった。


「……フローラ?」

「っ! えっ? あ、えっと、なにかな?」

「……何かな、じゃないよ。本当に様子がおかしいよ?」


 さっきフローラは……とても、何と言ったらいいんだろう……寂しそうな顔、をしていたように、思う。……何故かはわからない。


「……食べる、よね」

「うん! もちろん!」


 さっきの様子がまるで気のせいだったかのように、元気よく口を開ける。ちょっと唾液が糸を引いて……い、いけない、口に入れないと……ああ、フローラのことを意識してしまう……。

 ……本当に、以前食べさせた時もちょっとドキドキしたけど、今は本当に、女の子として意識してしまうな……。


 ……結局それから、じっくり時間をかけてフローラにリゾットを食べさせた。フローラは充分満足してくれたようだ。


 さて、そろそろ…………いいだろう。


「で、フローラ」

「うん」

「食べ終わって早々悪いんだけど——




———隠していることは何?」




 フローラは、真顔に戻った。やっぱり……空元気だった。

 先ほどから、フローラの闇魔術の核……つまり胸の部分にあるあの黒い魔力が、霧を放つようににじんでいるのだ。

 ……何か、悩みがある。


「リゾット、どうだった?」

「おいしかった……おいしかったよ、この時間があまりに幸せすぎて、これは……駄目だなって思ってしまうぐらいには……ね」

「……駄目、なの?」

「うん」


 フローラは、即答する。すると、言ったからか黒い霧が半分ほど晴れた。

 しかしこれは……危険だ。この状態で闇魔術を使うと、暴走してしまう恐れがある。今のフローラの魔力で闇魔術を使うと、勝てる相手なんてもうフレイぐらいしかいない……いや、フレイでは、勝てない……と思う……。

 つまり、フローラが闇に飲まれたら、おしまいだ。


 フローラは闇魔術を覚える前に魔力の核が出来る前は、きっと……何かあったんだろうと思う。


 ……フレイ、か。


 そうだ、フレイだ。フレイは怒ったフローラにやられたと言っていた。その時にこの黒い霧が霧散するほどの何かがあった。それをきっと……言ってない、んだろう。フローラのために。


 ……フローラのために……?


 それは……それはまるで…………いや、まるでじゃないな。すぐ分かる話だ。どうして僕にフローラのことをそこまで話していないかなんて分かる話だ。


 フレイは、フローラが僕のことが好きなのを知っていたからだ。


「……リオ、今、何を考えている?」

「魔術大会のフローラのこと、どうしてフレイが話さなかったのかなって」

「えっ……!」

「二人の間で、話はついていたんだね」

「……うん……」


 胸の闇は、変わらない。……これは……


「ねえリオ」

「……ん?」

「リオは今私に隠していることない? 私は……()えないから」


 ……やっぱり、この辺はよく見てるよな、フローラは。


「胸の闇がね、大会後の綺麗な黒から、大会前のようなもやがかかった状態に戻っている。あまりよくないものだから晴れるまで闇魔術は禁止ね。ただ……さっき「こんなに幸せなのは駄目」と言ったらもやが少し晴れた」

「……そっかー……なるほどなー……」

「その様子だと、思い当たることがあるみたいだね」

「ん」


 フローラは……ベッドから起き上がると、杖を持った。


「リオ、本当にここまで私を引っ張ってくれてありがとね」

「えっ? どういたしまして」

「ほんと、私、ちょっと強いだけのダメなリーダーだったね、難しいことは全部リオとフレイがやってくれた」

「フローラ……?」

「お飾りリーダー。受付さんに成果を報告するだけの、形だけのリーダー」

「……」

「リーダーらしいことは何もしていない、Sランクまで何も悩まなかった、ほんとに……ほんとにお気楽なリーダー……」

「……」


「だから……ここからは、私にしかできないことを。私がリーダーとしてやらなければならないことをやる」


 フローラが、強い意志を持った目で僕を見た。……それは、今まで見たこともないぐらい力強く、凛々しく、そして頼もしい顔だった。

 だから僕は、迷い無く即答した。


「わかった。リーダー、指示を」

「うん。まずフレイが帰ってきたら命令でパーティハウスでの待機を命じます。その後、私とリオで、エルヴァーンの屋敷へと向かいます」

「エルヴァーンの屋敷へ?」


 つまり、フレイを抜いて、エルヴァーンの屋敷へ向かう……ということ?


