第14話、出来レース申込書
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「デン、あのね……今年のクリスマスはステージの上からイルミネーションを見下ろすわよ」
「え? 薫子? イキナリ、何を言い出してんの?」
今ボクは、デンちゃんこと、田頭久美子ちゃんの家に居たりする。
――学校が終わった放課後、ボクはデンちゃんちへ遊びに来ちゃったりしていたりして……
「だから、デン……クリスマスはステージの上からイルミネーションを……」
「は? 薫子? だから、何を言ってるの?」
――正確に言えば、おるこちゃんとボクは、デンちゃんの部屋に居るみたいな……
「んもう! デン? あんたもワカンナイ人ね……だから、クリスマスはステージの上から……」
「あのね、年がら年中、訳ワカンナイ薫子から『ワカンナイ人』とか言われると、あたし、心外もイイとこなんだけど?」
「いやん! デンったら、もう……ヒトのこと『訳ワカンナイ』とか言ってないで、少しは理解できるように努力してくんなきゃだわ」
「うん、薫子、分かったけど……でも、だから、そんなの無理なんだけど」
――なんて、おるこちゃんとデンちゃんはコンニャク問答さながらの会話をルーピングさせまくりで……
ボクは二人がしている会話を黙って聞いていたりする。
「んもう、仕方ないわね……だから、解り易く言い直すと……今年のクリスマス、バンドおでんのメンバー全員揃って、コミュニティセンターのステージの上からイルミネーションを見……」
「はいはい、薫子……」
「いやん、もう、デンってば!! あたしの発言途中で、呆れ顔しちゃいながら邪魔しないでほしいわ!!」
「訳ワカンナイ薫子はオイトイテ……浅間君、お願い、薫子が言ってることを通訳してくれる?」
――うわ!! デンちゃん、そう来たか!!
「デン? まさか……あんた、日本語がワカンナイとか?」
「薫子うるさい! 今から浅間君が通訳してくれるんだから、薫子、ちょっと黙ってて!」
「いやん、もう……デンったら……」
――デンちゃんから通訳してほしいとか言われても、ボクは何を通訳したらイイんだかワカンナイし……
「っていうかさ、おるこちゃん? もしかしてさ、クリスマスにライブするって言いたいんじゃないの?」
「いやん、秋ちゃん、惜しいわ。ライブじゃなくて……」
――あれ? おるこちゃん、いきなり学生鞄の中をゴソゴソとまさぐり始めちゃったし……
そして、河鹿薫子はA4サイズの紙を彼女の鞄から取り出すや否や、彼女は意気揚々とした表情をしつつ、
「ほら、見て。ほら、コレなのよ」
と、自慢気に田頭久美子ちゃんとボクに見せ始めたのだった。
――あれ? バンドコンテスト参加申込書みたいな?
そう、河鹿薫子が見せている用紙、とある勝ち抜きバンドコンテストの申込書だったりする。
「ああ、おるこちゃん、解ったよ。いわゆるアレだね。ライブじゃなくてバンド合戦だね」
なんて、ボクが言うや否や、
「そうなのよ、秋ちゃん。バンド合戦なのよ。ライブじゃないのよ」
と、やっと解ってくれたと言わんばかりに、河鹿薫子は満面の笑みになった。
「えっと……え? 会場は南習志野コミュニティセンター大ホールなの?」
「そうなのよ、デン。南習志野市教育委員会主催のバンドコンテストだから、市営のコミュニティセンター大ホールのステージなのよ」
――いやはや、流石は文化だかカルチャーだかを最前面に掲げて教育に勤しんでいる我が街の教育委員会みたいな……
「っていうか、あれ? おるこちゃん? バンド合戦の申し込み先は民間のイベント会社になってるみたいな?」
「え? 浅間君? 南習志野市の教育委員会が主催なのに?」
――申し込み先は我が街にある、知る人ぞ知る営利団体のイベント会社っていうか……
「ああ、そっか。うん、解ったぞ」
「え? 秋ちゃん? 何が?」
「あのイベント会社にそそのかされたみたいな……民間企業にそそのかされ教育委員会バンド合戦みたいな……」
「はい? 秋ちゃん? 何ですって?」
実は、我が街には、中小企業ながらも、何だかんだと色々な意味で有名なイベント会社があったりする。
――そのイベント会社は、我が街の商店街の広告やイベントなどを一手に手掛けてる企業なんだけど……
「流石は我が街にある商店街の商工会長をやってる、知る人ぞ知る、敏腕女社長が経営するイベント会社だよね」
