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優等生魔術師は隣の芝生の青さに目が眩む  作者: まさみティー
『魔力視』のある優等生魔術師
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君は左利きでしょ?

 魔術師、それは魔術を使う人の総称。魔術師は、親に教えてもらったり学園で習ったりして魔術を使うようになる。強い魔術師は、もちろんみんなの憧れの的となる。


 僕は魔術学園に通う初等部のレナード。みんなはリオと呼ぶ。成績はいまのところ実技1位の優等生だ。「いまのところ」という表現をするにはもちろん理由がある。その理由は———


-


 まだ幼少で覚えているか覚えていないかのあやふやな頃、両親は僕を見て「練習すれば芽は出るとは思うけど……」と言葉を濁して言っていた。

 その意味は分からなかったけど、ただその時、どこか困ったような顔をしていたのが頭に残っている。


 物心ついた頃には、両親から魔術を学んでいた。自分の体内に見える魔力を操るのは面白く、魔術をかなり扱えるようになっていた。使えるようになるのも楽しかったし、できるようになって喜ぶ両親を見るのも嬉しかった。

 僕が優秀だったのか、それとも両親があまり魔術の種類に詳しくなかったのか、2年で教えられる魔術がなくなったと言った。





 一人息子として外に出さずに大切に家の中で育てられていた僕は、4歳の時、初めて街に連れて行ってもらった。


 走り回る子供。お店の人。兵士の人。

 街にはいろんな人がいた。

 いろんな人の体の中に、ふわっとした色があった。そのことを聞くと、父は「それは魔力だよ」と言っていた。その時に母は「いい成績は出しやすいかしら」と楽しそうにしていたのを覚えている。


 魔力。


 どうもこれは魔術師だから大きいとか、小さいとか、そういうのはあまりないようだった。じゃあ何だろう、生まれ持った才能? がんばったら大きくなる? わからないなあと思いながらも、いろんな人を見ていた。


 比べて分かったのだけれど、僕の魔力は……大体中の下ぐらい。


———練習すれば芽は出る。

 その意味を幼いながらもようやく理解できた。つまり僕は、『平均的な凡人』だった。ただし、自分の魔力の扱い方は目で見える分うまくできた。

 だから自分は『凡才の優等生』といった感じだったのだ。


 魔法を使わないけど、魔力の高い市場の人やパンを売っている人を見て、うらやましいな、と思っていた。


 -


 6歳になると、魔術学園初等部に入学することになった。両親の希望であり、僕自身も入りたいと思っていた。


 学園に入ってまず入学生は外の広い場所に集められ、杖を配られた。

 配られた子たちは杖を不思議そうに見たり振ったりしているたけど、一通りに行き渡ると、そこで先生が手を叩いて注目させ、発言した。


「はい、それではまずは魔術の選択から始めましょう。まずは自分に合っているかな? と思うものを感覚で選んでみましょう、それがあなたに一番合っている属性になります」


 そして杖を振って、ふわりと風を起こす。「おお」「いまの魔術?」と周りから声が聞こえる。


「はい、これが魔術ですよ。くれぐれも、一つを極めるまで、他の魔術に浮気しないようにね。特に、火魔術と水魔術などは反しますから、あっちを使ったりこっちを使ったりしないように」


 先生はそう言って、魔術の割り振りをさせた。中には親などに教えて貰って既に使えるようになっている子もちらほらいた。

 かくいう僕も両親から魔術をしっかり習っていたけど、とりあえず授業で使う魔術は風にした。ただ、いまひとつ自分に合ったものが分からなかったし、どれにしても大差ないように思えた。


 意外なことに、大した魔術が使えないと思っていた自分は、周りの既に使える子と比べるとかなり大きめの魔術を使えた。

 凡人かなと思われた初等部入学テストでは、一番の成績となった。にわかに周りが騒がしくなる。


———優等生、神童、大人びている、この子は———るかもしれな———。

 ざわざわとした中では一部聞き取れない評価もあったけれど、まさか褒められるとは思っていなかったのでとても嬉しかった。魔術を教えてくれた両親が誇らしかった。

 そのことを言ったら有名な人なのかと先生が聞いてきたけど、両親の名前を出しても、「その人達は知らないですね、普通の方なのでしょうか」と言っていた。


 -


 一通り入学テストからのクラス分けが終わり、僕は自分の振り分けられた一組に入った。最後に先生が来てから、まずは自己紹介をしましょうと言った。一人ずつ紹介が進んでいく。

 僕は、


「レナードです。気軽にリオと呼んで下さい、よろしくお願いします」


 と言い、拍手とともに先生から「彼は実技一番だった生徒ですね」と一言紹介さた。「おおー」とクラスメイトの声が湧いたものの、すぐにその波も収まると、自己紹介は次の生徒に移っていった。


 何人か自己紹介していく中で一人、「目を惹く美女」という言い方は6歳の子供に対してするには不適切だけど、そう表現していいぐらいに綺麗な子が立ち上がった。

 白い髪、白い肌、青空のように澄んだ眼。きらきらしていて、周りの女子も「わあなにあれ」「おにんぎょうさんみたい」と小声で言っているのが聞こえてきた。


「フローラです! えっと、北のほう?からきました! よろしくです!」


 想像していたよりも明るい声で彼女はフローラと名乗った。


 見た目に反して明るくおしゃべりな彼女はすぐに女子グループと仲良くなり、思春期前の男の子からちょっかいをかけられた。まあいわゆる好きな子ほどいたずらしたいというやつかな?


