四人組
午後のホームルーム。
「来週の新入生歓迎遠足に向けて、四人一組のパーティを組んでもらいたい。あそこの山道には、まれに魔物が出ることがある。各自の能力や相性のバランスを考えて組むように」
カレン先生の一言で、急遽パーティ編成が始まった。
「確か、火属性の魔法が使えましたよね?」
「ええ、あなたは?」
「私も火属性ですの」
「おーい、一緒に組もうぜ!」
「いいよー」
周囲の生徒たちは、普段から仲の良い者同士や、同じ属性の魔法を使える者同士など、次々とパーティを組んでいった。
「セシリア様、どうしましょう?」
「そうですわね……」
一方、俺とエマはというと、残り二人のメンバーが決まらずにいた。
そもそも、俺たちには特に親しい友人がいない。おまけに、相性の良い属性や同じ属性の魔法を使うクラスメイトにも心当たりがなかった。
それどころか、クラスメイトたちは俺と目を合わせようとすらしない。
おかげで、俺たちは二人そろって途方に暮れていた。
そんなときだった。
「セシリアさん、ウチらと組まない?」
ふいに後ろから声をかけられた。
振り返ると、制服を着崩した、暗い水色のショートヘアの女子生徒が立っていた。
(ギャル……?)
彼女の後ろからは、黒っぽい紫色の髪をした男子生徒が慌てて追いかけてきた。
「姉さん! モンフォール家の方に気安く話しかけないでよ! 僕たちは、名門貴族の方々からあまり快く思われていないんだよ!」
紫髪の男子生徒は、女子生徒を叱りつけた。
(姉さん? 留年でもしたのか?)
俺は男子生徒の言葉に引っかかりを覚えつつも、ひとまず二人のやり取りを見守った。
「ミロは心配しすぎだって。校内新聞にも書かれてたじゃん。モンフォール家は新興貴族にも平等に接してくれるって。大丈夫、大丈夫」
「新聞は新聞だよ! 実際は違って、ものすごく排他的な家かもしれないじゃないか!」
女子生徒は飄々とした様子で、半笑いを浮かべながら答えた。
対する男子生徒は、怒った様子で反論している。
(いや、本人を目の前にして、それを言うのはまずくないか?)
男子生徒は興奮するあまり、つい本音を口にしてしまったらしい。
俺がどう反応すべきか迷っていると、女子生徒がケラケラと笑いながら口を開いた。
「つーか、本人を目の前にして排他的とか言う方がヤバくね? ウケるー」
(だよな……)
見た目に反して、女子生徒の方がよほどまともなことを言っている。
俺が妙に感心していると、
「あっ……」
男子生徒は数秒遅れて、自分の失言に気づいたようだった。
「モンフォール様! 大変申し訳ございませんでした!」
そして、次の瞬間には見事な土下座を決めていた。
「ウケるー。写真撮っとこ」
一方、女子生徒は反省する弟を助けるどころか、ケラケラ笑いながら携帯でその姿を激写していた。
(こいつらは何なんだ……?)
俺が二人のあまりの自由さに困惑していると、女子生徒が改めて自己紹介を始めた。
「ウチはミラ・フォルティス。で、土下座してんのが双子の弟のミロ・フォルティス。ウチらも二人余ってるし、ちょうどいいっしょ?」
ミラは不敵な笑みを浮かべながら、俺たちに提案してきた。
俺一人では判断しきれなかったので、隣にいるエマへちらりと目配せをする。
「私は、かまいませんよ」
エマは迷うことなく頷いた。
「エマがよろしいのでしたら、ぜひご一緒させてくださいませ。ミラさん、ミロさん」
エマの了承を確認した俺は、ミラの提案を受け入れた。
ミラはにっこりと笑い、ミロは土下座から顔を上げて、まだアワアワと慌てていた。
無事に四人組を作ることができた(?)俺たちは、続いてフォーメーションについて話し合うことになった。
「でさ、セッシーとエマっちは、魔法でどんなことができるわけ?」
(セッシー?)
ミラがつけた俺のあだ名に首を傾げていると、ミロが大声で姉を叱り始めた。
「姉さん! モンフォール様に失礼だよ! そもそも、気安く名前で呼ばないで! あの鬼の手腕で知られる財務大臣様を怒らせたら、フォルティス家なんて輸入ルートを潰されて、すぐに立ち行かなくなるんだから!」
(モンフォール家って、そんなにヤバい家なのか?)
俺は、今後直面するかもしれない家同士の問題に頭を抱えた。
「んなわけないじゃん」
ミラはケラケラと笑いながら、軽い調子で否定した。
「あとさ、本人を目の前にして家の悪口を言うの、まずくね? ミロ、学ばなかったの?」
そして、もっともな指摘を付け加えた。
(さっきも見た流れだなぁ。どうせ、この後は土下座だろ?)
俺が内心苦笑しながら展開を予想していると、
「大変申し訳ございませんでした!」
ミロは予想通り、再び見事な土下座を披露した。
「はいはい。天丼は一日二回もいらないっつーの」
「あう……」
ミラは土下座するミロを軽く蹴り飛ばした。ミロは弱々しい声を漏らしながら、床を転がっていった。
(弟の扱い雑だな……)
俺が呆れている間にも、ミラは何事もなかったかのように話を続けた。
「で、話を戻すけど、闇属性と光属性ってどんなことができるわけ?」
(どんなことができるんだろうな?)
俺自身も知りたい質問だったため、すぐには答えられず、助けを求めるようにエマを見た。
「うーん、私も魔法をあまり使っていないので、分かりません」
エマは困ったような表情を浮かべながら、正直に答えた。
「ふーん。セッシーも同じ感じ?」
「申し訳ございません。わたくしも、自分の魔法についてはあまり存じ上げませんわ」
ミラに促され、俺も正直に答えることにした。
「なるほどね。じゃあさ、放課後、ウチの家に来て、どんなことができるか試してみない? 光属性と闇属性の魔法、見てみたいし」
「生徒会にも急ぎの用事はございませんし、ぜひお願いいたしますわ」
俺はミラのありがたい提案に乗ることにした。
「姉さん! モンフォール様を家にお招きするなんて、とんでもないよ!」
「えー、本人がいいって言ってるんだし、いいじゃん。それに、父さんも貴族の子供たちを家に招いて、友好を深めろってよく言ってるじゃん」
「確かに父さんはよく言ってるけど……。僕、もう知らないからね!」
ミロは怒った様子で反論したものの、ミラに言いくるめられ、拗ねたようにそっぽを向いてしまった。
「ついでにさ、夕飯も食べていきなよ」
「そこまでお世話になるのは、さすがにご迷惑ではありませんか?」
さすがにそこまでの提案は予想外だったのか、エマが困った様子で口を挟んだ。
「大丈夫、大丈夫。父さん、普段から貴族の子供たちと食事を囲んで、交友を深める場を設けなさいってよく言ってるし。きっと喜ぶよ」
「私、平民なのですが……」
エマが気まずそうに指摘するも、
「まあ、いいんじゃない? 細かいことは気にしない、気にしない」
ミラは楽しそうに笑いながら、強引に話を進めてしまった。
エマは困った様子で、俺の顔をうかがってくる。
「ミラさんがよろしいとおっしゃるのですから、お言葉に甘えることにいたしませんか?」
「そうですね」
こうして俺たちは、放課後、フォルティス家に招待されることになった。
「あとさ、ウチら友達なんだし、ミラって呼んでよ。敬語もいらないしさ」
「わたくしには、相応の身分がございますので」
「私も立場がありますので」
「えー……」
ミラは不満そうに頬を膨らませた。




