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アタシ、これでよかったんだよね?

 ギルドへの任務達成報告、一時的なリーダーだったアタシはその任を降りて、報告はフローラに任せた。


「こんにちわーおわりました」

「あっフローラさん! ということは、『雪花魔術団』はランス家の護衛任務も成功ですか!」

「はーい。あとでマイルズさんだっけ? かくにんしといてねー」

「はい、さすがフローラさんです! ……あの? あれ? フローラさーん?」


 フローラはそのまま元気がないのを隠そうともせずに出て行った。




「うぇーい……」


 フローラが、本格的にやる気なさそうな顔をしていた。


「今回も、あんま活躍……」

「したじゃないの! あんたの麻痺回復と追跡の魔術がないと完全に詰んでたわよアレ!」

「そうかなあ……」


 フローラはいつものように攻撃魔術ぶっぱなしができなかったことに沈み気味だったけど、今回ばかりはアタシも言わせてもらう。

 その功績をね!


「あーんーたーねー! いい! あんたがアタシに麻痺回復させるのが遅れてたらリオはシェリーにやられてたかもしれないのよ!」

「———あっ! そ、そっか!」

「そうよ! あんたはアタシにとって今回一番の功労者よ! いなかった場合は怖すぎて考えたくないわ!」


 リオは、頭脳戦において反則的な強さを誇る反面、近接戦闘においては広く浅い能力者だ。シェリーのあの腕前から見て、やられていた可能性は高い。

 麻痺は、体全体にきていた。当然、口にも。無詠唱で回復ができなかったら、あんなに素早く対応できなかっただろう。


 つまり、リオがやられなかったのはフローラのおかげだ。


「そうだったんだ……よし! 次こそ相手と相性いいといいな! フレイちゃん、私……頑張るよ!」

「その意気よ!」


 -


「エルダーリッチ2体以上か……」

「えるだーりっち」

「どーしたのよフローラ、固まっちゃって」


 エルダーリッチって何かしら、ちょっと聞いたことないわね。上位存在っぽいけれど。


「エルダーリッチって……私の闇魔術じゃダメだよねー。フレイの火魔術とかで燃やせないかな?」

「むしろ剣で切れないかしら?」

「ダメに決まってるでしょ」


 リオからツッコミが入った。む……剣では切れないってことかしら? それともあまり接近して倒すような相手ではない?


 なんか……リオが呆れた目でアタシを見てる。フローラも……げっ、こいつ! 完全にあれは同類を見つけた満面の笑みだ! 「私と同じ脳筋ぽんこつバカ発見!」みたいな顔だ!


 ギロリ。


 ……一瞬で目を逸らしたわね。ホントあんたって、口ほどにものをいう顔するわよね。いや言わないつもりでも口から出ちゃうぐらいだし、隠し事とか絶対無理なタイプね。


「仕方ない、今日はお開きにしよう。対策が取れないんじゃ勝てないからね。リッチが相手じゃ王都の聖騎士と聖女が出てくるまで保留かもな……しかし、引き受けたい……」

「随分こだわるのね」

「……これも言っておこう。これが成功したらSランクにしてもらう条件で受けるつもりだし、受付の人は首を横に振れないはずだ」

「えっアタシがS!? コレそんなすごい任務なの!?」

「うおーっ! リオ、私たちSになれるんだね!」


 アタシとフローラはそれはもう驚いた。Sランク、全ての冒険者が憧れて道半ばで果てるSランクに、冒険者ギルド3年目で届くというのはあまりにも早い。

 リオがこだわるのは当然だ。


「だから、なんとか打開策を探す。二人ともそれまで、待っていてくれ」


 アタシとフローラは真剣な顔で頷いた。リオはいつも、やってくれた。今回もきっと……やってくれると信じている。




「ところでリッチってなんなの?」

「ああ、そこから説明が必要だったか、ごめんごめん。確かに最近なかった珍しいタイプだから知らなくても仕方ないね」


「リッチ……死者の魔術師だったり王だったり、そういうタイプ……死霊系ってやつだね。その中でも遠距離魔術を撃ってくるかなり強力なもので、しかもエルダーリッチは上位種。二体以上なんて全く王国の危機だねこれ……。だから、剣はもちろん、闇魔術なんて全く効かない相手だし、接近戦なんて自殺行為だよ」


 ……それは、確かに、剣で切ろうなんてヤツ、脳筋ぽんこつバカね……。


 -


 リオに作戦を任せて、改めて今回のことを思う。


 お父様を思い出す。

 お父様に剣術を教えてもらった。お父様はアタシが産まれる前に活躍して、産まれた後はあまり活躍できてない元英雄って感じだけど。やっぱりアタシを育ててくれたから、アタシの英雄だ。


 お母様を思い出す。

 お母様は魔術を教えてくれた。いろんな属性の話、教えるのは下手だったけど、アタシの魔術を産んでくれたアタシの大好きなお母様だ。


 ようやく、アタシの英雄Sランクへの明確な道が見えてきた。この討伐任務はなんとしてでもアタシ達が取りたい!


