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あたしたちが「おでん」です。  作者: 千葉あんず
15/30

第15話、おでん絶賛発売中


 ――ふぁーあ……あっという間に翌日んなっちゃったし……


「ふあー、まだ眠くてアクビしまくりみたいなボクみたいな……」


「ねえ、みんな!! ちょっと聞いて!!」


 ――って、うわ! おるこちゃん、登校したバッカリの朝から教室にある教壇に仁王立ちとかブチかましちゃってるし!


「ボクは眠気がイッペンに飛んでっちゃったし!」


 ――今は朝のホームルームが始まる直前の頃合いだったりするんだけど……


 そんな朝のひと時の中、河鹿薫子は、我が2年2組の教室にある教壇に立っていたりする。


 そして、登校してきたクラスメイトたちに向かって大声を張り上げているのだった。


「教室の後ろにある掲示板にポスター貼ったから!! みんな、ちゃんと見るようにしてほしいの!!」


 ――おるこちゃんは演劇部の部長さん……演劇部で鍛えた大声炸裂しまくりみたいな……


「ん? バンドコンテストだと?」


 ――うわっ! うわっ! おるこちゃんが教壇に仁王立ちヤラカシちゃってる真っ只中に……


「よりによってさ、ガンジー登場だし!」


 ガンジーとは我がクラス担任である三浦教諭のニックネームだったりする。


 ――やばい! やばい! やばい!


「頑固一徹で堅物なガンジーせんせぇー来ちゃったし!」


「おい、こら、河鹿! 俺の許可なく勝手にポスターなんぞ貼りやがって!」


 ――大変だ! 乱暴なガンジーせんせぇーだし!


「いましましい! こんな目障りなもんなんて剥がしてやる!」


 ――きっと、ぐちゃぐちゃに丸められてゴミ箱にポイされちゃうし……あぁーあ……


「ガンジーせんせ? そのポスターを剥がす前に、ちょっとイイですか?」


「おう! 河鹿、何だ?」


「そのコンテストは南習志野教育委員会が主催で、そのポスターには南習志野教育委員長からのコメントが印刷されてるんですけど……」


「あ? 河鹿? 何だと?」


「それに、そのコンテストには南習志野市役所が協賛してて、そのポスターには南習志野市長の飯山満市長からの協賛コメントも印刷されてるんですけど」


「あ゛、ホントだ! しがない下っ端田舎公務員の俺からしたら……雲の上におわす御歴々の御言葉だらけじゃないか!」


「ガンジーせんせぇー? このポスター、容易く邪険に扱って大丈夫なんですか?」


 ――ポスターを剥がそうとしているガンジーに、シレっと突っ込みコメントを入れまくりみたいな、おるこちゃんみたいな……


「ちっくしょぉー! 剥がせねぇー!」


 ――なんて、我がクラス担任のガンジー先生……


 彼は、まるで欲しいものを買って貰えない子供みたいな様相で、ジタバタ、ドタバタ、激しく地団駄を踏んでいる。


「ガンジーせんせぇ?」


「お……おう、河鹿、今度は何だ?」


「あたしたち、おでんっていうバンドでソレに参加するんですけど……」


「おでん? ああ、確かに、そんな名前のバンドもポスターに印刷されてるな……」


「ガンジーせんせ? 御歴々コンテストに参加するあたしたちのバンドのために……ガンジーせんせはチケット、何枚買ってくれますか?」


 ――げっ!! おるこちゃん、何てコト言いだしちゃうかな!? 


