02 新たな出会い、そして約束
朝起きると、昨日の出来事が現実だったと改めて実感する。一見いつもと変わらない生活空間にゴーレムが座っている。窓の外では知らない人が知らないものを持って知らない言語を話している。
とりあえず散歩にでも行ってみようと思い、スマホと銀貨だけを持ってドアを開けた。そこで初めて気づいたのだが、家の外観は完璧に異世界に適応していた。あそこの窓が外からだとこう見えていて……室外機はなんか樽になってるし……なんか勝手にベランダが追加されてるし……そのまましばらく見入ってしまった。
すると、通りすがりの誰かに話しかけられた。何を言っているのか分からない。と身振りで伝えると、何回か違う言語に言い直した(気がする)後に、ようやく日本語で会話出来るようになった。カタコトな日本語を相手に、ぎこちない会話を進めつつも、何とか入手した情報をまとめると、こうなる。
・日本語は???と会話するには不可欠
・この地域で一般的な言語は???語
・同時に???の通り道でもあるため、異世界語(例えば日本語)が通じる人も多い
・この村の???(なんか家電量販店みたいな?)は最近店を閉めた。
・この村のダンジョンの入口近くには、初心者のためのスライムが放牧されている
これらの情報を元に、まずはゴーレムを家電量販店(仮称)に持っていく事にした。1度家に戻り、ゴーレムと台座とパソコンを持って、そこに向かった。
入口にたどり着くと、閉店したはずのその店を丁寧に掃除している2人を見つけた。身長は自分より2回りほど低く、台に乗ってちょうど目線が合うようだった。……そして、なんか不機嫌だ。また知らない言語で互いに話し合い、結果的には「こんな廃墟に何をしに来た」みたいな事を言っているので、やはり全体的に部外者と見られているのではないかと考えつつも、店内を覗いてみた。
店内には、風の出る木箱(多分エアコン)や、フタとボタンのついた桶(多分洗濯機)などがあり、まさに家電量販店のような配置になっていた。すると、すぐに先程の2人が駆け寄ってきて、その1人がそれらの家電の前に立ち塞がった。「これに触るな」「壊すな」とか言われている気がする。
もう1人は、持ってきたゴーレムを、目を丸くしながら観察した。そして、しばらく観察した後に、急に店の奥の方に走り、ガラケーに見える携帯を持ってきた。この店にガラケーが置いてある事に驚く自分と、おそらくガラケーを知っている人がいた事に驚く住人と、今度は多分誇らしげに製品を紹介している住人。この構図が既に気まずいのだが、それこそがこの店の過去を物語っていた。
ガラケーを操作するのを横目で見ていると、ガラケーを持つ手が震えているのが分かる。久しぶりに使って緊張しているのかもしれないし、この話の通じない部外者とどう接すれば良いのか分からないのかもしれない。
その人の顔が満足気になるのと同時に、そのガラケーから日本語が聞こえてきた。「……それで、このボタンを押すと低温の乾燥が……」おそらく、先程から聞こえてくる製品紹介が、ガラケーからは日本語として聞こえてくる。そう、つまりあのガラケーには翻訳機能があるらしい。試しに日本語で「こんにちは」と言ってみると、今度は異世界語に翻訳された。
まだ色々言いたげな住人を、ガラケー片手に店の奥に押し込むと、その人から興奮気味に色々と説明された。
まず、ここにいるのがアイトさん、奥にいるのがアイナさん、双子だと紹介された。そして、今はいない「店主」と共に3人で店を経営していたらしい。その店主は、この世界で当時の技術を再現して、生活水準を上げる事を目的として店を開いたとの事だ。
アイナさんほどではないが、アイトさんも、その店主の作品にはかなり感動していたらしく、かなりの時間を割いて仕組みや制作過程などを教えてくれた。この世界にある材料だけで完成させるために、木箱や樽を使っていたが、本来ならもっと本物に近づけたかったようだ。その後見せてくれた当初の設計図には、元の世界のエアコンや洗濯機の設計図が書き込まれていた。
しかし、ある時を境に、このガラケーを残して、その店主はどこかに消えてしまったらしい。それを説明している時のアイトさんは、本当に悲しそうだった。店主にとっては些細な道具でも、アイトさんやアイナさんにとっては本当に新鮮で楽しくて夢のあるプレゼントだったに違いない。
それから、何度も何度も、残されたプレゼントを分析して自分達で作ろうとしたらしい。けれど、どれも上手くいかなくて、何度もケンカして、悔しくて、それでも誰も来ない店をずっと管理していた……という話だった。
一通り話を終えた後、アイトさんは真剣な顔に戻り、ある提案をしてきた。それは、この店に保管されている製品のうち2人の思い入れの薄いものを材料として提供する代わりに、それを使って何かすごいものを作ってほしい、というものだった。
この提案は、そう簡単に受けられるものではない。かつての店主がそうであったように、途中で消えてしまう事にならないか、何が起きても最後まで役割を果たせるだろうか、それは分からない。それでも、この提案を受けたいと心から思える。材料を手に入れてゴーレムを作りたいという欲望以上に、なにか別の理由が湧き上がってくる。だからこそ、この提案を受ける事にした。
その言葉を聞いた時、アイトさんは少しだけ笑った表情を見せ頷きながらも、すぐに立ち上がって店の奥に入っていった。飛びついて喜ぶでもなく、詳細な話を進めるでもなく。
ガサゴソと何かを探す音が聞こえ、しばらくして重そうな木箱を持ったアイトさんが戻ってきた。それを見て、こちらも頷く。まるでこちらの実力を測るかのように装置を並べるアイトさんと、それを察して物陰から様子を伺うアイナさん。
自分をこの世界に送り込み、あのサイトを見せ、ここまで辿り着かせたのは一体誰なのか、それはまだ分からない。けれど確実に、この世界には自分の役割があって、それを実行するように促されている。この日の約束が、いつか何かを動かすと信じて、これからのゴーレムライフを創造しようじゃないか。