 魔術の呼吸訓練をする。息を吸って足から頭へ溜めて。ゆっくり吐いて……


 ……そういえば……お母様との最初の訓練、どんなこと言ったかな……。




 アタシはリッチの任務を見ながら難しい顔をしつつ紅茶を飲んでいるリオを見つけた。まだ難しそうね……。

 リオと目が合った。するとリオは……アタシを見て、下半身を見て、アタシの顔を見て、なにやら驚いたように目を見開いた。


 ……ん、んん?


「フレイ、今日時間いいかな?」

「何よ」

「魔術の練習をしてほしい」

「久々ね、まあいいけど」


 雷魔術以来よね、ほんとリオって唐突にこういうの思いついてやってくるけど、アタシの何見てるのかしら。




 パーティハウスの外側、雷魔術で地面を掘った草のない場所の近くに来る。いい場所よね、ここ。

 そしてリオは、最初の火魔術の頃のように、突然変わった指導を始めた。


「空気の椅子に座るような感じで、中腰になってくれる?」

「またえらく具体的で意味不明ね……きついわねこれ、ふとももが張ってるわ」


 あっ、これ剣術というか筋力の訓練にもいいわね……魔術関係なく今度から取り入れようかしら。

 ……なんだか、気が遠くなっているせいか、頭に白いモヤがかかって……


「そう、そこだ。それに意識を集中して、白をイメージして使って欲しい。『ホーリーランス』を」

「……え? ホーリーランス?」


 ホーリーランス。名前の意味ぐらいアタシでも分かる。

 光属性。しかも剣戟タイプ。


 リオが、使ってみてくれと言った。じゃあ、アタシがやることは一つ!

 目を閉じる、集中する。

 白……白い槍……!


「……。……! ホーリーランス!」


 瞼の裏が、急に血液を透かして赤く光る。雷魔術の時のような轟音がする。……目を開くと、地面が抉れていて、白くてキラキラした煙みたいなのが、ふわりと空に溶けていった。


 ……つか、えた……!?


「うそ……光属性、完全に勇者とかパラディンの魔術じゃない」

「本当に出せたね……僕も驚いたよ」

「これ、分かってたの?」

「事情は言えないけど、もしかしたらできるんじゃないかなって思ってたよ」


 いや、あんた……もしかしたらできるかもって。王都にコレ使えるヤツってバリバリのエリートである聖騎士数人しかいないのよ?

 ……でも……使えちゃったわね。まあ、リオだし……なんだかこの『リオだし』って言い訳、自分で言ってて無茶苦茶なのに説得力ありすぎて呆れるわね……。


 リオに目を向けて、この男は一体何者なんだろうとじっと見てると、少し気まずそうに目を逸らした。


「……ここまで秘密にしていてもついてきてくれるのがありがたかった、なんて思ってるんでしょ」

「あ、いや、そうだけど……そんなに顔に出てた?」

「わかりやすすぎるのよあんたは」


 フローラ並とはいかなくとも、正直な性格よねー。


「まーいいわ、どう考えてもアタシにプラスな内容だし、無理矢理聞き出して指導が途切れたら嫌だもんね。そのうち聞けるのを期待しているわ、『センセ』」


 初等部からこの呼び方してるけど、やっぱり魔術に関してはいつまで経ってもセンセって感じだなー。

 でも、きっとそのうち、アタシにも話してくれるわよね。




 ……それにしても……光魔術……! しかも攻撃系の、聖騎士じゃない光魔術!

 思い出した、お母様との会話。


————光が使える剣士はかっこいいわ。


 ……ああもう、やばいどうしよう嬉しくてたまらない! アタシ、お母様との魔術の最初の記憶、憧れのお母様の……お母様が憧れた光の剣士になっちゃった!

 リオ〜〜〜っ! 一体どれだけアタシを喜ばせたら気が済むのよ!

 もう、今すぐ自慢しにいきたい! お父様にも、サーリアにも、見せたい!

 最高位属性、光魔術! 全部、覚えたい……!