 河鹿薫子が発した言葉に我がクラスメイト全員は、なぜだか、揃いも揃ってガンジー先生を凝視し始めたのだった。


 ――っていうか、ガンジー先生は買うわきゃないって!! だってさ、校内で物品の売買なんて禁止されてるんだしさ……


「河鹿バンドが参加する雲の上コンテストの御歴々様々チケット……1枚500円で格安リーズナブル……」


 ――ガンジーこと、我がクラス担任の三浦教諭は……


「しかるに、俺の財布の中身の鑑定はいかに? って、ああ、何てこったい……」


 ――彼はクラスメイト全員の視線を浴びつつ……


「ああ……俺はしがない下っ端の地方公務員……俺の財布の中身もリーズナブル……」


 ――なんて、グダグダと独り言を宣いながら……


「ガンジーせんせ、長年をも使い込んでいる様子でアチコチ傷みも激しい財布の、その中身を、何だかゴソゴソと漁ってるみたいな」


「河鹿、すまん……」


「え? ガンジーせんせ? まさか? えぇー!? そんな、まさかですよね!?」


「いや、面目ねぇ……河鹿、ほんっとにすまない……」


「まさか、そんな……ガンジーせんせは買ってくれないとか言っちゃいます?」


「いやいや、河鹿、早合点するな。お前が持ってる雲の上コンテストの御歴々様々チケット、俺は喜んで買うぞ! いや、買わせてくださいって、俺は御歴々様々の皆々様にな、お願いしたい位なんだぞ!」


 ――っていうか、買うの? ポスターを剥がそうとして怒りまくってたガンジー先生なのに?


「河鹿、あのな……俺はしがない下っ端の公務員だから……」


 ――あれ? ガンジーせんせ……見る見るうち、何だか涙目になっちゃったみたいな?


「ガンジーせんせぇー? だから、何ですか?」


 ――うわぁ……財布の中を見つめながら、シコタマのこと、スコブルをも、激しく涙目炸裂ちゃんでウルウルしまくってるガンジー先生だし……


「そんなガンジー先生を眼光鋭く仁王立ちしたまま見据えてるみたいな、肉食系女子炸裂おるこちゃんみたいな……」


「河鹿、あのな……だから、今の俺は懐が寒いんだ……」


 ――あぁーあ……ガンジー先生、財布を持つ左手がプルプル震えだしちゃったみたいな……


「河鹿、あのな、今は5枚しか買えない俺を許してくれ」


「うわ! ガンジー先生、本当に買ってるし! おるこちゃんに2500円を手渡してるし!」


 ――んで、おるこちゃんからチケット5枚受け取ってるガンジー先生だし。っていうか、どうして5枚も買うんだか訳ワカンナイし……


「ガンジーせんせは気づいてないから付け足して言うと……」


「何だ、何だ、何だ? 今度は何だ、河鹿?」


「えっとですね……あのですね……」


「河鹿! 勿体振らずにサッサと言ってくれたまえ!」


「ポスターの右下の片隅に、我が南習志野中学校の校長先生が掲示許可をくれたハンコが、ちゃんとバッチリ、しっかり押してあるんですけどぉ……コレ、ちゃんと学校公認のポスターなんですけど」


「うがぁー!! ホントだ!! 気づかなかった俺!! ちゃんと気づけよ俺!! というか、無闇矢鱈と邪険に剥がさなくて良かった俺ぇー!!」


「ガンジーせんせ? もっとチケット買ってくれてもイイんですけど……」


 ――うぅーわっ! イケイケおるこちゃん……


「しがない下っ端公務員な俺ぇ……御歴々の皆々様がおわす雲の下に生えるペンペン草でしかない俺ぇ……そんなんだから、今は財布が空な俺ぇ……」


「ガンジーせんせ、あたし、まだまだチケットいっぱい持ってますから……遠慮なんかしないで、まだまだ、激鬼バリ、どんどこ買ってくれても大丈夫なんですけど」


 ――なんて、おるこちゃん、すっかり押し売りセールスレディになっちゃってるし!!