「うん。そこで……紐解かなければならない謎を、ある人から聞きます」

「謎……? というか、もう思い当たっているんだね」

「思い当たっているというのとは違うけど、多分私の予想は当たってると思う……我々はそこで、その人と接触します。そして恐らく……うん、多分……リオは、気付いちゃうと思う。きっと私は、私にとって、余計なことをする。

 だから、これは()()()()()()私個人にはマイナスだけど……私と、私自身の心と、このパーティのためにはプラスのことなんだ。そして、リオにもね」


 フローラは、自分に言い聞かせるように、そのことを確認する。


「了解だ、リーダー。最後に一つ、確認したいことがあるんだけど」

「うんうん、なにかな?」

「屋敷で話を合わせるから、誰に会うかは聞いてもいい?」

「そうだね。……エルヴァーンの屋敷で会わなければならない人物は」


 フローラは、目を閉じて……やがて目を開き、僕と目を合わせながらその名前を言った。


「サーリアさんだよ」


 -


 フレイは、夜に帰ってきたらしい。翌朝応接間で待っていると起きてきたので、軽く顔を合わせた。


「ただいまー。フローラ、うまくいったみたいね」

「うん、ありがとねフレイ」

「んふふ、もうキスまでやったかしら?」


 ちょっとニヤつきながら聞いてくるフレイ。って! な、なんてことを聞くんだ……!


「ううん、まだしないよ」


 フローラは、淀みなく答えた。あまりにもはっきりと照れることなく言ったフローラに、フレイは面食らっていた。


「お、おお……なんか堂々としちゃってるわね」

「今はリーダーのハイパーフローラちゃんモードなのだっ!」


 フローラは高らかに笑ったけど……フレイは少し考え込むように、顎に手を当てた。


「……ね、何考えてるの?」

「——さすがフレイは勘がいいね。今から私は暴走します!」


 そしてフローラは、右手の杖を高々と持ち上げて、満面の笑みで宣言した。


「リーダー権限で命令するので、逆らったらフレイちゃんには私の水超級攻撃魔術のお披露目会の特等席に呼んじゃうよ」

「それ絶対逆らえないわよね!?」


 笑顔でとんでもないことを宣言して、さすがのフレイも顔面真っ青だった。そりゃそうだろう……火超級魔術を何度も防がれたフレイにとって、フローラのそれは限りなく死刑宣告に等しい。


「あっでも変な命令はしないよ」

「……何を命令するか、言ってからにしてもらえない?」

「えへへ、そうでした……ではリーダーより命令」


 フレイは警戒していたが、フローラが真剣な表情になると顔を引き締めた。


「自宅待機!」

「……は?」

「だから、フレイは『雪花魔術団』のパーティハウスで自宅待機。外に出たらダメだよ」


 フローラは満面のドヤ顔をキメて両手を腰に当てていたけど……フレイは、どんな厳しい任務がやってくるのかと思っていたのか、その命令に完全にあきれ顔になっていた。


「家から一歩も出ちゃダメ?」

「ダメです」

「訓練に素振りをするのも?」

「部屋の中でいいよね?」

「食べ物は?」

「買いだめています!」


 フレイは、そこまで聞くと……腕を組んで、眉間に皺を寄せて……そのことを口にした。


「まさかと思うけど」

「何か問題かな?」

「あのナッツとチーズとベーコンと、ピクルスとアンチョビと、ウイスキーとウイスキーとワインとウォッカとウイスキーしかないあの食料庫で待てと?」

「……ええと……」

「外に食べに行ってもいいわよね?」

「……はい……」


 あっさり折れた。ていうか待って、そんなに買いだめてたの?


「ま、いいわ」

「え?」

「フローラも、今どうしてもやりたいことがあるって顔してるもの、わかるわ。だから……これは期待してリーダーの活躍待っていてあげる」

「あ、ありがとね! 必ず……必ず成功させてみせるから!」

「なんだかよくわかんないけど、いい顔よ。いってらっしゃい」


 フレイはフローラのことを信用しているみたいだった。なんだかんだ、この二人も仲いいよなって思う。

 フレイに見送られながら、僕とフローラはフレイに内緒でエルヴァーンの屋敷へと向かった。


 -


「……あら?」


 屋敷の前で待っていて、出迎えに出てきてくれたのが、サーリアさんだった。


「あっサーリアさん! ちょうどよかった。『雪花魔術団』のおもしろ形だけリーダーことフローラでーす! サーリアさんに会いに来ましたっ!」

「ふふふ、今日も楽しい方ですね。しかし……私に、ですか? …………あれ、二人なんですね。フレイは……」

「今日は待機させています。それで、サーリアさんだけとお話をしたいのですがお時間大丈夫でしょうか?」

「私ですか? それは……でもお客様のご指名ということですものね、メイド長……アマンダさんに確認してみます。みなさんは先に……そうですね、私のお部屋までご案内します」