「リオ、今日も一日中、アタシにこの光魔術を教えて!」

「さすがフレイ、やる気十分だね! 教え甲斐があって楽しみだよ」

「リッチだかニッチだか知らないけど、全部アタシが倒してやるわ!」


 アタシとリオは、一日中光魔術を練習した。フローラが「おなかすいたぁ〜」と泣きついてくるまで、ずっと二人で集中して練習した。

 家に帰ってからも勉強して、部屋でも自主練習して……でもアタシは興奮してたのか全然疲れなくて、結局リオの部屋におしかけて教えてもらい、夜は外で素振りしながら練習した。


 あ、ちなみにリオは当たり前のように低威力の初級光魔術を撃てたわ。もう驚かないけど、多分初級闇魔術も使えるわよね。

 ……ま、リオだし。


 -


 アタシ達はギルドへ来た。今日は、リオが対応する。


「本当に、『雪花魔術団』は、このエルダーリッチ複数にリッチが山ほど群生、ケルベロスとヘルハウンドが数体などという馬鹿げた任務を引き受けるんですか?」

「はい」

「AAAなんて酷い判断、こんなのSでも王の聖騎士団しか対応できない、冒険者に相手できるはずがない任務です。……今回ばかりは……死ぬかも、しれませんよ……?」


 いつもお世話になっている受付さんは、いつもの明るい顔を全く見せない暗い顔をしていた。それだけ、厳しい内容なんだろう。


「以前はそう思っていました。フローラの得意な闇魔術攻撃が使えない、フレイの魔術は距離と威力がどこまで届くかわからない。フローラが水と風で対応するうちにケルベロスが来る。フレイが止めようにも火魔術が周りをうろつくヘルハウンドに防がれる」

「そう、ですね……」


 リオが絶望的な状況を説明する。しかし急に受け付けから少し離れて、姿勢を崩して肩をすくめながら、軽そうに言う。


「でも、今は僕の中では、任務成功率は百%、しかも余裕の無傷です」

「————は!? え!?」

「受付さん、いつもありがとうございます。今回は僕が条件を提示しますので、それを飲んでくれたら引き受けます」

「……本当、ですか?」

「あなたが担当して2年。『雪花魔術団』が失敗したことが一度でもありましたか?」

「……。……わかりました」


 そして、リオはそれを告げる。


「では条件。討伐成功したらSランクへ上げてください」

「必ず約束します」


 予想していたのか、受付の人は即答した。


「あなたたち『雪花』にばかり戦わせていないで、私も上と戦ってきます。最悪暴れてでも取り付けてきます。……年下の後輩達に命を張らせて、先輩の私が首の一つもかけられないようじゃ、あまりにもふがいないですから」

「ふふ、あまり無茶はしないで下さいね」

「一番無茶な人には言われたくないです」


 最後に受付の人とそう軽口を叩き合って、リオはギルドを出た。アタシは真剣な表情をしてリオの後についていったけど、フローラは「そいじゃねー、いってきまーす」と、遊びに行くように軽く言って出た。


 -


 その場所は、王国から離れた荒れ地。まだ王国が対応してないのは、この相手の待ちにあるんだろう。でもわかる。受付さんがあんなに怒っていたのも。

 目の前にいる、ギルド全員でかからないと勝てなさそうな闇魔術師の霊。しかも二人。その横に、崖から十数名の闇魔術師の霊がいる。その間から、炎を纏った獣、双頭と三つ首が口から火をこぼしながら待機している。


 炎の獣が、目の前で次々追加召喚されていた。

———これをAAAで放置なんて、馬鹿げている。


 アタシはかなり離れた距離から、息を吸う。

 今日は……武器は一つ。新品の、今回のために用意したものだ。

 両手剣で、グリップ全体が高純度の魔石になっているものを金属で巻き込んだ上、鞘も魔石を散らせて模様が描いてあるという、アタシみたいな魔術剣士には喉から手が出るほど欲しがるものだ。

 リオが、今までのアタシの報酬に自分の分を上乗せしてと買ってくれた。

 初プレゼントである。そりゃもうアタシは飛び跳ねて喜んだ。調子に乗って抱きついちゃったりなんかして、お互いに顔赤くなっちゃったけど。

 でも、ありがとね、リオ。


『任務成功率百%』『余裕の無傷』


 その期待、応えてあげるわ!


