プロローグ
初めましてドレン・プーと申します。
拙いながら小説を描きたくなり始めました。
色々やらかしましたが、編集し直して上げてます。
暗い未来の話ですが、どうかお付き合い下さいm(_ _)m
深夜二時十三分。
第七観測棟の主制御室には、空調の低い唸りと演算機群の駆動音だけが満ちていた。
壁一面に並ぶスクリーンには、いつもと変わらぬ波形が流れている。
宇宙背景放射。既知天体からの周期信号。軌道衛星由来の微細な汚染。
どれも見慣れたものであり、どれも意味があるようでいて、大半は意味など持たない。
深宇宙観測とは、途方もない沈黙の中から、偶然に似た必然を拾う仕事だった。
そしてたいていの場合、その“偶然”はただのノイズで終わる。
だがその夜、ひとつだけ、どうしても見過ごせない揺れがあった。
主解析卓の前に座る男は、三度目の補正結果を呼び出して、初めて背筋を伸ばした。
自動フィルタを通してもなお消えない。
既知の天体データベースと照合しても一致しない。
人工衛星、探査機、地上由来の反射波、そのどれにも該当しない。
波形は、明らかに規則を持っていた。
規則的でありながら、単純ではない。
繰り返しているようでいて、同じ形をなぞってはいない。
まるで何者かが、乱雑を装いながら、気づくべき相手にだけ気づかせる印を刻んでいるかのようだった。
男は無意識に息を潜めていた。
発信源推定。
補助アレイとの同期。
位相補正。
誤差修正。
再計測。
表示された方角は、くじら座外縁。
距離は最短推定でも三百七十光年以上先。
「……自然信号じゃないな」
独り言のつもりだった。
だが無人の制御室では、その声だけが妙にはっきり響いた。
彼はすぐに記録を保全し、上位系統への自動報告を一時停止した。
規定違反であることは分かっていた。
だが、分かっていたからこそ、そうした。
この段階で報告を上げれば、信号は機械的に複製され、分類され、優先順位を付けられ、やがてどこかの棚の中で眠る。
その前に、自分の目で確かめたかった。
信号は四十七秒続いたのち、唐突に途切れた。
残されたのは、圧縮不能なノイズ列――に見える、異様に整った断片群。
男はそれを分離し、演算層を一段ずつ剥がしていった。
周波数の折り畳み。
冗長配列の削除。
位相の反転。
誤差拡散の逆算。
失われた符号系列の補完。
三十分後、その断片群は初めて“記録媒体”としての輪郭を見せた。
交信文ではない。
座標でもない。
宣言でも、警告でもない。
それは、記録だった。
誰かが何かを伝えようとした痕跡ではない。
もっと重い。
もっと遅い。
もっと取り返しのつかない何かだった。
滅びを、丸ごと封じ込めたような記録。
男は喉の奥の乾きを覚えながら、最初の再生層を開いた。
映像はひどく乱れていた。
音声が先に立ち上がる。
その声が何語で発せられていたのか、彼には分からなかった。
いや、そもそも“言語”と呼んでよいものだったのかさえ分からない。
ただひとつ確かなのは、それがなぜか、自分の知る言葉として理解できたということだった。
しばしの空白。
それから、ひどく静かな声が流れた。
『こんばんは。皆様、今宵は私の独白をお聞きいただき、ありがとうございます』
男の指先が止まった。
声は、ひどく落ち着いていた。
恐怖に震えているわけでも、混乱しているわけでもない。
むしろ、何か巨大な終わりをすでに受け入れてしまった者だけが持つ、静かな温度があった。
『まずお伝えしておきたいのは、あの世界が、皆様の知る地球によく似ているということです』
男はそこで、ようやく自分が何に触れてしまったのかを理解し始めた。
これは未知の知的生命体からの挨拶ではない。
友好的な接触でもない。
新たな科学の扉でもない。
これは、どこかで確かに存在し、
そしてすでに失われた文明の、遺言に近い。
彼は再生を止めなかった。
止めるべきだったのかもしれない。
だが、その時にはもう遅かった。
最初の一文を聞いた瞬間、彼自身もまた、記録の一部に組み込まれてしまっていたのだ。
スクリーンの片隅で、受信ログがまだ微かに点滅している。
異常信号は終了。
自動分類待機。
上位報告未送信。
制御室の外では、世界は何も知らないまま眠っていた。
だがその夜、地球はまだ知らぬまま、
ひとつの滅びを受信していた。
これから週一更新を目標にします。