「浅間君? どういうこと?」
ボクの発言に食い付いてきたのは、デンちゃんこと、田頭久美子ちゃんだった。
「いや、ほら、あのさ……我が街の教育委員会の出張所ってさ、敏腕女社長が経営するイベント会社の隣にあるじゃん」
「あら、教育委員会の出張所、お豆腐屋さんの隣だわよ。っていうか、あのお豆腐屋さんってば、お店ん中で手作りしてる出来立てお豆腐だから、もう、お豆腐のお刺身みたいに美味しいのよね」
「って、おるこちゃん、あのさ……」
「え? 秋ちゃん、なぁーに?」
「いや、あのさ……お豆腐屋さんは教育委員会出張所の建物の右隣だよ。んでさ、ボクが言ってるイベント会社のビルは教育委員会出張所の左隣にあるんだよ」
「え? あらら? お豆腐屋さんの中にイベント会社なんてあったかしら?」
「いや、おるこちゃん、そうじゃなくってさ……」
「あ、そっか。お豆腐屋さんは多角経営とかいうアレでイベント屋さんも始めたのね?」
「おるこちゃん、だからさ、そうじゃなくってさ……」
なんていう、河鹿薫子とボクの会話に、
「浅間君? 年がら年中、訳ワカンナイ薫子はホットイテ、早々と話題の核心に迫ってくれない?」
と、田頭久美子ちゃんがクチバシを挟んできた。
「いやん、デンったら! ホットイテとか言わないでよ、もう……」
「デンちゃん、あのさ……クリスマスイブやらさ、クリスマスには、普通、ディナーショーとか、プロのライブやるもんじゃん」
「朝間君から言われてみれば……南習志野コミュニティセンター大ホール、去年のクリスマスはプロの歌手がライブやってた」
「うん、デンちゃんの言うとおりだったよ」
「んもう……だから? 何なのよ?」
本当に『ホットイテ』をされてしまった河鹿薫子、見るからに不機嫌な顔をしつつ、田頭久美子ちゃんとボクの会話に割って入ってきたのだった。
「おるこちゃん、だからさ、師走っていうか、歳末っていうか……いわゆる、かき入れ時の稼ぎ時にさ、何故ゆえ、南習志野コミュニティセンターは儲かんない素人バンド合戦なんかするのかって話でさ……」
「え? 秋ちゃん? 素人バンド合戦だと、南習志野コミュニティセンター、儲かんないの?」
「おるこちゃんなら、仲良しな友達が出場する素人バンド合戦のチケット、それに何千円とか壱万円とか払える? それに加えてさ、素人バンド合戦の会場なんてさ、空席だらけだと思わない?」
なんていうボクの発言に、
「なるほど……そんな有り様じゃ、どう足掻いても、残念ながら、南習志野コミュニティーセンターは儲け様がないわね」
と、即座に言葉を発したのは田頭久美子ちゃんだった。
――意気揚々とバンドコンテストの申込書を掲げたのに、いつの間にか無関係な話題へと流れてしまっている現実に気づいたおるこちゃんは……
「秋ちゃん、秋ちゃん? あたし、クリスマスはステージの上からイルミネーションを見下ろすって話に戻りたいんだけど……」
――なんてさ、ボクの彼女は改めて、件の申込書をボクの面前に掲げたんだけど……
「この申込書、何だか胡散臭い申込書みたいな気がしてならないボクみたいな……」
「秋ちゃん? ウサンクサイ申込書って、それ、どういう意味?」
「うん、おるこちゃん、あのさ、このバンド合戦さ……もしかしたらさ、出来レースかもってボクは思ったからさ……」
「え? 浅間君? デキレースって?」
ボクの発言に間髪入れず言葉を返したのは田頭久美子ちゃんだった。
「デンちゃん、あのさ……敏腕女社長が経営するイベント会社には、売れないインディーズバンドが所属してるじゃん」
そのボクの発言に、
「あたし、知ってるわ。南習志野Bayシャイズっていうバント名なのよね、秋ちゃん」
と、今度は河鹿薫子が間髪入れずに言葉を返してきた。
「ほら、デン? 南習志野駅前商店街って歩行者天国を毎月やるじゃない?」
――なんて、続けざまにおるこちゃんが言うや……
「ああー! 解った! ホコテンで、毎回毎回、バラックみたいなステージを道路に造ってミニライブやってる、例の、あのバンド……へえ、Bayシャイズってバント名だったんだ」
――って、デンちゃんが即座に反応してくれたんだよ……
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「さてさて……というわけで、おるこちゃんの望みどおり、おるこちゃんが手に持ってるバンド合戦申込書の話に戻るんだけど……」