「セイントビーム! ッ! …ッ! ッ! ハッ!」


 まずは渾身の光の線を浴びせる! 時間差なしの攻撃にリッチの数体が体を貫通させ、エルダーリッチも相当のダメージを受ける。魔石剣の威力も半端じゃない、練習した時の比じゃない。ちょっと目を閉じてた方がいいかしらってぐらい。

 ヤツがこちらを驚異と認識し攻撃してこようにも、アタシの次の無詠唱ホーリーランス、ホーリーアローがリッチの持つ杖の魔力を吹き飛ばす!

 いくら振ってもアタシの魔力切れは起こらない。




 お前らは確かに強い。ただし——


———アタシが相手だったのが運の尽きね!




 アタシの魔術に、受付さんが顔を青くしていたS相当のリッチ達は、本当にあっけなく蹂躙されていった。





 さて、そいつらの数も減ってきて、残りは火の獣だけど——


「いやーもー期待の新人さんにおまかせするっすわー」

「私はどーせダークメテオとかカオスフレアとか効かない魔術しか使えませんよーだ」


———は?


 後ろを見たらフローラは、まさかのSランクに上がるための任務で、いじけて地面に文字書いていた。

 フローラーーッ! あんた手伝いなさいよーーっ!


「ふ、フローラ! 今回たまたまだから!」

「やっほー後輩任せのリオくーん。それもうずーっと聞いてる気がしまーす。フレイちゃんにおまかせしまーす。いっしょにのの字ゲームしよー」

「ああもう! 配下の火炎を纏ったヘルハウンドとケルベロスの大群がフレイのところに行くよ!?」


 いやほんとマジで助けて、あの群れ相手にするのは流石にヤバイ。報告と数が違いすぎる。


「えっうっわマジだ! フローラ援護します! ダイヤモンドアローレイン!」


 フローラが叫んだと同時に、氷の矢でできた……いや、あんた……アローレインってのは矢が雨みたいって意味であって、これじゃその……豪雨というか塗りつぶしね……?

 多分どんなに動体視力の優れたネズミでも、隙間に入ることすら許されない、氷の矢一本よりも細い隙間。そんなものが降り注いだ。

 しかも一本の威力がアイスアローレインの比じゃない。多分あれ、ドラゴンの蹴りを耐えたダイヤモンドシェルターと同じ硬度よね。蜂の巣というか、網みたいな無残な状況になってるわ……。





「……また蜂蜜のお菓子たべたいなー。あれどこの討伐任務に行った時だっけ、報酬の銀貨よりめっちゃ嬉しかったやつ。近所になかったから南かなー」


 ……は?


 はあああああーー?


「……フローラ、また心の声が漏れてるよ……」

「……ええっ!?」


 フローラは……自分の命を狙うAA相当の魔物のこと、もう見てさえいなかった。一発撃ったらお菓子のことを考えてた。絶対蜂の巣だと思って蜂蜜のこと考えてた。

 ……Sランク相当任務よねこれ……? 任務中にお菓子のことなんて、アタシEランクの薬草採取中に思ったぐらいで絶対無理なんだけど……。


 ほんと……大物ね。絶対かなわないわこりゃ。


「やっぱこいつはリーダーよ、肝の据わり方が違うわね……おまけにちゃんと強いし、頼りになるわね」


 フローラは、ぷくーっとふくれていた。ぶーぶー言ってた。地獄の獣を前にする表情にしてはあまりにも可愛すぎて、アタシは笑ってしまった。緊張感のなさすぎる、国家の危機だったわね。


 残った魔物はフローラが適当に杖を振って、索敵魔術を使ってこの場にいた全部を倒した。……これ、終わったの?

 リオがやってくる。


「えーっと、ちょっと現実感ないけど。終わりました」

「……終わったのよね?」

「ん、それじゃギルドに帰ってみようか」


 -


 フローラは、今回は意気揚々と満面の笑顔でギルドの扉を開けた。


「『雪花魔術団』帰りましたー! なーんか最近の任務だと一番簡単だった気がしまーす! イエーイ余裕ー!」


 それを聞いた受付さんは固まっていた。


「ほ……ホントに? エルダーリッチですよ? 全部片付いたんですか?」

「そだよー、ていうかもー言っちゃうけど最近の任務ほとんどフレイちゃんの活躍で倒しちゃったからね」

「……え?」

「光上級攻撃魔術のフレイちゃん、一歩も動かずにリッチ全部倒しちゃったよ。スライムも倒したのフレイちゃんの剣だし、トレントもフレイちゃんの火超級魔術だし、アクアドラゴンもフレイちゃんの雷上級魔術だよ」


 フローラは、最後にアタシをさくっと紹介してくれた。突然の暴露にギルドにいた周りの冒険者達の視線を一気に集めちゃって、アタシは頭を掻きながら「……ど、どうも……」と恥ずかしそうに言うしかなかった。

 こ……こういう視線……慣れて……ないわ……。


「フレイさん!」

「はっ、はい!」

「あなたが……あなたが勇者だったんですね!」


 ……はい?