 そう言ってサーリアさんは僕たちを部屋まで案内してくれた。メイドと言っても個室持ちで、そこそこの広さがある部屋だった。

 個室はアレス男爵の判断なんだろう、彼女のことを大切に思っていることが伺える。


「フローラ、なんだかサーリアさんは、メイドって感じがしないよね。この部屋普通の平民のリビングよりよっぽど広いよ」

「……そうだね、やっぱりそうなのかな……?」

「フローラ?」


 この部屋に来てからフローラは何か考えているようだった。一体何を考えているのかわからないけど……何かサーリアさんにだけ当てはまる何かがあるんだろう。

 この話をすれば僕も思い当たると言っていたけど……。




「お待たせしました」


 そう考えているとサーリアさんが部屋にやってきた。


「休憩をいただきました、それで私に対してどんなご用でしょうか」


 サーリアさんは、重なって部屋の隅にあった簡単な丸い椅子を出して、三つ並べた。僕とフローラが座ると、サーリアさんは正面に座って聞く姿勢を取った。


「それではその前に、ご報告があります。私とリオは晴れて両思いで交際することになりました!」


 ……ええっ! そんなことを報告するの!?

 僕が驚いてフローラの方を見ると、フローラは口を嬉しそうにして、僕の腕を取って絡ませてきた。ああもう、サーリアさんの目の前でそん……な…………?


 …………サーリアさんは、目を開いて固まっていた。そして、「え、え……」とつぶやくと、はっと正気に戻ったようになり、硬い笑顔を作った。


「……それは、おめでとうございますフローラ様」


 椅子の上で腰を折り曲げて、礼をするサーリアさん。でも……なかなか顔を上げてこない。


「ね、サーリアさん?」

「……何で、ございましょうか」

「これで——————




————フレイとサーリアさん、どの辺りが一緒なんですか?」




 フローラの言った言葉の意味はわからなかったけど。

 サーリアさんは、急に立ち上がり、フローラの両肩を握った。

 その顔は……怒りとも悲しみともつかない、とても見ていてつらい顔だった。


 フローラは、その対応を予想していたのか、落ち着いていた。


「……私ね、知らないの。フレイのこと。そしてサーリアさんのこと。だから……聞きに、きました」

「…………。……知って、どうするというのですか」

「解決します」


 フローラが即答した。


「何としてでも解決します」

「……あな、たは…………」

「私は、私の足りないモノを全部持っているフレイが必要です。それ以上に、私のために戦ってくれたフレイちゃんが好きです。そして………………。


 ……。


 ……。


 ……初恋を譲ると暗に言ってくれた、優しい優しいフレイちゃんが大好きです」




———。

 その、意味。

 その意味は……。


 サーリアさんは、目を見開いて、泣きそうな顔を……したと思ったら、顔を俯けて、肩を震わせた。顔を見せないようにして泣いていた。


「サーリアさん。私は聞きに来ました。聞かなければならない。無理矢理にでも、あなたに何をしてでも、私は聞かなければならない! 私には聞く義務がある!」


 フローラは叫びながら、杖を床について音を立てた。


「サーリアさん教えて! あなたのことを!」

「……っ……。……わかり、まし、た……」


 フローラは返事を聞くと、落ち着いて椅子に座った。

 それから、サーリアさんの過去の話が始まった——








「————以上、です」

「そう、ですか。初恋をフィリスちゃんに譲ったんですね」

「はい……両思いでしたから」

「自分は、好かれていたと思いますか?」

「それは……自分で言うのも恥ずかしいですが、好かれていたと思います。なんだかんだ、ずっと気にかけてくれましたから」


 ……。僕は、フローラが言ったことの意味がわかった。というか、これで分からなかったらただのバカだ。




 フレイは、僕のことが好きだった。




 ……改めて思う。昨日、朝……どんな気持ちでいたのか。今日どんな気持ちでいたのか。フレイ……言葉は荒いけど、まっすぐした心を持ったフレイ。

 そうか、フレイも……僕のことが……。

 ソニアさんと、山へ行った時のことを思い出す。あれは……ソニアさんは、多分知っていたんだろう。フレイが僕に気があり、僕がフレイに気があるかどうか。僕が、フレイの体をどう思っているか。女の子なんだ、男より大きくて筋肉質な自分が女と見られているかどうか、気になったんだろう。僕はフレイに……


 ……しかし、フローラは、何故このことを……?