河鹿薫子と田頭久美子ちゃん、二人揃って黙ったまま、早くボクからの結論を聞きたいと言わんばかりに、心なしか少しだけ緊張感を漂わせつつボクを見つめ始めた。
「敏腕女社長が経営するイベント会社お抱えのインディーズバンドBayシャイズを優勝させるためにさ、教育委員会を口説いて開催しようとしているコンテストみたいにしか思えないボクなんだけどさ……」
「いやん! そんなのデキレースじゃないのよ!」
「いや、だからさ、ボクは初めから出来レースだって言ってるんだけどさ……」
「いやん、もう! あたしの申込書はデキレース参加申込書で……最初から優勝者が決まってて、その優勝者を盛り上げるために足蹴にされちゃうだけの参加申込書なの?」
「まあ、十中八九……ボクはさ、そうとしか考えらんないんだけど」
――って、あれ? デンちゃんが険しい顔しちゃってるみたいな?
田頭久美子ちゃんは、何か解せないことがあるのか、河鹿薫子とボクの会話を、見るからに激しく、とてつもなく訝しげな表情と態度を顕にして聞いていたのだった。
そして、河鹿薫子とボクの会話が途切れた瞬間に、
「でも、どうして?」
と、ボクの顔を正面から見つつ、相変わらず訝しげな面持ちのまま、田頭久美子ちゃんはボクに向けて疑問文を投げ掛けたのだった。
――ああ、ボクの予想どおり、デンちゃんは『どうして?』ってさ、ボクに訊いてきたよ……
そして、これもボクの予想どおり、田頭久美子ちゃんから発せられた疑問文の意味が理解できなかった様子の河鹿薫子は、
「デン? どうしてって、何がよ?」
なんて、田頭久美子ちゃんの顔とボクの顔を交互にチラチラ見つつ、更なる疑問文を投げ出したのだった。
「おるこちゃん、デンちゃん、簡単な話がさ、官民の垣根越えた利害の一致イベントだよ」
「え? 秋ちゃん?」
「おるこちゃん、だからさ……件のイベント会社は自分が抱える売れないバントの南習志野Bayシャイズを売れ線に持ってゆきたいわけだよ」
「売れ線? えっと……秋ちゃん?」
「っていうかさ、もしさ、ボクたちのバンドがね、このイベントに参加したなら、ボクたちにはチケットを売りさばくノルマがイベント会社から押し付けられるはずだよ」
「浅間君? どういうこと?」
「デンちゃん、あのさ……ボクたちみたいな素人バンドは数え切れな位に居るもんなんだよ」
「秋ちゃん? だから?」
「おるこちゃん、だからさ、数え切れない位に居る素人バンドを取っ替え引っ替え参加させてさ……んで、取っ替え引っ替えチケットを売らせて金儲けみたいな」
河鹿薫子と田頭久美子ちゃん、ボクの話を興味津々な面持ちで聞き入っている。
「ってかさ、無理矢理にでもチケットを売らせなきゃさ、あの大ホールには2000席ちょとあるんだし、アマチュアバンド合戦なんかの客席は空席だらけになるのがオチなんだし」
――あれ? おるこちゃんもデンちゃんもさ、ハテナ顔になっちゃったみたいな……
「それにさ、そのコンテストに優勝したいならさ、一人でも多くの応援者が居てくんなきゃだよ」
「秋ちゃん? 応援者って?」
「いや、あのさ……おるこちゃんが持ってきた申込書には、主催者側が用意する審査員の他にさ……」
そこまでボクが言い放ったところで、田頭久美子ちゃんが、
「ああ! ウチのバンドが会場に連れてきた観客も審査に参加できるって書いてある!」
と、ボクが言いたいことを先回りして言ってくれたのだった。
「うん、だよね。字面は違えど、デンちゃんの言うとおりの旨が書いてあるよね」
「そっか……参加したバンドだって自分達にメリットがなきゃチケットノルマなんてウザイだけだし……メリットがあるから頑張って売るわけみたいな?」
「うん、デンちゃん。そのとおりだよ」
「チケット代は500円だわ。南習志野コミュニティセンター大ホール、2000人とちょっともの客席があるわ」
「うん、だよね。おるこちゃんが言うとおり、あの大ホールには2000席ちょっとのキャパがあるよ」
「たかが、1枚500円のチケット……されど、完売したなら2000人ちょい分もの売り上げ……」
「うん、デンちゃんの言いたいこと解るよ」
「プロにはギャラを払わなきゃだけど、あたしたちみたいな素人バンドにはギャラを払う必要ないわ」
「うんうん、おるこちゃんの言うとおりだよ」
