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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第四章

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【カミカゼ】(3)

 方策は決まった。

 イベリスの発案した作戦に乗っかることにした。


 作戦は大きく分けて三段階だ。


「ほ、本当に僕が、囮にならないといけないのか!?」


 第一段階では、マジックオークの射程に入ったギヌラが、とにかく相手の攻撃をひたすらに引きつけて、逃げ続ける。

 どれくらいとは決まっていないが、少なくとも、マジックオークの攻撃のほとんどがギヌラに集中するくらいが望ましい。


「大丈夫だって。逃げてりゃいいだけだし、アルバオも援護するから」

「本当だな!? 信じて良いんだな!? アルバオ!」


 ギヌラは相当に必死の形相でアルバオを睨んだ。

 最初はものすごく渋っていたギヌラだったが、俺達三人の説得でついに屈したのである。

 ギヌラのポジションは、作戦序盤では最も危険だ。というより、作戦が滞りなく上手くいったとしたら、唯一危険と言っても良い。


「ギヌラ。僕は全力で君を守る。君は全力で、避けることだけを考えて」

「それに危なくなったら遠慮なく逃げて良い。失敗しても、俺はお前を恨まない」


 俺とアルバオが揃って言う。

 ギヌラは押し黙る。何かを決意するように、静かに、拳を握りしめる。


「……ユウギリ。恨むなよ」

「だから恨まないって言ってるだろ」


 俺がギヌラに苦笑すると、ギヌラは面白くなさそうな顔で頷いた。


「大丈夫。私だってどうにかしてみせるから!」


 第二段階の要であるイベリスが、袖をまくりながら元気に言った。


「大丈夫か? さっき練習した通りに頼むぜ」

「任せて欲しいかも!」


 彼女が発案した、マジックオークの至近距離に近づく方法。

 それは、彼女が俺を投げ飛ばすというものだ。


 目の無い魔物に見えるマジックオークは、振動や足音で獲物の存在を感知している。

 つまり、足音を極力たてない方法で一気に近づく事で、気付かれずにマジックオークの至近距離に近づけるということだ。

 もちろん、風を切る音や、着地の一歩など、消し切れない音はある。それを誤魔化すためのギヌラの囮だ。


「……それで総。本当に良いのかい?」


 そして残る第三段階だが、アルバオが最終確認をしてくる。


「作戦が失敗したら、君が一番危険だ」

「…………分かってる」


 第三段階は、そのまま、俺が心当たりのカクテルで、マジックオークを一撃で仕留めるというものだ。

 こればっかりは、通用すると信じてやるしかない。


「僕は正直言って、そこまで命の危険をおかす必要は……」

「そりゃ俺だって嫌だけどさ、ここまで来て、引けないだろ」


 エルから得た情報。ホリィ研究室の現状。そして、トライスへと繋がる道。

 なによりも、見果てぬ『ウィスキー』への渇望が、心にある。

 例えばスイがこの場に居たら絶対止めるだろう。というか、誰に話しても止められるのは分かっている。

 それでも、ここで立ち止まる選択肢を、俺は選べる気がしない。


「馬鹿だよ。君が命をかけるようなことじゃない」

「でも、命をかけるのが自分だったら、アルバオはやめるのか?」

「……それは」


 俺に逆に尋ね返されて、アルバオも言葉に詰まった。

 彼だって、真剣にここまで来た。もし、かけるのが自分の命だったら、躊躇わずに乗っけてしまったかもしれない。

 アルバオは、今回の作戦で一番安全な位置に居る。それが、ひっかかりを覚えさせているのかもしれない。


「命ってのは、かけるものじゃなく、どうしようもなく乗っかっちまうものだ。って昔やってたゲームで言ってたぜ」

「……ゲームで?」

「とにかく、成功すれば良い話だ。目の前にまで来ているモノを、むざむざ諦めたりできるかよ」


 怖いかなんて聞かれたら怖いに決まってる。

 当たり前だ。聞くな馬鹿ってレベルだ。

 だけど、そこで怖いって諦めるなら、最初からこんなところに来るものか。


「俺は、目の前のあいつを『伐採』して、全部成功させてやる。俺も、アルバオもホリィ研究室も。それに……」


 ようやく全力を出せるという、セシル。彼と真正面からやり合うためにも。


「いこう。オーク樽の材料を手に入れるんだ」


 俺の声に、他のパーティメンバーは、思い思いの顔で頷いていた。




「総。準備は?」

「いつでも」


 言いつつ、俺は腰のポーチから一発の銃弾を抜き取った。

 それは、綺麗な青色の、透き通るような弾薬。

 試し撃ちしたときに、そのピーキーな性能から、恐らく使うことはないと思っていたものだ。

 俺はそれを、銃のシリンダーへと迷い無く込めて、右手にしっかりと握った。


「ギヌラ」

「分かっている」


 ギヌラに声をかければ、彼はふっと強がったような笑みを浮かべた。


「い、いくぞおおおおお!」


 気合を入れるため、そしてマジックオークのターゲットを引きつけるため。

