第一話 私は女が好みでしてよ
新作です。
「私、男性の方とは婚約などしたくありません!」
舞踏会の席で、私は叫んでしまいました。
伯爵家令嬢である私アリアナは、いずれ悪役貴族として華を咲かせる予定でしたので。
それが、婚約者である王子様の顔を見て前世を思い出し今があります。
前世で私は、同性愛者だった。女でありながら女が好き。いわばレズビアンの精神ですのでね。
その中でも私はタチ側の人間というわけで、男とは関わりたくないのです。
補足しますが、タチというのは男性的立ち位置でリードをする人を指すそうです。
私は、リードされる側ではなく、リードする側になりたい。
それが切なる願いなのです。
「こんな出来損ないの王子様なんて、私の好みではないわ。私は助ける側になりたいの。もっと可憐な女性に対して、ですけどね」
「アリアナ。こんなお美しい国王令息を前に、何を言う!」
早速、私のお父様がお怒りのご様子。それはそうでしょうね。
それでも、私は我慢してきたのですよ。女だから女らしくと言われましても。
いっそ転生しなおして、男に生まれたいものですわ。
その方が心も休まります。
「もう一度言います。私は男と婚約などしたくありません。私が好きなのは、女ですから」
「女が女を好むなど、言語道断! それでは繁栄ができないではないか!」
「私は強制的な繁栄など望んではおりません。私は私らしく。ただ生きたいだけなのです」
舞踏会の会場がざわつき始めました。
これでいいのです。私の意思を尊重する人など、簡単には出てきませんから。
ですが、逃げるが負けです。ここで、お父様にもわかってもらわねばなりません。
「私は、今まで我慢してきました。女は女として? それは押し付けではなくて? たしかに、女にはしっかりとした役目があります」
「しかし、アリアナはそれを破棄しようとしているのだぞ?」
「承知の上で話しています。ですが、私は同性愛者。女だから男だからという理由なんて、古い概念ではなくて?」
さらにガヤがうるさくなりましたね。これも計算の内です。
私は国王令息である、王子様の近くまで進みます。右手を開き、身体を捻って。
――バチン!
かっこよく平手打ちで、デザート替わりに決め顔もしておきましょう。
おっと、私の力が強かったからか国王令息様が涙目になってますね。
こんな精神の弱い人が、王子と名乗っていいのでしょうか?
今後エスコートができるのか不安で仕方ありません。
そもそも、私がレズビアンでない場合でも選ばなかったでしょうね。
「アリアナ……。それでも僕は……!」
国王令息様が、私に求愛してこようとしてますね。
女からにしか心が動かない私に届くはずもありませんが……。
「強制的に婚約を破棄させていただきます。国王令息様。いえ似非王子様が他の方と結ばれるよう。心よりお祈りいたします。さようなら」
ここで退場させていただきます。いくら国王令息で顔のパーツが整っていようと、中身がザコですからね。
しかし困りました。今日は舞踏会でしたので、苦手なドレスなのですよ。
腰回りにはキツくコルセットが巻かれているので、苦しいんですよね。
早く脱いで普段着に着替えたいくらいです。
「アリアナ! アリアナお嬢様!」
おや、後ろから声が聞こえてきました。
それも大きな土煙を立ち上げながら、いい迷惑です。
目の前には大きな大木。華麗に避けて激突でもさせておきましょう。
――ドシン!
あらあら、走ってきたのは執事のようです。
土まみれになった執事様は、頭にひよこを浮かべて脳震盪を起こしたみたいですね。
なんとも見苦しく、そして誠にご愁傷様でございまして。
「執事様。大丈夫ですか?」
ここは少し味方でもして差し上げましょう。
残念ながら、この世界には摩訶不思議な力はありません。
しかし救命部隊を呼ぶとしても、会場に呼び戻されることでしょう。
仕方ないですが、さっさと離れておきます。
しばらくすると、街が見えてきました。
ここはアリストラ王国の一角。
そして私は、アリストラ王国の第一王子と婚約することになってました。
それはそれは、中身空っぽでしたよ。武術も並み以下でしたしね。
さぞかし甘やかされて育ったのでしょう。残念なものです。
「それにしても広い……」
前世の記憶としては、私は平民の出身。
それも都会に住む平民です。どこの生まれかはわかりません。
毎日ファストフードをむさぼり、毎日仕事をする。
そういえば、過労で倒れておじゃんになって。
神に拾われこの世界のアリアナに生まれ変わったのでした。
「もう少しで市街区ね。足が持てばいいのだけど……」
前世では履いたことのないハイヒール。
かかともつま先も痛くて嫌いです。
そんな慣れない靴で少し小高い丘を下り、市街区に入っていきます。
こんなお恥ずかしい格好で走りたくはないですが……。
「これでも、私貴族なのよね……」
伯爵家令嬢というのも立派な肩書。
ですが、私は地位など求めていません。
貴族の輪廻から外れて、農村地帯に移り住みたいくらいですから。
外灯の光が揺れています。今は秋。日の入りも早いですが微妙。
つまりは、ちょうど日が沈み始めた頃合いのようです。
「アリアナ令嬢! 今日は大事なイベントがあったのでは?」
話しかけてきたのは行きつけのパン屋主人。
ここのパンはアリストラ王国随一と呼ばれています。
「ちょうどそこから抜け出してきましたわ。あんな礼儀が皆無の方と結婚したくありません」
「そうかそうか。少しはせいせいしたかね?」
「ええ、とてもスッキリしたわ。ご心配ありがとうございます」
パン屋を離れて、私は隠れ家にしている小屋を目指します。
なぜかそこは、空き家なのに水道も火起こし場もあるのです。
家出をしたときは、よくそこで自炊をしたものですよ。
今は十六ですので、六年前でしたね。両親とは関わりたくないです。
商店街を抜けて、そこから北の方角に向かいます。
そこから、六つに道が分かれた路地を北東へ。
「この道も慣れましたね」
時々、ボロ服を着た人や猫が数匹。
この道を知っている人は少ないと思います。
しかし、今日は少し物騒な気配が……。
「ちょっと! ボクの麻袋を返して! 返して!」
どこかで女の声。ちょっと気になります。
しかも私が向かう方向ではありませんか。
現場には行きたくありませんが……。向かうとしましょう。
それよりも、ボクっ娘の女性は好きです。なんだかドキドキしてきました。
13時に第2話を公開します
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