「今はムリ俺ぇ……昼休みに定期預金解約しなくちゃ俺ぇ……でもって、御歴々の皆々様のためにチケットもっと買わなきゃ俺ぇ……」


 ――あぁーあ……質実剛健極まりない強者ガンジー先生がシドロモドロになっちゃってるし……


「とほほ……俺は疲れた。朝から酷く気疲れした」


 ――あれ? 朝のホームルームもしないで……


「師走の歳末に来て、かれこれ、今年一番の疲労困憊が、朝っぱらから、冬将軍も顔負けの世知辛さブっ千切りだ」


 ――ガンジー先生は教室の最後部にある引き戸を開けてるし……


 ガンジーこと、我がクラス担任の三浦教諭、引き戸を開けるな否や、

「今朝のホームルームは自習にする」

と、訳ワカンナイ宣いを残したと思ったら、彼は廊下に出ると引き戸を閉めてしまったのだった。


「何だ、そりゃぁー!? 朝のホームルームが自習って、スコブルをもシコタマのこと有り得ないし!!」


 ――っていうか、ガンジーせんせ、朝のホームルーム拒否って逃亡しちゃったし!!


「はい、はい、はい。せっかくガンジーから自由時間を貰ったんで、あたしたちのバンド、おでんの説明しちゃいたいんですけど……あは、えへ、うふ」


 ――おるこちゃんはおるこちゃんで、チャッカリとバンドの営業を始めちゃうし……


「しめしめ、あたしの目論見どおりに面白いことになってきたわ」


「うわ……あの、デンちゃん?」


「え? 浅間君? どうかしたの?」


 ――うわぁ……我がバンドのリーダーをしてるデンちゃんも、ある意味、『ブルータスお前もか?』みたいになってるし……


「おるこちゃんがフラグ立つイベントを抱えたなら……」


 ――ニッチもサッチも、どうにも……


「予測不可能な波乱万丈がアッチコッチから転がってくるしかないみたいな? しかも、そんな波乱万丈にボクは巻き込まれて苛まれるしかないみたいな?」


 ――あぁーあ……ボクはバカ避け対策を急いで用意しなくてはいけない羽目に陥っているみたいな?


 そして、そんな羽目に両足がハマりつつある自分の行く末を危惧するばかりのボクだった。



「うっわぁー!! 生徒会役員会に遅刻だし!! 役員会に大遅刻しちゃったボクだし!!」


 ――今は放課後になっててさ、今日の全ての授業は終わってたりするんだけど……


「生徒会副会長のおるこちゃんから怒られちゃうし!!」


 今日は生徒会役員会と呼ばれる集まりがある放課後だったりする。


「その生徒会役員会に、生徒会長のボク、またまた遅刻しちゃったりしたりしてるみたいな」


 ――実は、美術部の部長をしていたりするボクだったりして……


「ちっとも部活に顔出さない美術部顧問の千津先生の代わりに……」


 ――エアブラシって呼ばれる道具の使い方の説明に夢中になっちゃって……


「美術部の後輩たちから質問された絵の描き方を説明してたボクみたいな。あまりにも夢中になりすぎちゃったみたいな」


 そんなこんなで、気がついたなら、生徒会役員会の開始時刻から、もう、小一時間近くをも遅刻してしまっていたボクだったりする。


 ――どっひゃぁー! ニッチもサッチも、どうにも、ボクは大慌てアタフタみたいな!


「ホントはね、廊下は走っちゃダメなんだよ」


 ――なんて言いつつ、思い切り廊下を全力疾走かましまくりなボクみたいな……


「美術部が部活する美術室は1階にあるし、生徒会の拠点である生徒会室は4階にあるし」


 とにもかくにも、ボクは全力疾走の一段抜かしで階段を駆け上がっていた。


 そして、やっとこさっとこ、生徒会室がある廊下に踊り出たのだった。


「っていうか!! 何じゃコリャぁー!?」


 ――ボクが駆け上がっていた階段から直線距離にして、概算っていうか……


 大雑把に言うと30メートル程度離れた場所に生徒会室があったりする。


「何だ、こりゃ? イキナリ意味不明な行列が出来てるみたいな? しかも、その意味不明な行列の先頭は生徒会室みたいな?」


 ボクは何気なく、自分が駆け上がっていた階段、その後方へ振り返ってみた。


 ――生徒会室から伸びている行列、ボクが居る階段まではアバウト30メートル……


「それに加えて、ボクが居る階段から後方まで行列が伸びちゃってるみたいな……生徒会室から発生している行列100メートルみたいな?」


 ――いやはや、生徒会室から伸びている行列は何十人の行列どころか……


「少なく見積もっても……えっと、えっと……えぇー!? 100人以上の皆さんが並んでるみたいな!?」


「ああー! 秋ちゃん生徒会長だ!」


「きゃー! 美少年女装男子美少女の秋ちゃん生徒会長!」


「チケット買いに来ました」


「あたしも買いに来ました」


 ――え゛? もしかして、もしかしたら、この行列……


「オレも買いに来ました」


 ――まさか、おでんが参加するバンドコンテストの入場チケットを買う行列なの?


