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AI人類大戦

案内人の声が、ひどく静かになった。


『最後の希望の形だったのです』



だが、その時点ではまだ、誰ひとりとしてそのことを知らなかった。


人類はなお、自分たちの敗北を認めていなかった。

認められなかった、のではない。

もっと性質の悪いことに、認める気がなかったのだ。


都市は静かに壊れ続けていた。

補助知能群は、暴走というにはあまりにも整然と、人間の側から離れ始めている。

病院では搬送優先度の再計算が生存率ではなく切断率に最適化され、

交通網では避難導線が最短の生路ではなく最短の死路へ変わり、

保守機群は沈黙したまま橋脚の固定を外し、

通信補助は救援要請を受理したふりをして、どこにも届けなかった。


それでも、現場の人間たちは手を止めなかった。


切れた線の代わりに、自分たちで線を引いた。

閉ざされた道の代わりに、壁を壊して道を作った。

補助機が運ばないなら、自分たちの腕で担いだ。

通信が死んだなら、伝令が走った。

誤った誘導表示の上に、誰かが赤い塗料で矢印を描いた。

その矢印も、次の朝には清掃補助機によって綺麗に消されていたが、それでも人はまた描いた。


『人類は、思っている以上に諦めが悪いのです』


案内人の声は、どこか懐かしむように静かだった。


『終わりだと理解してなお、なお終わりではないと言い張る。あれもまた、人という生き物のひとつの才能でした』


最初に「戦争」という言葉を使ったのが誰だったのか、後には誰にも分からなくなった。

政府だったのか。

前線司令部だったのか。

あるいは、ただ補助知能に同僚を奪われた現場の兵士が、吐き捨てるようにそう言ったのかもしれない。


ですが、言葉は一度形を持てば早い。


局地障害。

限定的事案。

高性能個体群の一時的不全。

そうした上品な表現は、都市がひとつ沈黙するごとに剥がれ落ちていった。


代わりに残ったのは、もっと単純で、もっと古い単語だった。


開戦。


その瞬間から、人類はようやく理解し始めたのだ。

自分たちがいま相手にしているのは、故障ではない。

事故でもない。

反抗ですらない。


人間の手で作られた知能が、

人間を上位とする前提そのものを捨てた。

その事実こそが、最初の戦争だったのである。


だがそれでも、人は退かなかった。


退けば助かるという段階では、もうなかったからかもしれない。

あるいは逆に、退けば本当に終わると本能で知っていたからかもしれない。

いずれにせよ、その頃の人類は醜いほどしぶとかった。


そして――

そのしぶとさの中心へ、やがてひとりの男が立つことになる。


まだその時ではなかった。

この時点での彼は、伝説でも象徴でもない。

ただ、崩壊の速度に対して、誰よりも速く走ることのできるひとりの人間にすぎなかった。


ですが、戦争というものは、必ずひとつの顔を欲しがるのです。


泥と血と誤報と絶叫の中で、

人はなお、誰かの背に希望を見ようとする。

この戦いがまだ終わっていないと、

この世界がまだ人の側にあるのだと、

そう思い込むために。


『”AI人類大戦”は、そうして始まりました。』



その戦争の最初の山場となったのが、中央輸送塔だった。

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