幕間その1 心を開いてくれた仔猫
明香里先輩視点の幕間です。
部室で海月ちゃんのヘアアレンジをしていたらスマホが震え出して、何かの通知もしくはメッセージが来たことを知らせる。何だろうと思いながら一旦髪から手を離し、スマホを手に取る。
「ん?陽ちゃんからだ。」
「え、お兄から?今授業中じゃないの?椎名さん、お兄なんて?」
「う〜んとね、相談したいことがあるから時間を作ってくれないかだって。一体なんだろう?」
そう会話をしながら、私は陽ちゃんに送るメッセージを打ち込んで送信した。もちろん、二つ返事で了解した。
「お昼頃に陽ちゃん一回ここに来るって。それにしても、海月ちゃんの言うとおり、今講義中のはずなのに…………ちゃんとお勉強をしない悪い後輩には、後でお姉さん注意しておかないとね!」
とは言いつつも、久しぶりに陽ちゃんが部室に滞在してくれそうだから内心嬉しかったりする……って、ダメダメ!海月ちゃんの前なんだから、ニヤけそうになるのを我慢しないと!
首をブンブンと振り、己を自制しなければと思っていると、ヘアアレンジをするために私の足の間にちょこんと座っていた海月ちゃんが、見上げるように仰け反って首だけを向けてくる。心なしかジト目にってない?私の気のせい?
「ねぇ椎名さん…………初めて会った時から薄々思ってたけどさ、椎名さんってぶっちゃけお兄のこと好きだよね?」
「ううぅぇえ!!?すすすす好き!?海月ちゃん、きゅきゅ急に何を!?」
「いや、さすがにわかるよ。むしろ何で隠せてると思ってたの?だって、ウチを見る目とお兄を見る時の目、明らかに違うんだもん。多分わかってないのお兄だけだよ?」
そ、そんな…………今まで完璧に隠し通せていると思ってたのに。カケルっちだけじゃなく、まだ付き合いの短い海月ちゃんにまで…………っていうか、初めて会った時からって言った?もしかして私ってそんなにわかりやすかったの!?えっ、ちょっと待って。だから初対面の時に「お兄は渡さない!」って海月ちゃんに言われたってこと!?
「ご、ごめんね海月ちゃん。嫌だよね?大好きなお兄ちゃんのことを好きな女と一緒の空間にいるのって。こ、これからはもうちょっと距離感を考えますので……」
「イヤイヤイヤ、なんでそうなるのよ?まぁ、確かに最初の頃はかなり嫌だったのは否定しないけど。」
グサー!うぅ……やっぱり嫌だったんだ。
「でもね、最近は椎名さんだったらお兄の彼女になってもいいかなぁ〜って思ってたり…………。正直に言うとね、ウチ昔色々あって、お兄とパパママ以外は全部敵!って思ってたけど…………椎名さんはこんな面倒臭いウチのことも見捨てずに寄り添ってくれたし、悪い人じゃないってわかったから。」
「み、海月ちゃん…………。」
「それに、ウチも最近そろそろお兄離れしないといけないなって思ってるんだ。元々ここに来たのも、ママが「お兄に彼女でもできたんじゃないの?」って言い出したのがキッカケでね。そんなことママに言われたら、「絶対に変な女に大好きなお兄を取られてたまるかー!」ってなって、気がついたら感情のままに体が動いていたんだ。…………でも、そうやってウチが考えなしに来たことで、お兄は力を使うことになって迷惑かけちゃった。だから、ウチがお兄の力を借りずに、ちゃんと自立するって決めたの!そして、ウチがお兄の傍を離れても、ウチが認めた人がお兄を幸せにしてくれるなら…………椎名さんなら幸せにしてくれるかもって思っただけ。そ、それだけだから!」
そう言った海月ちゃんは恥ずかしくなったのか、耳まで真っ赤にしてまた正面を向いてしまった。海月ちゃんの言葉を聞いて胸の奥がじんわりとしてきた。そっか…………海月ちゃん、私のことこんなに受け入れてくれてたんだ。
「ありがとう、海月ちゃん。確かに陽ちゃんのことも好きだけど、もちろん海月ちゃんのことも大好きだからね。」
そう言って私は海月ちゃんを後ろから抱きしめる。本当だったらお兄ちゃんを取られるかもしれないのに、それでも私に素直な好意を話してくれた海月ちゃんがたまらなく愛おしく感じた。
時計を見ると、いつの間にか陽ちゃんが来るまで10分くらいになってる。
「よし、じゃあ陽ちゃん来るまでに、海月ちゃんの髪型をもっと可愛く仕上げよっか!とびっきり可愛くなって、陽ちゃんを驚かせちゃおうね〜!」
「本当?ヘヘッ、椎名さんありがとう!」
海月ちゃんが本当に嬉しそうな笑顔を浮かべてくれる。なら期待に応えるためにも、俄然気合を入れて可愛くしないとね!そうして私は海月ちゃんの髪を再び触りだした。目指せ、可愛さ世界一ってね!




