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アタシのお姫様になりなさい!

本編省略パート第二弾

「そういえば」

「ん?」

「ドラゴンスレイヤーっていうの、思いっきりリーダーの私ももらっちゃったけど、いいのかなあ……」


 フローラがそんな疑問を口にする。

 確かにあまり自分でやった感触がないと、倒したって気分にはならないけど、それでも称号は普通欲しがるものよね。

 結構これで遠慮する感じなのかしら。


「ファイアードラゴンが出たらアタシはお手上げなんだから、その時に堂々としてたらいいわよ」

「初等部のイメージほんと変えなくちゃなー。もっと自分だけーとか、独占欲とかあるのかと思ってた」

「あの頃はちょっとね、焦ってたのよ……」


 魔力の調整が全くできなかった頃のアタシは、お母様のこともあって本当に焦っていた。リオと出会わなかったら、今もこういう考え方すらしてないかもしれない。


「お父様とお母様の教えなだけよ。力と爵位には驕らず、等身大で戦えない人のために義務を全うしたいわ」

「うおおかっこいい、さすが男爵様の娘、『伸び伸び帽ベージュ』ってやつだね!」


 は?


「まさかそれ、『ノブレス・オブリージュ』のつもり?」

「そうそうそれそれ。ってリオ!?」

「めっちゃ頭の中の声が漏れてたよ……」

「は、はずかしい……」


 指摘されてようやくわかった。伸び伸び帽ベージュ。

 っていうか、リオ、あんたよくわかったわね……?


「教養のなさは知っていたけど、Sランク間近の大魔術師が伸び伸び帽ベージュとかイメージ完全崩壊だから外でソレはやめてね?」

「ふぁい……」


 なんか……慣れた会話みたいね……今更だけど。フローラってほんと——


「……ていうかフレイの方が絶対頭いいよね。いやまって、フレイより頭が悪いってあっこれやばい超ショックだ」


——————。


 はあああああーーーー!?


「あんた言うこと欠いてそれ!?」

「ひえーっまた声がもれてたー!? ごめんなさーい!」


 フローラがものすごいスピードで脱兎の如く逃げていく。……白ウサギを追いかける趣味はないので、リオの方を見る。


「……アタシ、あの子、もうちょっと頭いい子だと思ってたわよ」

「それには同意するよ……卒業するまで、まさかこんなに頭が悪い魔力一辺倒な子だとは思わなかった……」

「勉強は……」

「教えてない……渾身の失敗だよ、昼休みはそっちに注力すればよかったな……」

「……教えても、真面目に勉強しなかったんじゃないかな」

「…………否定できないよ……」


 アタシ、フローラのことリオがいないと討伐の敵も調べられずに負けるんじゃないかと思っていたけど。これそもそも討伐対象もわからないとか目的地もわからないとか、そんなレベルでダメそうね……。