「ギャラ要らないし、チケットはバンド合戦参加者に売らせるし……チケットの値段安くてもギャラっていう出費ないから儲かるみたいな?」
「うん、デンちゃんの言うとおりだよ。コンサートなんてさ、その経費の大部分は有名歌手とそのスタッフ一同達に払うギャラなんだし」
「秋ちゃん? そうなの?」
「うん、おるこちゃん、そうなんだよ」
「浅間君? 例えば……実際に、ギャラとか、どんな感じなの?」
「デンちゃん、例えばさ……某有名演歌歌手、歌手本人の他に、その歌手お抱えの音響屋さん、お抱えの照明屋さん、お抱えの司会者、お抱えのバンド演奏屋さん、お抱えのメイクさんに衣装さん、大道具さんに小道具さん、マネージャーに付き人……まだまだアリアリな関係者一同引っ括めた経費やら何やら込み込みでさ、片手何百万円超えのギャラをブン取るもんだよ」
「片手超えってば5百万円超えだし……って、そんなんだから、チケット一枚の金額が6000円とか、8000円とか……下手したら、壱万円とかになるみたいな?」
「おるこちゃん、当たりだよ」
――と、ココで、なぜなんだか、突然、おるこちゃんは手に持つ申込書を乱暴に床へ放り投げながら……
「いやん! あたし、気づいちゃったわ。この申込書、駅前のイベント会社を一人勝ちさせるためにある噛ませ犬申込書なのね?」
――なんてさ、滅っ多クソに投げやりよろしく言ったんだけど……
「いや、おるこちゃん……噛ませ犬がさ、逆に噛みつけるかもよ」
――ってさ、ちょっとしたヒラメキを得たんで、ボクはさ、もう、自慢気に言い切っちゃったみたいな……ニヤリ……
「え? 噛ませ犬が噛みつける? 秋ちゃん? どういうことなの?」
――とかさ、おるこちゃんから質問されたけど……それがね、どんなヒラメキなんだかは、ちょっと、今は言いたくないかな……
「まあ、とりあえずはさ、イベント会社はさ、チケットが売れようと売れまいと、しっかり南習志野コミュニティセンターからさ、企画制作料を請求して利益確保なんだし……」
「朝間君? キカクセイサク料って、それ、何?」
「デンちゃん、アレだよ。デザイン会社ならデザイン料を請求するのと同じみたいな」
「秋ちゃん、解ったわ。お豆腐屋さんならお豆腐代金を請求するみたいに、イベント屋さんは企画制作したアイデア代金を請求するみたいな?」
「うん、おるこちゃん。そのとおりだよ」
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そこまで話が進んだところで、あたかも、何かを思い出したかのように、
「そういえば……秋ちゃん? 南習志野教育委員会の話はドコ行っちゃったの?」
と、河鹿薫子が言葉を割り込ませてきた。
「うん、おるこちゃん……我が街にある教育委員会ってさ、我が街の市長が市政の最前面に掲げている……」
――と、そこまでボクが言い掛けたところで……
まるでボクの発言を引き継ぐかのように、田頭久美子ちゃんが静かに言葉を発し始めた。
「教育は文化からって、耳にタコができるくらいに市長は言ってるし、文化を育む教育をイの一番に掲げてるみたいな……」
その田頭久美子ちゃんの発言に茶々を挟むかのように、
「それ、あたしたちの学校の校長も耳にタコができちゃう位に言いまくりだわよ」
と、河鹿薫子が横から言葉を投げてきた。
「さてさて、話を解り易くするとさ、南習志野市長が掲げた教育方針をね、南習志野教育委員会は命令として現実に行おうとしているわけ」
――おるこちゃんとデンちゃん、興味津々あらかさまにボクの話を聞いてくれてる……
「んでさ、南習志野教育委員会が行おうとしていることを南習志野中学校も行おうとしているわけなんだよ。まあ、それはさ、厳格なる縦割り社会の世界にありがちな構図なんだけどさ……」
「うーん……あたし、やっと解ったわ」
「え? おるこちゃん?」
「イベント屋さんは文化を育むっていうソレにツケコンダのよ」
「あ! なるへそ! あたしも解った」
「え? デンちゃん?」
「浅間君が言ってた、『教育委員会をそそのかして』っていう意味が解ったのよ」
「良かった。おるこちゃんもデンちゃんも解ってくれたんだ」
「うん、秋ちゃん、あたし解ったもん」
「あたしも解ったわよ、浅間君」
「いやん……世の中ってウマクできてるもんなんだわね」
「は? おるこちゃん?」
