ライターの音
今日はアオリイカ釣りに来ていた。その場所というのは、随分昔に違法建築されたという波止で、アオリイカが結構釣れるのだという。釣り場で知り合った人が言っていた。
釣り場までの道は、車を降りてから結構歩く。ジブリ作品のような鬱蒼とした森の小道を抜けて、波止に着く。
時刻は夕マズメ前、丁度いい頃だった。
しかし釣果に恵まれず、アタリがあったのは、時刻が夜中の二一時を迎えた頃だった。
充分に大きなイカをタモ網で取り込み、陸へと揚げる。三キロはあるだろう、充分な大きさだった。
周囲には人がおらず、波止の先端部だけに二人ほど年寄りの方たちがいるくらいだった。自慢しにいくほどではない。
一先ずボウズを免れたことに安心し、煙草を咥えて(当然携帯灰皿は持参している)ジッポライターを取り出そうとすると、海に落としてしまった。幸いにしてここは違法建築の波止で、岩を積み上げただけのものだ。下まで下れるようになっていて、ライターは回収できた。
火を点けようとして、やはり点かなかった。湿気ってしまったのだろう。
それでもどうしても一服入れたかった私が何度かライターを弄っていると、カチッと耳のすぐ後ろから、電子ライター特有の音がはっきりと聞こえた。振り返っても、当然誰もいない。
なんとなく嫌な予感がして、先端にいる人に話を聞こうとする。今このようなことがあったのですが、と。
返答はこうだった。
「この辺り、火葬場だったからなぁ。来る途中の森みたいなところあったろ? あそこに今もあるんだよ」
私はすぐにいつもより安全運転を心がけて帰宅した。イカは美味かった。
数年後、その釣り場は閉鎖されていた。関係性は知らない。




