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優等生魔術師は隣の芝生の青さに目が眩む  作者: まさみティー
『魔力視』のある優等生魔術師
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アタシと勝負しなさい!

 フローラはあれからよく僕に話しかけるようになっていた、教室に二人で残りながら教科書の話をしていた。ふと今日は、フローラから『魔力視』の話が出てきた。


「そうそう、そのリオくんの魔力視っていうの。珍しいんだって」


 両親がそうだったから普通のことだと思っていたけど、どうも詳細な魔力の動きが見える「魔力視」を持った人はちょっと少なめらしく、僕はそのうちの一人だった。


「うーん……数十人に一人ぐらいなのかな?」


 そう言っていたけれど、それは世紀の大天才とまではいかなくとも、人並みの魔力で凡才だと思っていた自分にとってはなかなか鼻高々な能力だった。


「学校の先生に便利に使われちゃうから言わない方がいいかも? 多分それで黙ってる人多いんだと思う」


 とも言われた。そう言われてみると、確かにその通りだなあと思ったので、僕も「これは秘密にするよ」と言った。


「えへへ、じゃあ知ってるのは私だけだね!」


 そう言って機嫌良く笑うのだった。


 練習熱心な彼女はいつも同じ練習場所に僕を誘い、そこで二人で練習した。といっても自分はもうある程度使い方が分かるというか、何をすればいいか分かるので、よくフローラの練習を見ていた。

 彼女の飲み込みは早く魔術の威力も上がったけれど、やはり「目立たない方がいいよね」ということで実技ではそこそこの威力の魔術を使っていた。


 -


 10歳の時、編入生が来た。


「フレイ・エルヴァーンよ! うちは男爵家なの、よろしく!」


 赤い髪を短くした、背の高い女の子だった。彼女も魔力量が非常に多い……。貴族らしいからそういう血筋というやつだろうか、燃えるような光を纏っている。

 フレイは休憩時間、クラスで生真面目な雰囲気で背の高い男子のところに行くと、


「あんた、なかなか強そうじゃない、アタシと勝負しなさい!」


 と、突然そんなことを言った。


 指名された生徒は突然のことで怪訝な顔をしていたけど、フレイの挑発が続いてその気になったのか、放課後には二人で外へ行った。


 後日話を聞くと、フレイが勝ったようだ。


 フレイはそれからというもの何かにつけては男子に勝負を挑み、そして勝っていった。負けた男子の話によると、負けん気が強いというか、とにかく意地でも勝つという気迫があるらしい。クラスの男子からも彼女の方に勝負を持ちかけたけど、みんな返り討ちにしてしまったようだ。




「———で、お前一番強いんだって?」


 クラスの一通りのメンバーに因縁をつけていたその子が、実技で一番を取っていた僕に喧嘩をふっかけるのはそれを考えれば時間の問題だった。僕はやりたくないので避けようとしたつもりなんだけど、


「実技はね、でもそういう勝負とかあんまり好きじゃないっていうか、やりたくないんだけど……」

「ふんっ、余裕ぶってるじゃない! あんたみたいなのはアタシが倒してやるわ、覚悟しなさい!」


 かえって相手を逆上させてしまったようだった。うまくいかないなあ……。


 -


 彼女は強引に練習場所まで腕を引っ張って、僕からある程度離れるなり「やるわよ!」といきなり宣言して杖を高く上げた。


「フレイムブレス!」


 彼女の魔術は確かに強力で、その髪の色のような燃える炎を広い範囲に吹き付けた魔術の威力は、中等部でもやっていけそうな実力はあった。


「ウィンドトルネード!」


 ただ僕の魔術が上を行っていたようで、その場での勝負はこちらに軍配が上がった。いざとなると自分も結構負けん気が強いなと思ってしまうぐらい、相手より強い魔術を使おうと本気になった。