 -


 次の依頼は、A〜AA程度の魔物らしい。今回はさっさと終わりそうだけど……。


「任務自体がAAAってことは、異常発生?」

「そうだろうね」

「いつぞやかのワイバーンを思い出すわね……」


 アタシが降格を言い渡された、苦い思い出。……そういえば、二人には言ってなかったわね、あのこと。


「今更だけど、ありがとね」

「え? どうしたのフレイ」

「ワイバーンの異常発生。あれアタシが失敗したのよ。AからAAの任務、もうちょっと被害が長引いてたらとばっちりきてたと思うとね」

「ああ、あれがそうだったのか。それはよかったよ、こちらもあの任務が足がかりでひとつ上に行けたし」


 そうだったんだ。

 んん? ってことは……。


「任務失敗して降格したアタシの隣で、雪花魔術団が任務成功してAAになって、そのAAになった団にアタシが入ってAAAにしちゃったってちょっと面白いわね」

「ははは、ほんとだね。討伐任務って相性があるから、向き不向きは大事だよ。……それを考えると今回はリベンジマッチだね」

「リベンジ?」

「そう」


 リオは、依頼の紙を広げてニッと笑った。

 紙には、木に顔が描かれてある。

 こいつは—————


「———Aトレント。フレイの火魔術の出番だ」


 -


 討伐任務のその村は、結構山奥の方にある場所だった。

 田舎なため報酬額はランクの割にはやや低く、だけど難易度は高いということもあって、なかなか手を出すパーティがいなかった。

 そういう任務は、リオの話によると「ランクアップ査定」に影響するということらしい。


「そうでもしないと、やる人がいないからね」

「なんだか世知辛いわね……」

「ちゃんと現地で困っている人がいる以上、パーティとしての余裕がまだあるうちはこういうのを選んでおきたいんだ。買いたいものとかあるなら迷惑をかけるけど……」

「ううん、いいわよリオの考え方ってす、好きよ、考え方。うん、アタシも困った人助けたいもの!」

「よかった……安心したよ」


 まるでお父様みたいな、貴族的で誇り高いこと言ってる! やっぱりリオは優しくてかっこよくて……いいわね! そのまま堂々とした足取りで、先へと進んでいった。

 反面こっちの……


「う〜……ふかふかコートでもめっちゃさむい……」


 ……我らがリーダー、フローラは真っ白の毛皮のコートの中で震えながらやる気のない顔で後ろからついてきていた。


「アンタ北の方出身よね、寒いのダメなの?」

「別に北の方に産まれたからって、人間が寒さに強い生き物になるわけじゃないよフレイちゃん……。ていうか、北の方はさむいの当たり前だから、家の中の暖房器具が徹底されているんだよ」

「そうなんだ……」

「そうだよ……北の人間からすると、よくもまあここまで暖房器具のない家で冬を過ごせるなって思うよ……」


 へえ……案外そういうものなのね。

 依頼の村は、北の方の山奥ということもあり、かなり寒かった。こういうところも任務が不人気になっている要因なのかしら。

 とにもかくにも、アタシ達はその村に入った。


 -


「AAAランクの方が来て下さったぞ!」

「おお、これで安心でしょうか」

「彼らに後はお任せしましょう」


 な、なんだかこういう歓迎のされ方、アタシやってこなかったから慣れてないわね。ちょっと照れくさいというか……。リオもフローラも、慣れた様子で村長のもとへ行く。

 ……貴族のアタシが一番慣れてないってちょっとどうかって感じがするわね……。


 ……おや、男の子が一人、アタシの方に来るわね。


「ねーちゃんつよいんか?」

「うーん、強いと思うわよ」

「とーちゃんよりもか? つよくみえんけど」


 んん?


「おれのとーちゃん、村で一番強いのに、木のでかいやつに負けた。ねーちゃん勝てるとは思えん」

「そう、お父さん怪我したのね……」

「けがした。けがした体でもういちど行きたがってたけど、みんなで止めた」

「そう、だったの……」

「どーせねーちゃんまける」


 ……もしかして、この子は……。


「わかった。アタシ、がんばってお父さんの仇取ってあげる」

「……ほんとに行くんか? とーちゃんひどいけが、負けたらねーちゃんもけがする」


 この子は……アタシのこと、心配してくれているのね。つっけんどんで失礼なようだけど、とても心優しい子。

 ちょっと顔つきとか、アタシやお父様に似てるかしら。


 ……こういう時は、


「相手が強くても、それで負けても、挑むのよ。アタシはね」

「……どうしてなん?」

「そういう英雄に、憧れているからよ」

「えい、ゆう」

「そうよ、英雄。憧れているし……絶対、なるつもりだから」

「……」

「あんたも、あんたのパパも、まとめて守ってあげる」


 アタシはウィンクして少年の頭を撫でると、遠くで話をしていたリオの方へ行った。

 その近くにいたフローラは、アタシの方に駆け寄ってきて、抱きついてきた。


「どったのよ」

「ううん……フレイちゃんの、あったかさ、を求めてやってきたの」

「そう、アタシ体温普通よ」

「ていうか火魔術応用したら暖かくできるよね」

「……」

「……」


 そうだった……アタシ、そういう魔術師だった。リオが全く寒さを気にする様子がなかったから……。

 ……待って、リオ、もしかしなくても、普通に暖かくする魔術使ってた……?


