表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/429

魔術付与

 空色の戦斧亭はセルバの街、北側の城壁近くにある。

 亭主のゴードンはセルバでも有名なBランクの斧使いだったが、怪我で冒険者を続けることが難しくなったため、現在は宿屋を開いている。

 時々請われては、ギルドで後輩の冒険者に指導をしたり、セルバ周辺の魔物や薬草や地形など、冒険者にとって必要な情報を教えている。

 元冒険者らしく、豪快で人懐こい男だ。


 銀の不死鳥は、空色の戦斧亭では、ライとレヴィの男部屋と、レイと琥珀の女部屋用の二部屋をとっている。

 メンバーは、朝食は一階の食堂でとることに決めていた。そこで朝食をとりつつ、本日の予定を話し合うのだ。


 今朝のメニューは、パンとサラダ、ベーコンエッグ、スープというシンプルなものだ。そこそこボリュームもあって、体を動かす冒険者の朝食にはちょうど良い分量だ。


「今日は装備品の調達と情報収集がメインだな。新しい街ではいきなり冒険には出るなよ。情報収集は大事だ。知っていれば避けられることなんて山程ある」

「そうなんですね」


 ライの冒険者講義を聴きつつ、朝食だ。かなり大柄でがっしりしたライの前の席には、レイとレヴィが並んで座っている。朝日がライの見事な金髪を照らして、眩く光っている。


「あんた、随分慎重だな。だが、冒険者には大事なことだ」


 カウンター越しに、銀色の短髪の大男が声をかけてきた。この宿の亭主のゴードンだ。少しだけ足を引きずっているようで、移動が少しぎこちない。


「ああ、亭主さん」

「ゴードンでいいぜ。初心者講習かい?」

「そんな所だ。そうだ、こいつらの装備を整えたいんだが、セルバでいい店を知らないか?」


「そうだな……全く新しい武器を買うなら、大通りにあるゾルド武器防具店だ。あそこの店主は目利きでしっかりした武器防具を仕入れてる。使ってる武器の手入れなら工房街にあるマーズ工房がいいぞ。工房主のオヤジが頑固だが、腕はいいし、気に入られればおまけしてくれることもある。中古で装備を買うなら、市場裏にあるマーシーズという青い看板の店だ。あそこは品揃えがいい」


 ゴードンが丁寧に紹介してくれた。元冒険者なだけあり、冒険者にとって必要な店の特徴もしっかり把握している。


「ありがとう、助かる。そうなると、まずは中古装備を見てから、武器は大通りの店だな。下手にケチって、戦闘中に折れたりしたら大変だからな、武器は新品を買うぞ。魔術師のレイはともかく、剣士のレヴィはしっかり揃えないとな」


 ライの提案に、レイとレヴィはこくりと頷いた。


「そういえば、レヴィはどんな剣を扱えるんだ? 一応、俺とお前で前衛をやる予定だ」

「剣であれば一通りいけます。大剣も双剣もナイフでも大丈夫です。魔剣や聖剣は相性があるので、難しいです」

「……お前、どこかで傭兵とかやってたのか? 魔剣や聖剣は滅多にお目にかかれないから心配しなくていいぞ」


 朝食をとりつつ淡々と告げるレヴィに、ライは訝しげだ。


 レイはフッと目線を逸らした。

 レヴィ自身が、その滅多にお目にかかれない聖剣だ。しかも歴代剣聖の剣技を完全コピーできる——おそらく、歴代剣聖には、大剣使いも双剣使いもナイフ使いもいたのだろう。


 ライにはレイが剣聖であることと、レヴィの正体が聖剣レーヴァテインであることは秘密なのだ。少々後ろめたいが、レイは黙々と朝食を食べることにした。



***



 セルバの市場を一本裏に入った所に、青い看板が目印のマーシーズがある。ここでは主に防具やキャンプ用品の不足品を買い入れる予定だ。

 レイたちが出入り口の青いのれんをくぐると、所狭しと品物が置いてあった。


「レイ、魔術式は見れるか?」

「見方は習いました。劣化防止とか防水みたいな基本的な術式は分かるのですが、高度なものになってくると、まだ分からないです」

「いや、それだけできれば十分だ。レヴィはできるか?」

「レイと同じことができます」


 レヴィは歴代剣聖の剣技やスキルを使える——魔術もそうだ。ただし、魔術は持ち主である剣聖の魔力を消費するので、今までの剣聖では魔術を使ってこなかった。

 当代剣聖のレイは、魔力量無限の三大魔女だ。レヴィも、レイが扱える魔術であれば使い放題だ。


「中古品は魔術付与があるか見てくれ。もし複雑なものがあったら、要相談だ……もし魔術付与ができるなら、魔術付与の無い物を安く買ってきて、自分たちで付与してもいいな」


「魔術付与ならできるので、付与できる素材でしたら、後で付与しましょうか? 劣化・傷つき防止、防水、落下逓減(らっかていげん)、衝撃吸収、強度アップ、切れ味アップ、魔術効率アップ、各種耐性付与、各種属性付与、平凡擬態……あと仕込めるなら癒しの魔術陣もいけます」