「だって、イベント屋さんは自分のお抱え売れないインディーズバンドを売り出せるし、教育委員会は音楽の分野から文化を育むって市の政策を実行できちゃうし……」
「薫子の言うとおりよね……で、それってアレよね?」
「デンちゃん? アレって?」
「浅間君が言ってた利害の一致ってアレよ」
「ああ、ボク……そんなことも言ってたんだっけ」
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「でも、どうしてクリスマスにやるの?」
一つ疑問が解けたなら、次の疑問、また次の疑問と、河鹿薫子は次々に質問を投げてくる。
「おるこちゃん、簡単な話さ、財布の紐がゆるくなる時だからだよ」
「秋ちゃん? あたし、意味ワカンナイわ」
「だからさ、クリスマスなんて、現代日本だと、日本中がクリスマス気分に浮かれがちっていうか……」
「浅間君、なるほど。クリスマスイブとかクリスマスには無駄遣いしがちだわ」
「言われてみれば、デンの言うとおりかもだわ。だって、あたし、クリスマスプレゼント、秋ちゃんにドデスカドンって渡したいし」
「おるこちゃん、ドデスカドンなんだ」
河鹿薫子が言った『ドデスカドン』に、田頭久美子ちゃんとボクは爆笑させられてしまっている。
「なるほどねぇ……市役所っていうか、市の役人がクリスマスに教育委員会主催のバンドコンテストを市営のコミュニティセンター大ホールでやる……」
「え? デンちゃん?」
「バンドコンテストの目的は、イベント会社と教育委員会では違っているし、コミュニティセンターも違ってるけど……」
「うんうん。デンちゃん、それで?」
「でも、それをやることで得られる大きなメリットがあるから……」
「デンちゃん、ボクも同じ考えをしてたよ。目的は違えど、同じ手段から利害の一致みたいなアレみたいな」
「なるほどねぇ……」
「うん、デンちゃん……なるほどだよね」
田頭久美子ちゃんとボク、なるほど、なるほどと、二人して頷き合っている。
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そんな中、河鹿薫子は床に放り投げたバンドコンテスト申込書をおもむろに拾っていた。
そして、拾い上げた申込書を右手に持ち、田頭久美子ちゃんとボクへ向けて見易いように掲げたのだった。
「で? どうするの?」
「は? 薫子? どうするって、何が?」
「んもう! デンったら!」
――ボクは初めて気づいたことかあるんだけど……
「どうするってったら、アレしかないじゃないのよ」
「薫子? アレってドレ?」
――何に気づいたかって……
それは、会話が噛み合わなくて、話題が少しも進んで行かないのは、意外や意外、田頭久美子ちゃんでも同じだったということにだったりする。
「ボクだけじゃなかったんだ」
「え? 秋ちゃん? 何ですって?」
「そっか、おるこちゃんに原因があったんだ」
「あたしが原因? 秋ちゃん? そんなことより、コレどうするの?」
「おるこちゃん? どうするってさ、何を?」
――あぁーあ……デンちゃんにした質問をさ、そのまんまボクにもしてるし……
「んもう! 秋ちゃんったら! どうするってったら、アレしかないじゃないのよ」
――んでもって……デンちゃんに返したリアクション、そのまんまをボクにも返してるし……
「ああ、もう! みんな解れぇー!」
田頭久美子ちゃんもボクも河鹿薫子からの『どうするの?』発言に対して理解を示さないことに、ニッチもサッチも、彼女は煮詰まってしまった様子あらかさまだった。
――ホントはさ、ボクは『どうするの?』の意味が解ってるんだけど……ちょっとからかってみたくて解らないフリしただけなんだけど……
これ以上からかったなら脳ミソが沸騰して凶暴化しそうな河鹿薫子だったので、ボクは『どうするの?』の応えを彼女に手渡すことにした。
「おるこちゃん、そんなに参加したいならさ、『参加しない?』って話を振った方が話は早く済むよ」
「え? 秋ちゃん?」
「だってさ、おるこちゃんは参加したくて堪らないから……だから、チラシもパンフもスっ飛ばしてさ、いきなり申込書を突きつけてるんでしょ?」
「いやん、秋ちゃんったら……あたしのこと一番分かってくれるの、やっぱり秋ちゃんだけだわ……うふ、えへ、あは」
――あれ? デンちゃんがフリーズしちゃったみたいな?
