目指せ!ダンジョン管理士!4
「あっ! このモニター! もしかして、今ダンジョンを攻略中のパーティーですか!?」
レイは、とあるモニターを指差して叫んだ。
水晶モニターには、床に仕掛けられた罠を解析して、慎重に解こうとしている魔術師たちが映っていた。
「ええ、そうよ。ここから冒険者たちの様子を観戦できるのよ。彼はパーティーリーダーのランドンね。私の推しよ!」
ダンジョンボスの中で、見た目が唯一の女性──ジンデイジーが、レイの肩に手を置いて、教えてくれた。彼女の長い髪がぷるるんとレイの背中に触れて、ひんやりとした感触が伝わってくる。
「推し……」
(まさか、敵の冒険者が推し……名前までちゃんとチェックしてるし)
レイは水晶モニターを見上げた。
ランドンは、濃い紫色の髪をした、見た目三十代くらいの男性だ。無精髭が生えてはいるが、渋めのハンサムな顔立ちをしている。罠の解除に集中しているからか、彼は眉根に深々と皺を寄せていた。
「私の推しはユーニスですな。ほら、こっちの水晶モニターで、腕組みしてる女性です」
頭の赤いとさかを揺らして、貴族風の服を着た男性が、別の水晶モニターを指差した。
ユーニスは、長い金髪の女性だ。綺麗なお姉さん風の雰囲気で、キリッとした少しキツめの顔立ちをしている。スタイルが良く、ホットパンツにロングブーツを合わせている。
「ベルモントは、女の趣味が悪いわね」
「何を言う!? ジンデイジーこそ、こんな粗野な男のどこがいいのだか!?」
ジンデイジーが軽口を叩くと、ベルモントは自らのとさかと同じくらい顔を真っ赤にして反論した。
「まぁまぁ……みなさん、それぞれ推しがいるんですね。素敵じゃないですか」
レイは、二人を落ち着かせようと、苦笑いを浮かべた。
「ダンジョンは娯楽が少ないからな。カードかダンジョン攻略の観戦くらいしか、娯楽が無いんだ」
ダンジョンボスの中でも一番大柄な男性が、声をかけてきた。彼の太い腕には、非常に硬そうな鎧鱗がいくつも付いている。
「ニコラシカさん、いいんですか? 攻略されてますけど……?」
レイは隣にやって来た大男を、ぐいっと見上げた。身長差がありすぎて、首が痛くなりそうなくらいだ。
「ダンジョンとは、そもそもそういうものだ。侵入者に試練を与え、勝者には褒美を、敗者には死を与える──そうやって、侵入者を鍛え、この世界に貢献しているのだ」
「へぇ〜……」
ニコラシカが達観したように静かに言うと、レイは相槌を打った。
(ダンジョンって、そういうものなの?)
レイがチラリとフェリクスの方をうかがうと、彼もうんうんと頷いていた。どうやら、ニコラシカの言うとおりのようだ。
「ダンジョン攻略観戦は、中・上層階でも大人気っすよ! ダンジョンの魔物は、みんなコレ見て、対策立ててるっすから!」
狼の頭が三つ付いた男性が、気軽に話しかけてきた。
尻尾の方にある蛇頭も、親しげにレイの顔をすぐ目の前で覗き込んでくる。
(そっちの意味で人気…… !? それ、お仕事で必要だから観てるだけだよね!?)
レイはギョッとしてさりげなく蛇頭を避けつつ、「そうなんですね〜」と相槌を打った。
「おや? このパーティーは魔術師ばかりだね。上層階では問題ないけど、中層階からは攻略に行き詰まるんじゃないかな?」
フェリクスは何かに気づいたようで、まじまじと水晶モニターを見つめた。
「えっ? 魔術師だけじゃダメなんですか??」
(確か、パーティー名が「迷宮攻略魔術師会」だから、魔術師ばかりのはず……)
レイは今度はフェリクスの方を見上げた。
「ここら辺の水晶モニターは、中層階のっす! フェリクス様ご自慢の超アスレチックっすよ!」
「!? こ、これは……!!」
三つ首男が指し示したモニター群に、レイは目が釘付けになった。
(これって、何のSA◯UKE!!?)
ボルダリングのように壁を登るエリアや、ロープで綱渡りするエリア、水の上をいかだと棒切れ一本で渡るエリア、丸太や岩の間をジャンプしながら渡るエリアなどなど──四十階層から先は、レイも驚きのフィジカルトラップの嵐が待ち受けていた。
「攻略を邪魔する魔物も一応出るけど、トラップを一つでもミスしたり、制限時間内にその階層をクリアできなければ、ダンジョンの入口まで帰してあげる親切設定なんだ。体力を消耗するから、きちんと休んだ方がいいしね。あ、ちなみにフロア全体が魔術使用不可になってるよ」
フェリクスは、ほくほくとした笑顔で解説してくれた。義娘が興味を持ってくれて、嬉しかったようだ。
(あ、やっぱりSA◯UKEだ……)
魔術を武器として扱い、体力の少ない魔術師を完全に殺しにきている不親切設計に、レイはぶるりと震えた。
さらには、一つでもミスするか時間オーバーになってしまえば、即ふりだしに戻される──ダンジョンマスターの善意が変な方向に働き、冒険者のメンタルをへし折りにくるとんでもない設計になっていた。
「義父さん、これじゃあ、誰も最下層まで来れませんよ?」
「うん、そうなんだよね。ギムレットたちにも同じことを言われてね。だから、召喚状を作ったんだよ」
レイが呆れてフェリクスの服の裾をツンと引くと、フェリクスは一瞬「おや?」と目を丸くした。そして、余計上機嫌なニコニコ笑顔で教えてくれた。
「はぁ、推しが私の階層に来るのは、いつの日になるのかしら?」
ジンデイジーは、ランドンが映るモニターを見つめ、甘く切ない溜め息を吐いた。心なしか、彼女の吐いた息は、毒々しい紫色をしていた。
「もし、推しの方がボス部屋に来たらどうするんですか?」
レイはふと気になって、尋ねてみた。
大好きな人がもし自分のボス部屋に来たらどうするのか、シンプルに気になったのだ。
「そりゃあ、ボスのお仕事があるもの! 精一杯お・も・て・な・しさせてもらうわ!」
「……」
ジンデイジーは、大きな瞳をパッチリとウィンクさせた。彼女のライム色の瞳が、魔物らしく暗く妖しく光ったのは、レイの見間違いであって欲しかった──
レイは謎の悪寒がぷるりと全身を駆け抜けていた。
(あ、この感じだと、むしろ容赦しないのかも……)
レイがぷるぷると小刻みに震えていると、三つ首男が話しかけてきた。
「お嬢はこのダンジョンは初めてっすよね? 他にもいろいろあるんで、案内するっす!」
「ブルドッグさん、ありがとうございます」
ブルドッグは、「こっちっすよ!」と手招きしながら先に歩いて行った。尻尾も機嫌良さそうにブンブン左右に揺れていて、蛇頭は目を回していた。
(…………ブルドッグさんって、絶対「ブルドッグ」じゃなくて、魔物の「ケルベロス」だと思うんだけど。頭が三つ付いてるし…………)
レイは彼のたくましい背中を眺めつつ、ごくりと唾とツッコミの言葉を飲み込んだ。
当たり前のように流されていて誰も何もツッコミを入れない空気感に、レイは少しだけ胸のあたりがモヤッとしていた。




