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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第四章

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マジックオークの能力

「せーの!」


 イベリスが大型のレンチを振り上げ、枯れ木のお化けような魔物を殴り倒した。

 まだ息の根は止まっていないが、俺は銃を構えたままイベリスに叫ぶ。


「離れろイベリス!」

「りょーかい!」


 イベリスが機敏な動きで離れようとすると、横倒しになっていた木の枝が一本伸びる。

 その枝を、ちょこまかと動き回っていたギヌラが切断した。


「ありがと!」

「ふんっ!」


 ギヌラは鼻で笑った後にまた走る。

 彼の背後には、二匹の大型のリスのような魔物が迫っている。


「ギヌラ! そのまま真っ直ぐだ!」

「分かっている!」


 アルバオの指示に従って、ギヌラは先程イベリスが横倒しにした枯れ木へと向かう。

 当然、後ろの魔物も引き連れたまま。


《水の魔素よ。帰趨きすうを司る精霊よ》


 俺の近くで、アルバオが魔法の詠唱を始めた。

 杖を構えて、落ち着く響きのある穏やかな声で魔力を高めていく。


基本属性ベース『ジーニ45ml』、付加属性エンチャント『ライム1/6』、系統パターン『ビルド』、マテリアル『トニックウォーター』アップ」


 アルバオにいつでも合わせられるように、俺も即宣言を終えた。

 シリンダーには念の為に次弾も装填済みだ。

 俺が睨むと、アルバオは急いで詠唱を続ける。


《求めるは棘。噛み砕け、氷結の顎門あぎと


 唱え終えたアルバオが、杖を真っ直ぐに木の魔物へと向けた。

 俺はギヌラに指示を叫ぶ。


「避けろギヌラ!」

「っ!!」


 そしてギヌラが大きく跳ぶ。場所はどこでも良い。直線上でなければ問題無い。

 ギヌラが跳んだタイミングで、追いかけていた魔物と枯れ木が直線上に並んだ。


「《アイス・ニードル》!」


 アルバオの魔法が発動し、空間に幾多の氷柱が現出する。

 それらは真っ直ぐに魔物達へと向かって行った。

 枯れ木の魔物は避ける為に動くこともままならないが、リスのような魔物は魔法の気配を感知して、回避行動に移ろうとした。

 俺がそれを妨害する。


「【ジン・トニック】!」


 アルバオの魔法に被せるようにして、俺の銃が唸る。

 直後、銃から放たれた魔力が、直線上に風の渦を巻き起こした。

 その渦は、アルバオの氷柱を加速させると同時に、リス型の魔物の逃げ場を奪う。

 渦の中に閉じ込められた魔物達を、氷柱がズタズタに引き裂いた。

 リスの魔物も、枯れ木の魔物も、どうやら動きを止めた様子である。


「ふー。ギヌラ大丈夫か?」

「大丈夫じゃない! 危うく巻き込まれるところだったぞ!」

「だから合図したじゃないか」


 ギヌラは怒り心頭といった様子で、肩をいからせつつこちらへと歩み寄って来た。




 道中の戦闘はそれほど多くなかった。

 やはり季節が季節だけに、魔物たちのほうの活動もあまり活発ではないらしい。

 ただし、出てくる魔物はやはり出てくる。

 それでも、安定はしていた。


 基本的に、見た目に寄らずパワータイプのイベリスと、雑魚専兼囮としてすばしっこいギヌラ。

 火力はそこそこだが魔法の精度が高いアルバオと、やや発動の早い俺。

 複数の相手にからまれることも多くはなかったので、分業して順調に戦闘を進めていた。


 特に、ギヌラがヘイトを集める特性は魔物相手でも役に立った。弱そうに見えるから襲われるのだろうか。

 頼りないながら前衛の壁としての役目を、十分に果たしてくれていたように思える。

 人一倍臆病だからか、索敵に関しても一番活躍してくれていた。まぁ、でかい魔物が相手だと役に立たないんだけど。


 そうやって順調に俺達は、マジックオークが目撃されたという地点まで辿り着くことができたのだった。




「……あれか?」


 森の道から少し外れた所。

 木々の無い、小さな広場のようになっている一画に、それは鎮座していた。


「……すごく、でかい」


 俺の正直な感想である。