 しばらく彼女が魔術を使い、僕が防ぎつつ魔術を重ねるという展開が続き、やがてフレイの魔力が切れて魔術が出なくなり息切れしながら


「ぐうっ……ちくしょう」


 悔しそうにフレイは膝をついた。


「こ、こんなところで負けている場合じゃないのに……!」


 悔しそうな顔をするフレイは、もう体内の魔力が残っていないのに、杖を支えにして立ち上がろうとした。負けず嫌いではあるけれど、正直ここまで意地になるとは思わなかった。僕は心配になって駆け寄った。


「無理すると怪我するよ、落ち着いて。でも、どうしてそんなにみんなに勝ってまわりたいの?」


 その疑問をぶつける。


「……アタシの家は新興貴族で、剣一本で勝ち上がってきたパパの力で大きくなったの。魔術は使えなくて、魔術の使えるママと結婚して、それで男子を授かりたかったみたいなの。でもアタシは女だったし、なんか使用人は女だからとかヒソヒソ言ってるのが聞こえるし、パパは新しいママ増やすし……。

 でも剣の練習して強くなったらパパは褒めてくれて、魔術が使えたときはアタシのママが褒めてくれて、アタシ、はやく強くならなくちゃもう家にいられなくて……!」


 まくし立てるように言ったフレイは、うっすらと涙が浮かんでいた。喧嘩をしかけているうちはなんと乱暴な子だと思っていたけど、彼女にも彼女なりの深い事情があったんだ。

 ……ほっとけない、よね。こういうのって。


「でもいきなり喧嘩をふっかけるのはどうなの?」

「……喧嘩じゃないし、決闘だし。ていうかあんたに勝つまで何度でも挑むし」


 そう言って首を横に向けて、ツーンという態度を取る。反省する気は全くなさそうだった。だから、僕はこう言った。


「もう問題起こさないし決闘ふっかけないのなら、多少は教えられるよ?」

「え……?」


 僕は彼女の魔力の独特な位置を見ていた。上半身より下半身に強い力が溜まっているようだった。先ほどからその上半身の薄い魔力だけを使って、下半身は溜まった魔力をそのまま散らせるような使い方をしているので、恐らく無駄が多いんだと思う。


「今、胸で呼吸してるでしょ? 息を吸った時に胸の方が膨らむの」

「むむ胸が膨らむってなによスケベ!」

「いやいやそういうんじゃないよ! そうじゃなくて、息を吸った時にお腹を膨らませるの」

「お腹を……?」


 慌てて訂正しながら、フレイに丁寧に説明していく。


「えーと、とにかく仰向けで横になってみて」

「う、うん……」

「お腹に杖を乗せて……よし。それじゃあこの杖、持ち上げるように息を吸ってみて?」

「うん……あっ」


 さすがに負けず嫌いの決闘でここまで勝ち上がる実力がついた天性のセンス、彼女自身が何か感じたようだ。


「これ……これわかる! アタシ今なんかすごい! すごく強くなってる気がする!」


 彼女はがばっと立ち上がり、急いで右手に杖を持つと、


「フレイムブレス!」


 と叫び杖を高く持ち上げた。そこには先ほどより明らかに大きな炎が広がっており、先ほどの疲れを吹き飛ばすような勝ち気な笑顔でこちらに杖を突きつけてきた。


「やった、やったわ! さあこの力でもう一度決闘よ!」


 いきなり約束を破る気満々だった。


「約束、覚えてるよね?」

「うっ……」

「まあ、そんなわけだから……約束守ってくれるなら、しばらく教えるよ」

「い……いいの?」

「いいよ、あまり詳しくは話せないけど、ちょっと先生っぽいことできるんだ」


 この交換条件で受け入れてもらえるかな?


「やった、やったわ! ありがとうセンセ!」


 初めて笑った顔を見た気がする。こうやって見るとかわいい顔をしているのだけれど、大体いつも怒ったような顔をしているのでもったいないなあとそんなことを思っていた。これで、クラスの問題が解決する……決闘もしなくなるだろう。


「じゃあセンセはライバルとして、アタシの超える目標よ! また将来決闘を申し込むわ!」


 前言撤回。彼女の勝負癖は直らないかもしれない……。

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