「光、雷、火の魔術を使う剣士! これ、完全に光の勇者ですよ! 王国の危機を救ってしまったので、もう今回与えるSランクでさえ霞むぐらいの英雄です!」

「い、言い過ぎよ!」

「言い過ぎではありません! まったくもう、こんなすごい魔術を隠し持っていたなんて、どうして『雪花』の前は杖を持たなかったのか……」

「アハハ……まあ事情があってね……」


 アタシはその頃の、フローラの幻影にビビって杖が持てなかった超ダサいアタシをなんとか記憶の底に封印したかった。

 こんな面白酒豪ぽんこつ脳筋駄女神様にビビっていたなんて! アタシの黒歴史にもほどがあるわ!


「まままって!」


 面白ぽんこつ駄乳神もといフローラが急に大きな声を出す。


「今、「今回与えるSランク」って言いました!?」


 ……あっ


「はい! ギルドマスターに怒鳴り込んで取り付けてきました!」


 そして、ギルドにいる冒険者全員に聞こえる大声で宣言する。




「『雪花魔術団』は、今日からSランクパーティです!」




 その瞬間の歓声といったらもう。

 アタシ達の祝われっぷりはすごかった。アタシは失敗するわ手抜きと見られてるわでちょっと問題児だったけど、隣の二人はマジで2年不敗神話だものね、そりゃ有名にもなるし、貴族よりも堂々としてるわ。

 でもほんと、嬉しそう。もちろんアタシも嬉しい。ちょっと嬉しすぎて冷静になっちゃってるわね、なんだか現実感ないみたい。

 このままギルドのみんなで祝われそうな勢いだ。


 活躍できたとはいえ、かなりおこぼれもらっちゃったわね。

 Bランクのフレイ英雄譚、

 好きな男の子に誘ってもらって1年経たずにSランク成り上がり。


 ふふっ、悪くないわね。


 -


 でも、やっぱり……この三人で祝いたいわよね!


「Sランク昇格……しましたーっ!」

「イエーーイ! やったね! 私たち本当にSランクなんだ!」

「うんうんやったじゃん。よかったわね!」

「いや君もだよ?」

「ほとんど二人の功績だから実感わかないわねー」


 二人から「なにいってんだこいつ」みたいな目線が来る。

 なによ、実際アタシBからAAAまで誘って貰って1回の超飛び級なんだからそう思うのも当然でしょうよ。


 リオと一緒にお酒を飲む。そういえばリオがお酒を飲むのって初めて見るわね、とても珍しい感じがするわ。

 ……あれ、ちょっと待って、なんか……一瞬でふらついてない!?


「リオ、あんたまさか酒……」

「はは……まいったな……どうやら僕は酒精に弱いみたいだ……。そのうちお酒にも紅茶のように詳しくなれたらと思っていたけど、これは、無理そうだね……」


 まさかのリオの弱点発見だった。


「っていうか、フローラ、よく酔わないね……」

「んー? 普段から飲んでるからねー。しかも今日は久々! もっとのむぞー!」


 反面こっちは全然って感じだった。ていうか一本空いてた。……待って、じゃあ以前どんだけ飲んでたのよこいつ。




 時間経過とともに減る酒、酔う駄女神。

 白い下着がまる見えでリオは真っ赤である。

 照れたリオを肴に飲む酒は……いいわね!


「えーいリオもべろんべろんにするぞー! イッエーーイ!」


 やめてあげなさい、襲われちゃうわ。

 でも襲ったら絶対アタシの方が力強いわよね。


 なんだかアタシも酔ってて、何考えてるかわかんないわ。




「もうちょっと飲む?」

「のむぜーイエー!」

「あんた気がきくわね!」


 こんな時でもリオ! って感じの対応ね。

 アタシはリオを見送ってから、フローラの方を見た。


 ———。


 今日は、以前から考えていたことをする。


「で、さ」

「はい?」

「あんたら、付き合ってないの?」

「ぶフゥーーーーっ!」

「うっわバッチ! あんたの顔でやっちゃいけない行為よそれ!」

「つ、つ、つきつき! つきつき!? きつつきつっつき!?」


 きつつきつっつき! 酔っても面白いわね!


