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可能性の選択  作者: 桃鍋
第6幕
48/62

第2章 人として

 先輩から部室で待ってると返事があったから、講義終了の合図とともに急いで部室に向かった。走ったら転けるかもしれないから早歩きで。それでも何度か躓きそうになったけど。部室に着くと、いつも通り先輩の他に海月もいた。てっきり先輩一人だと思ってたから、海月には後で話そうとしてたからどうしようかな。とりあえず、やっぱり後で個別に話そうと思って、少し外してもらおうとしたけど先輩から止められた。

「陽ちゃん、海月ちゃんもこの場に居させてくれないかな?大丈夫だよ。陽ちゃんが思ってる以上に、海月ちゃんは強い子なんだから。」

 そう言って先輩は隣にいる海月にウインクをする。知らない間に二人はすごく仲良しになっていた。よく見たら、海月の髪型が変わってるけど先輩がやってくれたのかな?身内贔屓を抜きにしても随分と可愛らしくなっている。心なしか海月の顔に少し自信が溢れているように見えた。う〜ん、先輩もこう言ってるし、他ならぬ海月自身が意地でも残る雰囲気を出してるから、僕も無理に意固地にならずに引き下がるしかないかな。ただ、今から話す内容は中々刺激が強く、だいぶショックを受けるかもしれないから念押しで確認したけど、予想以上に強い目で返事があった。

「…………例えどんな内容でも、何があったとしても、ウチは最後までお兄の傍にいるって決めてるから!それに、椎名さんもいるから大丈夫。」

 先輩の言う通り、いつの間にか海月もちゃんと成長していたんだな。ハッキリ言って海月は、今まで狭い世界に閉じこもっていた。虐めが原因とは言え、家族以外は全て敵、世界との関わりは最小限と偏った思考。そんな海月が家族以外の人を頼り、辛いことでも受け入れる覚悟を見せた。根気よく寄り添ってくれた先輩には感謝してもしきれない。

 改めて二人の意思を確認できた僕は、本題である翔のことを相談するためにも、まずは夢に出てきたストーリーテラーと名乗る悪魔のこと、そして僕と翔が行き着いた結論を話すことにした。

――――――――――――――――――――――――

 僕は全てを話した。ストーリーテラーから僕に出された宿題、翔が一人で辿り着いた真実、そして……翔の言葉がキッカケで始まりの代償が“狂えないこと”だと気づいてしまったことを。

「………………狂えない。」

「お、お兄…………。」

 話を聞き終わった先輩は眉間に皺を寄せ、海月は顔面が真っ青になっていた。無理もない。先輩からしたら身近な後輩が、海月からしたら実の兄が生物の根本的な防衛能力を無くしているって、本人の口から告げられたんだもんな。

「僕は……僕のせいで塞ぎ込んでしまった翔を救ってあげたい。…………ただ、正直この気持ちも、狂えなくなって自己優先度が下がった結果生まれたものかもしれないから、僕が心の底から思ってるのかわからない…………でも、それが翔を放っておいていい理由にならないと思う。だから、もう人として正常と言えない僕がこんなことを言うのもおこがましいかもしれないけど……二人とも、どうか僕に力を貸してくれませんか?」

 僕は膝に手をついてめいいっぱい頭を下げる。人間もどきの僕が、本気で人を助けられるのかはわからない。その考えがあるせいで、一人では何も解決策が浮かばなかった。だから二人の力を僕に貸してくれ、と懇願するように。

 いつまでそうしていただろうか。海月はまだ青い顔のまま固唾を飲んでいる。それまで黙って話を聞いていた先輩が口を開いた。

「…………話はわかったよ。確かに陽ちゃんの言ったとおり、ショッキングな内容だったね。正直、私でもショックが大きいから、海月ちゃんはもっとショックだと思う。でも、陽ちゃんはそれでも私達に真実を話してくれた。それだけ、本気でカケルっちを助けたいと思ってるんだよね?」

「…………はい。」

「じゃあ陽ちゃんに私から質問。その助けたいって気持ちは本当にストーリテラーが操作している感情だと思う?全部仕組まれてる?狂えない人間もどきだけどで片付けていいの?そこに全然自分の意思はないと思う?」

「…………正直わかりません。これは正常な思考から出たものなのか…………でも、みんなにこれ以上嘘をつきたくない。そして、苦しんでいる友に手を差し伸べたいと思う気持ちだけは、紛れもなく今僕の心にある気持ちだと思います。」

「…………うん、だったら大丈夫だよ。それは私が昔から知っている陽ちゃんの心そのものだから、ちゃんと陽ちゃん自身の“気持ち”だよ。用意されたものじゃない。さっき説明中に自分のことを“人間もどき”なんて卑下してたけど、陽ちゃんはちゃんと人間だよ。私の大好きな……“私が好きになった如月 陽太”だよ。だから私は陽ちゃんが助けを求めてるのなら、もちろん助けるよ。ねっ、海月ちゃん?」

「う、うん!私も、最後までお兄の傍にいて助けるよ!」

 そう言って先輩は隣に座っていた海月の頭を笑顔で撫でる。海月も先輩の言葉を聞いて立ち直れたのか、さっきより血色が良くなり、目に決意の火が灯ってる。

「先輩……海月……二人とも、ありがとう。」

 二人には感謝しきれないくらいの恩ができてしまった。こんなことになっても僕のことを人間だと認めてくれる二人には、感謝しきれない程の恩ができてしまったと思う。翔……もうちょっと待っててくれよ。僕は二人の力を借りて、“人として”必ずお前のことを助けてみせるから。

自称“人間もどき”が“人として”決断する。

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