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ううん、自分の力って言っちゃダメかな。

「あなたには世話になりましたわね」

「ん……」

「正直、どんな手を使ってでも引き留めたいぐらいの気分でいます」


 魔術学園への転学が決まったことは、真っ先にマルガレータに伝えた。


「でも、確かにあの魔術の消耗では心配になるご両親のこともわかりますわ」

「うん……パパとママには心配かけたくないの」

「ええ、わかります。わたくしもお父様とお母様は大好きですもの」


 マルガレータのパパ……グランドフォレスト公爵様は、あれから子爵先生に子細を伝えられた。やはり精神的な異常を引き起こす魔術にかかっていたらしい。

 公爵様はものすごい泣いてマルガレータに謝ったらしく、子爵先生に賊討伐の手配に対する感謝を伝え、あとアタシにも膝をついてお礼を言ってくれた。隣にいたアタシのパパとママは卒倒しそうなぐらい恐縮していて笑いそうになった。

 精神操作の解けた公爵様は、娘大好きな威張らないパパさんだった。アタシは公爵様がすぐに気に入った。紫縦ロール、ちょっとはあんたもパパの謙虚さを見習いなさい!


 アタシは、後ろ髪を引かれる思いで別れの挨拶の声をかける。


「また会えることを楽しみにしてる、マルガレータ」

「マルガよ」

「え?」

「マルガ。お父様お母様と兄上と妹以外、誰にも許してないわたくしの愛称です」


 マルガ……アタシだけが言える愛称。


「マルガ……」

「はい」


 友達だから言える、友達の名前。


「マルガ……マルガ!」

「ふふっ、はいはい」


 声に出す度、喜びが溢れてくる。


「これで丸刈りって間違えないね!」

「あなたまだそれ言いますの!?」


 バカにしたようなアタシの顔と驚愕に目を見開いたマルガの顔。

 いつかのそんなやりとりを久々にやって、お互いの顔を見て。

 やがて「ふふっ、あはははは!」と青空に向かって笑い合った。


「マルガ! アタシたち、ずっと友達よね!」

「当然ですわ、フレイ!」


 そうしてお互いを忘れないよう、しっかり握手をした。


 -


「フレイ・エルヴァーンよ! うちは男爵家なの、よろしく!」


 魔術学園のテストで1組に編入したアタシは、そう宣言してクラスを見渡す。

 すごい、なんかみんな生きてる顔だ。アタシはそれだけで嬉しくなった。


 なんだか真面目そうな生徒が多めだけど、それでもしっかりとした顔つきだ。男子は背が高いの、低いの、髪が長いの短いの。さすがにみんな、なかなか強そうね。女子は、金髪の綺麗なのと、あっマルガみたいな紫髪もいるのね、あと腹立つぐらいかわいい白い子と、ママみたいな緑の髪の子と、あと……。


 クラスの一通りを見て、これからの生活が楽しみになってきた。




「あんた、なかなか強そうじゃない、アタシと勝負しなさい!」


 それは、クラスでなんとなく強そうだからというので目についたヤツだった。


「な、なんだよお前いきなり……勝負って魔術で?」

「そうよ。受けるの? 受けないの? それとも負けるのはいやかな?」

「いきなりだな転学生……いいよ、受けてやるよ!」


 ちょっと挑発しすぎたかな? でもなんとか勝負に引っ張って来ることができた。

 こうやって同級生で魔術をぶつけるっていうの、やってみたかったのよね!

 前の学園では魔術自体おまけみたいなもんで、しかも貴族のお嬢様なので攻撃なんて御法度、下手に怪我させるとパパが大変だし。




 アタシとそいつは放課後外で対峙した。へえ、こうやって見るとなかなか見た感じ強そうじゃない。アタシは杖を構えて「いいよ」と言った。


「よしいくよ……ウィンドカッター!」


 これは見たヤツだ。でもこれはママはもちろん、あのフード夜盗より弱い。魔術学園の服がそのダメージを受ける。

 魔術学園の制服はさすがに出来が良く、体の魔力を使って威力を相殺する。

 そして属性は、それぞれの防御力にも影響を与える。だから、アタシは有利。だけどすぐに魔力が切れるから、速攻で仕掛けなくちゃいけない。


「ファイアボール!」


 とりあえず魔術を撃ってみる。自分の実力を知る良い機会だ。負けるつもりはないけど、撃ち尽くして倒せなかったら魔力切れ。そこから鍛えるのだ。


———結果。えーっと、一発で決まってしまった。アタシは勝った!