「……そういうこと、先に言ってくれない?」

「私より頭のいいフレイちゃんが思いつかないとは思わなかったの」

「……アタシも……そんなに頭は……よくないのよ……」

「ふふ……そっかー……」


 ……この子……根に持ってるわね……。


 アタシはリオのところに行くと、山の様子を調べた話を聞いた。

 どうもあの木々がちらほらある山にトレントが現れるらしい。


「魔力の豊かな土地なんだな……」

「ん? どうしたのリオ」

「あ、いやいや……どれも立派な木だなーって思ってね」


 そうね、確かにどれも立派な木をしているわ。なんだかしっかりしているというか。数は少ないけど、一本一本が立派。

 しかし……木を隠すなら森とは言うけど、ほんっとこん中にトレントがいるっていうのは、考えたくないわね……どうやって探し出せばいいのか。


「とりあえず行こう。行っていたら出会うはずだ」

「そうね、行きましょう」

「さむいー」


 アタシ達は、山へと入っていった。


 -


「全くいないんだけど……」

「まいったわね……」

「さむいー……」


 アタシ達は、文字通り樹海入りしていた。……樹海、と言っても、まあすかすか大木の森なんだけど。

 目標も樹海入りだ。まさかここまで奥まで来て見つからないとは思わなかった。


「これは……少し危険だけど、手分けして探した方がいいかもね……」

「三人に分かれるの?」

「そういうこと」


 あまり賛同したくないけど……このまま連日見つからずに返ってくるという討伐失敗は考えたくない。

 それに……約束しちゃったからね。アタシが倒すって。


「わかったわ、三人で分かれましょう」

「よし、それじゃあ敵がいたら魔術を空に向かって撃つ。それでどう?」

「了解よ」

「さむいー」

「アンタ一番着込んでるんだからもうちょっと我慢しなさい!」


 アタシはフローラにチョップをかますと、「ひどいっ!」と抗議しているフローラを無視して、山の上へ登っていった。




 ……しばらく歩いたわね。村は……もう豆粒ぐらい。っていうか、この豆粒のような村が見えるって、ほんとスッカスカねこの森……。

 ま、寒いところの木って、こうやってでかくて少なくて、葉っぱとかないもんなのかもね。

 でも、こうやって眺めていると、どこか遠くで動き出しそうな気配が分かりそうなものなのになんで見つからないのかしら……?


 ……。……ん? 今、じっとしてたら音がしたような……。


 アタシは、音のした後ろを向いて———


————木の裂け目と、()が合った。


「ッ!」


 ファイアーボールを空に向かって撃つ。見つけた……!


「ファイアーエンチャント!」


 アタシが剣に火の魔術を入れると、剣が燃え上がり正面のトレントに狙いを定めた。魔力による火は切れ味抜群で、アタシの剣は一撃で切り裂いた。大したことないわね!


 そのトレントが燃え上がったまま倒れようとしていた。これ燃え移っちゃうかな? でもこんだけスカスカな森なら、全く問題なく山火事にもなりそうにないわね。

 アタシがそう楽観視して、燃え移る木を確認しようと後ろを向いて———




———絶望に叩き落とされた。




 後ろの木は()()目がついていて。

 空には。

 水の柱と火の弾が上がっていた。




 なにこれ……トレント、全部トレント?

 まさか、今来た森…………全部トレント?


 アタシはパニックになりながら周囲のトレントを切っていった。これ、確かに大量発生したら普通にAAAのはずだし、多少腕が立つ程度では負けるのは仕方ないわ。2対1でも強い相手が、いくらでも視界外から増えるんだものね。

 アタシはそう思いながら……途中で更に絶望的な事実に気がついた。


 フローラは、あの防御魔術だ。絶対破られることはないし、途切れることもないだろう。

 でも、リオは?

 頭脳戦メインの全属性()()()()の魔術師リオは……、あの初等部のアタシ以下の火魔術で、Aランクの魔物に後ろまで取り囲まれて、戦える?




 リオ、これ、死ぬんじゃ……




 アタシの背筋に寒気が走り、目の前のムカつくデカイ木どもにそれを嗤われているようで頭に一気に血が上り……


「リオーーーーーーーッ!」


 大声でその名を呼んで掛け出した。


 くそっ、あまりに数が多い……! たかだかトレント風情が、邪魔なのよ!