「てっきりなんかあるかと思ってたのにさ?」

「な……ないですから! やらしいこととかないですから!」

「取られちゃうぞ?」

「っ!」


 アタシが耳元で囁いた瞬間の、ものすっごい真顔への変化。それはもうちょっとビビるレベルだ。


「あははやっぱ意識してんじゃん」

「……う〜っ、今日のフレイ格別にイジワルです……」

「酔ってるからね!」


 今日は気分いいわ、アタシがお酒飲める女でよかった。


「そういうフレイはどうなんですか〜?」

「ん、何? アタシ?」

「聞きたいで〜す。コイバナききたいで〜す」


 ……。


 分かってはいたけど、気付いてはないようね。


「騎士学校ではなんもなかったというか、男を返り討ちにしちゃったというか」


 今でも思い出す、アタシを怪力イフリータ呼ばわりした男の風上にも置けないヤツ。あれ以来、アタシの中でリオは絶対のポジションとなった。


「ってわけでなんもなかったんだけどさ。うーん、いやさ、言っちゃうと……」

「うんうん!」

「あんたたちに遠慮してるっていうか」

「うんうん……え?」


 ……分かるわよね、アタシの言いたいこと。


「いや、二人付き合ってるもんかとばかり思ってたけど……なにこの流れ、私がアタックしちゃっていいの?」

「え……それ……って…………」


 アタシは。




 アタシは、今、()()を被っている。




「アタシの人生で見ていた男って彼だからさ。だから、やっぱ一番頼りになると思うし、一番かっこいいとも思え……は言い過ぎか。でもま、わかるでしょ」

「そ、そう……なんだ……あはは」


「そう、そうだよね! フレイってば最近ずっと一緒にいるもんね。よく、喋ってる、し。最近も魔術とかリオはフレイにつきっきりだったし、すごく、強いし。顔も、いいし。スタイル、いいし……」


 ……。


 ……ここは素で反撃しよう。


「……ずっと一緒にいて? よく喋ってて?」

「う」

「クラス一かわいくておっぱい超でかくておまけに大会で優勝しちゃって?」

「ああ、あの、あのあの」

「イヤミかあんたってやつわーーーーっ!」

「わーん! ごめんなさーーうっうおおお!?」


 かわいいフローラの頭をグリグリする。いつも劣等感に苛まれてたアタシには結構頭にきたので、容赦なくやってやる! あっ待ってこれやばいごめんなさいちょっと冷静になったこの顔はひどい見せられないヤバイ!