 ギヌラは大声を上げながら、マジックオークの領域内に足を踏み入れた。


「うわっ! おわっ!」


 それを見逃す筈も無く、マジックオークの枝が縦横無尽にギヌラへと伸びる。

 重い枝を回避したあと、間髪を入れずに薙ぎ払い。

 器用に避け続けるギヌラだが、それでもどうしても間に合わないものもある。


「くっ!」

「《アイス・ピラーズ》!」


 その、どうしてもの部分を、アルバオが魔法でカバーする。しかし、防御の魔法は同時にギヌラの移動を制限することにもなる。あまり頼ってはいられない。


「じゃあ、行くよ!」


 イベリスの声にあわせて、俺は彼女があわせた両手の上に足を乗せる。

 視界の端では、ギヌラが必死に時間を稼いでいる。

 そして、覚悟を決めた瞬間、俺の身体が浮遊感を覚えた。地に足が着いていない。

 あるのは全力で俺を押し出そうとしている、力だけ。


 そして、俺は射出された。


 空気が悲鳴を上げる。凄まじい速度で、身体が風を切っている。

 嵐のように振ってくるはずの攻撃は、すべてギヌラへと向かっている。

 マジックオークはまだ、俺に気付いてはいない。


 俺は頭のなかで作戦の成功を祈りつつ。

 マジックオークの幹に触れる距離に。


 着地した。


 射出の勢いを殺すように伸ばした足から、ズザザという足音が響いたようだった。

 マジックオークは一瞬だけ動きを止めた。

 今の瞬間にも命の残量が削られているようなプレッシャー。


「お前の相手はこっちだ!」


 ギヌラの声が響いた。彼はわざと大声をあげて、マジックオークの注意を再び引いた。

 マジックオークはすぐにまた、ギヌラへと攻撃を再開した。

 だが、既にギヌラにも疲れが見える。急がないと、時間が無い。

 慌てることだけは決してせずに、俺は速やかに、カクテルの素性を答える。


基本属性ベース『ウォッタ45ml』、付加属性エンチャント『ライム15ml』『コアントロー1tsp』、系統パターン『シェイク』」


 なんでこんな所で宣言をしているのか。

 それは、引き金を引く直前に魔力を送り込まないと発動しないから。

 故に、至近距離まで近づく必要があった。


 イメージするのは、くしくもこのカクテルの由来になった人達の姿だ。

 己の身を、全霊をかけて、相手の懐に飛び込んだ。

 彼らもきっと、このプレッシャーと戦っていた。


 いや、それは彼らに失礼だ。

 彼らに比べれば、この状況なんて、ぬるいも良い所だ。


 マジックオークは完全に俺の存在を認識している。

 さきほどまで聞こえていたギヌラへの攻撃の音が止んでいる。

 しかし、今更気付いたところでもう遅い。

 俺はその思考を、少しでも切り捨てて『カクテル』のイメージを高めた。


 刀のように鋭い、スッキリとした切れ味。

 透明にどこまでも伸びる、風のような風味。

 そして、近づけば、何者も止めることができずに切り込んでいく破壊力。


 ブゥと鈍い音がして、銃はその時を待つ。

 俺は身を捻り、刀を抜くように体勢を横にずらし、足を踏み込む。

 宣言しよう。



 このカクテルの名前は──



「──っ!?」



 ブォン、と目の前に一本の枝が降ってきた。



 ギヌラが何かしくじっていたのか。

 最初から、囮と気付いていたのか。

 それとも、切り札を隠していたのか。

 その一本の枝が、致命的な速度で俺へと迫っていた。



 すでに振り抜いていた銃は戻せない。

 引き金にかけた指も同様だ。

 体勢はもはや、回避を捨てている。

 避けること能わず。

 さりとて、避けなければ。





 ──死──。





「総!」


 アルバオの叫びと共に、風の刃がその枝を切り払った。

 切り裂かれた枝が、俺の頬をかすってもの凄い速度で通り過ぎていく。

 なぜ、と疑問に思うこともない。

 アルバオもまた、魔法の有効射程に踏み入ったのだ。

 その身を危険にさらして。


 だが、俺は彼に感謝を告げることすらできない。

 彼の安全を確認することもしない。


 元より、身体は止まらない。

 俺は、喉の奥から絞り出すように、カクテルの名前を叫んだ。



「──っ【カミカゼ】ぇぇえええ──!!」



 引き金を引いた瞬間。

 銃口から放たれた、暴力的な水の魔力が、一つの形を取った。

 刃渡り二メートルの、水の刃。

 丁度、至近距離であれば、幹を両断できるほどの長さの、剣。


 銃を刀のように振り抜いた。

 銃口から伸びた水の刃が、マジックオークの幹にぶつかる。

 そして、なんの抵抗を感じることもなく、刃はするりと幹を抜けて。



 マジックオークの付け根から、その巨体を斜めに両断した。



 直後、水の刃は役目を終えたように、いとも容易く消え去った。

 もとより、たった一撃だけの魔法だ。



 超短射程のウォッタ属性のカクテル【カミカゼ】。

 その効果は『一撃必殺』である。



※0424 表現を少し修正しました。

※0425 誤字修正しました。

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