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未秘の恋  作者: さき
7/7

*7



「あの…タカヤギ先輩?」


帰りの電車の中。

先輩と家は反対方向だけど、「暗くなったし、久々に行ってみたくなったから」と言って家まで送ってもらうことになった。


「…あのさ、俺はモモにコウくんって呼んでくれた方が嬉しいんだけど」

「――あの…こ、コウくん…」


10年ぶりに再会して、面と向かって――それも先輩にコウくんと呼ぶのは気恥ずかしいということに気付いた――これは予想外。

そしてコウくんに聞きたいことが一つ。


「うん、なに?」

「――下の名前って…」

「ああ、ユキトだけど」

「…やっぱり。あの、なんで」

「俺がコウくんか?」


黙って頷く。

コウくんってずっと呼んでいたから、見つけられなかった。

タカヤギ先輩が「モモ」と呼んでも信じられなかった。


「――ずっと後になってからかな。昔のアルバム見て、モモのこと思い出して。それでコウくんって呼ばれてたことも思い出した。俺も不思議に思って母さんに訊いたんだけど…。ユキトって、幸せに人って書くんだよ。――昔、モモの近所に引っ越してきて、モモとモモのお母さんに初めて会った時のこと。名前訊かれて、モモのお母さんに漢字は?って訊かれたらしいんだ。それで、俺の母さんがユキトは幸福のコウに人です、って言ったら、モモがコウ?コウ?って俺を指さして言ったらしいんだよ。それから俺のことはコウくん」

コウくんという呼び名にそんな理由があったとは…


「そう、なんだ」

「俺の母さんが、呼びやすいようにコウくんでいいですよーなんて言ったらしいし」

「へぇ~」

「だから、俺のことをコウくんって呼ぶのはモモだけ」


ちょっと、いやかなり恥ずかしい――私だけのコウくんのような気がして。

でも、それが嬉しい――独り占め。


私のことを「モモ」って呼ぶのはコウくんだけだよ、ってそっと教えてあげようか。

――いや、もうちょっと黙っていようかな。

今は、コウくんを独り占めしてる気分を味わいたい。

それから、私の多くをコウくんが占めていることを教えてあげよう。

この考え方は、ちょっと危ないかもしれない。

でも、10年も待ち続けている時点で、もう十分狂ってる。

私も、そしてコウくんも。



***



次の日の朝。

昨日は興奮して眠れないかと思ったけれど、意外とぐっすり眠ってしまった。

おかげで目は腫れることなく、ついでに言えば、顔面も後頭部の腫れも引いていた。


今日は課外があるから、少し早めに家を出ると、マンションの前に一人の男子学生が立っていた。

「…誰だろう」なんてひとりごちた後、ふとある顔が浮かんだ。

まさかね、なんて思いながら、近づくと頭に浮かんでいたその人だった。


「――コウくん」

「おはよ」

「おはよう、ございます」


昨日、「この近辺から行くんだったら、何時ぐらいに家出るの」なんて訊かれたから、何も考えずに答えていたけれど…迎えに来るなんて予想外だ。


「あんさ、仕切り直しさせて」


朝の光は優しくて、キラキラしてる。

コウくんの笑顔がいつもの倍くらい輝いていて、まぶしかった。


「ちゃんと、ちゃんと迎えに来たかった。約束守りたかった」


―――ああもう、涙腺決壊。

3日も連続で泣いても、私の涙は枯れることなく、とめどなく溢れた。


コウくんの誠意に、私も全力でこたえたい。

昨日言えなかったこと、ちゃんと言いたい。


「コウくん、わだしも……約束、守りたい」


走り寄ってコウくんに抱きつく。


「迎えに、来てくれて、ありがとう。それから…私も、ずっとそばにいたいっ」



「いつまでも一緒にいる」


10年間心に秘めてた恋を叶えたんだ。

――もう一つの約束も絶対叶えてみせる。




ぎゅっと強くコウくんを抱きしめたら、それと同じくらいの力で抱きしめ返してくれた。

幸せを噛みしめた。



最後のほうは短く区切ったのですが、中編です。

「未秘の恋」は一旦完結します。

あとで活動報告にてちょいちょいこの作品について語りたいな~と。


ここまで読んでくださってありがとうございました。

誤字脱字などがありましたら、申し訳ありません。

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