 しかし僕が彼女に対して思った第一印象は違った。


———魔力総量が信じられないほど大きい。


 持って生まれたものがあまりに違いすぎる。あれが才能のある子か……すごいなあ。凡人の自分とは大違いだ。

 やっぱり周りのみんなも、それに惹かれて近づいているのかな?

 そんな様子を、遠巻きに見ていた。


 フローラは自分が明るいから合うんじゃないかなという理由で火を取っていた。


 -


 魔術の練習は、学園の広い敷地で自由にできるようになっている。なので学園の授業が終わった放課後などは、ちらほら復習の練習をしている生徒がいた。

 その日、たまたま外を歩いていたら、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ファイアボール! ファイアボール! う、うまくいかないなあ……」


 放課後、彼女は一人いた。

 意外と練習熱心な彼女は、ずっと右手から魔術を使い続けていた。

 ただ……なんだろう、すごく使いづらそうにしている。実際に彼女の魔術威力は、その魔力量に比べて一組ギリギリというほど低かった。


 よく観察してみると。全身の体内にある魔力が、右手から……右手から、少し吸ってる? そして軽く左手から漏れ出ている。

 もしかして……


「ねえ……」

「ほえ?」


 フローラがくるりと振り返ると、その青い瞳に自分が映り込む。思えば入学当初から周りに人がいたため、こうやって話しかけるのは初めてだった。


「あっ、えーっとリオくん! であってるかな?」


 名前を覚えて貰っていたようだ。ちょっと嬉しい。


「うらやましいなー、入学実技1位だったよね、そんなすごいのでないよ、いいなーいいなー」

「いや、僕はそんな大した魔力じゃないよ、君の方がすごいよ」

「あーっ、いやみってやつだ! ママがいってたもん」

「ち、違うよ! そうじゃなくて」

「火の魔術がうらやましいんでしょ! それって『となりのケバブは赤い』ってやつだよ!」

「絶対違うよそれ!?」


 なんだか変な方向に会話が行こうとしていたのであわてて修正した。


「そういうことが言いたいんじゃなくて!」

「じゃあ、えーっと……ひょっとしてここ使う?」

「ううん、そうじゃないよ。ただ気になったことがあって」

「きになったこと?」


 そう、先ほどから気になっていたその疑問をぶつけてみる。


「どうして左手で持たないのかなって」

「えっ?」

「だって君は左利きでしょ?」


 そう言って杖を指さした。ところがフローラは首をかしげて「ちがうよ?」と言った。おかしいなと思ったけど、フローラは半信半疑になりながらも左手に杖を持ってみてくれた。


 そのままちょっと緊張した面持ちで、


「ファイアボール!」


 と、まずは一回使った。

 その魔術は、さきほどのその魔術の威力より低かった。最初に使ったものと比較すると、6割ぐらいかな?

 だが、見た感じ魔術がすっと出ているように見える。


「あれ……?」


 彼女自身も気がついたようで、


「ファイアボール!」

「ファイアボール!」

「ふぁいあいあ! かんじった……エヘヘ。」


 その反応とはにかんだ笑顔に、なんだか胸がふわっと浮き上がったような変な気持ちになった。今の顔を見られたくなくて思わず顔を背けてしまったけど、ちょっとシツレイだったかな?

 そしてフローラの魔術は数度やっているうちに、8割、9割となり、


「ファイアボール! あっ……今の、さいごのやつ! 右手のときより大きかった! 大きかったよね!?」


 と言いながら再び練習を始め、最終的には右手で持っている時の3割ほど———クラスの平均以上の大きい火の魔術を使うようになった。


「うーん、でも、私左手でスプーンとか持ったことないよ。どうしてわかったの?」

「だって左手に魔力が流れてたし。さっきは右手振りながら吸ってて、左手から魔力が漏れてたのが見えたよ」

「み……みえた?」

「見えないの?」

「ま、まりょくのこと?」


 魔力の流れを教えたら、そのことにフローラは感動したようで、


「すごいすごい! わたしぜんぜんみえないよ!」


 そう言って嬉しそうに飛び跳ねて、僕の両手を握りしめた。どうやら、この魔力というのはみんなに見えるものじゃないみたい。初めて知ったことだった。

 だけどそんなことを冷静に考えてる余裕もなかったぐらい、彼女の急な行動に再び心臓が跳ね上がって息苦しくなる。


「すごいなあー……。……そうだっ!

 ねえねえ、これ二人だけの秘密にしない?」


 上目遣いで「ね?」と言いながら僕を見ていた。雪のように白く小さい手が、僕の両手をふよふよと揉んでいる。柔らかい。僕は言われたことを咀嚼しながらも頭は手の柔らかさでいっぱいで「う、うん……」と曖昧に答えて、目をそらすしかできなかった。顔が熱い。なんでだろう。


「ところで……」


 その未知のこそばゆい感覚逃れるように、もう一言かける。


「まだ何かあるの?」

「どうして火魔術の練習してるの? 体の魔力は水の色してるのに」

「そうなの!?」


 そう言って、彼女は再び杖を持って水魔術の練習を始めた。

 結論から言うと、ファイアボールの比較にならないほど威力が出ていた。ただ目立ってしまうと僕の魔力を見る目がばれてしまうかもしれないと言っていたので、授業の属性変更は行わずにこのことを二人だけの秘密ということにした。


「お互いヒミツ持ちだね!」

「あはは、そうだね」


 そう言って笑い合った。

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