「ね、サーリアさん」

「はい」

「今から幸せになる気はないですか?」

「……それは、フレイがSランクの英雄になって……ワンシクスティーンスエルフの英雄として、ワンエイスエルフのフィリスを救ってからです。このエルヴァーンの全ては、クォーター以下を救うことからですから。

 でも……簡単ではない。しばらくは無理でしょうし、アレスも5年もしたら老け込んじゃいますね……」


 サーリアさんは寂しそうに笑ったが、僕はその前に言った言葉の意味を頭の中で整理していた。


 ……それって……


「それって、すぐできますよね?」


 ようやく僕が発言した。


「……は? な、何を仰るのですかリオ様! フレイが、私の婚姻のためにSランクの英雄になってくれるなどその場のノリの発言ですよ! それでも、気持ちだけで救われたのです、その気持ちだけで!」

「いやそうじゃなくて、Sランクの英雄ですよね」

「はい! まだまだ先の話です!」

「いや全然違います」

「……ぜんぜん、ちがう?」


 僕は、そういえば知ってるわけないな、と当たり前のことに思いあたった。


「すみません、昨日のことなんで言いそびれてしまいました。フレイ・エルヴァーン含めた我々『雪花魔術団』は昨日づけでSランクへ昇格しました」

「……え? は!? ええ!? え、Sランクですか!?」

「更に言いますと、英雄っていうか、フレイは雷上級魔術でのドラゴン討伐に加えて光上級魔術まで使いこなしてエルダーリッチを討伐したので、ギルドからは既に今『勇者』という分類で扱われていると思いますっていうか受付の人にみんなの前で勇者と大声で呼ばれてました」

「——————」


 サーリアさんは、驚いた顔のまま固まった。そこから動き出すまで、しばらくの時間を要した。


「……え、ええと……本当……なのですか……?」

「ほんとだよー、リオはなんといっても初等部のフレイをめちゃめちゃ強くしちゃった本人だし、雷も光もさくっと教えちゃったみたいだよ。私も使えないのにね!」


 フローラが付け足して答えた。そして立ち上がった。


「サーリアさん。フレイが、フレイが救われるには、まだ必要な条件があります。だから……だから、お願いします。私に協力して、フレイを救ってください!」


 フローラは、床に膝と手を付けて懇願した。サーリアさんはあわてて膝をついてフローラの肩に手を乗せて、顔を上げさせた。


「い、いけません! 客人の、しかもSランクパーティのリーダーが、一介のメイドに土下座など! むしろ私が、私がお願いしなければならないことではないですか!」

「じゃあ……」

「もちろん協力いたします! あなたの、いえ、私の! 私の願い、必ず、必ず何に代えましても私が成功までお手伝いいたします……!」


 サーリアさんは真剣な顔をして、フローラに協力を約束してくれた。


 -


 サーリアさんはアマンダさんに真剣に話し、休暇を取り付けてくれた。


「そもそも『雪花魔術団』がアマンダさんのメイドを連れてきてくれたので、というかそのメイドさんがめちゃくちゃ優秀なので、フレイもいない以上ちょっと手空きだったんですよね」

「そうだったんですか」

「リオさんの紅茶がおいしいということで説教されちゃって、地獄の猛特訓が始まるかと思っていたんですけど、まさかアマンダさんより紅茶を淹れるのが上手い人が来るとは思わず……。今ではすっかり指導係として意気消沈して丸くなったアマンダさんは、紅茶をシェリーさんにお任せしてます」

「それは……よかった、かな?」

「はい! 紅茶を淹れるのはいつまで経っても慣れなかったですから」


 くすくす笑いながら屋敷を出ると、フローラから指示が来た。


「さーてここから、リオと私とサーリアさんで、一大イベントを行います」

「一大イベント?」

「そう。そしてこのイベントの結果次第では大変なことになりますし、実際やることもすっごく大変なんですけど、えーっと成功するといいな!」


 フローラは曖昧な目標を明るく言ってのけた。


「大変なことって、具体的にどうなるの?」

「具体的にはねー、一番悪い結果だとねー……」


 フローラは、少し静かになって……そして、それを言った。




「『雪花魔術団』は、解散しちゃうかも」

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