 レイは指折り数えて、自分ができる魔術付与をライに伝えた。


「……なんでそんなに魔術付与できるんだ?」

「ドワーフのモーガンに教えてもらいました。一緒にキャットタワーとキャットウォークを作ったんです。『いろいろ付与できると便利だし、お得だぞ』って基本的なものは一通り教えてもらいました」

「防具の巨匠モーガンか……キャットタワー???」


 ライは驚いて目を丸くした。「基本的なものって、ドワーフ基準じゃねぇか」と頭を抱えて呟いている。


 そこへ琥珀がレイのローブのフードから顔を出して「な〜ん」と鳴いた。


「ああ、そういうもんなんだな……」


 ライは、琥珀の一鳴きで何やら納得したようだった。琥珀の頭をガシガシと撫でている。


「? どうしたんですか?」

「猫語だ。琥珀がキャットタワーとキャットウォークの説明をしてくれたんだ。なかなか気に入っているらしいぞ」

「猫語!」


 レイは聞いただけでもかわいらしい言語に目を煌めかせた。

 さすがの召喚特典も、猫語は対象外だったようで、非常に残念に思った。


「そうなると、元の魔術付与は関係なく、品質がいいやつを選んだ方がいいな。後で宿に帰ったら付与してくれ。下手な魔術師が付与したものよりも、レイが付与した方がいい効果がのるだろ」

「了解です!」


 結局、マーシーズでは、レヴィ用の新古品の革鎧と丸盾を買った。魔術付与は付いていないため、後でレイが付与する。

 レヴィは革鎧をその場で装備して、丸盾は背中に背負った。



 次に、レイたちは大通りにあるゾルド武器防具店にやって来た。

 ブラウンの煉瓦造りの建物に入ると、「いらっしゃい!」と店主が声を掛けてきた。赤みのブラウンの髪をなでつけた、眼鏡の男性だ。


「剣を見たいんだが……」

「それなら、奥の壁際にある」

「ああ、ありがとう」


 レイたちは、店の奥の剣がたくさん置いてある一角にたどり着いた。


「それで、レヴィはどんな武器にするんだ?」

「どれにしましょうか……」


 レヴィはざっと剣を見渡し、気になるものを一つ手に取った。


「シンプルな剣だな。丸盾も使うならちょうどいいだろう」


 ライオネルもうんうんと頷いた。


「レイ、この剣なら、何を付与できる?」


 ライが小さな声でこっそりレイに尋ねた。


「強度と切れ味アップぐらいです。さらに追加できても、平凡擬態ぐらいです……それ以上は剣の素材の方がもたないです」

「まあ、十分だな。レヴィ、それにしようか」

「そうしましょう」


 ライもレヴィも、こくりと頷いた。


「レイはどうする? 魔術師用の杖か?」

「護身用にショートソードの方がいいです」


 ライの質問に、レイは首を横に振った。魔術師用の杖は使ったことが無いからだ。


「レイなら、これでしょう」


 レヴィがさも当たり前のように、一本のショートソードをずいっと差し出した。


 レイがそのショートソードを受け取ると、いつも使っているものと握り具合も重さも同じような感じだった。


(聖剣って、他の剣のことも分かるのかな……?)


「ありがとう、私はこれにするね」

「どういたしまして」


 レイはにこりと笑うと、レヴィも茶色の瞳をふわりと三日月型にして微笑んだ。



***



 空色の戦斧亭に戻って来ると、女部屋に集合して、新しく買い入れた装備の魔術付与だ。

 武器には強度と切れ味アップを、防具には衝撃吸収と強度アップを付与し、どちらも仕上げに平凡擬態の魔術をかける。


「……平凡擬態があって良かったな……」


 ライオネルが頭痛を堪えるように、片手で額を抑えている。随分と渋い表情だ。


「? どうしたんですか?」

「……魔術付与すると、いつもこうなのか?」

「ユグドラの樹の団欒室にある、キャットタワーとキャットウォークはもっと凄いです!」


 ライの苦々しい声での質問に、レイは弾んだ声で答えた。


「モーガンに教えてもらった通りに付与したんですが……どこかおかしいですか?」

「そこもドワーフ仕込みか!?」


 レイはいつも通り、ユグドラ基準で魔術付与をした。

 キャットタワーやキャットウォーク作りの手伝いをした時のように、丁寧にしっかりと付与したのだ。


 結果、本日買い入れた一般的な下級装備品は、全て上級装備にレベルアップした——一般的な魔術師による魔術付与では、ここまで効果が載ることはない……


「……一国の騎士団長が使ってるような装備品レベルだな。絶対に、他の奴らに使わせるなよ。盗まれるぞ」

「はーい!」

「分かりました」


 ライの忠告に、レイもレヴィも素直に頷いた。


 ライは、この調子では先が思いやられるなと、遠い目をした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