「ファイアウェイブ!」


 アタシの怒りの高威力牽制魔術で、相手の表面を全部燃やした。道が開ける、こんなところで立ち止まっている場合じゃない……!


 急いでその火魔術のあった地点に来るも、そこには誰もいなかった。トレントは相も変わらず多くて、アタシの周りに集まってきた。そいつらを切りながら、燃やしながら周囲を必死に探す。

 リオは……リオは!

 この辺に……!

 ここにいたはず!

 ……なんで、なんでいないのよ!


 アタシはなんとか体を動かしていたけど、もう不安で押しつぶされそうだった。


 アタシが悩んでいる間もどんどんやってくるトレントどもに腹を立てつつ、とにかく切りまくった。切りながら探したけど……見つからなかった。

 かなりの数を切ったところで周囲の数が減り、周りを見る余裕が出てきたところで……再び火の玉が上がる。

 リオ……無事なのね!


 しかし、アタシはその方角を改めて見て、また絶望感に襲われる。

 そこは……村と山の境目だった。

 トレントが、もう村の付近まで来ている……!? いや、違う、この到達スピードということは、リオは迷いなく村まで走っている。


 リオ……そうか、リオは、周囲がトレントであることに気付いた時点で、村の安全を優先したんだ……。

 相手に勝てるほど戦えなくても、アタシと合流せずに自分が危険になっても、足止めさえ出来れば村の人達の命を救えると判断して。


 アタシが暢気に好きな男の子を必死に探している中。

 リオは村のことを考えて、一人で動いていたなんて。




 何がノブレス・オブリージュだ。

 何が英雄だ。




 アタシは必死に走って、村の近くまでやってきた。どうやら周囲の避難は済んでいるみたい……そんな中、アタシは、ようやく、探していた人を見つけた。

 ……頭から血を流しながら。


「リオーーーーーッ!」

「フレイ!」


 トレントがアタシのリオに手を振り上げている。お前なんかに……お前なんかにリオを攻撃されてたまるか! アタシはリオの近くまで来ているトレントを、怒りの炎を纏った剣の一撃で切り倒す。


「はは……あんな巨大なトレントだろうとやっぱり一撃か、強いな……」

「あんた喋ってんじゃないわよ血出てるわよ!」

「どうしても村に来る奴を必死に追い払ってたら回復魔術を使う暇が無くてね、助かったよ……」


 あんたって……こんな状況でも自分の怪我より村の方を優先したっていうの……!

 そんなリオの方を見て……もう一人の人物が視界に入った。

 あの、少年だ。……痛そうに顔を顰めている。

 アタシが……守るって、そう言った少年だ……。


 リオは……自分より先に、その少年にヒールをかけた。「足、なおった」と言って、少年に笑顔が戻る。……そうか、その子を守って、あんた——




「……自分でも出来るって思い込んで、村の方まで来たはいいけど……なんと情けない、結局同い年の女の子に助けてもらうまで何もできなかったなんてな……」




————は?


 その一言は、あまりにもあんまりで。

 一気に頭に血が上った。

 アタシは有無を言わさず即キレた。


「はあああ!? 何もできてなくなんてないわよ!」

「フレイ……?」

「アタシは! バカなアタシは貴族の誇りだなんて言って散々かっこつけて、あんたのことが心配で頭一杯で村を助けるなんて思いつきさえしなかったのよ!」


 リオの自虐は、気持ちは分かるけど……アタシの後ろめたさ、浅慮さ、恥ずかしさに埋まった心を容赦なく刺す。ここまで……ここまで、いい活躍をされて自虐なんてされたら。

 アタシは……

 あんたの前に恥ずかしくて立てない。

 横にも並べない。

 後ろをついて行く自分でさえ許せない。


「あんたは勇者よ!」

「……勇者? 僕が?」

「そうよ! 勇気ある者よ! 弱いヤツに対して、最初から強いヤツが無双するなんてね、誰でも出来るの! そんなのは肩書きの勇者なの! ちょっと強いだけの魔術剣士なの!」