「今日も秋ちゃん生徒会長、メチャクチャ可愛いぃー!」


「ホント、秋ちゃん生徒会長、美少女みたいな美少年でマジ可愛い!」


 ――可愛いって、今ボクは女装してないんだけど……


「あたし、彼氏と一緒に秋ちゃん生徒会長の歌を聴きに行きますから、チケット2枚買いますから」


「俺は4枚買います! 俺と彼女の分2枚と、俺の姉貴と姉貴の彼氏の分2枚、合わせ4枚買います!」


 ――っていうか、ちょっと待ってよ……


「校則違反を生徒会役員が……」


 ――生徒会副会長が先頭切ってヤラカシちゃってるみたいな?


 そう、我が南習志野中学校に限らず、大抵の公立中学校では、敷地内にて物品などの売買、その類いは原則的に禁止されていたりする。


「いや、もちろん、正式な手続きを経て、ちゃんと学校側の許可を得たなら大丈夫なんだけど……」


 ――でもさ、あの大雑把極まりない性格のおるこちゃんが、そんなメンドくさい手続きを踏むわきゃないし……


「あぁーもう!! おるこちゃん、こんなに重大な校則違反とかヤバイって!!」


 ――今直ぐに、このトンでもない校則違反をヤメさせなきゃ!!


「おるこちゃん、厳罰を食らっちゃうし!!」


 ボクは慌てふためきつつ、走ってはいけない廊下を力の限り走らざるを得ない羽目に陥っていた。


 ――とにもかくにも、再び全力疾走をやらかして……


 やっとこさっとこ、息も絶え絶えに、ボクは生徒会室に辿り着いたのだった。


「これは、これは、浅間秋生徒会長ではありませんか」


 ――うっわぁー! いきなり校長先生と鉢合わせだし!


「ニッチもサッチも、今は一番会っちゃいけない校長先生が……」


 ――我が校の最高権力者が生徒会室入口扉の小脇に居ちゃったし……


「あぁーあ……The end of おるこちゃんみたいな?」


「浅間生徒会長? 僭越ながら、私が手配させて頂きました写真家による撮影は、もう終わったのですか?」


「へ? 校長先生? 撮影って……それ、何のことですか?」


 ――っていうか、あれ? 校長先生、スーツの上着の上にゼッケンを身に着けてるみたいな?


 校長先生が身に着けているゼッケンを見たボクは、

「アンビリバボぉー!!」

と、思わず声を大にして激しくリアクションするしかなかった。


 ――だってさ、『祝、おでん、南習志野中学校代表出場』とか書いてあるし!!


「私的に参加したバンドコンテストなのに、勝手に学校代表出場っていう、知らないトコで公的な扱いにされちゃってるとか、さっぱり訳ワカンナイし!!」


 ――それにさ、『南習志野中学校の皆で応援しましょう』なんてことも書いてあるし!!


「ニッチもサッチも、どうにも、学校を代表してバンド合戦に出場なんて、ボク、初耳だしぃー!!」


 ところで、校内でチケット販売をしているのは、実は、よりによって、校長先生と教頭先生だったりする。


 ――んでさ、各学年の学年主任の先生3人も、校長先生と教頭先生からの指示命令を受けつつ……


 行列を作る生徒の皆さんへ忙しそうにチケットを販売していたりする。


「えぇー? 南習志野中学校代表出場とか、校長センセが先頭切ってチケット販売とか……何がどうなっちゃってんだか木っ端ミジンコに訳ワカンナイし……」


 ――っていうか、あれ? そういえば、おるこちゃんが居ないみたいな?