 さすがママの子、アタシ強いわね! まあ威力全振りで数発しか撃てないんだけど。

 でも、平民相手にいきなり勝負を持ちかけて叩きのめしたというのは、パパの流儀に反するので、ちょっと反省した。


「えーと、ごめん大丈夫?」

「うう……貴族だからどんなもんかと思えば強いなお前……」

「まあ、スタミナはないんだけどね。ママから魔術を教えてもらってたから使えるのよ」

「なるほどな……」


 次の日からも、アタシは気を良くして他の生徒にも挑むのだった。強くなるんだという思いが強かったし、噂が噂を呼んで他の男子にも挑まれることが多かった。


 アタシは、全ての勝負で勝った。なんだ、アタシ魔術なかなかやるじゃん。

 でも、これではだめなのだ。ママを安心させられない。




 しっかり勉強し、しっかり魔術の調整を終えて……っていいたいところなんだけど、やっぱりちょっと調整は苦手だった。


 教科書に書いてある内容は、発動中は手に注意して、手首に注意して、という感じ。アタシはそこに集中するんだけど、なかなか力を抑えられない。やはりすぐに疲れた。

 それでも使える回数は増えたのだ。そのことをママに報告に行くと、ちょっとの差でも喜んでくれた。


 授業は、真面目に。

 放課後は、実践。


 よし、がんばろう。


 -


 いろんなヤツを相手してしばらく経った日、アタシは一人の生徒に行き着いた。まだ戦ったことない、チェックしてなかったヤツだ。


 レナード。実技一位なのにすっごい地味なやつ。


 そいつは全然強そうじゃないし、普段は一人で本を読んでいるのだ。首を下げたソイツは髪が長くて全く顔が見えない。

 それと、いつもあのふわっとした白い子と一緒にいる……というか白い子が一方的に押しかけてるっぽいんだけど、白い子はアタシと目が合うと、気まずそうに目線を逸らせてそそくさと避けていくのだった。


 ……ちょっと普通そんなに怖がる? 若干ショックなんだけど。




 クラスで多少喋るようになった男子のところに行って聞いた。


「このクラスで一番強いのが、レナードなのよね?」

「レナード……リオのことか。うん、あれはもう圧倒的に一位だよ」

「なるほどなるほど———」


 そう言いながら、リオというヤツの席に行く。


「———で、お前一番強いんだって?」


 挑発気味に言ってみた。———この頃のアタシは、なんていうか天狗だった。


「実技はね、でもそういう勝負とかあんまり好きじゃないっていうか、やりたくないんだけど……」


 リオはそれまでの男子の中でもぶっちぎりで消極的だった。

 さんざん噂になったアタシが今負けナシなのは多分知っていると思うけど、今の発言……消極的ながら『実技は一番』ってことは、暗にアタシより上って自分で思っている。

 アタシは大人にも負けたことはなかった、パパに教えてもらった剣と、ママから受け継いだ魔術! パパとママ以外には、負けない……負けるわけにはいかない!


「ふんっ、余裕ぶってるじゃない! あんたみたいなのはアタシが倒してやるわ、覚悟しなさい!」


 露骨にイヤそうな顔をしているそいつの腕を引っ張って、アタシは学園の練習場所に来た。アンタってばヘナヘナね!


 -


 とにかくその時、その消極的な癖して危機感のない余裕そうな姿に、アタシは頭に来ていた。一気に決めてやる……!


「やるわよ! フレイムブレス!」


 アタシの最大の技! そこいらのクラスメイトでは真似できないママに教えてもらった高威力の魔術!

 風魔術専攻のアンタにはとてもではないけど受け止めるなんて、


「いきなりだな!? ウィンドバリアと……エアロラッシュ!」


 リオの魔術は、ママとおなじ風だった。この攻撃は、見たことある! エアロラッシュ———ママの魔術だ! 何度か一緒に練習した時に見せてくれたのだ。

 アタシのフレイムブレスは、驚いたことにリオの風の壁を破れなかった。有利属性のはずなのに……!