「……」

「リオ、聞いて!」




「アタシが守りたかったものを、無理でも代わりに守った今日のあんたは本物のアタシの勇者なの! アタシの英雄なの! だから……だから! そういうこと言わないでよ!」




 アタシは、渾身の思いを乗せて叫んだ。リオは、それを聞くと……困ったように笑って、やがてしっかりした顔つきでアタシを見た。


 よかった……この顔。アタシの、スキ、なリオだ。


「ありがとう、フレイ。僕が間違ってたよ……何を卑屈になってたんだ、僕の出来ることをやったからフレイがここに来てくれたんだよね」

「そういうことよ!」

「勇者というよりお姫様みたいだけどね」

「お姫様! それで結構! それじゃあ勇者の役目をやってもらうわ!」

「勇者の、役目?」


 アタシは右手にあった剣を捨て、杖を両手で持つ。


「英雄譚によると、勇者は強い仲間を必要な時に呼べる運命があるらしいわ。だから呼んだ仲間を活躍させるのも役目なの! リオにとっての今必要な仲間——


————つまり、アタシよ!」


 アタシは、お腹にいっぱいの空気を吸い込み、ゆっくりはき出す。

 両手に持った杖に、意識を集中させる。

 この集中した感じ、やっぱりいいわね……。




 リオ、アタシは今日のあんたを誇りに思うわ。

 そして、今日のあんたを許さないわ。

 ピンチのところを助けられるなんて、

 お姫様みたいで恥ずかしいかもしれないけど。

 今更なのよ。


 あんたにアタシはいつも救ってもらうばかりで。

 アタシは最近いつも助けられて活躍できなくて。

 でもね、やっぱり助ける側に回りたい。

 もっと自分の力で活躍したい。

 この力で、誰かのためになりたい。


 アタシは……今日、活躍する側に回らせてもらうわ。

 だからね、リオ—————




———あんたは今日に限り、アタシのお姫様になりなさい!




「フレア! フレア! フレア!」


 アタシは、渾身の超級魔術を、連射で山に撃ちまくった。我ながらその威力は気持ちよくて、トレントまみれの山はすっかり燃え上がった。

 山火事は避けたかったけど、全部魔物だって分かっていたなら最初からこうしておけばよかったわね。


「……すっげー」


 後ろから、声が聞こえる。あの少年の声だ。アタシの心配をしてくれた、心優しい少年。

 その声に振り返り、親指を立てて再びウィンクをする。


「英雄になるためだからね、これぐらい余裕よ!」


 少年にキラキラした目で見られて、ちょっと恥ずかしいけど。これは今日の安い報酬への上乗せ分ってところでもらっておくわね。

 ふふっ、依頼料より大きい金貨をもらった気分だわ。




 燃え上がっている山を見ながら、リオが立ち上がる。

 そのままアタシのすぐ近くへ来た。

 ……来たまま、黙っている。

 そして、腕を組んだ。


「…………」


 ……。


 ……?


 あ、あれ? なんかジト目で睨まれてる。

 アタシ、今のアタシ、決まってない? かっこよくなかった?

 おかしいな……?


「フレイ……」

「な、なに……?」

「……」

「……なに、よ……?」




「……フローラ、忘れてないよね……?」




 ……。


 …………。


 ああああああああーーーーーーっ!?


「やばい忘れてた忘れてた忘れてた!」

「いや、まあ心配してないけどね、フローラだし……」

「どうしよ、おもいっきり燃やしちゃったんだけど!?」

「すぐ出てくると思うよ……」


 そうリオが言い終わると、ふらっと水の塊が山の中から出てきた。

 その水の塊がスーッと開くと、フローラが妙にニコニコしながら出てきた。


「あったか〜い……」


 …………。

 ええ……アタシのとっておきの超級魔術連射なんですけど……。

 ただの暖房っすか……。


「ね?」

「うん……」


 アタシは呆れつつも、フローラと合流した。フローラはそのままアタシの体にへばりついてきた。アタシは暖房器具じゃない!

 あーもー……紆余曲折あったけど、これで討伐任務は完了よ!