「てっきり、生徒会副会長のおるこちゃんがチケットを密売してんだと思い込んでたのに……あれれ?」



「浅間美術部部長! 我が校を代表して出るからには、もう絶対に優勝しなくちゃダメよ! 何しろね、美術部の面子にも関わってくるんだから!」


「って!! 千津先生だし!! だから、我が校代表なんて聞いてないし! それに、おでんのバンド活動は美術部に無関係だから、全然、全く美術部のメンツ関係ないし……」


 ――ってかさ、美術部ホッタラカシちゃって、何をやらかしてるんだか!! チケット販売の行列に並んでないで、ちゃんと美術部の面倒みてくんなきゃだよ!!


 いやはや、よくよく見渡したなら、行列を作る生徒に混じり、よりによって、教職員の皆さんもチラホラと並んでいたりしたりする。


 ――ちなみに、千津先生はね、我が美術部の顧問をやってる美術科の先生なんだよ……


「おう! 浅間生徒会長! 今朝の約束どおりな、俺は昼休みに定期預金を解約してきたからな!」


「って、我が担任のガンジー先生も並んでたし!!」


「朝間、とにかく俺に任せとけ! なぁーに、何十枚だってチケット買ってみせるぞ俺は! でもって、俺は我が校に貢献あまたで、俺の勤務評価アゲアゲ確実だぞ!! まあ、というわけで、俺の昇進も間近だよな……がはははは!!」


「あぁーあ、どんだけ的外れな夢物語を語ってんだかな、このオッサンは……」


 ――っていうか、おるこちゃんはドコ?


 生徒会室の室内を見渡しても見当たらないし、生徒会室前に出来上がってしまっているチケット販売ブースにも見当たらない河鹿薫子だった。



「やっと見つけた! 浅間君、何やってるのよ! 約束の時間どおり、ちゃんと生徒会役員会に来なきゃダメじゃんか!」


「え? あれ? その声はデンちゃん?」


 声がした方に振り返ったボクの視界には、思ったとおりに田頭久美子ちゃんの姿があった。


「っていうか、そのドレスみたいな、ステージ衣装みたいなソレは何なの?」


 ――デンちゃんは学校の制服を着ておらず、とてもボクたちみたいな子供には買えないような……


 そう、見るからに高そうで艶やかなステージ衣装の様なものを身にまとっていたのだった。


「良かったぁー! やっと浅間君を見つけたよ! 一時間以上も生徒会役員会に遅れて、今頃んなって生徒会室に来るとか、時間にルーズ過ぎだよ!」


「って、うわぁー! エザちゃんもさ、デンちゃんとお揃いのドレス着ちゃってるみたいな……」


 ――エザちゃんっていうのはね、我がバンド「おでん」のメンバーで、江澤さんっていうのが本名なんだよ……


「主役の浅間君が居ないから撮影できなくて困っていたのよ」


「って、どわっ! トベちゃんまでデンちゃんとお揃いのドレス着ちゃってるしぃー!」


 ――トベちゃんもね、我がバンド「おでん」のメンバーで、本名は卜部さんっていうんだよ……


 田頭久美子ちゃんを初め、江澤さんに、卜部さん、三人お揃いのドレスを着込んでいる。


 ――そのドレスは、解り易く例えるなら……


 東京の秋葉原界隈にありがちなメイド喫茶、その店内に居がちな店員メイドさんが着ている衣装の様相だったりする。


「っていうか、三人が着ているブラウスはシルクだし!」


 ――安っぽい化繊のブラウスではなく、キラキラ輝く高価そうな絹地のブラウスだし……


「んで、エプロンドレスみたいなスカートの生地は厚手のウールだし!」


 そう、ウール100%でサージ織りな生地を贅沢に使ったエプロンドレスだったりする。


「メイド喫茶のメイドドレスみたいなデザインで、上から下までハイクオリティーな生地をふんだんに使った衣装と、プロのメイクアップアーティストが施しちゃったみたいな化粧と……」