 守りと同時に行った攻撃の、風の塊が叩きつけるようにアタシの体を押す。続きのエアロラッシュを目で追いながら回避すると、目の前のリオは驚いたようだった。しかしそれを見たリオはエアロラッシュの数を増やしたため、体に当たる数が増える。魔力が消耗される。

 しかもこのエアロラッシュ、杖さえ持ってない左手で撃っている……! なんだこれ、つまり防御メインで、完全に片手間で相手されている? でもそのエアロラッシュの威力はママのものに近い。




———杖なしで、同時撃ちで、ママに威力が近い?




 そこから導き出される結論は、アタシにとって絶対に許容できない、頭が理解を拒否するものだった。魔力を消耗した体に力を入れ、ふらつきながらも倒れないように踏ん張る。


「ぐっ……! アンッ、タには……アンタにだけは負けられない! もう一発、フレイムブレス!」


 正直限界だった。でももう一発、意地でも撃つ……!


「見たところ魔力の浪費が激しいというのにここまで高い威力を出すなんて、なんつうバカ魔力だよ……」


 あいつはそう呟くと、風の壁を解除した。どうやら向こうも限界———




「すごいな。出すつもりはなかったけど……ウィンドトルネード!」


———は?




 アタシは、完全に勝った気でいた。だからその魔術に対して完全に油断していたし、まあぶっちゃけ油断していなくても対応できなかっただろう。だって()()()()()()()()だったのだ。

 おまけに正面のリオは最初から最後まで風だの火だの不利属性おかまいなしでまるで余裕って感じだった。ウィンドバリアもどうせまだまだ使えるんだろう。

 むしろ、最後までこちらを怪我させないように遠慮しているみたいに見えた。なんなのこれ、二位以下と全然レベルが違うじゃない……!


 膝をつきながらはっきり確信した。

 認めるしかない。




———ママより、圧倒的に強い。


「ぐうっ……ちくしょう」


 ……これが、魔術学園の、本当のトップ……!




 アタシは、自分が負けたという事実をようやく理解した。


「こ、こんなところで負けている場合じゃないのに……!」


 負けた。

 弱かったから。


 急に頭の中に過去がフラッシュバックし、焦りが出てきた。灰色の男爵、氷の夫人、嫌味なメイド。


 アタシは、強くならなくちゃ、いけない……!


「無理すると怪我するよ、落ち着いて。でも、どうしてそんなにみんなに勝ってまわりたいの?」


 勝つ。勝つ理由。強くないといけない理由。


「……アタシの家は新興貴族で、剣一本で勝ち上がってきたパパの力で大きくなったの。魔術は使えなくて、魔術の使えるママと結婚して、それで男子を授かりたかったみたいなの」


 男子さえ授かれれば、きっと家は最初からああはならなかったんだろうことは分かる。


「でもアタシは女だったし、なんか使用人は女だからとかヒソヒソ言ってるのが聞こえるし、パパは新しいママ増やすし……」


 昔の家の空気だ。アタシが弱かった頃の空気だ。

 負けた今、その姿が頭の中にこびりついている。

 直ったと思ったけど、子爵先生によると男子の跡取りとエリゼママのことは、解決していない。


「でも剣の練習して強くなったらパパは褒めてくれて、魔術が使えたときはアタシのママが褒めてくれて、アタシ、はやく強くならなくちゃもう家にいられなくて……!」


 あの日。あの息が詰まるような、生き物が暮らすにはあまりに苦しい密室が、急に色を持って開けたあの日。あの日がなければ、アタシは今も不機嫌な屋敷の人形だった。

 もう戻りたくない……!


 アタシは、すっかり目の前のヤツに自分の話をしてしまった。

 泣くな、泣くな……!


「でもいきなり喧嘩をふっかけるのはどうなの?」

「……喧嘩じゃないし、決闘だし。ていうかあんたに勝つまで何度でも挑むし」


 ふん……勝てる気は全くしないけど。でも、なんか、こいつの言うこと聞きたくない。

 強くさえなれれば……。




「もう問題起こさないし決闘ふっかけないのなら、多少は教えられるよ?」

「え……?」




 は……? 教え、られる……?