田頭久美子ちゃんは河鹿薫子とボクが交わしている会話に目をパチクリとさせつつ固まってしまっていた。
――ああ、そっか。何でデンちゃんがフリーズしてんだか解ったよ……
「デンちゃん、あのさ……」
――相変わらず目をパチクリさせて固まっているデンちゃんへ……
ボクは、彼女が抱えてしまった疑問を解いてあげるべく、なるべく解り易く説明をすることにしたのだった。
「デンちゃん、あのさ、おるこちゃんが持ってきたのは申込書なんだよ」
「うん、薫子が持ってるのは申込書だわ」
「普通さ、申込書より先にね、バンドコンテストのチラシとかパンフレットとか、はたまた、ポスターとか、いわゆる宣伝媒体を見せるもんじゃない?」
「うん、あたしなら……うん、浅間君の言うとおりだわ」
「つまり、簡単な話……おるこちゃん自身は参加する気満々な状態でね、イキナリ申込書を突きつけてデンちゃんとボクに『どうするの?』って訊いてる有り様みたいなアレなんだよ」
「うふ、えへ……秋ちゃん大好き! やっぱり史上最高のあたしの理解者だわ」
「あぁーあ、ごちそうさまって言うしかリアクションできないよ、あたしは……」
気がつけば、田頭久美子ちゃん、この上ない位の呆れ顔になってしまっていた。
「んでさ、デンちゃん? どうする?」
「え? 浅間君?」
「わお! 秋ちゃんも参加する気マンマンになってくれちゃったのね? あたし、あたし、嬉しいわ」
「は? 薫子?」
――説明するということが下手くそで、日常会話そのものが解り辛いおるこちゃんなんだけどさ……
河鹿薫子、彼女は自分自身に好都合なことには目ざとかったりするから笑うに笑えない。
――なんてことは楽屋ばなしなんだけどさ……
「浅間君? もしかして、そのデキレースなバンドコンテストに参加したいの?」
「うん、デンちゃん。ボクは参加したくなっちゃったよ」
「やったぁー! 秋ちゃん、ありがとう! これでクリスマスはステージの上からイルミネーションを見下ろせるわ」
「そっか、薫子もデキレースに参加したいんだ」
「デン、そうよ。あたしは参加する気マンマンだもん」
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――と、ここで、何でなんだかはサッパリ分かんないんだけど……
田頭久美子ちゃんは怪しい笑みを浮かべて顕にしつつ、
「なるほど……これは面白いことになりそうだわ」
と、まるで独り言を呟くように言ったのだった。
「へ? デン? 何て言ったんだか、あんまり声が小さくて聞こえなかったわよ」
「え? ああ……あたしも参加したくなったって言ったんだけど……」
「わお! わお! わお! 秋ちゃんに続いてデンも参加する気マンマンになっちゃったし!」
「あたしが参加する気満々になって、薫子? あんた、嬉しい?」
「もちろん、嬉しいに決まってるじゃない」
「そう、それは良かったわ」
――デンちゃんはおるこちゃんが喜ぶ姿を見つつ、バンドコンテストでハプニングが起こることを期待しているみたいに見えてならないボクなんだけど……
「でも、どんなハプニングを期待しているんだか……」
――残念ながら、今のボクには具体的に解らないみたいな……
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