「はぁ……もうっほんとマジでアイツが横取りされたら廃人なっちゃうんじゃないのあんた。アタシそんなの嫌よ」

「……う、はい……」


 見てはいけない顔をしたフローラを見届けて、アタシは座る。


「ていうかなんなのよ、アタシが泣きたいわよ、負けず嫌いで通してきたつもりだけどアタシがあんたに勝てそうな要素ないじゃないの」

「そんなことは……」

「はー。なんか酔い醒めちゃったなー……じゃ上行ってるわ」


 アタシは2階の、寝室へ足を運ぶ。




「あでも、あんまり遅いと取っちゃうかもよ?」


「アタシの欲しいモノは、いつも決闘で取ってきたから。ね?」


「また明日ね———」




———明日行動するのはアンタ次第よ。






 寝室へ入る。

 ……仮面を外す。

 やっぱり少し……涙が出た。


 フローラ、あんたには返せないものをもらった。

 一番好きなお母様の、一番求めていた。

 誰も欠けることのない家族をもらった。

 アタシが見た中で一番のお母様の笑顔を貰えた。


 あそこにフローラがいなかったら、アタシはもう壊れていた。




 だから。

 これが、アタシの。

 白金貨のお返し。


 アタシの———


———アタシの7年分の慕情を、あんたに譲るわ。


 -


 アタシは、パーティハウスの芝生の上にいた。


 ……青々と茂った、綺麗な色ね。


 あまり普段は、こういうものって意識しないわよね。

 当たり前のようにあると。

 リオが、手入れしてるのかしら。




 最初は特別だと思った、ここにあるものが。

 いつの間にか特別じゃなくなって。

 当たり前だと思っていたものが。

 当たり前じゃなくなって。




 ……。


 アタシは。


 2年ぶりの再会から、アタシの毎日は特別になった。

 アタシはリオのこと見ながら、いいわねって思う時間が、とても増えた。あのリオも、あのリオも、いいわねって。いろんな表情を見せる度に、あたしの心は躍った。

 そしてそんな時間が、当たり前になった。


 いつまでも、そうだと思っていた。


 アタシは……アタシは、フローラとリオが一つになった後でも、そういう目でリオを見ることができるかしら。

 もしできなかったら……アタシは、このパーティにいるのがつらくなるけど、きっとリオはアタシの実力を失ってSランクでいることを許しはしないだろう。


 だったら。

 ……アタシが。

 アタシが、我慢すればいいだけじゃない。

 王子様と、お姫様と、二人を守る女騎士。

 それでいいじゃない。




 友達のために、初恋を譲った。


 家族のお礼に、譲った。


 きっと両思い。


 何もかもが、綺麗に収まっている。


 綺麗に収まっている、けど……。






 ……アタシ、これでよかったんだよね?






 …………。




 ……。



 -


「わ、私を……私を、見捨てないでぇ〜……ふえぇぇ〜ん……」


 は、はあああ!? 何言ってんのよ!


 ああもう! 根性見せなさいよ! 何のためにアタシが覚悟を見せたと思ってんのよ! 第一アタシの光魔術があんたのデタラメバカ威力の闇神級魔術に勝てるわけないでしょうが!

 ああもう……煽りすぎた! あーもーあたしのバカ!


 -


「そう、魔力総量。フローラは他の子より圧倒的に魔力を持ってたからね。魔術を使う才能、その色、他の子が灰色の中で君だけに鮮やかなそれが見えただけ」

「……」

「だから君に教えたし、君は伸びた。『普通の子』では伸びなかっただろうね」

「……。……あ、れ?」

「……総量の平均的な灰色の魔力に教えても、それは『早熟』なだけ。実際にそれをやったとして、中等部どころか初等部で頭打ちになる性能を入学直後にも大体再現できる程度だったんだよ」

「っ! ま、待って、それって……!」


 ……待ってよ。アタシ、そういうの聞く、心の準備、してない。


 リオ、あんた、まさか……。


「そう。……僕はね。魔力総量が平均以下だった。最初から未来のない凡才の優等生なんだ、だから最終的に半数以上に抜かれる神童。魔力視があるから……そう、下手に魔力視があるからそれを入園前から分かっていたんだよ」

「そ、んな……!」


 ……。


 アタシ、こんなに盗み聞きをしたことを後悔したことはない。


 じゃあ……じゃあアンタ、15歳時点でアタシが病院送りにした魔力も。

 アタシが12歳時点でアンタと競い合った魔力も。


 そういう結末になるって分かっていて。

 10歳のアタシに魔術を教えたの……?


 あんた、トレントの討伐の時に悔しそうな顔したじゃない。

 なんでよ、なんでアタシに教えちゃったのよ……。

 ずっと、あんたは、フローラにもアタシにも黙ってて、一人でアタシとフローラを圧倒して従えてたらよかったじゃない……!


 ……。


 いや、違うわね。

 それができないから、リオなんだろう。


 助けてしまうんだ、問答無用で。

 自分にとってつらい結末になろうとも。




 だからアタシは、そんなリオが好きになった。


 フローラだって、そんなリオが好きになった。




 それだけのこと。




 -




「『魔力視』だけどね。これを持っている人はこの国に8人しかいません」

「は?」

「公国は3人ですっていうか本当に両親とも魔力視? ありえないよそれどんな確率なの。帝国とか全くいないです」


 ……。


 なんなのよ……!

 なんなのよ今日は!


 フローラ! あんたねーーーーーーーー!

 どうりで!

 どうりでリオがしゃべんないわけだわ!


 あんたみたいな!

 神の造型と神の造型から産まれた!

 超絶美少女の初等部天使が口封じしてたら!


 世のどんな男でも嫌われたくなくて絶対喋らないわよ!




 ああーーーーもーーーーそっか!

 だからか!

 アタシの魔力、全部無駄にしてたのも!

 お腹に魔力の泉が溜まってたのも!

 雷魔術が使えるようになったのも!

 光魔術が使えるようになったのも!


 リオは全部「視えて」いたのね!


 そして、視た魔術の発動プロセスを覚えて

 凡人魔力ででも再現してしまう!

 ……強いわけだわ。


 ドラゴンとの戦いも、完全に発動タイミング読んでたわね。

 トレントの魔力も、山を見た時点で?