 あまりにも突然すぎる、目の前でアタシが一方的に決闘ふっかけた学年一位からかかった声。一瞬何を言われているのか分からなかった。


「今、胸で呼吸してるでしょ? 息を吸った時に胸の方が膨らむの」

「むむ胸が膨らむってなによスケベ!」


 急に言われてびっくりした。アタシはパパとママの濃厚なちゅーを見てから、えっちなのはめっちゃニガテだった。いつまで経っても耐性がつかない、真っ赤になってしまう。

 ママみたいな胸は欲しいけど! ってちっがーう!


「いやいやそういうんじゃないよ! そうじゃなくて、息を吸った時にお腹を膨らませるの」

「お腹を……?」


 急に変なこと言い出した。息する時膨らむのは胸で、お腹が膨らむのは食べた時でしょ。


「えーと、とにかく仰向けで横になってみて」

「う、うん……」


 なにをするんだろう、えっちなことじゃないだろーな?

 でも正直疲れが溜まっていたので休みたかったし、やっぱり興味があったので抵抗なく横になった。


「お腹に杖を乗せて……よし。それじゃあこの杖、持ち上げるように息を吸ってみて?」

「うん」


 おなか? これを持ち上げるように……意識したことがなかった。わかりやすい説明だった。

 あ、ほんとだ。こっちで息吸うこともでき———


「あっ」


———瞬間、上半身に熱が戻ってきた感覚がある。

 いつもの、魔術を使ったら倒れる寸前という感覚がない。

 喉が渇いて何年も苦しんでいたのに、目の前に泉があったのに気付かなかった感じ。その泉から魔力を掬ってきた感じだ。


 こんなところに、アタシの魔力……! ていうか両手がまるで熱を持ったようになってる! 今アタシ、絶対前より強い!

 アタシは起き上がって叫んだ。


「フレイムブレス!」


 すごい……いつものすっからかんになる全力ぐらいの威力なのに、減ってる気さえしない!

 まだ……まだ余裕がある! 全然いける!


「やった、やったわ! さあこの力でもう一度決闘よ!」

「約束、覚えてるよね?」

「うっ……」


 そ、そうだった……。

 決闘はしない。そして、しなければ魔術を教えてくれる。


「まあ、そんなわけだから……約束守ってくれるなら、しばらく教えるよ」

「い……いいの?」

「いいよ、あまり詳しくは話せないけど、ちょっと先生っぽいことできるんだ」


 教えてもらう方がいいに決まっている。それにどのみち、決闘したところできっと勝てないだろう。

 そこまで考えて、アタシは冷静になった。じわじわと、ママが一番心配していた「魔力切れ」が、今日この一瞬で解決してしまったことを、頭の中で反芻して、反芻して……


 ……体の中から「できるようになった」喜びが染み出してきた。


「やった、やったわ! ありがとうセンセ!」


———やったよママ……!


 正直半信半疑だったけど、あまりにも効果が出すぎでびっくりしている。目の前の地味な男の子、リオは、本物だ。本物の優等生だ……。

 しかもこれ喧嘩ふっかけたアタシに向かって教えてくれたのよね。家のことを喋ったから、かな。それを思うと……同じ年齢なのに強くて優しいリオのこと、アタシは一発で気に入った。あんたいいヤツね!


「じゃあセンセはライバルとして、アタシの超える目標よ! また将来決闘を申し込むわ!」


 あ、また露骨に嫌そうな顔した。一瞬かっこいいかと思ったけどやっぱヘナヘナだこいつ。




 それからアタシとセンセは、ずっと毎日練習することになった。強くなると決めてから毎日いてもたってもいられず、放課後になったら無理矢理練習場所まで引っ張った。———アタシは本当に強くなっていくのが気持ちよくて、アタシとリオのことをいつもちらちら見ている白い子のことはその時は目に入らなかった。


 ママには、魔術、もっともーっと使えるようになってから、びっくりさせるために報告したいな。

 そう思い、アタシは気合を入れ直した。


 -


 アタシは12になった。今日は、アタシの成果をお母様に見せると決めた日だ。


「お母様、成長したアタシのこと、見ててね」

「ええ」


 いつもどおりのニコニコ顔。あれはね、微笑ましいって感じの顔。まあ、キライじゃ、ないけど……楽しみだけどそこまで期待してない、みたいな。娘の成長が見れるのはうれしいわ〜みたいな、ちょっと暢気な顔だ。


 しかし……しかーし! 今日はその顔を今までで一番の驚愕の顔にすると決めたのよ!