 田頭久美子ちゃんも、江澤さんも、卜部さんも、見るからに売れっ子アイドル顔負けな出で立ちになっていたりしたりする。


「すっごぉーい……デンちゃんも、エザちゃんも、トベちゃんも、みんなバッチリお化粧されちゃってて綺麗だし……ヘアスタイルだってさ、プロのヘアスタイリストが施したみたいな艶やかさだし……」


 ボクは、思わず、メイクアップされてドレスアップされた三人に魅了されつつ見とれてしまっていた。


「あはは! そんなに褒めても無理だぜ。だってさ、美少年女装男子美少女の朝間君には勝てっこないんだからさ」


 そう言ったのはボーイッシュな雰囲気が人気の江澤さんだった。


「エザちゃんに同感だわ。だって、朝間君は、メイクアップしなくても生まれつき美人な美少年だから、とても朝間君には敵わないもの」


 そう言ったのはお嬢様の雰囲気が人気の卜部さんだった。


「ホント、美少女顔なくせに、どうして男子に生まれてきちゃったんだがや? だから、誰もかも巻き込んでヤヤコシイことになるんだぎゃ」


 そう言ったのは美しいメロディメーカーとして人気の田頭久美子ちゃんだった。


「っていうか、おるこちゃんはドコ? ボクはおるこちゃんを探しまくってるんだけど……おるこちゃんはドコに居るの?」


「寂しがりやな朝間君は、愛する彼女に会いたくて仕方ないのかな? いつもラブラブでウラメシイ位に羨ましいよ」


「エザちゃんのバカ! からかわないで、早くボクのおるこちゃんに会わせてよ」


「朝間君、可愛いー! 河鹿さんの彼氏じゃなかったら、わたしの彼氏に絶対したかったわ」


「トベちゃんのバカ! そんなこと言ってからかってないで、早くボクのおるこちゃんに会わせてよ」


「もう、どうして、あんなに訳ワカンナイし……あんなに面倒くさい女がイイんだか、あはは! 面倒極まりない薫子に愛想つかしたなら、ついでに、あたしが朝間君の彼女になりたいわ」