 流石に、俺の記憶にある樹齢千年とかの連中と比べると小さいが、それでも樹齢うん百年を感じさせる幹の太さ。

 その太さに反して、高さはそこまででもない。せいぜい十メートル程度か。

 順調に生育したというよりは、魔力の影響で肥大化した、といった感じだろう。これならば、動いていないときでも、異常であると分りやすい。

 葉は落ちている。そのむき出しになった枝の一本一本が、そのまま無骨な棍棒状の凶器に思えた。


「どうする?」


 俺は一度、後ろに控えているアルバオへと目線を送った。


「……まず、アレの能力を見てみないことにはなんとも」

「……そうか。どっしりと根を張っているように見えるよな?」

「そうだね。動かないタイプなら、逃げることもできるはず」


 となると、一度遠くから色々とちょっかいをかけて、能力を確認するべきか。

 パワータイプかスピードタイプかで、攻略の仕方は変わってくるだろう。


「それじゃ、動き出すギリギリまで、様子見をしようか」


 石を投げるとか、音を立てるとか、とにかくまずは相手のリーチの外側からだ。

 そう安全策を俺が提案したところ。


「馬鹿馬鹿しい。そんなちんたらやっていたら日が暮れてしまうぞ」


 焦れたようにギヌラが前に出た。

 彼はふっと俺を見つめてきたので、少し冷めた目で睨む。


「……じゃあ、どうしろと」

「まぁ、僕に任せろ。あんな植物にビビるような僕ではない」


 言ってギヌラは、ずかずかと軽い足取りでマジックオークへと近づいていった。


「なっ馬鹿か」


 俺は慌てて止めようとするが、ギヌラは聞く耳を持たない。

 いつでも逃げられる筈という状況が、明らかにギヌラを増長させている。

 そして、ずんずんと進んで、マジックオークとの距離が十メートルくらいになったところ。


『……ォォォォオオオ』


 マジックオークが、どこから出しているのか分からない唸りを上げた。

 そして、ゴウッと空気が唸る音とともに、枝の一本がしなやかな鞭のごとく、ギヌラへと振り落とされてきた。


「避けろ!」

「……ふっ!」


 しかしギヌラは余裕の表情で、腰の剣をすらりと抜いた。

 そして、その剣を落ちてくる枝に向けて滑らせる。


 パキン。と軽快な音が響いた。


「えっ?」


 ギヌラが間抜けな声を出したのと、マジックオークの枝が僅かに逸れて、ギヌラの隣の地面を叩き付けたのがほぼ同じだった。

 その一瞬後に、折れたギヌラの剣の先が、ストンと地面に突き刺さった。


「ななな」

「馬鹿! 良いから逃げろ!」


 俺が声をかけるが、ギヌラは出来事のショックで固まっている。

 しかし、マジックオークはそんな事情などお構いなしだ。

 幹をうねらせて枝を天高くまで持ち上げると、再びそれをギヌラへと振り落とす。


 ギヌラの眼前にまで枝が落ちてきた。

 潰されると俺が思った瞬間に、ガギンと今度は重い音が鳴り響いた。


「ったぁああ! どりゃ!」


 ギヌラの更に前に出たイベリスが、彼を庇うように力任せにレンチで枝を逸らした。

 だが、その表情が、初めて苦痛に歪んでいるのが分かる。

 いかにイベリスの怪力でも、精々逸らすのが一杯なのは分かった。


「次が来るぞ! 逃げろ!」


 二度攻撃が弾かれて、マジックオークも少し本気を出したようだった。

 重い枝の叩き付けに加えて、細い枝の薙ぎ払いも繰り出してきている。

 イベリスは、重い枝は逸らし、細い枝を弾きながら、ジリジリと後ろに下がる。

 ガゴン、ゴドンと重厚な音が響き続け、その間に俺とアルバオも援護の魔法を完成させている。


「【スクリュードライバー】!」

「《アイス・ピラーズ》!」


 イベリスへと振ってきていた太い枝を、俺は正確に狙って水の爆発で弾く。

 アルバオは前に出ている二人を守るように氷の壁を出現させ、細い枝への防御とした。

 それによって、猛攻にさらされていた二人に大きく動く時間ができる。


「撤退! 撤退!」


 俺は大声でイベリス達を促す。

 イベリスはその声に即座に従って、腰がガクガクしていて動けていないギヌラを引っ掴んだまま、大慌てで俺達の元へと走った。


 射程から獲物が消えたと見たマジックオークは、その攻撃の手を緩めて、再び静かな樹木の状態に戻ったようだった。



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