 -


「『雪花魔術団』AAAトレント討伐完了しましたイエーイフゥーフゥー!」


 いつものように、フローラが開口一番で受付に宣言する。


「心配してはいませんでしたが、本当に簡単に終わらせてくれましたね」

「いえ、今回は少し大変でした。こういうのはあまりやりたくないです」

「———えっ……リオ、さん?」


 珍しくリオが静かに怒っている様子に、受付の人がびくりと緊張する。ちょっとアタシも驚いて緊張する。


「任務はAAA相当だと思いますが、さすがに、山の中の木が全部トレントというのは思いませんでしたよ」

「え、ええ!? あの山の中からいくらでもトレントが湧いてくる森、そもそも全部トレントだったと!?」

「山一つ全部魔術で焼きましたよ。Sまでとはいかないものの……山奥から戻って村人を守るのは大変でした。村の付近の木が全部魔物でしたからね」


 リオの説明に、受付の人が青くなる。

 パーティの失敗とは判断しにくい場合で一般の人に被害がでると、その責任は当然ギルドも負うこととなる。

 死亡したら当然それ相応だし、A〜AAの魔物と村人が目の前でかち合うというのは、絶望的な事態になることは想像に難くない。


「あ、あの……怪我人、などは……」

「村人は全員大きな怪我もなく無事ですよ」

「ああありがとうございます! そして申し訳ございません! この件は私の方からギルドマスターに査定に上乗せするよう責任を持って進言いたします!」

「お願いしますね、ここ以外のギルドに行く予定は()()ないので」

「是非ともSまで私どもとお付き合いください!」


 リオはそう話を切り上げるとすぐに外に出た。アタシはちょっとその雰囲気に呑まれつつも、受付の人の下がった頭を見つつ、リオを追ってギルドを出た。




 リオは、外でふーっと息を吐きつつ、空を見ていた。ちょっと今日は雲が多めの空だ。


「リオ、あんた珍しく怒ってたわね」

「今回の任務は、その……単独行動させて、特に安定した防御魔術のないフレイに怪我が出る可能性があったからね。それを考えると、怒ってしまって」


 えっ、アタシのために怒ってたのあれ。待って一気にテンション上がっちゃうんだけど。待って、顔に血が上るの待って、リオの前で顔真っ赤はやめて。やめてっつってんの勝手に上ってくるな!


「あと……」

「な、なに?」

「やっぱり、こう……守られるだけで終わりってのは、その……今更だけど男としてはちょっとなーっていうか、まあ多少はこういう風に、自分にしか出来ない範囲で、ちゃんと二人を守りたいかなーっていうか……」


 リオが、顔を赤くしながら、頭をぽりぽり掻いてこちらを見たり、あちらを見たり、明後日の方向を見たりしながら、アタシの方を見て照れ笑いする……


 ……あーっ! いい! 今日のこのリオ! すっごく……イイわね! 最高!


 アタシがニンマリしかけるのをなんとか普通のスマイルに矯正しようと必死になっている中、その後ろから沈んだ声が聞こえてくる。


「私今回マジでなーんも出番なかったねー……」


 かなり凹み気味のフローラがいた。


「仕方ないわよ、属性の相性ってものがあるもの」

「とほほ、次は活躍できる任務がいいなー」

「ま、あんたのことだし必ず出番は来るわよ」


 アタシは肩を落としているフローラをなだめた。

 ソニアの分があるから、アタシとしてはSになるまで休んでもらっても怒らないぐらいの気持ちでいるけどね。




 リオは、やっぱり一日でお姫様からアタシの英雄へ復帰してくれていた。

 アタシは……もっと守るとか、そういうこと真面目に考えなくちゃな。

 でも、リオを見ていると、英雄への道ってのが見えてくる気がしてきた。


 ワイバーン討伐失敗で近隣に被害を出したアタシ。

 そいつらを倒したリオ達。

 あの子をトレントから守ろうとしたリオ。

 今度は、アタシが助けた。


 このパーティ入れてもらって、ほんとよかったな。




 アタシは、風上の晴れた空を見ながら、パーティハウスへ戻る足を踊らせた。

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