 なるほど、これに魔術と知識が乗るわけだ、そりゃ優秀ね……。




「うん……つまりその、私の王属魔術師よりも上のエリートコースの可能性があったの。でも、その……リオが先生に取られちゃったら、やだなーと思ったというか、学校からいなくなったらと思うととてもではないけど言い出す事なんてできなくって、はい!」


「一緒にいれたらそれだけでいい」


「というか独り占めしたくて黙ってましたごめんなさい!」


 ……。

 言ったわね。

 リオが、フローラのことを好きなら。

 絶対に、聞き逃さない。




 はー。


 そっかー。


 でも、そうか。




 フローラ……あんた。

 あんた、やっぱ、人並みに黒いところあったんだね。


 アタシは、あんたへの劣等感で一杯で。

 お母様みたいに太陽みたいで底抜けに明るくて。

 性格は魔術大会でアタシの身を案じるぐらい良くて。

 Sランクになるためにアタシを全面的に信頼してくれて。


 でも。


 独り占めにしたくて暴走しちゃうぐらい、女の子なんだね。

 人並みにハラワタまっくろい部分もあれば、悩んでる部分もある。




 天使じゃない。

 女神じゃない。

 人間だ。




 ごめん、フローラ。

 今日初めてちゃんと、あんたと向き合えた気がするわ。


 -


「その、一緒にいるだけでいいって、そういう意味、なのかなって」

「うん。あっはい、えっ、あっ! はい!? ……あっ、あ、あああああぁーーーっ!?」


 ……。


「なので今日、初めて言います。ずっと好きだったから一緒にいました、これからも一緒にいたい、です……」

「あ、ありがとね………………あ〜っ、あ〜っ、これやばい! やばいやつだ! ………………よし!」


「私も。リオのこと一番頼りになるというか、安心するというか……もういなくなったらダメになるってぐらいリオは日常です。

 独占したくてちょっと自分の知らないような腹黒い部分が出ちゃったり、怪我したら暴走して相手を叩きのめしたことさえ忘れちゃうぐらい、もうどうしようもないぐらい、その……好き、です……」

「……な、なるほど……て、照れるなこれ……。でも、うん、ありがとう」


 ……。


 …………。


 はー。




 終わった、わね。




才能を引き出す『魔力視』のリオ。

時間遡行と蘇生魔術のフローラ。

全体的に強いだけの、肩書き英雄フレイ。


「……ちょっと愛の告白を盗み聞きするつもりがとんでもない秘密を知ってしまった……ていうかこうやって聞くとこの3人のパーティの中だとアタシ地味よね……ちくしょーうらやましいなー……」


 小さくぼやくぐらいは、許してくれるわよね。

 中からちょっと音がする、これフローラかな。


 綺麗な、青空。


「アタシ、どんな顔して付き合っていこうかな……またソロ……には、戻れるわけないわよね……」


 ……。


「……でも、これは、ソニアのお礼。等価交換。人生と人生の等価交換。巨大チョコケーキなんて割に合わないものじゃない、等価交換」


「ソニアの命の代わりに、お母様の笑顔の代わりに…………リオを、アタシの初恋を譲る、等価交換」


 また、中から音が聞こえてきた。

 落ち着きなさいよフローラ。

 ……ふふっ、落ち着いてなんていられないかしら。




 ……。




 …………。




 ……ねえ……。




「……これで、一緒だね……サーリア……」




アタシは彼女の髪のような、綺麗な空に向かってつぶやいた。

フレイ編、長い間お付き合いいただきありがとうございました。

さすがにフレイが報われてほしいのでまだまだ続けたいと思いますが、とりあえず本編最後迄の「フレイ編」はここまでとなります。

(あとキャラのイメージも描きたい)

始めるなら再び三人ローテーションかな? という予定で。


本当に自分には勿体ないぐらい沢山の方に見ていただいて、

また沢山の評価を戴いて感謝感謝です、ありがとうございます。


フレイ編は、後になるほど毎話ちゃんと「1話で面白いヒューマンドラマ」と思えるようまとめるために頭を使いました。

タイピングする文字数も1〜1.5万文字が当たり前になり大変でしたが、楽しい時間でした。


良かったと思っていただけましたら評価、ブックマークしていただけると嬉しいです!




あと、あちらでも言いましたが、

Twitterは私の名前TadokoroMの逆でMasamiTというIDを使っています。(ちなみに小説の話は全くないです……)

まずはこのアカウントに頼らずに書き始めようと、

出来る限り最初は無名で、絵もなく、ひたすら黙々と作ろうと思って書き始めました。

またこの辺りの話は、後書きなどで機会がありましたらまとめて書こうと思います。


本当にありがとうございました!

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