「今日のアタシ、違うから」

「え?」

「驚く準備しておいてよね」


 きょとん、としている。よし……やってみよう。


「ファイアボール!」

「……」


 まずは一発。


 お母様は真剣に見ている。それを目の端で確認で確認すると、集中して息を吸う。

 そう。おなかから息を吸う。お腹と胸にそれぞれ片手を当て、深呼吸……。

 体の中にある泉を掬って、いつもみたいに勢いで吹き飛ばさないように、溢れないように、右手に……!


「ファイアボール! ファイアボール! ファイアボール!」


 左手をずっとお腹に当てて、腹式呼吸を意識しながら数度初級魔術を撃つ。

 このへんはまだ普通だ。お母様も真剣な顔になって腕組みをして見ている。

———普段からそういう顔してたらかっこいいのにな、とか思う。


「ファイアウェイブ! フレイムランス! フレイムランス! フレイムランス!」


 お母様が目を少し見開いて、口角を上げている。普段より使っているので感心している顔。


 目が合う。こちらも口角を上げる。お母様はアタシの成長に喜んで、もう誉めようって顔してる。




 でもね! 今日のアタシはそんな顔じゃ満足できないのよ!




 再び目を外す。お母様は少し驚いた顔をして、しかしやがて私が何か覚悟をした目をしているか分かると、真剣な顔になり目線を戻す。


 目を閉じる。集中。

 目を開ける。

 お腹から左手を上げる。もう腹式呼吸は間違えない。2年間リオにずっと教えてもらったんだ。


「バーニングウォール!」


 お母様は、左手で中級魔術を使ったことに驚いた。しかしアタシは、それを維持したまま右手を上げる。


「……ファイアボール! ……ハッ! ヤッ!」


 そこから、アタシはリオに教えてもらった無詠唱初級魔術の連射を行う。もちろん、左手は維持したままだ。


「ッ! ッ! ッ!…………」


 もう無言で右手の杖を振っているだけだ。その間、ずっとファイアボールが出続けている。お腹から吸う。丁寧に掬う。右手からはまだ出る。リオが褒めちぎった、今まで適当に吹き飛ばしていたアタシの魔力の泉、本当に破格らしい。


「フレイムブレス! フレイムブレス!」


 あまりにも今までと違う魔力量に、お母様はすっかりあんぐり口を開けてこっちを見て固まっていた。それよ! いい顔ね!


 ぱちんと左手で指を鳴らし炎の壁を解除し、


「もひとつついでにフレイムブレス!」


 軽く一発撃つ。

 とんとんっとその場でジャンプする。


 そして、驚愕で心ここにあらずって顔しちゃってるお母様の顔に向かって、ニッ、と笑う。


「まだまだ余裕ね!」




「す……すごい! すごいわフレイちゃん!」

 お母様は駆け寄ってきてアタシの顔をぎゅーっとおっぱいの谷間に閉じ込めたと思うと、頭の先に吸い付く感触とともに「ん〜っ!」という声ときゅっぽきゅっぽという音が聞こえてきた。キス魔のママの復活だ。

 正直12歳にもなってこれはめっちゃはずかしいしアタシと身長差ないので腰が曲がってしんどいけど、でもそれ以上にお母様の悩みを自分の力で解決できたのがすごくうれしかった。


———ううん、自分の力って言っちゃダメかな。


 なんだか考えてるうちに、お母様が頭を甘噛みするへんたいママモードになってきたので、お尻をはたく。「やぁん!」なんて声とともにお母様が離れる。


「で、でもどうして? さすがにここまで変わると別人すぎてびっくりよ?」

「んーとね、センセについてもらうことにしたんだ!」

「先生? 学園の先生でいい人でもいた?」

「うーん、あってるけど違うかな?」


 お母様は頭の中で「?」って顔してたので、センセ———リオのことを話した。


「クラスの男子だけどね、教えることできるの内緒にするって約束でいろいろ教えてくれたの」

「まあまあ」

「あ、今言っちゃった。お母様もそいつのこと内緒ね!」

「ん〜? ふふっ、はぁ〜い。ふふっ!」


 なんだかお母様は最後に変な笑みをした。なんだなんだ。








 その日の晩、突然お父様とお母様との食事中に言われた単語をアタシは復唱した。


「騎士学校……?」

長くなりそうだったので魔術学園編分割してもちょっと続きます。

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