「デンちゃんのバカ! もう、イイから……早くおるこちゃんに会わせてよぉー!」


「はい、はい。分かった、分かりました。じゃあ、薫子が居る場所に移動するわよ」


 ――我がバンドのリーダーであるデンちゃんの号令と共に……


 我がバンドのメンバー全員で、河鹿薫子が居る場所へ、ソソクサと移動を始めたのだった。



「いやん、秋ちゃん! あたしの秋ちゃん!」


「ああ、良かった……やっとおるこちゃんに会えたよ」


「んもう……あたし、秋ちゃんを待ちわびちゃってたんだから」


「っていうか、こんなトコに撮影機材がズラリと並んでるし!」


 ――我がバンドおでんのリーダーである田頭久美子ちゃんに導かれて辿り着いたのは……


 我が中学校が無駄な経費を散財して飾り立てているギャラリーだった。


 ――我が中学校の正面玄関脇に存在していて……


「味気ない打ちっ放し鉄筋コンクリートだらけな校舎とは差別化された……」


 ――我が南習志野市にある市営美術館をも蹴散らかす勢いで……


「無駄に豪華絢爛な造りという、そんな有り様の我が南習志野中学校ギャラリー」


 ――南習志野市には、マンションならぬ、億ションが幾つかあるんだけどさ……


「その億ションに住む人々ですら、我が南習志野中学校のギャラリーの豪華絢爛さには舌を巻くという……」


 とにもかくにも、無駄に豪華絢爛極まりない艶やかさを誇る、我が南習志野中学校ギャラリーだったりする。


「美しい!! 有り得ない位に美しいじゃないですか!!」


「は? あんた、誰ですか?」


「本当に男の子なのですか? 女の子の間違いではないのですか? それにしても、なんて美しい……」


「いや、あの、だから……あんた、誰なんですか?」


 ボクを見るや否や、『美しい、美しい』と、ぐるぐるルーピングよろしく、熱い眼差しをボクに向ける怪しい女性が居たのだった。


 ――うわぁ……何だかヤヤコシそうなオバチャンだし……


「おお……なんて美しく可愛らしいフランス人形の様な美少年女装男子美少女なんでしょう」


 ――いや、あの、だから……ボク、今、女装してないし。ちゃんと男子の制服を着てるし……


「もはや、わたくし、彼でいて彼女ライクな君をカメラにて撮らない訳には行きません。さあ、さあ、神妙になさい」


 ――恐いし、怖いし! っていうか、高そうなカメラを手に持ってるから、多分、このオバチャンはフォトグラファーなんだろうけど……


 ボクに熱い眼差しを向けつつ、見るからにプロ仕様な一眼レフのカメラを持つ怪しい女性から、ボクは反射的に、二歩三歩と後退りしてしまっていた。


「先生! 私も、彼の美しさに慄いております。まさしく、美少年女装男子美少女の名にふさわし彼でいる彼女に!」


 ――ああ、もう、だからさ……今ボクは女装してないんだってのに……ってかさ、『彼でいる彼女』って、何だ、そりゃ?


「先生! あまりの美しさに私は全身に戦慄が迸る程です」


「っていうか……あんたも、一体全体……誰ぇー?」


 ――多分、プロのフォトグラファーに従事するアシスタントみたいな役目をしてるオバチャンなんだろうけど……


「ボクに熱い眼差しを向けつつ、見るからにプロ仕様な機材を持つ怪しい女性から……」


 ボクは反射的に、五歩六歩と後退りしてしまっていた。


「秋ちゃん? ねぇ、秋ちゃん?」


「え? おるこちゃん?」


 ――すっかり怪しい態度極まりない女性フォトグラファーと助手に気を取られてしまっていたボクだったんだけど……


「っていうか、うわぁ……おるこちゃんがお姫様になってるし!」


 ――おるこちゃんから名前を呼ばれて、ボクは改めておるこちゃんを見るや否や……


 ボクは河鹿薫子を力任せに抱きしめてしまったのだった。


「いやん! 秋ちゃんったら、ちょっと苦しいわ」


「おるこちゃん、可愛いぃー!!」


「え? 秋ちゃん?」


「おるこちゃん、激バリ鬼、メッチャ可愛いよ」


「秋ちゃん? ホントに?」


「うん、本当に可愛い。おるこちゃん、可愛いよ。可愛い、可愛い、可愛い……」


「秋ちゃん、秋ちゃん、秋ちゃん。あたし、とっても嬉しい」


「おるこちゃん、お姫様みたいだよ」


「秋ちゃん、大好き。秋ちゃん、大好き」


「うん、ボクも大好き。おるこちゃんが大好き」


「秋ちゃん、あたし、幸せ」


「うん、ボクも幸せ」


「浅間君? 薫子? 二人の世界に浸ってるトコ悪いんだけど……」


 そう切り出したのは田頭久美子ちゃんだった。


「んもう……デン? せっかく秋ちゃんが抱きしめてくれてるんだから、ちょっと邪魔しないでほしいわ」


 ――なんて、おるこちゃんがデンちゃんに言い返すと……


「邪魔してるのは薫子自身だって自覚を持ってほしいんだけどねぇー」


 ――って、デンちゃんはキツイ口調で言い返したりしたりして……


「っていうか、ゴメンなさい!! ホントだよね。撮影の邪魔しちゃってるよね。サッサと撮影終わらせないと帰れないもんね」


「浅間君、分かってくれればイイのよ」


「うん、デンちゃん、ゴメンなさい。ボク、撮影の邪魔しないから……ちゃんとボクは隅っこに座って大人しく撮影が終わるの待ってるから」


「って、おい、浅間君!! この撮影、美少年女装男子美少女の朝間君が主役なんだってぇーの!!」


「……あれ? ボクが? あれれのれ?」


 ――というわけで、我がバンドおでんのメンバー揃い踏みで、バンドコンテストのパンフレットに載せるプロフィールの写真を恙無く撮影しましたとさ……


「めでたし、めでたし」


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